僕がキャプテン・ジョンの宝だ   作:Mr.♟️

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閑話1

 

今日は今期の新兵たちの訓練のために船を出していた。想定よりも天候は悪かったが、これも臨機応変な対応力を身につけるための試練だと、構わずに航海を強行した。

 

 

 

 

──だが、それは致命的な間違いだった。

 

 

新兵たちを乗せた俺の海軍軍艦は今、たった二人の襲撃者の手によって壊滅の窮地に追い込まれている。

 

俺が前に立っているおかげでまだ死者こそ出ていないが、このまま戦闘を長引かせれば教え子たちの未来が奪われるのは時間の問題だ。

 

「あんたを殺せば、うちの子の名も一気に上がるってもんさ!ゼファー!」

 

「──耄碌したか!バッキンガム・ステューシー!この俺を殺すつもりなら、最低でも四皇を連れてこいっ!」

 

バッキン一人なら幾らでもあしらえる。だが、問題は──大男の方だ。

 

「安心しな、ゼファー!これからあんたを殺すのは──白ひげの息子だよっ!」

 

白ひげに血の繋がったガキがいるなんざ、長い海兵人生で一度も聞いたことがねぇ!だが、そう言われてみれば──強引で圧倒的なあの薙刀の振るい方は、全盛期の若かりし頃の白ひげにあまりにも似すぎている。

 

「母ーたんを怒鳴るなァ!」

「黙ってろ!」

 

ウィーブルの薙刀を、覇気を込めた右拳で真正面から受け止める。爆ぜるような轟音が響いた。

 

強い。単純な腕力と覇気の強さだけなら──あるいは、あの白ひげ以上かもしれん.....!

 

力負けしそうだ。このまま押し込まれれば、背後に庇っている新兵たちごと薙ぎ払われる───いや、絶対に諦めるな!俺は海軍の教官だ!黒腕のゼファーだ!

 

薙刀と拳が弾け、互いの体が離れる。クソッ、一撃一撃が重すぎる。呼吸を整える隙すらない。

 

「もらったど!!」

 

大上段から振り下ろされる刃。回避すれば背後の新兵たちがやられる。ならば──

 

(右腕の一本くらい、くれてやるっ!)

 

俺は教え子たちの命を守るため、己の右腕を犠牲にしてでも奴の刃を受け止めようと覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───だが、腕が切り裂かれるような衝撃はいつまで経っても訪れなかった。

 

代わりに、甲高い金属音が響き渡る。

 

俺とウィーブルの間に一人の男が割り込み、煌びやかな刀で、あの化け物じみた薙刀の一撃をいとも容易く受け流していたからだ。

 

「──やっと見つけたぜ」

「お前は、不遜王リオ!」

 

なぜ、今ここに貴様が現れた!?

 

いや、それよりもなぜ──海軍である俺たちの戦闘に割り込んできたんだ!!なぜ敵である俺を助けた!!?

 

「ハッ、随分と手間取らせやがって。ずっと会いたかったぞ、テメェら」

 

俺には目もくれず、真っ直ぐにウィーブルたちを見据えている。狙いは、俺たち海軍じゃないのか.....?

 

「あんたには関係ないはずだよっ!不遜王!」

 

「あ?テメェら、僕が目をかけてる傘下の海賊を10以上も潰しておいて、関係ないだと?あのクズどもを更生させて教育すんのが、どれだけ手間か分かって言ってんだろうな、おい」

 

「命が惜しかったら、海軍の老いぼれはすっこんでろ。ここからは僕が相手だ。自称白ひげのジジイの息子と、自称愛人。テメェら2人とも、ここで残らず泥の底に沈めてやるよ」

 


 

「──剣術ってのは力じゃねぇ。力にはいつか限界が来る。だが、技術に限界はない」

 

まあ、これはあのクソ親父からの受け売りだがな。

 

『酔剣・水割り』

 

縦横無尽に振り回される規格外の薙刀を、刃を滑らせて受け流し続ける。クソ重たい。こんな理不尽な斬撃に対して素手で対抗してたって、あの海兵、只者のジジイじゃねぇな。

 

正面からまともに受けたらこっちの腕がイカれるぞ。

 

「落ち着きな!ウィーブル!無闇矢鱈にふりまわすんじゃなくて、一撃の重さで押しつぶすんだよっ!」

 

「──クソが、余計な入れ知恵を」

 

ミス・バッキンガム・ステューシー。若かりし頃の白ひげに一方的に恋をした女だったか?確かクソ親父が酒の席でそう笑って話してた。

 

