僕がウタとゴードンに大見得を切ってから1週間。
エレジアの港に無骨な作業船が停泊していた。僕が招いた、復興の要となる客人たちだ。
船から降りてきたのは、筋骨隆々とした男たち。その先頭に立つ、一際目つきの鋭い男が僕を見下ろした。
「おいガキ。てめぇが依頼主か?本当に金が払えるんだろうな」
この無礼極まりない口を利いているのが、裏社会でも名の通った建築家集団の棟梁だ。
少なくとも100人は連れてくるよう手配したはずなのに、島に上陸したのはたったの5人だけ。
僕は不快感を隠さずに、彼を睨み返した。
「あ?舐めた口利いてんじゃねぇぞ。お前言ったよな?『俺たちに依頼すれば、1ヶ月で国1つ分の建物くらい建ててやる』って」
「ハッ、口の減らねぇガキだ。滅んだ国にそれだけの金を用意できるか分からねぇだろうが。会ったこともねぇ、しかもこんなガキの言葉を信じて全員で来るほど、俺たちは暇じゃねぇんだよ。来てやっただけありがたく思え」
男はタバコの煙を僕の顔に吹きかけてきた。今すぐ殺してやろうか。
「まずは手付金を確認させてもらってからだ。話はそれからだ」
「この僕に随分と偉そうな口を利いてくれる。その口ぶりに見合う仕事を期待してもいいんだろうな?口だけだったら──死ぬほど後悔することになるぞ」
言っている理屈はわかるし、来ただけでも感謝すべきなのかもしれない。でも、僕に対しての態度がどうにもいただけない。
棟梁はニヤリと不敵に笑った。
「金次第だ。テメェが金を用意してるなら、その分俺たちは働く。報酬に見合う建物の建築からインフラ、道の整備まで完璧にやってやる。それが俺たち裏の職人の矜恃だ」
「いいだろう。その言葉、忘れるなよ」
僕は1歩前に出ると、こいつらが1番聞きたいであろう数字を口にする。
「報酬は6000億ベリーだ」
その場の空気が凍りついた。5人の職人たちが一斉に息を呑む気配が伝わってくる。ふん、これだけ使ってもクソ親父の遺した財産を考えれば痛くも痒くもない。
「前金で8割の4800億ベリー、完成後に残りの1200億ベリー。全て、金塊で支払ってやる」
悪くない反応だ。そもそも、この廃墟同然の島での仕事を受けてくれる組織自体が少ない。
その中でこいつらは確かな実績があり、疑いながらもこうして直接足を運んだ。それに免じて多少の無礼は許してやるか。
棟梁が信じられないといった顔で仲間と目配せをした後、掠れた声で問いかけた。ああ、ようやく疑いが晴れたか。
「お、おい......6000億ベリーだと?本当にあんのか?そんな大金」
「この国の国王、ゴードンに預けてある。廃城へ行って確認してこい」
僕は彼らの背中に、冷ややかな釘を刺す。僕の期待を裏切ってくれるなよ。
「言っておくが、持ち逃げなんて考えないことだ。いっときの欲望で──命を失いたくなければな」
一瞬だけ意図的に漏らした殺気に、男たちの顔色がサッと変わった。そうだ、その反応だ。多少の無礼は許してやるとはいえ、あまりこの僕を見くびるなよ。
「......チッ。まずは、その話が本当か確認するのが先だ。嘘だったら2度とこの国とテメェに関わることはねぇ」
それだけ言い残して、5人は早足に廃城へと向かっていった。
これでエレジア立て直しの第1歩になる。食料はあの建築家どもが本隊の仲間を連れてくる時に追加で運ばせれば、当面の間は問題ない。
外面だけでも国として機能しているように見えるところまで復興できれば、商人は匂いを嗅ぎつけて自然と集まるはずだ。
さて、基盤を整えたあとは、そこを発展させる人間が必要だ。
