僕がキャプテン・ジョンの宝だ   作:Mr.♟️

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海賊女帝

 

拝啓、ろくでもないクソ親父へ。

 

世界一の絶世の美女からいきなり抱きつかれた場合、僕は海賊として一体どうすればいいのでしょうか。

 

生前、昔のくだらねぇ自慢話をする暇があるなら、こういう時に役立つ対処法の1つでも教えておくべきだったんじゃねぇの。

 

クソが。どこの誰がこんな意味不明な状況を想像できるかよ。

 

「──一生、わらわの傍にいるのじゃ」

 

「──────どうしてこうなった」

 

誰が悪いかと問われれば、きっと悪いのは僕だ。いや、違う。断じて僕じゃない。全部、外にいる海軍が悪い。

 


 

「は?まだ造船の依頼が出来てない?ってか、街に海軍が多すぎないか?」

 

僕としらほしが『東の海』へ行っていた間、お前ら今まで一体何をしてたんだ。別に水の都を観光しててもいいけど、最低限僕が頼んだ船の注文くらいはやっておいてくれよ。

 

しかも、街の至るところに海兵がウヨウヨいて目障りだし、一体なんなんだよこの異常な警戒態勢は。

 

「海軍の連中が、『海賊女帝』がかつて天竜人の奴隷から逃げ出した疑いがあるから身体を調べて確認させろって騒いでやがる。当然、海賊女帝はそれを真っ向から拒否。結果が今のこの一触即発の睨み合いってわけだ」

 

葉巻を燻らせながら、クロコダイルが忌々しげに吐き捨てる。

 

「で、その海賊女帝がわざわざウォーターセブンにいる理由と、肝心の造船の依頼ができてない理由は?」

 

流石は現役の王下七武海。こういう時に海軍側の内部情報をあっさり収集できるのは実に便利だな。

 

「詳しい用件までは知らんが、海賊女帝はどうやらお前に直接会いにここまで来たんだとよ。んで、船の依頼ができてねぇのは、この島の造船会社のトップである社長が、海賊女帝の騒ぎの野次馬をしてついでに石にされたからだ」

 

「......バカなんじゃねぇの?」

 

造船所のトップが、いくら相手が絶世の美女だからって迂闊すぎんだろ。

 

正直、七武海と海軍の揉め事なんざ関わりたくねぇが、かといって僕たちの船の依頼先を妥協するわけにはいかねぇ。

 

『メロメロの実』の石化を解けるのは、能力者である本人だけ。あー、めんどくせぇ。

 

これじゃあ僕が直接会いに行かないとダメじゃねぇか。そもそも僕になんの用事だよ、あっちとは何の関わりもないはずだぞ。

 

「おい、本当に会いに行くのか?」

 

「そうするしかないからな。ウタと鷹の目はどこ行った?」

 

ちなみに、僕を運んでくれたしらほしは移動の疲れで船の中でぐっすり寝ている。今回の長距離移動は全部しらほし任せだったから、本当に助かった。しばらくはゆっくり休んでくれ。

 

「あいつらなら街へ観光しに行ってる。もっと言えば、この島に来てから毎日観光しかしてねぇぞ」

 

「......どんまい」

 

組織において、真面目で有能な人間にばかり面倒な仕事が振られるのは世の常だ、仕方ないだろ。本当にクロコダイルが仲間になってくれて心の底から助かってる。

 

「よし、仕方ねぇから、僕は『王下七武海サー・クロコダイルの遣い』って名目で乗り込むことにするか」

 

じゃねぇと、40億の賞金首である僕が顔を出した瞬間に海軍から一斉攻撃されるしな。本当に王下七武海が仲間にいると、こういう時悪用できて助かる助かる。

 

「フンッ、勝手にしろ。だが、女のの色気に当てられて石にされるなんざ、マヌケな真似だけはすんじゃねぇぞ」

 

「適当に海賊女帝の話を聞いてやって、さっさとウォーターセブンから出て行かせるだけだぞ。殺し合いの戦いをするわけじゃないんだから、石になんざされねぇよ」

 

そうして僕は、九蛇海賊団の船が停泊している港の包囲網へと向かったのだが──

 

「あーらら、やっぱりこの島にいるよなぁ。『不遜王』レイヴン・リオ」

 

「今は王下七武海、サー・クロコダイルの正式な遣いとしてここに来てるんだが。仕事の邪魔すんじゃねぇよ」

 

目の前に立ち塞がったのは、海軍本部大将『青キジ』。こんなところにわざわざ大将が直々に出張ってくるなんて、随分と海軍本部も暇なんだな。まあどうでもいいからさっさとそこをどけよ。お前ら海軍が軍艦で九蛇海賊団を幾重にも包囲してたら、僕が中に入れねぇじゃねぇか。

