崩壊世界でダンジョン攻略withゾンビ   作:かゆうま

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第7話 ナイトダンジョン

「離せ! 今日はもうダンジョンに行きたくない!」

 

「……うん」

「……うんうん」

 

「昼間にダンジョン行ったの! もう帰って寝るから!!」

 

「……うん」

「……うんうん」

 

 ふざけるな! と叫んでも俺の身体は美魔女ゾンビ──聖子──にホールドされたままだ。

 

 ずるずると引き摺られ、ぼろぼろになったアスファルトに線が出来る。聖子と村田はウィスキーの瓶をラッパ飲みしながら、ダンジョンに向かって歩く。

 

 ただでさえ呂律が怪しいのに、コイツら酒を飲んで大丈夫か? モンスターと戦えるのか!?

 

 問い続けるが、俺の声は届かない。

 

「む、むむむむむむ、村ちゃん」

「ままままままままま、ママ」

 

 ……駄目だ。ゾンビの癖に酔っ払ってやがる……。いざとなったら二人を囮にしてでも逃げよう。

 

 丸々と太ったドブネズミが俺達の様子を不思議そうに見ている。ネズミの方が聖子と村田よりよほど賢そうだ。

 

 

 無情にも、ライトアップされた弁天堂が近づいてくる。

 

「つ、つついたわよ。ダンジョンに」

「まままままままま、ママ!」

 

「なぁ、何の為にダンジョンに来たか覚えてる?」

 

 聖子と村田が顔を見合わせる。

 

「……みみみ……」

「……耳?」

 

「ミックスナッツだよ!」

 

 そういえば、オークの耳もミミガーというのか? なんてことを考えていると、細腕からは考えられない聖子の怪力で、弁天堂ダンジョンに向かって放り込まれた。

 

 辛うじて受け身をとって背中をさすっていると、聖子と村田もダンジョンに飛び降りてくる。

 

 ただでさえ血走っている目が更に赤い二人が、酒瓶を右手に構えて歩きだす。

 

「大丈夫なのか?」

 

「むむむむむ!」

「ままままま!」

 

 駄目だ! 付き合い切れない! 逃げよう!! 

 

 俺は二人に気付かれないようにゆっくり後退りをするが、早くもモンスターの気配──。

 

「ギャギャギャ!」

 

 オークじゃないだと!? ダンジョンの奥から現れたのは緑の肌をした小鬼、ゴブリンだった。錆びついた短剣を振り上げ、先頭を歩く聖子に迫る。

 

「ヤマザキ!」

 

 聖子がウィスキーの銘柄を叫びながら酒瓶でゴブリンに殴りかかると、ドバンッ! と緑の頭が弾け飛んだ……。

 

 頭を失い、崩れ落ちるゴブリンの体。村田が慌てて近寄り、吹き飛んだ頭の残骸から何かを拾っている。

 

「……あ、あった? 村ちゃん」

「……あ、あったよ。ミックスナッツ」

 

 ねえよ!! ゴブリンの頭からミックスナッツが採れるわけないだろ!!

 

 しかし当然、二人は聞きやしない。次々と現れるゴブリンと、その頭を吹き飛ばす聖子。そして何かを拾う村田。

 

 酔っ払ってはいるものの、聖子の膂力は恐るべきもので、村田よりも確実に上だ。機嫌を損ねないようにしないと……。しかし、もう帰りたい……。

 

「なぁ、村田。もう十分集まったんじゃないか? ミックスナッツ」

 

 村田のズボンのポケットはパンパンになっている。

 

「……ミックスナッツ?」

「……な、何のこと?」

 

「はぁ!?」

 

 貴様らが言い出したことだろ! この糞ゾンビ共!!

 

「もう帰る! 死ね馬鹿ゾンビ!!」

 

 くるり踵を返して入り口に向かって走る。背後から俺を追う気配はない。最初からこうすればよかった。

 

 

#

 

 

 ダンジョンの入り口から這い出し、弁天堂の外に躍り出る。いつの間にか弁天堂のライトアップは消えていて、周囲は真っ暗だ。遠くの街灯が唯一の頼り。

 

 そんな中、砂利を踏む音がした。ゾンビだろうか? しかし……変だ。ゾンビならもっと無遠慮に歩き回る筈。

 

 さっきの音は一度きりで、辺りにはしじまが広がっている。

 

 何かに見られているような感覚……。俺は急に不安になり、ステータスを開く。大丈夫だ。魔力板の回数は回復している。

 

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【無属性魔法】レベル1

 魔力板:2回

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 念の為、魔力板「盾」を顕在化して身体の前に配置した。

 

 弁天堂の石段をゆっくり慎重に降りる。

 

 ジャリ。

 

 まただ。間違いなく何かいる。音のした方に「盾」を回し、気取られないように歩く。

 

 視界の端で、黒いものが動いた。ドブネズミ? タタタタタっと俺の目の前を横切り、走っていく。

 

 ──パシュ! という音がして、ドブネズミが地面に転がった。赤い光が微に見える。赤外線照準器? 銃器で撃ったのか? となると、人間がいる……?

 

 ──パシュ! という音と同時に「盾」が何かを弾いた。赤い光が「盾」に当たっている……。やばい! 撃たれる!

 

 慌てて魔力板「盾」をもう一枚顕在化し、守りを堅くして一気に走り抜ける。

 

 人間だろうとなんだろうと、攻撃してきたからには敵だ。

 

 カン! カン! と乾いた音が何度もして「盾」震わせる。やはり狙われている!

 

 逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!

 

 撃たれたらお終いだ。絶対に治療なんて受けられない。

 

 アスファルトを蹴り、少しでも明るいところを目指す。

 

 

 全速力で脚を回し、不忍池から離れ上野の商店街に飛び込むと、そこに変わった様子はなかった。「うぅ」としか言わないゾンビが飲食店の店頭に立っているだけ。

 

「助かったのか……?」

 

 ゾンビに囲まれて安心するのも変な話だが、少なくともコイツらは俺を襲ったりしない。

 

 さっきの奴は一体……?

 

 俺は未だ収まらない動悸に息を深くしつつ、寝床と定めたネットカフェに向かうのだった。

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