名も無き、国一番の侍   作:ファルメール

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第31話 侍の影

 

「どうしたんだろうな? さっきいきなり鬼が干涸らびてから、この山から鬼が居なくなったみたいだが…」

 

「あぁ、俺もだ。急に鬼と遭遇しなくなったぞ」

 

「こっちもだ」

 

 村田は数人の隊士と合流して鬼と生存者を捜索しつつ山中を彷徨っていた。とにかくこの任務には分からない事が多すぎる。本来群れない筈の鬼がこれだけの数、一つの山中という狭い範囲に集まるという事は、やはりその親玉である十二鬼月が居るのだろうか。

 

 だとすればとにかく柱か、同じくらい強いであろう炭治郎と合流して一刻も早い態勢の立て直しを…

 

 と、思いつつ茂みを掻き分けて広場に出た時だった。

 

 はっと、一瞬で表情が強張った。

 

 気を失っているのだろうか、全身傷だらけで地面に突き立てた刀に体を預けてぐったりと動かない剣士。そのすぐ傍らには、紫の着物を纏った侍風の鬼。

 

 逡巡は刹那であった。

 

「うおおおっ」

 

 全身に感じていた倦怠感も、手にした日輪刀が折れているのも忘れ、村田は雄叫びを上げながら鬼に向かって突進した。

 

「!!」

 

 鬼は瞬時にその手に刀を出現させると、村田の斬撃を止めた。

 

 水の呼吸 肆ノ型 打ち潮

 

 続けて渾身の攻撃を繰り出すものの、侍鬼・国士某はその場から一歩も動かずに片手で捌いてしまった。

 

 だが防がれても今更驚きはしない。

 

 状況は良く分からないが、とにかくこの鬼は冨岡義勇に膝を突かせているからには柱を圧倒するほどの恐るべき敵である事は疑いようもない。自分では到底敵う訳もないのは分かり切っている。

 

 が、そんなしち面倒臭い計算や彼我の実力差などは思考の外。

 

 この時は体が勝手に動いていたと、後に村田は述懐している。

 

 とにかく息つく暇も無く体に染み付いた動作に身を任せて刀を振り、連続攻撃を繰り出す。

 

 国士某は剣を握った片手だけで、正確には肩から先のみを動かすだけで全ての攻撃を防ぎきる。

 

「お前ら!! 早く、早く、水柱様を安全な所に!! 早く!!」

 

「「はっ!!」」

 

 呆気に取られていた他の隊士達も、自失から回復して動き出した。

 

 意識の無い義勇の体を担ぎ上げる。

 

「よ、よし早く行ってくれ!! 長くは持たない!!」

 

「分かった。すぐ戻ってくるからな。それまで持たせろよ」

 

 八年前の藤襲山の記憶が蘇る。

 

 あの頃は自分達は同じ最終選別を受ける剣士の卵で、負傷した義勇を錆兎から託された。

 

 時が流れて、自分達は随分と変わってしまった。

 

 義勇は身を削るような鍛錬とどこか死に急いでいるのではと思えるほどに高頻度で任務に従事し、若くして柱に就任して長年その役目を務め続けそして生き残り続け、今や柱の中でも相当な古株となっている。

 

 対して自分はうだつの上がらない一隊士。運に恵まれたのか仲間に救われてきたのかそれとも両方か、要するにどうして今まで生き残ってきてきたのか、自分でもさっぱり分からない凡人だ。

 

 剣士となったからには、いつでも死は覚悟の上であったが…いよいよ今日、年貢の納め時がやって来たのだ。

 

「うおおおおっ」

 

 自分は今日死ぬだろう。早ければ数秒後にでも。

 

 だが、無駄死にではない。

 

 自分が命を捨てて時間を稼ぐ事で義勇が助かれば、それでより多くの人が助かる。

 

 それが十人か、二十人かあるいは百人かは分からないが、そう考えれば自分の命にも釣りが来る。

 

