崩壊世界でダンジョン攻略withゾンビ   作:かゆうま

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第6話 夜の街

 弁天堂ダンジョンの宝箱があるところまでで、ちょうど魔力板の残り回数がゼロになった。魔力板の検証は充分だし、流石に疲れたので二階堂に相談すると、すんなり帰ることになった。

 

 まだ夜というわけではないが、陽は落ち始めている。

 

 二階堂は何も言わず自分の店へと帰っていく。一言ぐらいあってもいいのでは? なんて思うのは、俺が勝手に親近感を抱いているからだろう。二階堂はゾンビ。感情がないとは言わないが、薄いのは確かだ。生前の習慣に従うことを優先するのだ。

 

 一人ぽつんと残された俺は会話を求めて上野の街を歩き回った。そして結局行き着いた先は、『おでんの村田』である。

 

「……い、いらっしゃい」

 

「どうだい? 調子は」

 

「……きょ、今日は暇」

 

 うん。いつも暇そうだぞ。村田。そもそも人間の客なんて俺しかいないだろ?

 

「あっ、そうだ。俺、レベルが4になったんだよ」

 

「……お、おめでとう」

 

 そう言って村田はカウンターの向こうにあるクーラーケースから日本酒の一升瓶を出してきた。

 

 トンッ! と置かれたグラスに日本酒を注ごうとする。

 

「おい、村田! 俺はまだ未成年だぞ?」

 

「……あ、あぶね。罰金」

 

 慌てて日本酒をしまう。こうして話していると、村田は二階堂よりも大分言葉が達者だ。これはレベルの差なのか? それともゾンビ度の差か?

 

「そうだ。これ、村田にやるよ。ダンジョンの宝箱から出てきたんだ」

 

 ドンッ! と置いたのは立派な装飾のされた酒瓶だ。二階堂はいらないと言うのでもらってきたが、俺だって飲むわけではない。

 

「……う、ウィスキー?」

 

「さぁな? 村田は酒、好きだろ?」

 

「……ウィスキーならママに……」

 

 ママ? 村田に母親がいるのか? いるとすれば相当な高齢だろう。

 

 村田はカウンターから出てきてウィスキー? の酒瓶を右手に握って何処かへと歩き始める。

 

「おい、村田。何処へ行くんだよ?」

 

「……ママ。ママのとこ」

 

 うわ言のように繰り返しながら、村田はどんどん進んでいく。一瞬ダンジョンか? とも思ったが方角が違う。

 

「待てよ! 俺も連れて行ってくれ」

 

 まだまだ夜は長い。俺は村田の後を追った。

 

 

#

 

 

 湯島駅へと降りる地下鉄の入り口を通り過ぎ、賑やかな看板がある方へと村田は歩いていく。スナックやガールズバー、風俗店等がある地域だ。

 

 通りではセクシーな格好をしたゾンビが「うぅ」と涎を垂らしながら客引きをしている。残念ながら、話が通じる相手ではない。

 

 

 村田が足を止めたのは、大通りから一本裏に入ったある店の前だった。店の名前は『スナック聖子』。村田は年季の入った重そうな木の扉を開けて入っていく。

 

「今晩は〜」

 

 村田に続いて恐る恐る中に入ると、そこはカウンターしかないこじんまりとしたスナックだった。カウンターの奥には綺麗だが、少し年の言った女ゾンビが立っている。

 

「……い、いらっしゃい。そちらは……?」

 

 女ゾンビが村田に俺のことを聞いている。

 

「……う、うちのお客」

 

「……あ、あら。嬉しい。おままえは?」

 

「健一です」

 

「……ケンイチ」

「……ケンイチ」

 

 そういえば村田にも名乗ってなかったな。二階堂にもだ。

 

 スツールに腰掛けた村田はカリカリとスキンヘッドを掻いたあと、酒瓶をカウンターに置いた。

 

「……ママ。ウィスキー」

 

「……あ、あら。嬉しい」

 

 なんだか中年同士の恋愛を見ているようだ。少々居心地が悪い。

 

 スナック聖子のママ──聖子──はショットグラスを三つ並べる。

 

「あっ! 俺は未成年なんで!」

 

「……あら。ごめんなさい」

 

 ダンジョン産の酒瓶を開けると、甘いアルコールの香が漂った。聖子はその琥珀色の液体を丁寧にグラスに注ぐ。

 

「……ママ」

 

「……村ちゃん」

 

 そう言いながら、中年ゾンビ共が軽く乾杯をして酒を飲み始めた。村田お前、村ちゃんて呼ばれているのか……。

 

「……ケンイチ、何か食べる?」

 

 これがスナックママの気遣い……。手持ち無沙汰でスツールに座る俺に声を掛ける。しかし、食べ物か。一体、何があるというのか……?

 

「ミックスナッツとか?」

 

 聖子はしゃがんでカウンターの下を漁る。いや、いいよ……。そんなに探さなくても……。あったとしても、賞味期限切れのカビだらけのミックスナッツだろ?

 

「……ない。ミックスナッツない」

 

「……ママ。探しに行こう」

 

 やばい! この流れはやばい!! またダンジョンに連れて行かれる!!

 

 ガシッと村田に肩を掴まれる。聖子は立派な酒瓶を両手に持ってカウンターから出て来た。

 

「……ケンイチ」

「……行こう」

 

 俺は村田に引き摺られるようにして、また夜の湯島に繰り出した。

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