転生したエルフのお話   作:siyu

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転生

 

勇者ヒンメルの死まで数千年

とある辺境の村

 

 

 さて、日記をつける事にした。

 

 既に新しい人生が始まってから半年ほど経った。誰が読むわけでもないが、まぁ気分転換にはいいだろう。日本語で書けば誰も読めまい。

 

 新しい人生と書いたように、私にとってこれは2度目の人生だ。まさかまさかの輪廻転生だ。サブカルに幾らでも転がっている書き物のようだな。

 

 だが転生に気づいた時は酷く驚いた。まさかこの身で体験できるとは。しかし私は仏教徒でもヒンドゥー教徒でも無い。なんなら無神論者だが、そんな人間を転生させて良いのか?

 

 ついでに今の私は幼女だ。こういう時は何を言えば良いのだったか……おはようじょ?

 

 私の前世は……多分、科学者だったのだろう。そんな感じがする。まぁ転生云々や前世についてなんぞ、考えても仕方ない事だ。私の心は科学者で、科学の世界に神はいない。至言だな。

 

 というか何処だここは。なぜこの村の住民は山の中で日々をすごしている?

 

 あぁそもそも日記をつけるのも暇を持て余したからだったか。

 

 大人程度の思考力を持った幼児が暇を持て余すのは半ば当然だが……しかし!科学はどうした!21世紀の利器は何処に行った!!私たちは巨人の肩に乗っているのではなかったのか!?クソが!!

 

 ……失礼。生活の不便さに情緒が不安定になっていた……私は誰に謝っているんだ。

 

 おや、良い匂いがしてきた。そろそろ晩ご飯の時間らしい。

 

 とても残念な事に、私は幼児だ。樹木の股から産まれた精霊では無い。確固とした個を持つ人間だ。加えて栄養が必要な幼児。今日の晩ご飯を食べねば飢える。無理のきく若い体はいくらでも欲しいが、ここまで若いと不便である。

 

 さて、最後に。私の新しい名前は“ヘルズ”だ。

 

 ……我が子の名前に「地獄」をつけるとは、今世の親のネーミングセンスはなんとも上々らしい。いや、ドイツ語なら「心臓」とか「明るい」とかの意味を持つが。……そもそも前世とは言語体系の違う世界で考えてもしょうがないか?

 

 まぁ何でもいい。せいぜいこの名を大切にするとしよう。

 

 

 

 

?月?日

 

 初めに日記をつけてから半年ほど経った。長いな。

 

 いや色々調べることがあったのだ。言葉の話せない幼児でも、目当てのものを指してうぁうぁ言っていれば親が説明してくれる。半年頑張ったのだ。誰か私を褒めろ。

 

 ……ここまでなんとか落ち着いて書いたが、今の私はとても興奮している。

 

 先日、不思議なものを見た。村の住民が虚空から炎を出し、水を放出し、巨大な岩を浮かせていた。すぐに親に聞いた。アレは魔法というようだ。魔力を消費して発動する超常の力。

 

 ………魔法とは何だ!魔力とは何だ!前世には無かった新しい世界の法則!!

 

 未知の分野について研究ができるなど科学者冥利に尽きるな。

 

 ありがとう。何処にいるとも知らない神か仏。いつかお前らも調べ上げてやる。

 

 幸い私は人間ではなくエルフだ。寿命は永遠に近いと聞いている。親から聞いた際はとても驚いた。そんな種族がいるとは。だが今思えば村の住民は全員が若々しく耳が長い。

 

 魔法にエルフ、とても不思議な世界である。いつかこの世界の全てを知識として修める事を私の終生の目標としようか。

 

 

 

 

?月?日

 

 産まれて数年、ようやっとこの世界の言語をマスターできた。これで魔術式を書くこともできる。

 

 ……え?魔術式を書く言葉はまた別?クソが。

 

 

 

 

?月?日

 

 まさか魔法では重力すら操れるのか!?前世であっても重力の制御など夢見事だと言うのに!!魔法とは何処まで好き勝手にできるんだ!!まさか時空間に干渉できる魔法も存在しているのか!?

 

 ああ今すぐ研究したい!!しよう!!

 

 両親よ、魔法とはどうやって使うのだ!!!

 

 

 

 

?月?日

 

 悲報である。私は魔法が使えない。クソが。

 

 いや、魔力や肉体に障害があるわけでは無い。なのに使えない理由は、まぁ少し推測できる。

 

 前提として“魔法とはイメージの世界”だそうだ。

 

 そして私にとって魔力とはエネルギーの一種だ。電気や熱と同じ区別のものだな。人の身一つで自由に操れるものでは無いが、観測情報から存在は確かに確認できる。そういう物として私は認識している。

 

 魔法を使えない理由はそれだ。魔力は生身で制御できる程度のものでは無い。そういった考えが魔力への制御に影響を及ぼしている。魔法を使うにはその認識を変える必要があるらしい。

 

 しかし全く使えないわけでは無い。

 

 なるほど確かに私は魔力を使えない。だが厳密な理論に従った魔術式を創り、それに魔力が流れれば魔法は起こる。要は電子機器と同じだな。私の魔力に依存しない魔道具を使えばいい。

 

 私は科学者だ。魔法使いでは無い。ならば魔法は研究対象であり、習得するものでは無い。おお、悲報では無かったな。

 

 日課をつけて考えを整理するのは有効だ。今後も時折り書くとしよう。

 

 

 

 

?月?日

 

 特に何も無い平和な一日だった。すばらしい。

 

 

 

 

?月?日

 

 村では私が変人という事になっているらしい。失敬な。せいぜい週に2、3回ほど試作品の魔道具を爆発させているだけだろう。

 

 魔術式を書くことは出来るが、それを物に書き込む想像がイマイチできない。だが悲観することはない。理屈を理解している以上、正解にはいつか辿り着ける。

 

 さぁ今日も頑張ろう。

 

 

 

 

?月?日

 

 村にひっっっさしぶりの来客が来た。久しぶりというか私が産まれてから初では?