 到底追い付くまいが、それでも百の実力差の内の一でも死を前提に戦う事で埋めるべく村田は残された力を振り絞る。決死、と言うよりも狂奔という表現が適切であろう。体力の配分も退路も考えずに、ただ全力で剣を振るう。

 

 脳内麻薬が大量に分泌されて肉体疲労が一時的に忘却される。

 

 このような戦い方は長くは持たない。村田自身がそれは承知の上。だが圧倒的に力の劣る彼が、一時であろうと時間を稼ぐ方法はこれしか無い。それが一分であろうと三十秒であろうと稼ぐ事に、未来の多くの人命が掛かっているのだ。大きな意味がある。

 

 一方で国士某からすれば、この状況は望外の喜びであった。

 

 空はやや白み始めてきている。夜明けまでもう時間が無い。故に今日はもう浅草に帰るのみかと思っていたが、そこでまた新しい剣士に会えた。

 

「才能豊か…とは…言えぬ…柱ほどに…強くも…ない…」

 

 鬼侍の評価点はそこには無い。

 

「だが…到底勝てぬと…自ら知りながら…折れた刀と…疲労困憊の体で…僅かの時を稼ぐ為…私に立ち向かう…」

 

 それはかつて彼が継国巌勝という人間であった頃から変わらぬ剣士の在り方であった。いや鬼殺隊だけではない。仲間や、無辜の人々の為に戦う事、私心無く戦える兵。それこそが真の侍、仏様の家来。幼き日より目指し続け、今尚そう在りたいと心に決めている姿。

 

 それを体現する様を六つの眼に、見せ付けられている。

 

「いつも…不思議に思う…己より…遙かに弱い相手に…敬意を抱くという心持ちが…これほどまでに…快いとは…」

 

 国士某の口角が柔らかに上がった。

 

「良き剣士だ…素晴らしい…返礼として…剣を…指南しよう…」

 

 村田が必死に打ち込む剣は、まるで棒切れで巨大な鉄壁を叩いているようだった。どれだけ叩いても叩いても小揺るぎもビクともしない、どころか叩いた分の力が自分の腕に跳ね返ってくるようですらある。

 

『関係あるか!! とにかく一秒でも時間を稼げ!!』

 

「確かに…強くはない…だが…中々に粘り強く…したたかな剣だ…間を置かず戦い続け…研鑽を怠っていない証…」

 

 命ごと浴びせ掛かるような村田の剣と、国士某のあくまで稽古の剣が火花を散らし続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 女性剣士、蟲柱・胡蝶しのぶは少しの間眼を瞬かせた。

 

「坊や、いくら肉親とは言っても鬼を後ろにしたら危ないですよ。さあ、私がやりますから退いていてください。肉親が命を落とす所が見てられないと言うのならどこか遠い所に…」

 

 そう言って眠っている鬼へとどめを刺すべく近付いていったのだが…その進路を阻むようにして炭治郎が立ちはだかったのだ。

 

「えっと…何の冗談ですか?」

 

「すいません。禰豆子をやらせる訳に行かないんです」

 

 しのぶの端正な顔が僅かな間だけ、ぽかんとした表情に染まる。

 

「いやいや…やらせる訳に行かないって…そんな訳に行かないでしょう。状況は良く分からないですけど、とにかくその鬼のとどめは私が刺しますよ、良いですね?」

 

 そう言ってしのぶが繰り出した突きは、炭治郎の日輪刀で止められた。

 

「…これ、隊律違反なのでは?」

 

 しのぶの顔にはまだ笑みが浮かんでいるが、もう目が笑っていない。

 

「洗脳ですか? 脅迫ですか? それならまだ酌量の余地もあるんですが…」

 

「いや、俺は正気です。全部正気でやってます」

 

「本気…なんですね」

 

 しのぶは笑顔のままで、声が二段階ほど低くなった。

 

 刀を鞘に戻すと、ガチンと何か仕掛けが動くような音がした後に再び抜刀する。

 

 炭治郎にも動きがあった。腰の鞘を引き抜くとこちらも納刀して、鞘と柄の部分を紐で括り付けて抜けないようにする。これは峰打ちの為に刃を返すように、相手を殺さない為の所作だ。それを見たしのぶは不思議そうな顔だ。鬼殺隊の裏切り者なら刃を向けてくる。それをしない、自分を傷付けるつもりが無いという事は裏切り者ではない?