んで、一緒にいるこの頭の悪そうなウィーブルは、絶対に白ひげの息子じゃねぇ。白ひげのジジイ本人から電伝虫で直接聞いたから間違いない。

 

そもそもあのエドワード・ニューゲートというジジイ、世界最強の大海賊として海に君臨しているくせに、生涯において全く女経験がねぇんだから、愛人だの隠し子だのなんて物理的にありえねぇんだよ。

 

何十人も船に乗せて家族ごっこをしておきながら、大海賊が女経験なしとか、どんな思春期のピュアボーイだよ。夢見すぎだろ。

 

「これで終わりだど!『大振割り!』」

 

シンプルな動作。天高く振り上げられ、重力と剛腕に任せて上から振り落とされる薙刀の一撃。

 

あ、これはヤバイな。いつものように横に受け流したら、間違いなくこの海軍船が真っ二つに壊れる。

 

別に海軍の連中が死ぬ分には全く構わないんだが──ダメだ。その直線上には僕の船が停泊している。この馬鹿力の威力だと、うちの船まで巻き添えを喰らってぶっ壊れる。

 

あそこにはしらほしとウタが留守番してるんだぞ、クソが。

 

受け流すのはやめだ。

 

『酔剣・空盃』

 

振り下ろされるウィーブルの重い一撃に対し、僕は逃げるのではなく一歩踏み込んだ。刀を円状に振るって薙刀の刃に絡め取り、攻撃のベクトルを強引に逸らす。

 

そして空いた胴体へ向け、遠心力を極限まで乗せた強力なアッパー気味の斬り上げを放った。狙うは──薙刀を握る太い腕。

 

肉と骨を断つ鈍い感触。

 

ウィーブルの悲鳴と、バッキンガムの動揺した金切り声が、雨の降り頻る甲板に響き渡った。

 

ドサリと、ウィーブルの左腕が薙刀ごと甲板に転がる。

 

「バッキンガム・ステューシー。お前がクソ親父と同じ船に乗ってたよしみだ。二度と僕の傘下に手を出さないと誓うなら──今回に限り、命だけは見逃してやってもいい」

 

──正直、こいつらは想像よりも強い。このまま殺し合いを続ければ間違いなく僕が勝つ。だが、その後にあの只者じゃねぇ海兵のジジイと戦う余力は残らねぇ。

 

ウタとしらほしからここでの戦闘の様子は見えねぇだろうから、うちの優秀な船員たちの援軍も期待できねぇ。

 

それに、最低限の目的は達成した。こいつらと戦うことで、他の傘下連中に『僕が傘下を大切にする人間』であるとアピールするには充分すぎる。

 

「──っ!そ、その条件を飲むっ....!撤退だよ、ウィーブル!」

 

「賢明な判断だな。なら、さっさと失せろ。僕の気が変わらねぇうちにな」

 

船に乗って逃げ出す親子の背中を見送った後、僕は背後に立つ巨漢の海兵を振り返った。

 

「おい、老いぼれ。お前の名前を教えろ」

 

今まで会ったことがねぇし知らねぇ顔だ。だが、これだけ強かったら、今後また海で会うことがあるだろ。名前を覚えておいて損はねぇ。

 

「──俺の名はゼファーだ。このまま海軍である俺たちとも戦うつもりか.....!ジョンの息子!」

 

ゼファーが残った右腕を構え、新兵たちを庇うように立ちはだかる。

 

「いや、あんたとは関わりたくないから戦わねぇよ」

 

マジかよ。元海軍大将『黒腕のゼファー』じゃねぇか。どおりで化け物じみて強いわけだ。まあ、絶対に戦わねぇよ。だってよ──

 

「『全ての海兵を育てた男』なんて厄介な異名を持ってるあんたをここで殺したら、海軍の全戦力から恨みを買って、死ぬほどめんどくせぇことになるだろ」

 

僕が肩を竦めて刀を鞘に納めると、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───っハッハハハッ!ジョンとは、随分と毛色が違うじゃねぇか.....!」

 

ゼファーは豪快に笑い声を上げ、雨空を見上げた。

 

(面白い悪党もいたものだ。お前のことは、いずれ俺が直々に捕まえてやる。今期の新兵育成が終わったら──考えてなかったが、現場に復帰するとするか)

 

ゼファーの闘志に火をつけたことなど知る由もなく、僕は面倒事を片付けた安堵と共に、ウタの待つ自分の船へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、戻ってきた!お風呂沸かしといたよ!」

 

「おう、ありがとうな」

 

「もう少し遅かったら、私達も行こうと思ってたところだったよ!」

 

「バーカ。僕1人で充分なんだよ」

 

 

 

 

 

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