「──奴隷商船狩りだな」
新世界を行き交う奴隷商船を襲い、行き場のない奴隷をエレジアに連れてきてから解放する。奴隷に安全な住処と仕事を与えれば、それがそのままこの国を支える国民となる。
「明日にでも出港するか」
結局、この国から出ていくんだ。
あんな大層なことを言っておいて、この国を捨てるんだ。シャンクスたちみたいに、また私を1人ぼっちにして置いていくんだ。
「ダメ!絶対ダメ!」
絶対許さないから。ゴードンは優しいし、私にもよくしてくれる。でも、リオみたいに遠慮なく口喧嘩したり、対等に張り合って一緒に遊んだりはできない。
ゴードンは私にとって保護者であって、対等な友達ではないから。
「ダメダメダメなんつっても、行くからな?ある程度奴隷を捕まえ──救ったら戻ってくるし」
「そう言って帰ってこないつもりだ......!シャンクスだってそうだった!」
「おい待て。トラウマがフラッシュバックして話が飛躍してんぞ。帰ってくるに決まってんだろ。僕はバカみたいな金額をこの国に投資してんだ。6000億だぞ?そんだけ投資した国を捨てるバカがどこにいる」
「シャンクスだって私にたくさん宝石とか服とか、色々買ってくれたけど......いなくなる時は何も言わずにいなくなったもん!」
あ、イラッとした!今イラッとしたのわかった!眉がピクピクって動いたの見逃さなかったから!
「あのな、この僕をそこらの情けない男と一緒にすんじゃねぇ。ったく、めんどくせぇガキだな」
今度はあからさまな深い溜め息。なんて言われても絶対に行かせないから。ウタワールドに閉じ込めてでも、絶対に出港を阻止してやるんだから!
私の決意が固まったその時、リオの右手がズブズブと沼へと姿を変えた。中から1枚の白い紙を取り出し、元の手に戻る。その紙、前にシャンクスたちが持っていたのを見たことがある。
「──ビブルカード?」
「流石に知ってたか。ほらよ、お前に僕のビブルカードをやる」
リオは紙片を無造作にちぎると、それを私に突き出した。
「ビブルカードなんてもらっても、帰ってこないかもしれないじゃん......」
「どんだけ疑ってくんだ、クソガキウタ。いいか?ビブルカードがあれば、万が一、億が一にでも僕が戻ってこなかったとしても、お前が僕を捕まえにこれる」
「え......?」
「ビブルカードは持ち主の命の紙で、元主の位置を常に示す。つまりこれは、お前に『僕の居場所を特定して追いかける権利』を与えたってことだ。僕がバックレようとしても、お前からは絶対に逃げられねぇ──これで満足か?」
私は手渡された白い紙切れを見つめた。手のひらの上で、その小さな紙はまるで生きているかのようにじわじわと動き、目の前のリオの方角を指し示している。
(私が、追いかける権利)
ただ置いていかれて、泣きながら待っているだけじゃない。もしリオが嘘をついたら、今度こそ私が捕まえに行ける。文句を言いに行ける。
その事実は、見捨てられる不安でいっぱいだった私の心を不思議と落ち着かせてくれた。
「ほんとに?ほんとにこれがあれば、リオがどこにいてもわかる?偽物だったりしない?」
「ああ。僕が生きてる限り、世界の果てにいようが、海王類の腹の中にいようがな。ま、そんなヘマはしねぇけど」
リオは呆れたように肩をすくめると、私の頭を乱暴にわしゃわしゃと撫でた。ちょっと、レディーの扱いがなってないんじゃないの。
「だから大人しく待ってろ。投資した分の元を取るためにも、僕はここに戻ってくる。僕の所有物を確認しにな」