 

「いやぁ、それがそういうわけにもいかねーのよ。今回のこの件は、聖地マリージョアからの直接の指示だからな。たとえ王下七武海の関係者であっても、ここから先の介入は一切させられねぇよ」

 

青キジはだらけきった態度とは裏腹に、一歩も退く気配を見せない。チッ、思ったより遥かに面倒くさそうなんだが。なんなんだ、本当に面倒事の匂いしかしない。もちろん、今ここで力ずくで海軍を蹴散らすことはできなくもない。だが、そんなことをすれば間違いなく本部からさらなる増援が来ることになる。またゼファーあたりが飛んでくると心底めんどくせぇ。

 

僕の今日のミッションは、ここを穏便に通って海軍に道を開けさせ、海賊女帝との話に適当に共感と相槌を打って機嫌を取り、なんとか造船所のトップ──アイスバーグとかいうおっさんの石化を解いてもらうようお願いすることだ。

 

おいおいおい、なんの罰ゲームだよこれは。僕はついさっき『東の海』から戻ってきたばっかりだぞ。しらほしと同じように、僕だって船でゆっくり休みたいんだが。

 

いや、違う違う。落ち着け、怒るな怒るな。ここは穏便に行こう、穏便に──なるほどな、天竜人から直接指示が出ているから、王下七武海の権力だけだと追い返すには不足している、と。

 

それなら話は簡単だ。同じ『天竜人』から、直接こいつらに命令させればいい。

 

「......おい、その目、まさかここでやる気か?」

 

青キジの周囲の空気が急速に冷え込む。おいおい、誰が戦うなんて言ったよ。僕は足元に広げた黒い沼の中から──1年前、シャボンディ諸島で殴り倒してそのまま攫った天竜人を無造作に吐き出した。

 

「おい、そこの海軍どもに命令しろ。僕の仕事の邪魔をするなってな──あ?ああ、青キジ、変な勘違いをするなよ?僕はこの天竜人様に『危険だから身辺の保護をしてくれ』と頼まれたから、今まで親切に保護してやっただけだ」

 

実際、ひと月に1回くらいは真っ暗闇の沼から出して、ちゃんとした食事も取らせてやった。僕の沼の中に生きたまま閉じ込めておけば、本来は食事すら必要ないのにな。しかも、最初にシャボンディで殴って以降は、暴力なんて野蛮な行為も一切していない。

 

天竜人どもが普段、捕まえた奴隷に対してやっている非道な扱いを考えれば、僕なんかまるで聖人みたいな対応しかしていないと言える。

 

もっとも、一切の音も光もない孤独な暗闇の中で丸1ヶ月を過ごし──たまに外の光と共に、僕から美味しい食事を施される。

 

そんな生活を1年間も続けた人間の精神がどうなるかは、言うまでもない。

 

『──き、貴様ら、今すぐ道を開けるんだえ!このお方の邪魔をすることを、わちしが絶対に禁じるえ!』

 

僕に縋りつくようにして、天竜人が震える声で青キジたちに叫んだ。ハッ、実に笑える話だ。

 

自分を暗闇に幽閉している元凶である僕に対して、今やこの男は、暗闇から救い出して無償の救済を与えてくれる『世界で唯一の善人』であるとすら錯覚している。

 

「──ってわけだ。神様からの絶対命令だぞ、さっさとどけよ海軍」

 

如何に海軍大将であろうとも、目の前で生きている天竜人の直接の指示に逆らうことはできない。

 

青キジは苦虫を噛み潰したような顔で頭を掻くと、渋々といった様子で海兵たちに包囲網を解かせ、そのまま衰弱した天竜人を保護して引き下がっていった。

 

手塩にかけて育てた手駒を1つ手放すのは勿体ない気もしなくはないが、まあ僕の沼の底にはまだあと3人ほど予備の天竜人が入ってるから問題ない。

 


 

ああ、そこからは実にスムーズだった。九蛇の船にもすぐ通してもらえたし、そのまま奥の船長室にも通してくれた。

 

まあ、そもそもそっちから僕を訪ねて来てるんだから通すのが当たり前ではあるんだが、少なくともこの船長室に入るまでは何の問題もなかったんだ。

 

「わらわは何をしようとも許される──そう、なぜなら、わらわが美しいから!!」

 

「ああ、そうだな。それだけ綺麗なら大抵のことは許されるだろ」

 

僕は適当に相槌を打つ。まあ、お世辞抜きに、今まで僕が出会ってきた人間の中で群を抜く美しさだとは思う。

 

