僕がキャプテン・ジョンの宝だ   作:Mr.♟️

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エレジア復興2

 

僕がエレジアに来てから7ヶ月が経過した。この国に来てからというもの、まともに休めた覚えがない。文字通り、バカみてぇに忙しい日々を過ごしてきた。

 

(今思えば、上陸当初が1番平和だったな)

 

上陸してからの1ヶ月は、ウタに小舟作りを邪魔されながらも比較的のんびりと過ごすことができた。

 

2ヶ月目は、国を立て直すための国民を確保するべく、奴隷商船探しに苦戦させられた。

 

まさか丸1ヶ月も小さな舟に身体を揺らされながら海の上で過ごすことになるとは思ってもみなかった。途中で海王類にも襲われるし、本当にツイてなかった。

 

(クズどもの癖に手こずらせやがった)

 

まあ、それでも最終的には目当ての奴隷商船を狩ることができた。そう考えれば、あの過酷な1ヶ月も決して無駄ではなかったと言える。

 

(そこからは順調だったな)

 

3ヶ月目は、最初に狩った奴隷商船とつるんでいた他の奴隷商人どもの船を片っ端から襲うことに精を出した。

 

おかげでエレジアの基盤となる国民を300人も確保できた上に、大型船を3隻も無償で手に入れることができた。

 

(予想外の収穫だったのは職人たちだ)

 

4ヶ月目は、雇った裏社会の職人たちに発破をかけつつ、僕自らも能力を使って作業を手伝った。

 

その甲斐あってか、職人たちは裏社会から足を洗ってエレジアに本拠を構える約束をしてくれた。これで僕が海へ出ていなくなったあとも、街の維持に関しては安心できる。

 

(商人を相手にすんのは心底めんどくさかった。今の状況であんまり高圧的に接して逃げられたら面倒だし、アイツらの腹の探り合いや駆け引きに散々付き合わされた)

 

5ヶ月目と6ヶ月目は、エレジアが復興しつつあるという噂を聞きつけた商人どもが少しずつ集まり始め、音楽の国に不可欠な楽器を買い揃えることができた。

 

最初は耳を塞ぎたくなるような不協和音でしかなかった音も、ゴードンの熱心な指導のもと、今では国民たちもある程度マトモな音色を奏でられるようになっている。

 

そして、今──7ヶ月目。かつての栄光にはまだ程遠いだろうが、エレジアは1つの国として立派に成り立っている。

 

商人どもが行き交い、街に活気が出てきたことで、最近では観光客も少しずつ訪れるようになった。実に喜ばしいことだ。

 

「──こいつらみたいな『害虫』も湧くのが難点だがな」

 

僕は、足元に転がっている男の死体を乱暴に蹴り飛ばした。復興の匂いを嗅ぎつけてやってきた奴隷商人と、それに雇われたゴロツキの用心棒だ。

 

立ち上がったばかりのまだ脆い国など、こいつらハイエナにとっては格好の狩り場でしかねぇ。

 

今のエレジアは世界政府非加盟国。つまり、国民を攫って売り飛ばそうが街を焼こうが、海軍が動くことはない。無法者たちにとっては文字通りの無法地帯(パラダイス)だ。

 

「対策は考えてんだが......めんどくせぇ」

 

僕の頭に浮かんでいる確実な方法は1つ。エレジアを大海賊の庇護下に置くこと。

 

四皇の『赤髪』、もしくは『白ひげ』あたりのナワバリにしてしまうのが手っ取り早い。四皇のナワバリで好き勝手暴れるような命知らずのバカはいねぇからな。

 

「『赤髪のシャンクス』の娘が贔屓にしてる国。赤髪の庇護地とするには悪くねぇ理由なんだが......」

 

どうにも辻褄が合わない。

 

世間的には赤髪が滅ぼしたとされている国を、その赤髪自身が庇護するなんて意味がわからねぇ。そんな与太話、誰も信じねぇだろうな。

 

というわけで、消去法で白ひげになる。僕は直接会ったことも話したこともねぇが、まあ問題ねぇだろ。

 