「......所有物って、エレジアのこと?」
「さあな」
リオはニヤリと不敵に笑うと、背を向けた。リオの沼から出した木材と鉄板で補強された、意外としっかりした造りの小舟にひらりと乗り込む。
「行ってくる。早ければ数日、遅ければ数ヶ月程度で戻ってくる」
「絶対だからね!あんまりにも遅かったら迎えに行って、1発殴るから!」
「なんで僕がお前に殴られんだよ。はっ倒すぞ、クソガキ」
苦笑いを浮かべながらリオは小舟に腰を下ろした。
エンジンなんてないはずなのに、リオの船はスムーズに海へと滑り出していった。
遠ざかっていく小さな背中。でも、不思議とあの時みたいに涙は出ない。私は胸元で、貰ったばかりのビブルカードを強く握りしめた。
「──約束だからね。絶対戻ってきて」
水平線の向こうへ消えていく彼を見送りながら、私は小さく祈った。リオが帰ってくるまでに、教えてもらった覇気をしっかり習得して、あっと言わせてやるんだから。
エレジアを出港してから1ヶ月。気ままな航海の末、ようやく──本当にようやく、『獲物』が網にかかった。
探している時に限って中々現れねぇ。社会のクズなら、せめて僕の役に立てよクズども。
「この船、奴隷商船だよな?」
小舟から大型の商船に飛び乗ると、甲板で気だるげにタバコをふかしていた男に声をかけた。
まあ、返事を聞くまでもない。奴隷商船なのは見ればわかる。普通の商船や海賊船とは違う、陰鬱で腐ったような独特の空気が船全体に染み付いているからな。
「あぁ!?おいガキ、テメェどこからその情報を聞きやがった?そもそも、どうやってこの船に」
「そういう無駄な問答はいらねぇよ。船に乗ってんのは──40人ってとこか。30人が船底でひとかたまりになってるってことは、お前たち奴隷商人が10人。
見聞色の覇気を使えば、船内の配置や人間の数など手にとるようにわかる。男が慌てて腰の銃を抜き、僕に銃口を向けた。
「な、何者だテメェ!ただのガキじゃねぇな!?」
「別に聞きたいことはねぇし、とっとと終わらせるか」
僕は突きつけられた銃口を無視して、薄ら笑いを浮かべる。足裏から、ドロリとした重く暗い気配を船全体へと広げていく。この船は今から僕のものだ。
『
刹那、船全体が──甲板も、手すりも、足場そのものが、逃げ場のない底なし沼へと姿を変える。
「な、なんだこれ!?足が......沈む!?」
「うわあああ!船が溶けてやがるのか!?」
甲板にいた男たちはもちろん、船内からも次々とパニックに陥った悲鳴が上がり始める。溶けてねぇよ。1度足を踏み入れたらもう手遅れだ。僕の底なし沼から、覇気も使えねぇ雑魚どもが抜け出す方法はない。
「た、助け......!まさか!悪魔の実の能力者か!?」
「正解。けど、賞品はねぇよ」
僕は沼の上に平然と立ち、腰まで沈んでもがいている男を冷ややかに見下ろした。もがけばもがくほど、沼はより深く、より強く獲物を締め付け、最後は呼吸すら奪って窒息させる。
「安心しろ。テメェらみたいなゴミを僕の身体に保管しておくつもりはねぇ。窒息死した後は、海に捨ててやる」
10分が経過したタイミングで、僕は指をパチンと鳴らす。瞬間、船内の沼が大きく波打ち、完全に意識を失った男たちを船の外──海面へと向かって一斉に吐き出した。
ドボンドボンと情けない水音を立てて、奴隷商人たちが暗い海へと落ちていく。ここは新世界。海王類の巣窟だ。
奇跡的に息が残っていたとして、更に運良く泳げたとしても、血の匂いを嗅ぎつけた海王類たちの餌になるのがオチだろう。