その、激しく見上げてるのか見下ろしてるのか分からん奇妙なポーズでさえ、彼女がやると不思議と様になってるんだからな。その圧倒的な美しさは疑いようがない。

 

──だから、そのポーズはもういいから、さっさと僕に会おうとしていた理由を話して、造船所のトップの石化を解いてくれ。

 

「──ふむ、子供にしてはよく弁えておるようじゃな」

 

「ああ。まずはそっちの話を聞いてやるから、その後に僕の頼み事も1つ聞いてくれねぇか?」

 

「断る」

 

「......あ?おい、お互いにメリットのある対等な取引の話だろ?まさかお前、一方的にそっちの話だけ聞けって言うつもりか?」

 

流石に王下七武海ともあろう女が、そこまでふざけたことは言わないだろ。

 

「当然じゃ。わらわを誰と心得る」

 

「......こっちは、わざわざ海軍の大将に囲まれているお前に、包囲を解いてまで会いに来てやったんだが。お前、僕を舐めてんのか?」

 

「わらわの話がすべて終わってから、お主の頼みとやらを聞くかどうかは気分次第で考えてやろう」

 

「いや、それじゃあ困る。僕の頼み事は絶対に、今すぐ聞いてもらいたいね」

 

完全に僕を格下と見て舐めてんな、この女。もしお前がアイスバーグとかいう社長を石化してなかったら、今この場で容赦なくぶっ倒してたぞ。クソが。

 

「......まあよい。それよりレイヴン・リオ、お主は天竜人に対して随分と好戦的なようじゃが、何か特別な理由でもあるのか?」

 

ハンコックは組んだ足を組み替え、探るような鋭い視線を僕に向けてきた。

 

「──別にねぇよ。僕は海賊だから、自分が好きなようにやってるだけだ。天竜人がやってることは見てて虫酸が走るし、僕に突っかかってきてムカつくから潰す。海賊が暴れるのに、それ以上の高尚な理由を求めるのか?」

 

まあ、最初のきっかけはウタのやつが『私のためにぶん殴って』とか言ったのが始まりではあったが、どの道、遅かれ早かれあの腐りきった天竜人──ひいては世界政府とは全面的に敵対してただろうよ。

 

「本当に、ただそれだけの理由なのか?」

 

「ああ、それだけだ」

 

なんだ、さっきからその僕を疑っているような真剣な視線は。僕たち以外の海の海賊どもが、政府の権力にビビって腑抜けすぎてるだけだろ。

 

あんな無力な天竜人なんかにビビる理由は1つもない。あ、一応海軍のバスターコールとかいう面倒なシステムはあるか。

 

「──そうか。ならもうよい、用は済んだ。疾く下がれ」

 

「いや、下がんねぇよ。まだ肝心の僕の頼み事を話してねぇだろ」

「だから最初から断ると言っておろう。これで満足か?」

 

──我慢だ、我慢しろ僕。ここでキレて暴れたら、世界一の船大工が石のままで砕けちまう。

 

海賊にとって船はマジで大事だから、ここだけは絶対に妥協できねぇ。正面から頼んでダメなら、少しばかり交渉のカードを変えるまでだ。

 

「おい、外の海軍どもが、お前がかつての逃亡奴隷かどうか確認するために、身体のどこかに『焼印』が押されてないか躍起になって調べようとしてるよな。お前がここまで面倒な状況になってるのに、一切海軍の要求に応じないのは──つまり、そういうことだろ」

 

もし他にどうしても肌を見せたくない理由があったとしても、天竜人からの直接命令とあっては海軍も絶対に引かない。普通に考えれば、潔白ならさっさと見せて追い返せばいいだけの話だ。それができないってことは、答えは火を見るより明らかだ。

 

「──っ、無礼者!それ以上口を開けば、今この場で石にして砕くぞ!」

 

図星を突かれた海賊女帝ボア・ハンコックが、美しい顔を蒼白にし、明確な殺意と敵意を僕に向けてきている。おいおい、話は最後まで聞けよ。

 

あんまり頑固だから、交渉のアプローチを少し変えただけなんだからよ。

 

「怒るなよ。この僕なら、お前の身体からその忌々しい焼印を完全に消してやることができる」

 

「──なんじゃと......?」

 

ハンコックの息が止まる。よし、この反応で完全に確定だ。ボア・ハンコックは天竜人の元奴隷。

 

まあ、だからといって僕個人としてはどうということはない。ただ、これで僕の交渉が実に上手くいきそうなだけだ。海軍に包囲されて精神的に追い詰められてるのか、普段より反応が引き出しやすくて助かる。