白ひげはロックス海賊団時代に、クソ親父の秘蔵の酒を何回も勝手に盗んでおいて、その借りをまだ返してねぇらしいからな。

 

生前、クソ親父が酒を飲むたびによくボヤいていた。

 

(僕自身の名前だとまだ威厳が足りねぇ上に、むしろ逆効果だ。それに、新世界で今から目立ちたくねぇ)

 

キャプテン・ジョンの息子である僕の名前を出せば、クソ親父の遺産を狙うハイエナどもが世界中から押し寄せて、エレジアが再び火の海になる。

 

なにより、僕はここから出て、まずは『偉大なる航路』の前半から自分の名を上げていく予定なんだ。今ここで新世界の怪物たちに目をつけられるのは都合が悪い。

 

「──仕方ねぇ。四皇のナワバリだなんて勝手にほざくのは筋が通らねぇが、昔の酒泥棒の対価+その利子ってことにしておくか」

 

少なくとも、親父から聞いていた白ひげの性分からすれば、罪のない世界政府非加盟国であるエレジアを一方的に攻め滅ぼすような真似はしないはずだ。事情を話せば黙認くらいしてくれんだろ。

 


 

8ヶ月目。先月、僕はエレジアを(勝手に)白ひげ海賊団のナワバリであると内外に宣言し、港の1番目立つ場所に白ひげの海賊旗を掲げた。

 

効果は劇的だった。あれだけしつこく湧いていた奴隷商人やゴロツキたちは、旗を見るなり蜘蛛の子を散らすように物の見事に姿を消した。

 

『世界最強の男』の威光は、海賊避けとしてこれ以上ない特効薬だ。

 

さらに、新聞を配るニュース・クーによって【亡国エレジア、奇跡の復興!立役者は美しき小さな歌姫!】なんて見出しの記事が世界中にばら撒かれたおかげで、エレジアを訪れる観光客や商人は爆発的に増え、国の経済も完全に軌道に乗った。

 

「順調だね、リオ」

 

「当然だ。この僕がいるんだからな。価値のない瓦礫の国に、1から価値を生み出した。あの奪うことしか知らねぇクソ親父には、天地がひっくり返っても無理な芸当だろうよ」

 

金庫扱いしていた息子に、テメェが生涯かけても成し遂げられねぇであろう『国造り』をいとも容易く達成されるなんて、実に惨めじゃねぇか。地獄の底で指をくわえて僕たちの繁栄を見ていやがれ。

 

「ゴードンも毎日イキイキしてるし、私もエレジアが昔みたいに賑やかになると......すごく嬉しい」

 

「そうか。なら、後悔が残らねぇように今のうちに精一杯楽しめ」

 

──ウタ、僕がエレジアから出航する時、お前は本当についてきてくれるか?

 

これだけ復興したエレジアに強い愛着があると、いざという時に断られる気がしてならねぇんだが。

 

勘弁してくれよ、僕はお前に数1000億ベリー以上の価値があると思ったからこそ、この国の復興なんて面倒くさい大事業をわざわざやったんだぜ?

 

(......ま、最終的にはお前の意思だ。無理強いはしねぇけどな)

 

「うん!」

 

僕の複雑な胸中も知らず、ウタが満面の笑みで頷いた、まさにその時だった。

 

『──大変だ!大変です!!ゴードン国王!リオ様!!』

 

あ?王城の前で騒々しい、うるせぇな。僕はここ最近、ようやく肩の荷が下りて落ち着いて休めるようになったばかりなんだぞ。少しは恩人を静かに過ごさせようって気遣いはねぇのか。

 

「何があったんだろ?」

 

「......めんどくせぇ」

 

ウタが『早く行かないの?』とでも言いたげな視線を僕に向けてきやがる。だーっ、本当にめんどくせぇ。あと4ヶ月もすれば僕はこの島からいなくなるんだぞ。これくらいのトラブル、お前ら国民とゴードンだけで解決しろや。

 

