僕がキャプテン・ジョンの宝だ   作:Mr.♟️

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次の目的地

 

船に乗ってから、あっという間に3ヶ月が経過した。

 

世間一般的にイメージされる残虐な海賊と違って、このレイヴン海賊団に乗っている人たちはみんな、驚くほど親切だ。いざ敵と戦う時は、少し怖い時もあるけれど。

 

クロコダイルは、私に戦闘の基礎や悪魔の実の扱い方を厳しく教えてくれてる。アラバスタを裏から乗っ取ろうとしていた事実を、自分からお父様に打ち明けていたし、きっと根はそこまで悪い人じゃないんだと思う。

 

船に乗った当初、少し馴染みにくそうにしていた私に、他のみんなと会話ができるように自然な機会を作ってくれたりもした。

 

ミホークさん。いつも無愛想で近寄りがたいオーラがあるけれど、たまにそっと美味しいお菓子をくれるから全然怖くない。

 

船では基本的に剣の鍛錬か、静かに読書をしている姿をよく見る。この前なんて『農業に必要な土壌』の本を真剣に読んでいて、驚いた。

 

しらほしさん。魚人島のお姫様で、私に海底の世界がどんなに美しい場所なのかを、目を輝かせて話してくれた。私がアラバスタの砂漠やオアシスの話をすると、本当に楽しそうに聞いてくれる、優しくて可愛い。

 

ウタさん。この海賊船の音楽家で、世界一綺麗な歌声を持つ女の子。気さくに明るく話しかけてくれて、私をすぐに輪の中へ引き込んでくれた。ウタさんのおかげで、みんなのことをよく知ることができて本当に嬉しかった。

 

そして最後に──リオさん。

 

私を船に乗せるのに最後まで猛反対していたらしいのに、実際は誰よりも1番親切にしてくれている。私が『やりたい』と言ったことは基本的にやらせてくれるし、今私が使っているこの貴重な悪魔の実も、クロコダイルにリオさんが渡してくれたものだと後から知った。

 

私が船酔いや気候の変化で体調を崩した時は、真っ先に部屋へ駆けつけてくれた。口は少し悪いけど、底知れず優しい人だ。

 

ただ、この気持ちをウタさんに話したら、『リオはお金遣いが荒いよ!」と謎の熱弁をされた。なんでだろう。

 

「──へぇ、随分と包丁捌きが上達したな」

 

「リオさんの教え方がいいからです」

 

2ヶ月前から私は、リオさんに料理を習っている。海での生活で少しでも役に立ちたかったのと、リオさんが『いつまで僕一人に料理をやらせるつもりだ、クソが』ってよくボヤいていたからだ。

 

「バーカ。お前が毎日地道に頑張ってやってることを、僕の手柄にしてんじゃねぇよ。『私は才能があるから当然!』くらい胸張って言っとけ」

 

「.....うんっ!」

 

リオさんが、ポンと私の頭を撫でてくれる。普段の乱暴な言動とは違って、すごく優しくて温かい手つきで。リオさんは、私が頑張ったらちゃんと見ていて、褒めてくれる。

 

料理を始めたばかりの頃、火加減を間違えてお世辞にも美味しくない炭の塊みたいな料理を作ってしまった時も、呆れながら『クソ不味い。次からもっと頑張れよ』って、残さず全部食べてくれた。

 

決して頭ごなしに否定せずに、前を向けるように応援してくれたのだ。この船は、すごく居心地がいい。

 

 

色々な国や島を回って、見たことのない景色を知り、沢山のことを学べて毎日が楽しいし──いつかアラバスタに帰らなきゃいけないって分かっているのに、ずっとこのまま過ごしたいと思うくらいには。

 

「.....また焦げてるぞ」

 

「あっ......」

 

想いに浸りすぎたみたい........

 


 

「ねぇねぇ、リオ。女ヶ島なんて絶対に楽しくないよー。行くのやめよう?」

 

女ヶ島の『グロリオーサ』とかいうお婆ちゃんに会いに行って、リオの泥湯で若返らせて船に乗らないか誘うんでしょ?

 

最近ビビまでリオに惹かれてそうなのに、これ以上の女の子はいらないよ!

 

それに、あそこは──ハンコックの本拠地じゃん!女ヶ島なんて行ったら、ハンコックに襲われるかもよ!?