 

 確かにこうして相対している分には、敵意や殺気は感じないが…

 

 どうも勝手が違うのでどうしたものかとしのぶは少し迷う。

 

 一方でどうしたものかと思考がまとまらないのは炭治郎も同じだった。

 

『俺は鬼殺隊を抜けなければならなくなるのか? いくら妹とは言え鬼を連れた剣士なんて認められない…』

 

 このように双方共に迷いが生じているので僅かの時間、対峙して睨み合ったままの膠着状態が生まれる。いつまでもとは言わぬまでも、それでも何らかの破局点が無い限りはこの状況はしばらくは続くかに思われた。

 

 破局点は思ったよりも早く訪れた。

 

「師範、指定された範囲の鬼の掃討が終わりました」

 

 抑揚の無い声が、夜山に響く。

 

 闇から現れたのは、桃色の刃を持つ日輪刀を手にして白い外套を羽織った少女剣士だった。片側に結んだ長い黒髪が、しのぶと同じ蝶の髪飾りで留められている。

 

「「!!」」

 

 破局点がもたらす影響は二人の表情からして明確だった。しのぶにとっては僥倖で、炭治郎にとっては最悪と言って良い状況である。

 

「ああ、カナヲ。良い所に来てくれましたね。私を援護して、その坊やが後ろに庇っている鬼を斬ってください」

 

「了解しました」

 

 並んで、刀を構える二人の女剣士。どちらも、一太刀も交えずとも相当な実力者である事を炭治郎に教えるにはその立ち姿だけで十分であった。彼女達二人を同時に相手にしては、到底勝ち目は無い。

 

『せめて、禰豆子が目を覚まして逃げるまで時間を稼がないと』

 

 炭治郎も本格的に戦闘態勢に入る。

 

 カナヲの表情は変わらないが、しのぶは「ほう」という顔になった。彼女が抱いた感情は、今し方二人に対して炭治郎が抱いたものと全く同一であった。確信する。報告にあった十二鬼月・下弦の弐を討伐した隊士とは間違いなくこの少年だ。

 

 まだ荒削りな部分はあるが、構えは堂に入っている。良く観察すると、全集中の呼吸・常中も出来ているのが分かった。しかも特別な呼吸を少しも意識せずに、実に自然に。同じ常中であってもただそれが出来るだけの剣士と、当然のようにそれをやれている剣士は全く違う。炭治郎は明らかに後者だ。

 

『柱にだってなれるでしょうね…あるいは、純粋な剣士としてなら私に並ぶかも知れません』

 

 だからこそ、そんな剣士を手に掛けねばならないのは惜しい。

 

 惜しいが…隊律違反となれば斬らなければならない。

 

「もう一度だけ言いますよ。退いてください。そうすればここまでの事は見聞きしなかった事にします」

 

「出来ません」

 

 僅かに嘆息して、しのぶは構えを取り直した。これは気構えを立て直す為の動作でもある。

 

「では、やむを得ない。行きますよ」

 

 蟲の呼吸・蜂牙ノ舞 真靡き

 

 強烈な踏み込みによって地面が爆ぜる。

 

 炭治郎の眼には、いきなりしのぶの体が大きくなったように見えた。

 

 無論そんな事は起こり得ない。それほどの速さで距離が詰められたのである。

 

「っ」

 

 日輪刀を持つ手を狙って繰り出された刺突を、炭治郎は手首を動かして捌いた。

 

 蟲の呼吸・蜻蛉ノ舞 複眼六角

 

 続け様に六連続の突きが襲ってくる。

 

 またしても全ての攻撃が手元を襲ってきたが、炭治郎は僅かの掠り傷を受けただけで防ぎきった。

 

『これも防ぎますか』

 

『この人、刀しか狙ってこない。まだ、手加減してくれてるのか』

 