そんな悪態を内心で吐きつつも、今のこの国において僕が実質的な最高権力者であるのは事実だ。本当に仕方なしに、重い腰を上げて王城前まで足を進める。

 

ウタが『早く早く!』と僕の袖を引いて急かしてくる。

 

「騒々しい、一体何があったんだ。僕の貴重な休息時間を潰すほど重要な用事なんだろうな?」

 

僕が到着する少し前に、ゴードンが先んじて報告を聞いていたらしい。息を切らして汗だくで取り乱す男とは対照的に、ゴードンは極めて冷静に、しかし鉛のように重々しく口を開いた。

 

なんだ、おい。その異様な落ち着き払った態度、嫌な予感がする。

 

「──白ひげ海賊団の本船が、エレジアに向かってきている。いや、もう既に港に船を着けたそうだ」

 

「......なるほど」

 

バカか?暇なのかよ、四皇ともあろう大海賊が。僕が勝手に名前と旗を使ってから、まだたったの1ヶ月しか経ってねぇぞ。いや、わかる。理由は痛いほどわかるぞ。

 

許可なく勝手に旗を使われるのは、誇り高き海賊にとって侮辱でしかねぇ。自分のメンツに泥を塗られる前に、不届き者の始末をつける──迅速に動くのは大海賊として当然の理屈だ。

 

「ど、どうするの、リオ?」

 

隣でウタの声が微かに震えている。

 

「どうするもこうするも、首謀者である僕が直接会うしかねぇだろ。ウタ、お前はついてこい。ゴードンは国民どもを連れて、裏の港からいつでも逃げられるように船の準備をしておけ」

 

向こうがどういう出方で来るか。まずは話し合いに来たのか、それとも問答無用で国ごと潰しに来たのか。

 

それによってエレジアの運命は大きく変わる。

 

「──断る」

 

「あ?」

 

こんな1分1秒を争う緊急時に何言ってんだ、このジジイ。これは決定事項だ。お前の意見は求めてないし、聞く気もねぇ。

 

「エレジアがこうして再び息を吹き返すことができたのは──紛れもなく君がいたからだ、リオ。そんな君が1人で白ひげに立ち向かうというのなら、私も国王として最後までこの国に残る」

 

「わっかんねぇ頑固ジジイだな。白ひげの名を勝手に使ったのは僕の独断で、それを実行したのも僕だ。老い先短いんだから無駄に死に急ぐな」

 

「それを言うなら、国王として君を咎めずに容認したのはこの私だ。一蓮托生だよ。君がなんと言おうと、私はここから1歩も動かんぞ」

 

「──耄碌してんのか、おい。なら言い方を変えてやる。これはこの国を作った僕の、レイヴン・リオ様の絶対命令だ」

 

ウタがゴードンと僕を心配そうに交互に見つめている。悪いけどウタ、お前は絶対についてこい。

 

もしかすると赤髪が白ひげにウタのことを話している可能性もなくはないし、万が一戦闘になった時、この島でお前ほど頼りになる戦力はいない。

 

僕とゴードンが譲らずに睨み合う最中、白ひげ襲来を伝えに来た男が、恐怖を振り払うようにいきなり叫んだ。

 

「......そうだ、そうですよ!僕は!この国の国民たちは!リオ様がいなければ、今頃まだ鎖に繋がれて一生奴隷のままだった連中です!そんな大恩人を置いて自分たちだけ逃げるなんて──絶対に出来ません!」

 

「はぁ?」

 

男は涙目で、しかし腹の底から絞り出すような力強い声で続けた。おいやめろよ、僕はそんな立派なつもりでお前らを助けたわけじゃねぇんだ。

 

「戦ってやります!相手が四皇だろうが関係ない!もう2度と、理不尽に全てを奪われるのは嫌だ!この国は、リオ様が僕たちに与えてくれた夢の国なんです!」

 

『そうだ!俺たちも戦うぞ!!』

『リオ様とエレジアを俺たちの手で守るんだ!!』

 

騒ぎを聞きつけていつの間にか集まっていた国民たちからも、地鳴りのような賛同の怒号が上がる。おいおいお前ら、相手は世界の頂点に立つ四皇だぞ、舐めすぎだ。

 