 

「お前があまりにもうるさいから適当な島に寄ったりして誤魔化してたけどな、女ヶ島には絶対に行く」

 

「行かない理由がねぇな。グロリオーサを全盛期の力で味方に引き込める可能性があるなら、戦力として申し分ない」

 

「俺はどちらでも構わん」

 

「えー!」

 

リオが呆れたようにため息をつき、クロコダイルが葉巻の煙を吐き出しながら同意する。ミホークに至ってはワイングラスを片手に完全に我関せずだ。

 

クロコダイルとリオの意見が一致している時、それが覆る事は滅多にない。でも、やだ!

 

「何がそこまで嫌なのかわかんねぇよ。お前は異常に嫌ってるみたいだけど、ハンコックだって別に悪いやつじゃなかったろ」

 

「もー!悪人だよ!すっごい悪人!」

 

私からリオを盗ろうとしている盗っ人だよ!泥棒猫!だいたい、リオもあのおばさんにすり寄られた時、満更じゃない反応してたじゃん!

 

「はぁ。航路は僕が決める。船長である僕が行くと言った以上、それは決定事項だ」

 

「やだ!」

 

私のガンとした強硬な態度に、リオが少し考える素振りをしてから口を開いた。

 

「わかった。なら、二手に分かれるか?ミホークとクロコダイルとウタ。お前たち3人は僕たちが女ヶ島に行っている間、好きに航海してくれて構わねぇよ」

 

構うよ!もう、構いまくるんだけど!?私がリオと離れるわけないじゃん!

 

「もっとやだ!」

 

「.......あんまりわがまま言うと、もう一緒に風呂に入らねぇぞ」

 

「................女ヶ島に行く」

 

即答した。背に腹は代えられない。一緒のお風呂タイムを取り上げられるくらいなら、おばさんの島に行く方がマシだ。

 

リオのケチ。バカ。アホ。マヌケ。

 

「よし。これで次の航路は無事に決まったな。いや、無事にとは言えないか。お前がゴネたせいでかなり遠回りになった」

 

「むー、嫌味言わなくていいじゃん」

 

私がぷくっと頬を膨らませてそっぽを向くと、リオの手が私の頭の上にポンと乗せられた。

 

「嫌味じゃねぇよ。お前がわがままを言って寄り道したお陰で、結果的に傘下の海賊を増やすことができたろ。褒めてやってんだよ」

 

リオの手が、私の紅白色の髪をくしゃくしゃと優しく撫でる。

 

体温が伝わってきて、さっきまでの不満が嘘みたいにスゥッと溶けていくのが自分でもわかってしまって悔しい。

 

もう、頭を撫でたら追及されないと思ってるでしょ!

 

後で2人きりになった時にたっぷり文句言ってやるんだから。

 


 

「──ウタ」

 

「なぁに?」

 

ちゃぷん、と温かいお湯が揺れる音。

 

リオと一緒にお風呂に入っていると、不意に名前を呼ばれた。湯気越しに見るリオの顔は、何か意を決したような真剣な表情をしていた。

 

珍しい。のんびり歌を歌ったりして、笑いあって湯船に浸かっているのに。

 

「──僕は、自分の親父を心底クソだと思ってる。自分の息子をただの『金庫』扱いするために悪魔の実を食わせて、とことん利用しようとしたどうしようもねぇ屑だ」

 

「え、うん.....?」

 

リオが自分のお父さんのことを自分から話すのは珍しい。でも、いきなりどうしてそんな話を?

 

「僕に対して親としての愛情なんてものがあったかは正直わからねぇけど、少なくとも僕に色々なことを叩き込んでくれた。それが世間的に正しいかは分からねぇが、海賊としての生き様や善悪の基準、親が子どもに教えるべき最低限のことは教わった自覚がある」

 

「いいお父さんだったの?」

 

「まさか。親としては微塵も尊敬してねぇよ。だが、海賊としては....まあ、多少は尊敬してる」

 

リオはお湯から引き上げた自分の手をじっと見つめながら、ぽつりとこぼした。

 

「僕にとってあのクソ親父は、莫大な富を手に入れた大海賊であり、仲間に刺された情けない死に様以外は──海賊として尊敬できる存在だ」

 