 しのぶとしてはこれで日輪刀を取り落とさせるか破壊するかして炭治郎を無力化した後に拘束、後ろの鬼をカナヲに斬らせるつもりだったが当てが外れた。一方、炭治郎もしのぶの攻撃に殺意が無い事を敏感に察知していて、攻撃の対象が武器だけに絞られていた事でその理由にも得心が行った。少なくとも今は、炭治郎を殺すつもりは無いのだ。

 

「カナヲ」

 

 しのぶの背後から飛び出したカナヲが、頭上から炭治郎に躍りかかった。

 

 花の呼吸・陸ノ型 渦桃

 

 以前の経験から不意打ちを行なう時は気配を消して静かに行なえと、しのぶは自分の継子に教えている。今ではカナヲ一人になってしまったが…その教えに従って足音も殺気も抑えて、しかも小柄な体とは言えしのぶが間合いを詰めていたので、彼女の体がより大きな死角となってカナヲが見えなかったのもあり完全な奇襲であった筈なのだ。

 

 カナヲはしのぶのように手加減はしない。隊律違反者を処刑する。やるのは初めてだが、人を斬るのではなく事を処理するとただ考えるだけで淡々と動きながら剣を振る。この一閃は間違いなく炭治郎の上半身と下半身を泣き別れにする。

 

 かに、思われたのだが。

 

 炭治郎はこの不意打ちにも反応して、刀を防いだ。

 

「!!」

 

 少しだけ、カナヲが瞳を大きくした。これは無表情な彼女の、内面の驚愕の発露だった。師範・しのぶと何度も練習した必殺の連携であったのに、炭治郎は初見でそれに対応して防御してみせた。

 

 蟲の呼吸・蝶ノ…

 

 しのぶが次の攻撃を繰り出す前に、それに割り込むようにして炭治郎が振った鞘込めの剣が襲ってきた。

 

 花の呼…

 

 カナヲも同じだった。技を繰り出す初動を、鞘打ちによって潰されてしまう。

 

『やりづらい…本当に強いですね、この子』

 

 しのぶは内心舌打ちする。

 

 防戦に徹しているとは言え柱である自分と、カナヲが二人掛かりで攻めきれないとは。下弦の弐の討伐も伊達ではないという事だろうが…単純な強さだけではない。自分達の動きを読んでいるように思われる。

 

 でなければこれほど的確に技を押さえ込んでくる動きの説明が付かない。

 

『それにしてもこのやりづらさ…以前にも体験したような…』

 

 戦いながら、しのぶは脳梁の泉に石を投じて澱に沈んでいた記憶を揺り起こす。

 

 この違和感は初めてではない。確かに前にも同じものに出会っている。それはいつだったか…

 

 数合、更に打ち合いが続いた所ではっとする。炭治郎の姿に、以前に戦った六眼の鬼侍が重なった気がした。

 

 そうだ、あの時も自分と継子二人と無一郎、柱二人を含む四人掛かりで襲い掛かったのに、掠り傷さえ与えられずまるで読まれているかのように全ての攻撃を防ぎ切られて、朝の訪れまで粘られて逃げられてしまったのだ。

 

 あの鬼とは比べるべくもないが、確かに炭治郎のこの動きにも同種の違和感がある。

 

『この子には何が見えている? この子は、何を見ている?』

 

 あらゆる物が透き通って見える世界を、炭治郎は見ていた。

 

『よ、よし、段々コツが分かってきた』

 

 攻撃しようと打ち込んでくる前には肺が大きく動く。どんな攻撃が来るかは、骨の向きや筋肉の収縮、血の流れで予測出来る。ならばその瞬間を見計らってこちらから打ち込む事で攻撃を封じられるし、向こうの攻撃は反射神経よりも早くしかも余裕を持って防御出来る。

 

 それでも、いくら攻撃が先読み出来てもそれに追従するには身体能力による物理的な限界がある。

 

 柱と、それに匹敵するほどの剣士の二人を相手に攻勢に出る事までは不可能だった。

 