「さて、害虫の掃除は完了だ」
僕は能力を解除し、足場を元の木の甲板に戻す。さて、次は
薄暗い船倉への階段を降りると、そこには冷たい鉄の手枷足枷を嵌められ、恐怖に震える人々が身を寄せ合っていた。
突然の揺れと外からの悲鳴でパニックになっていたようだが、入ってきたのが8歳の子供の僕だとわかると、彼らは一様に呆気にとられた顔をした。
「子供......?」
「助けに来てくれたのか......?」
暗闇の中、希望に縋るような視線が一斉に僕に集まる。僕は奪い取った枷の鍵束を指先でクルクルと回しながら、彼らに向かって言葉を発した。
「勘違いするな。僕は正義の味方でもなければ、慈善事業家でもねぇ」
鍵束を無造作に放り投げる。ガシャリ、と硬い音を立ててそれが彼らの足元に転がった。
「僕はレイヴン・リオ。これから『音楽の国エレジア』を復興させる男だ」
「エレジア......?」
「お前たちに選択肢をやる。備え付けの小舟で海に出てこのまま野垂れ死ぬか──僕について来て、エレジアの国民として新しく生きるかだ」
僕がニヤリと笑うと、彼らは戸惑いながら顔を見合わせた。そして1人の男が、震える手で鍵を拾い上げ、僕を真っ直ぐに見た。その濁っていた目には、確かに生への渇望が灯り始めている。
「──アンタについて行けば、まともな飯は食えるのか?」
「ああ。エレジアの国王はお人好しだからな。テメェらが裏切りやくだらねぇ真似さえしなければ、腹いっぱい飯も食えるし、誰にも縛られず平和に過ごせるだろうよ」
交渉成立だ。男たちは深い安堵の息を漏らし、ある者は鎖から解き放たれて涙を流しながら座り込んだ。まずはこの30人、1人残らずエレジアへ連れ帰る。
思ったより数が少ねぇのが残念だが、まあ第1歩としては悪くねぇか。
その時だった。
『ぷるぷるぷるぷるぷる』
静まり返った船内に、間の抜けた着信音が響き渡った。音源は、船長室の脇に備え付けられた電伝虫からだ。
「あ?電伝虫?」
待てよ、このタイミング......もしかしてこいつら、他の奴隷商人とも繋がりがあるんじゃねぇか?もしくは、取引先からの催促の可能性もあり得る。
(とりあえず出てみるか)
僕は軽く咳払いをして喉の調子を整えてから、受話器を取った。
ガチャッ。
『おい、何やってんだ!そろそろ合流の時間なのにお前たちの船が見当たらねぇぞ!』
受話器の向こうから、苛立った男の怒鳴り声。ビンゴ。この下品な口調、間違いなく奴隷商人の仲間だ。
僕は口元を歪め、怯えた下っ端の声色を作った。
「す、すいません!途中で海軍の巡回船を見かけちまって、慌てて航路を変更したんです!そのせいで少し迷っちまって......えっと、合流場所どこでしたっけ?」
『あぁ!?テメェ、海図も読めねぇのか!新入りかよ!ったくこれだから新入りは!『双子岩の裏の入り江』だ!さっさと来やがれ、商品の受け渡しに遅れるぞ!』
ガチャン!
一方的に通信が切れた。僕は受話器を置き、素の表情に戻ってニヤリと笑った。
「ハッ、運が向いてきたな」
こいつらの抱えている奴隷も、船ごと丸ごと僕がもらってやる。場所は「双子岩の裏の入り江」。ここへ来る途中、小舟で彷徨っている時に見かけた奇妙な形の岩場が確かそんな名前だったはずだ。
よかった、覚えのある場所で。じゃなきゃ、この広い新世界の海で特定するのは骨が折れるからな。
「おい、テメェら!出航だ!ガキも大人も関係ねぇ、飯を食いたきゃ自分にできることをやれ!」