 

「僕の言葉が信用出来ねぇなら、試しに船にいる誰か怪我人を連れてこい、目の前で治してやる──だが、もし本当にお前の背中からその焼印を跡形もなく消せたら、その対価として僕の頼み事を絶対に聞いてもらうぞ」

 

火傷の痕や焼印程度なら、僕の『秘蔵・黄金の泥湯(トレジャー・マッド・スパ)』に30分から1時間くらい浸からせておけば、新しい皮膚が再生して綺麗に消えるはずだ。

 

そして、およそ1時間後。

 

湯気の立つ船長室の奥で、背中を鏡に映したハンコックが、信じられないものを見るように自分の滑らかな肌に指を這わせていた。

 

「──夢、みたいじゃ。わらわの背中から......あの死ぬほど憎んでいた、忌まわしい天駆ける竜の蹄が完全に消えた......」

 

ポロポロと大粒の涙をこぼし、呆然と呟くハンコック。

 

「よし、約束通り消えたな。さて、これで僕の頼み事を──」

「──ま、待て!頼む、わらわの妹たちの背中からも、あの呪いを消してはくれぬか......!?もし、それをも叶えてくれるのであれば、そなたの頼み事が何であろうと、このわらわの全てを賭けて受けると約束しよう!」

 

さっきまでのあの鼻につく高慢ちきな態度は一体どこへ行ったんだ。一変して僕の前に膝をつき、縋りつくような殊勝な態度を見せる女帝に、僕の方がすっかり拍子抜けする。

 

「......まあ、ついでだし別にいいけどよ」

 

まったく、高慢な女帝と涙目の女、一体どっちがこいつの本性なんだかさっぱりわかんねぇな。

 

その後、呼ばれてやってきた2人の妹たちの背中からも同じように焼印を綺麗に消してやると、姉妹3人で抱き合ってワンワン泣き出した。

 

やがて涙を拭ったハンコックは、スッと立ち上がると、どこか熱っぽい潤んだ瞳で僕を見つめた。

 

「少しばかり不愉快ではあるが、今のうちに外の海軍どもの元へ行って、背中に何もないことを証明して追い返してくる。その間......その、どこへも行かず、この部屋で大人しく待ってるのじゃぞ?」

 

「ああ、当たり前だろ」

 

まだ肝心の僕の頼み事を伝えてねぇんだ。ここでこのまま黙って帰るわけないだろ。

 

「──はうっ」

 

なぜかハンコックは胸を押さえて顔を真っ赤に染め、よろめきながら部屋を出て行った。だからなんだよその反応は。

 

あ、戻ってきた。随分と早いな。部屋を出てからまだ10分もしてないぞ。背中の潔白を証明した瞬間、青キジたちもすぐに引き上げたんだろう。

 

──って、おい、なんでお前はそんな満面の笑みで、両手を広げて僕の方へ全力で走ってきてるんだ。

 

呆然とする僕の制止も間に合わず、そのままハンコックは──僕の身体に勢いよく飛びついて抱きついてきた。

 

「──もうどこへも行かせぬ。一生、わらわの傍にいるのじゃ」

 

「──────どうしてこうなった」

 

誰が悪いかと問われれば、きっと悪いのは僕だ。いや、違う。断じて僕じゃない。全部、こんな状況を作った外の海軍が悪い。

 

まあ、元奴隷の彼女たちにとって、あの背中の焼印は人生を縛り付けるほど重たいものだったんだろう。

 

万が一他者に知られることがあれば、一瞬で全てを失い蔑みの対象になる。意識的にも無意識的にも、死ぬまで消すことができない呪いみたいなもんだ。

 

でも、僕はそれを能力のついでとはいえ跡形もなく消した。だから、ここまで過剰に感謝される反応も頭では理解できる。

 

理解はできるんだが──ハッ、違う。危ねぇ、うっかりその甘い匂いと圧倒的な色香に惑わされるところだった。

 

「おい、苦しいから一旦離れろ。それより僕の頼み事は、お前が街で石にした造船所の連中を今すぐ元に戻すことだ」

 

「......なんじゃ。わらわの全てを差し出す覚悟をしておったのに、そのような些細なことで良いのか?」

 

ああ、それが1番大事なんだよ。だから頼むから、さっさと僕から離れてあいつらを元に戻してくれ。

 

 

 

 




ウタ「私の出番は!?」

迫り来る四皇は?

  • お見合い催促ビッグマム海賊団幹部
  • 寂しがり屋カイドウ
  • 自称親父白ひげ
  • 娘を救いに来た赤髪海賊団
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