「──っは。てめぇら、どうなっても僕は知らねぇぞ。言ったかんな?僕は確かに逃げる準備をしろって命令したからな?説得する時間がもったいねぇ、勝手に好きにすればいい」

 

死ぬ気で腹を括った連中をいつまでも説得すんのは時間の無駄だ。それに、白ひげが問答無用でこの国を潰しに来たとは限らねぇ。

 

(......まったく、計算外だ。僕はお前らを、僕自身の目的のために利用しようと思って助けただけだっつーのに。ここまでバカみたいに慕われてるなんてな)

 

不思議と、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、僕は乱暴に踵を返した。

 

向かうは港。世界最強の男が待つ──死地へと足を進める。

 


 

「親父、本当に俺たちの海賊旗が堂々と掲げられてるよい」

 

「グラララ、どこの命知らずのハナッタレが勝手に俺の名前を使ってやがんだ」

 

亡国エレジアの急速な復興。そんな莫大な金と手腕が要る離れ業を、あの赤髪のところにいた小さな小娘1人にできるとは到底思えねぇ。

 

この国の復興も、俺の名前を無断借用したのも、どこぞの狡猾な知恵者が裏で糸を引いてるとしか思えねぇな。

 

「しかし妙だよい。復興して賑わっている国にしては、街に人の気配をまるで感じないよい。港から街に入るまで、誰1人として住民に会わないのもおかしいよい。親父、やっぱりジョズたちも連れてきた方がよかったんじゃないかよい?」

 

「バカ言え。俺たちが全員でゾロゾロ上陸したら、脅しにしかならねぇ。話し合いも何も出来やしねぇだろ。俺はただ、俺の旗を勝手に使って粋がってるハナッタレが、どんな面構えをしてるか直接見に来ただけだ」

 

──もっとも、住民を食い物にするような性根の腐った悪党だったら、その場で国ごとぶちのめして海に沈めるがな。

 

「前から2人歩いて来たよい。あれは──子ども?」

 

「油断するなよ、マルコ。あのハナッタレども、ただのガキじゃねぇぞ」

 

もちろん2人とも俺の相手にはならねぇが、足取りに一切の迷いがねぇ。そこら辺の名の売れた海賊より、よほど肝が据わってやがる。

 

「ようこそ、音楽の国エレジアに。『四皇』白ひげともあろうお方が、今日はどのようなご用件で?」

 

紫髪の小僧の方が、俺の威圧感に臆することもなく堂々とした態度で声を掛けてきやがった。

 

「この国の国王と話をしに来た。そこまで案内してくれるかよい?」

 

「僕が代わりに話を聞きますよ。僕にはこの国において、国王と同等の裁量権があります。それで問題ありませんよね?」

 

「──マジか」

 

このガキの不気味なほどの落ち着きよう、まさかエレジア復興の絵図を描いたのはこのハナッタレか?こんなまだ10にも満たねぇような子どもが?

 

俺の驚いた反応を見て、小僧はチッと小さく舌打ちをした。

 

「その反応、もう気づいたのかよ。ああ、そうだ。テメェらの想像通り、エレジア復興を目論んだのも、テメェらの海賊旗を勝手に掲げたのも、全てこの僕の判断だ。文句あるか?」

 

さっきまでの猫を被ったような丁寧な口調からガラリと変わったな。なるほど、こっちの傲岸不遜な態度が本性か。

 

「──親父に向かってなんて口きくんだよい。いくら子どもだからって、言っていいことと許されないことがあるよい」

 

「1番隊隊長だかなんだか知らねぇが、雑魚は黙ってろ。僕はテメェの船長、エドワード・ニューゲートと対等に話をしてんだ」

 

マルコ、お前は少し甘すぎる。見た目が小さな子どもだとしても、中身まで弱いとは限らねぇ。

 

「グラララ!嫌いじゃねぇぞ、その命知らずな無鉄砲さ。なら小僧、俺がわざわざ何のためにこの国に来たのか、当然分かってんだろうな」

 