僕はまだ呆然としている30人の元・奴隷たちに号令をかけた。
「も、もうエレジアに行くのか?」
「バカ言え。ついでだ、テメェらの未来の隣人をもう少し増やしてから帰る」
僕は舵を大きく切った。さて、もうひと仕事してからエレジアに戻るか。
リオが出港してから1週間が過ぎた。私は毎日、飽きもせずに瓦礫の山の頂上や海辺に立って、果てしない海を眺めている。
だけど、広がるのはどこまでも青い水平線だけで、戻ってくる船の影どころか、気配さえ一向にない。
「ウタ......ここ数日、まともに食事をしていないじゃないか。もう少し食べないと身体に悪い」
ゴードンが心配そうに、温かいパンとスープを持ってきてくれる。でも、喉の奥がぎゅっと詰まったみたいで何も通りそうにない。
「......うん、ありがとう。でも、後でいい」
胸元には、リオがくれた白い紙──ビブルカードを大切にしまっている。
そっと取り出して手のひらに乗せると、紙はジリジリと微かに動き、海の向こうを指し示している。燃えてもいないし、小さくもなっていない。リオは元気に生きている。
(わかってる。生きてるし、動いてる)
でも、怖い。生きていることと、ここに戻ってくることは別の話だ。リオが「やっぱりめんどくせぇ」とか「もっと良い場所があった」とか言って、私やエレジアのことを忘れてしまうんじゃないか。
そう思うと、胸が張り裂けそうなくらい怖い。
この小さな紙切れ1枚だけを頼りに待つ時間が、永遠のように長く感じる。
「......嘘つきだったら、許さないんだから」
私は膝を抱え、冷たい潮風に震える身体を小さく丸めた。
リオがいなくなってから、1ヶ月が経った。エレジアの景色は、少しずつ、けれど確実に変わり始めていた。
「おい!そっちの木材を運べ!リオの大旦那が戻るまでに、最低でも基礎だけは終わらせるぞ!1ヶ月で国1つ分の建物を建てるって豪語してんだ!テメェらもっと気合い入れろ!」
「へい!棟梁!」
リオが呼んだ裏社会の建築家たちが手際よく瓦礫を撤去し、新しい建物の建設を急ピッチで進めている。
最初は5人だけだった職人も、前金を確認して本隊の仲間を呼んだのか、今では80人近くにまで増えていた。
荒れ果てた死の静寂に包まれていた国エレジアに、かつて流れていた優雅な音楽ではなく、今は力強い金槌の音や男たちの威勢のいい怒号、そして確かな活気が響いている。
(リオは本当に凄いや)
滅んだ国を1から建て直すなんて、ただお金があれば簡単にできるようなことじゃない。
それでもリオは、本当にできるかもしれないと私たちに強い希望を持たせてくれる。
「──私も、やらなきゃ」
ただ泣いて待っているだけじゃ、帰ってきたリオにまた『クソガキ』ってバカにされる。
せめてリオが戻ってきた時に、最高の歌と成長した姿で驚かせてやるんだから。
私は胸元のビブルカードを強く握りしめ、久しぶりに声を──歌を口ずさんだ。
カンカンと響いていた職人たちの手がふっと止まり、汗拭うのも忘れて私の歌に聞き惚れてくれている。
寂しさや不安が完全に消えたわけじゃない。でも、リオがこの島に残してくれた活気が、私に信じて待つ勇気をくれた。
そして、2ヶ月が過ぎたある日のこと。
「......来た?」
水平線の向こうに、見慣れない影が見える。最初は小さな黒い点だったそれは、波を越えて徐々に形を成していく。
出ていった時の小舟じゃない。あれは──大型船?それも1隻じゃない、3隻も!?
リオだ、絶対にリオだ!手のひらのビブルカードが、まっすぐにその先頭を指している!