 

 さて、その来客の名をゼーリエ。今回は村の村長に用があって訪れたのだとか。聞かされた限り、少なくとも村の全員よりは年上のとても強いエルフだそうだ。

 

 ……年上?あの見た目初老の村長よりもか?

 

 産まれて数十年のひよっこである私より小さいのだが。

 

 追加で親に聞いてみた。どうやら私は肉体の成長が類を見ないほど早いらしい……まさか寿命が縮まったりしないよな?全てを知る前に寿命死なんて嫌だぞ。

 

 そして反対にゼーリエは成長がとても遅い。あの小学生レベルのナリでも既に最低数千歳。下手すれば数万歳……ごうほうろりというのだったか?前世で聞いた事があるような、ないような。

 

 大人はゼーリエの接客や普段の仕事で忙しい以上、私に構う時間などない。

 

 暇だったので広場で魔術式を書いていたら、ゼーリエに話しかけられた。魔力が幼児レベルのくせ一丁前に魔術式を書く私に興味が惹かれたらしい。魔力制御?なにそれ。そもそも私は魔力が見えないんだよ。

 

 笑われた。あれはどう考えても嘲笑だった。

 

 ゼーリエから試しに好きな魔法を言ってみろと言われた。

 

 全部研究対象として好きだと答えた。

 

 笑われた。殴ってやろうか。

 

 

 

 

?月?日

 

 何故かゼーリエが数年だけ私を指導してくれるらしい。何故かと聞けばお前のような珍獣は珍しいからなと言われた。

 

 珍獣……まぁ輪廻転生を経験した魔力幼児レベルのエルフなんぞ私以外いてたまるかという話だ。珍獣扱いは不服だが、納得した。それだけで強者の教えを受けられるなら儲け物だろう。

 

 

 

 

?月?日

 

 ゼーリエの教えは素晴らしい!!これまで不明瞭だった魔術式の構造についての理解が大いに進む。やはり偉大な先達の影響は大きい。

 

 しかしやはり魔法は使えない。使う気もないため良いのだが、ゼーリエは不服なようだ。

 

 ここ数年間ずっと魔法理論についての説明。戦闘狂のふしがあるゼーリエにはストレスが溜まるのだろうか。まぁ頑張って耐えて欲しい。私はまだまだ学びたいのだから。

 

 

 

 

?月?日

 

 明日でゼーリエとの師弟関係も終わりという日。彼女に私の作った新しい魔法を渡した。

 

 どうやらお眼鏡にかなったようで、初めて褒められた。驚いて言葉を失っていると、お前が欲しい魔法を言ってみろとゼーリエに言われた。私が言った魔法を貰えるらしい。光栄だ。

 

 しかし全部自分で作るからいらないと言った。

 

 また笑われた。殴った。しかし拳が届く前に魔法で吹き飛ばされた。クソが。

 

 

 

 

?月?日

 

 ゼーリエが村を去ってから数日。少し寂しいものがある。

 

 授業が無くなって時間が余るようになったので両親や村の人たちに聞いてみた事がある。

 

 ゼーリエは強い魔法使いだ。それは分かる。だが、そんな彼女に師事している無才の私に何か思うところはないのかと。

 

 しかし返ってくる言葉は「好きにすれば良いんじゃない?」といったニュアンスのもの。

 

 なるほど、村民たちは良い具合に他人に無関心らしい。そういえばこの村では私が最年少だった。既に数百年、数千年生きている人らに対し、幼女に嫉妬心を湧かせろなんて方が無茶振りか。

 

 さて、今日の分のお仕事をやらなければご飯を食べれない。ただでさえ魔法の使えない女子の非力な身だ。穀潰しになるわけにはいかん。頑張って鍬で畑を耕すとしよう。

 

 

 

 

?月?日

 

 いくつか制作のハードルを下げてみた結果、初めて魔道具を作る事ができた。

 

 チリチリと音を鳴らす鈴だ。内側に『魔力を揺らす魔法』を込めている。魔力を別の何かに変換する訳でもなく、収束発散などの運動を与える訳でもない。大海に小石を投げ入れた波紋の様な規模のとても小さい魔法だ。

 

 魔力の揺れは私には感知できないが、両親は初めての成功だと喜んでくれていた。使い所は正直思い付かないガラクタだが、初めて作った魔道具だ。愛着も湧く。

 

 今日の晩ご飯は鹿の香草焼きだそうだ。しかも1番美味しい背中のお肉。野菜もいいが、今の私は人間換算で成長期真っ只中の年齢。積極的にタンパク質を摂りたい。

 

 ……母よ。ブラは何処にある。サラシでもいいから渡してくれ。

 

 

 

 

?月?日

 

 ここ数週間、ずっと雨が降っている。お陰で日記の紙が湿って敵わん。元々癖っ毛の髪も更に広がるし、切るのが面倒で伸ばしっぱなしはだめだろうか。

 

 長い雨は不吉なので早く止んで欲しい。天候を制御する魔道具を作るのにはあと何千年かかる事やら。

 

 

 

 

?月?日

 

 村が滅んだ。魔物は嫌いだ。クソが。

 

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