「あんたの名前を勝手に使ったバカを潰しに来た、と思ってたがどうやら違うらしい。大艦隊を率いず、たった2人だけで上陸したってことは、話し合いの余地があるってことか......?」

 

頭の回転も速ぇ。正解だが、少しばかりその肝っ玉の底を試してやるか。

 

「話し合い?甘ぇなハナッタレ。こんな小さな国1つ、滅ぼそうと思えば俺1人で充分だ」

 

俺は明確な威圧を込めた『覇王色の覇気』を、目の前の小僧と小娘へ真正面から叩きつけた。

 

大気がビリビリと軋み、地面が揺れる。小娘は一瞬息を呑んで少し膝を震わせたが、隣の小僧がすぐさまその華奢な肩を支えた。

 

結果、2人とも倒れることなく踏みとどまり、あろうことか小僧は俺を真っ向から睨み返してきた。

 

「......嘘だろ、親父の本気の覇王色を耐えたよい!?」

 

マルコが信じられねぇって声を出してやがる。無理もねぇ、今の圧力はうちの船でも隊長クラス以外の並の船員なら一瞬で泡を吹いてぶっ倒れるレベルだぞ。

 

「──クソが。全員で乗り込んでくればまとめて沼に沈めてやるだけで楽だったのに、2人だけで余裕ぶっこきやがって。ウタ、そっちのパイナップル頭の雑魚は任せていいか?」

 

「マルコは雑魚じゃないよ......。シャンクスも、白ひげ海賊団のマルコはすごく優秀だって言ってたもん」

 

おいおい、本当にやる気か?小僧はともかく、赤髪が可愛がっていたこの小娘をうっかり傷つけて、赤髪と全面戦争にでもなったらめんどくさいことこの上ない。さっきの覇気はただの悪ふざけ(テスト)だったって説明す──

「──ぶっ飛べジジイ!!」

 

俺が口を開く間もなく、小僧が弾丸のような速度で俺の懐へと突っ込んできやがった。咄嗟に俺を守ろうと前に動き出したマルコに対して、小娘が鋭く割り込む。

 

「リオの邪魔はさせない!」

「おっと!危ねぇよい!」

 

小娘の小さな拳がマルコの顔面を捉え──いや、マルコが紙一重で受け流したか。だが、その一瞬の足止めで完全に小僧と俺が1対1の形になる。

 

「──ハナッタレ小僧が、100年早ぇ」

 

愛用の叢雲切を振るうまでもない。目の前まで迫っていた小僧の顔面へ、軽い躾の要領で素手の拳を振るった。

 

ドチャッ、と肉を潰すような嫌な音がして小僧の頭部が弾け飛ぶ──が、実際に飛び散ったのは赤い血ではなく、ドロリとした黒い泥だった。

 

「『偽りの泥人形(ライアーズ・パペット)』だ。この僕を舐めるなよ!」

 

ロギア系の能力者か!今俺が殴り飛ばしたのは、小僧が精巧に作った身代わりの泥人形。

 

小僧の本体は既に、俺の死角である背後へと音もなく回り込んでいた。この体勢、この至近距離から避けることはできねぇ。

 

──もっとも、相手が並の海賊ならば、な!

 

「生意気だ、ハナッタレ!!」

 

振り返りざま、見聞色で正確に捉えた小僧の横っ面に、覇気を纏った裏拳を容赦なく叩き込んだ。ガキのくせにあまりにいい動きをしやがるもんだから、つい大人げなく力が入っちまった。

 

ドゴォォォン!!

 

轟音と共に小僧の小さな身体が砲弾のように吹き飛び、通り沿いの民家を数軒突き破って、奥の瓦礫の山に深く埋もれた。確かな手応えはあった。

 

だが、殴られるほんの一瞬の隙に、あいつは1丁前に『武装色の覇気』を練り上げて防御しやがった。なんつう末恐ろしい戦闘センスだ。

 

「リオ!リオ!!やだ、死なないで!」

 

マルコと対峙していた小娘が、戦いを放り出して血相を変えて瓦礫の山へと駆け寄る。

 

そして、ポロポロと大粒の涙をこぼしながら、まるで親の仇のように俺を睨みつけてきやがった。おいおい、これじゃあまるで、俺たちの方が弱い者いじめをしてる悪役みたいじゃねぇか。

 

流石に少しばかり手加減を間違えたか?気絶しちまったか?