 一方で守勢に徹して可能な限り無駄な動きを少なくして隙を作らないようにして、負けないようにするまでは出来る。

 

 これは止まっているか動いているかの違いだけで、結局は先程炭治郎としのぶが睨み合っていた時と同じ、膠着状態だ。炭治郎はそもそも積極的に攻撃しないし、しのぶとカナヲは攻めきれない。今度こそ炭治郎の体力が尽きない限りは、この状態は果てしなく続くかと思われた。

 

 だがあまりにもあっさりと、終わりは訪れた。

 

「あ…?」

 

 何の前触れも無く、ぐらりと炭治郎の体が崩れて地面に倒れた。

 

 カナヲがこの好機に斬り掛かろうとするが、しのぶに制された。

 

「はーっ」

 

 しのぶは大きく息を吐いて、肩を落として力を抜いた。これは戦闘態勢の解除に当たる動作だ。

 

「漸く効いてきましたか…坊やは常中もかなり良く出来ていますから、普通の数倍ほどの時間が掛かりましたよ」

 

 しのぶは、炭治郎の右手に付いた掠り傷を指差す。先程蜻蛉ノ舞 複眼六角によって付けられたものだ。しのぶは刀を鞘に入れた時既に、鞘に仕込まれた絡繰り仕掛けによって毒を鬼を殺す為の藤の花の毒から、人間を無力化する為の麻痺毒へと切り替えていたのだ。

 

 しのぶが手を振って指示を出すと、カナヲは頷いて倒れている炭治郎を横切り、未だ眠っている禰豆子へと近付いていく。

 

「あ…が…」

 

 動かない体を懸命に動かそうとし、それが叶わないのでせめて視線だけでもカナヲを追おうとするがすぐに視界の外へと出て行った。

 

 ほとんど固定された視界の後ろ側から、ざっと踏み込みの位置を変える足音が聞こえてくる。

 

 炭治郎の顔がさあっと蒼くなった。

 

 想像するしかないが、恐らく背後ではカナヲが禰豆子の頸を落とすべく剣を振りかぶったのだろう。

 

 恐らく後一秒ほどの間を置いて、断頭台の刃のように桃色の日輪刀が振り下ろされるに違いない。

 

 万事休す。

 

 体は動かず、最早為す術は何も無い。

 

 ここまでやってきたのが、これで、全て終わり。

 

 南無三。

 

 祈るが、それで何が変わる訳でもない。

 

 勿論そんな事は分かっているし、炭治郎は信心深くはない。少なくとも祈って自分の都合の良い事が起きるとは思っていない。

 

 だが、今日からはもう少し信心深くなっても良いかも知れないと思った。

 

「伝令!! 伝令!! カァァァ、伝令アリ!! 炭治郎・禰豆子両名ヲ拘束、本部ヘ連レ帰ルベシ!!」

 

 鎹鴉の伝令が一秒の十分の一も遅かったら、カナヲが刀を止めるのは間に合わなかったであろう。

 

「炭治郎及ビ鬼ノ禰豆子、拘束シ本部へ連レ帰レ!! 炭治郎額ニ傷アリ、竹ヲ噛ンダ鬼禰豆子」

 

「……」

 

 カナヲが、指示を求める視線を送ってくる。しのぶが頷くと、日輪刀の桃色の刃は鞘に仕舞われた。

 

 額に傷のある隊士。竹を噛んだ鬼。

 

 鴉の言った特徴に、この二人は完全に一致する。

 

「あなた禰豆子?」

 

 眠っている相手に言って返事が返ってくる訳もないが、カナヲが語り掛ける。

 

 しのぶは炭治郎の視界に入る位置に移動すると、膝を折って話し掛けた。

 

「坊やが、炭治郎ですか? まだ口が麻痺して喋れないでしょうから、もしそうなら瞬きを二度してください」

 

 すぐに求めた反応が返ってきたのを受けて蟲柱は頷くと、すくっと立ち上がった。

 

「どうやら…状況が変わってきたようですね」

 

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