「お父さんのこと、好きなの?」

 

「なわけねぇだろ。いや、まあ......悪い。僕の言い回しが少し回りくどかったか」

 

リオは少し迷いながら、何かを確認するように慎重に言葉を紡いでいく。

 

「要するにだ──親に愛された自覚すらねぇ僕ですら、あのクソ親父のことを完全に嫌いだなんて割り切ることは出来ねぇ。だとしたら、一時期は愛情を注がれていたお前なら、尚更そう簡単に父親を嫌いにはなれねぇのかもしれねぇ」

 

「うん」

 

「それがわかった上で、はっきりと言うぞ」

 

リオの真剣な瞳が、真っ直ぐに私を射抜いた。

 

「お前の父親、赤髪のシャンクスには今後一切何も期待するな。どんな高尚な理由があろうと、お前を──自分の大切な子どもを恐怖で見捨てただけの情けねぇクズだ。あの男のことはもう忘れろ」

 

お湯の温度とは違う熱が、リオの言葉から伝わってくる。

 

「その代わり、赤髪海賊団にいた時よりも.....いや、この世界の誰よりも、お前が幸せに過ごせるようにしてやる。財も名誉もくれてやるよ」

 

「だから、約束してくれ。赤髪には何も期待しないと」

 

何を、心配しているんだろうか。この不器用な船長は。

 

 

 

リオが、私を捨てたシャンクスに対して本気で怒ってくれていることは、心の底から嫌悪してくれていることはよく分かる。

 

リオが私のために本気で怒ってくれていると知ったあの時から、私はもうシャンクスに何かを期待したことなんて一度もない。

 

 

 

 

だって、レッド・フォース号で過ごした幼い日々は、私の中では既に『終曲(フィナーレ)』を迎えているから。

 

 

 

今の私の世界は、私のためにこんなにも熱く激しく怒ってくれる、目の前のリオだけで満たされている。

 

「───ハハハッ!リオってば、そんなことを伝えるためにずっと難しい顔してたの?もー、ほんっとにバカだなぁ」

 

私が弾けるように笑うと、リオは拍子抜けしたように目を丸くした。お湯の中でリオの手に自分の手を重ねて、きゅっと握りしめる。

 

「私はもう、とっくに幸せだよ。リオがエレジアに来てくれて、私を船に乗せてくれて、この船の音楽家になれて──リオがずっと隣にいてくれる。それだけで、私はもう充分に幸せだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。なら、良かった」

 

私の言葉を聞いて、リオはホッとしたように、満足げに一つ頷き、そして──とんでもないことを言い出した。

 

「もし今後、お前に好きな男ができたらまずは僕に言えよ。変なクズに引っかからないか、僕がきっちり見定めてやるからな」

 

「......ん?」

 

あれ、なんか話の流れが絶望的におかしくない?

 

私が今さっき『リオがいてくれるだけで幸せ』って、直球で伝えたばかりだよね?なんでそこで『他の男』の存在を前提にした話になるの?

 

「お前は変なところで抜けてるし、情に絆されて金遣いの荒いヒモ男とかクズ男にコロッと騙されそうだからな。ああ、別に僕への礼はいらねぇよ。お前が今後の人生で幸せになるためには、相性のいい真っ当なパートナーを見つけるのも大事だろうからな」

 

「..........んんん?」

 

なんか変な風に脳内変換された気がする。なんでリオはハンコックの好意には気がつくのに私の気持ちには気が付かないの!

 

わざと!!!!?

 

私は両手でお湯をすくい上げて、バシャッ!と勢いよくリオの顔面に浴びせかけた。

 

「バカ。アホ。リオ。バカ。アホ」

 

「おい急にお湯を跳ねさせるな!ってか、僕の名前は悪口じゃねぇぞ」

 

「悪口だよ!世界で一番のバカで鈍感って意味の悪口!」

 

「はぁ?理不尽すぎんだろ!」

 

顔を拭いながら文句を言ってくるリオに、私はもう一度お湯をぶっかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まあ、最低でも僕以上の男じゃねぇと認めねぇけど。財力、実力、人格──その全てを上回るくらいじゃねぇとな)

 

「──それに、僕以上にこいつに好かれる人間はいねぇよ」

 


 

ウタ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ウタさん、他のヒロインを許容してください......。
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