「ゴードン!来たよ!リオが帰ってきた!!」
私は叫びながら、港に向かって全力で駆け出した。心臓が破裂しそうなくらい高鳴っている。
船が海辺に近づくにつれ、先頭の船の船首に仁王立ちする、見慣れた生意気な少年の姿がはっきりと見えた。
「リオ!!!」
船が着岸するや否や、私は飛びつく勢いでリオの元へ駆け寄った。甲板から飛び降りてきたリオは、呆れたような、でもどこか満足げな顔で私を見下ろしている。
「よう、出迎えご苦労。随分と痩せたんじゃねぇか?ちゃんと飯食ってたかよ」
「うるさい!バカ!遅い!......っ、でも、本当に、帰ってきた......」
張り詰めていた糸がぷつりと切れ、安堵の涙が溢れて止まらない。リオは軽く笑いながら、あの時と同じように私の頭を乱暴に撫でた。
「言ったろ。戻ってくるって──おい、降りてこい!」
リオが後ろの船に向かって大きく合図をすると、3隻の船から次々と人が降りてきた。
男の人、女の人、お年寄り、そして私と同じくらいの子供たち。その数、10人や20人じゃない。広い海辺がみるみるうちに埋め尽くされるほどの人数だ。
みんな服はボロボロだけど、その瞳には絶望ではなく、どこかイキイキとした光が宿っているように見える。
「え、えぇ!?何この人数!?」
遅れて駆けつけたゴードンも、目の前の光景に腰を抜かしそうな顔をしている。
「約束通り連れてきたぜ。こいつらは奴隷商船から奪い取った元奴隷。今日からエレジアの国民だ。その数、きっちり300人」
リオはニヤリと笑い、目を丸くする私と、不安と期待が入り混じった300人の新しい国民たちを一瞥したあと、ゴードンへと真っ直ぐに視線を向けた。
「さあ、エレジアの国王らしく、ここまで生き地獄を味わってきたこいつらに、温かい言葉の1つでもかけてやってくれ。頼んだぜ、ゴードン国王」
ゴードンはハッとして、震える両手をぎゅっと握りしめた。最初は自信なさげに目が泳いでいたけど、目の前にいる300人の──行き場を失い、救いを求めるように彼を見つめる人々の視線を受け止めると、その表情がかつての威厳ある王のそれへと変わった。
ゴードンは大きく息を吸い込み、堂々と1歩前へ出た。
「──ようこそ。ようこそ、音楽の国エレジアへ!」
その声は、微かに震えていたけれど、港の隅々まで響き渡るほど力強かった。
「この国は1度滅び、深く傷ついた国だ。建物も、物資も、まだ充分ではないかもしれない。だが、今日からここが君たちの家だ!誰に縛られることもない、自由な安息の地だ!!」
わぁぁぁ......!
最初は戸惑っていた人々から、1人、また1人と歓声が上がり、それはすぐに大きなうねりとなって港全体に爆発した。
膝から泣き崩れる者、家族や仲間と抱き合う者、ゴードンに感謝を叫ぶ者。
そして、自分たちを地獄から救い出したリオに何度も頭を下げる者。
その光景は紛うことなく、死んでいたはずの国に再び熱い命が吹き込まれた瞬間だった。
「滅んだ国を捨てずに、ずっと孤独な運命を共にしてきたんだ。テメェなら、こいつらの心を掴めるだろ」
リオは私の隣で、満足げに腕を組んでその光景を眺めている。
「......リオ」
「なんだよ。遅くなった文句なら後で聞くぞ。これだけの人数だ、流石に当面の食い扶持を確保するだけでも1苦労だかんな」
「ううん」
私は首を横に振った。文句なんて1つもない。リオは口だけじゃなく、本当にやってのけたんだ。
私との約束を守って戻ってきて、更にはこの孤独だった国に、こんなにも賑やかな未来を連れて帰ってきた。
「──おかえり、リオ」
「あ?歓声で声が小せぇな」
「おかえりって言ったの!」
私は自然と流れてくる涙を袖で拭って、精一杯の笑顔で叫んだ。リオは少し驚いたように目を見開いた後、フンと鼻を鳴らして、それから少しだけ優しい笑みを浮かべた。
「ああ。ただいま、ウタ」
照れくさいのか、ぷいっと顔を逸らしながらリオは応えてくれた。
リオがいれば、本当に1年でエレジアが元に戻るんじゃないか──いや、昔以上に素晴らしい国になるんじゃないかと、そう胸が躍るほど期待してしまう。
迫り来る四皇は?
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お見合い催促ビッグマム海賊団幹部
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寂しがり屋カイドウ
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自称親父白ひげ
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娘を救いに来た赤髪海賊団