 

「ここまで派手に殴っておいてなんだが、小娘、俺たちに本気の戦闘意思はない」

「──許さない!絶対に許さないんだから!」

 

『こっちだ!こっちから凄い音がしたぞ!ウタちゃんが泣いてる!』

『おい!リオ様がやられたぞ!!港に向かった奴らも全員呼んでこい!』

『命に代えてもリオ様を守れぇぇぇ!!』

 

路地の奥や建物の影から、鍬や剣や銃を手にした国民どもがワラワラと何100人も集まってきやがった。

 

おいおい、逃げたんじゃなかったのかよ。どんどん状況がめんどくさくなるじゃねぇか。

 

俺がどうやってこの場を収めるか頭を悩ませていると、小娘がビシッと俺を指差して声を張り上げた。

 

「私の初めての友達を、大切な人を傷つけるなんて絶対に許さない!」

 

おいおい、小娘の目まで本気になってきやがった。本当に収拾がつかなくなってきたぞ。

 

「......やめろ。向こうには最初から戦闘意思がねぇって言ってんだろ、ウタ。テメェらも武器を下ろせ」

 

ガラガラと瓦礫を押し退け、小僧がフラフラになりながらも自分の足で立ち上がりやがった。

 

口の端から血を流してはいるが、目は死んでいねぇ。本当に末恐ろしいガキだな、俺の拳をまともに喰らって気絶すらしてねぇのか。

 

「ああ、その小僧の言う通りだ。みんな武器を収めてくれ、俺はただ話し合いに来ただけだ」

 

ボロボロになりながらも威厳を失わない小僧の言葉に従って、殺気立っていた国民たちは渋々といった様子で武器を下ろした。小僧は心配する小娘に肩を支えられながら、再び俺の目の前まで歩いてきた。

 

「──僕はキャプテン・ジョンの息子、レイヴン・リオだ。あんたが昔、ロックスの船でクソ親父の秘蔵の酒を何度も盗み飲みした対価に、あんたの名前と旗をこの国に使わせてほしい。僕自身の名前が世界に轟くまでの間だけでいいから......頼む」

 

「....ジョンの息子か。言われてみれば、その不敵な面構えがどことなく似てるな」

 

しかし、あの強欲で仲間すら信じなかったジョンのやつの息子が、国民にこれほどまでに慕われ、自分の身を挺して仲間を大切にしているとはな。

 

そんな健気な姿を見せられたら、ダメだなんて言えるわけがねぇ。私腹を肥やすような悪いことをしてるわけでもなさそうだ。

 

それに、プライドが高そうなのにお礼や頼み事の時にはこうして真剣に頭を下げる素直さも持ち合わせている。

 

「まさか、あんな奴と一緒にすんな。僕はクソ親父以上の大物になる男さ」

 

圧倒的な格上を前にしても折れない無鉄砲さ、傲慢ともいえるほどの揺るぎない自信。

 

そして、その根拠となっているであろう年齢離れした実力と知略。何より、世界最強と呼ばれる俺を相手にしても決して媚びへつらわないその孤高の姿勢──気に入った。心底気に入ったぜ。

 

「──レイヴン・リオ、お前、俺の船に乗らねぇか?」

 

周りの国民たちやマルコが驚愕に目を見開いてざわつく中、小僧は俺の目を真っ直ぐに見返している。

 

さあハナッタレ、お前の答えを聞かせろ。

 

 

 

 

 




大海賊の旗を勝手に使うなんて、自殺行為だ

迫り来る四皇は?

  • お見合い催促ビッグマム海賊団幹部
  • 寂しがり屋カイドウ
  • 自称親父白ひげ
  • 娘を救いに来た赤髪海賊団
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