僕がキャプテン・ジョンの宝だ   作:Mr.♟️

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エレジア復興3

 

エレジアはかつてない熱狂とお祭り騒ぎに包まれていた。『白ひげ海賊団のナワバリになった』。その事実は、どんな軍事力よりも強力な盾となり、これからのエレジアの安全は約束されたも同然だからだ

 

城のバルコニーで喧騒を肴に、僕と世界最強の男は酒を酌み交わしてい

 

「グララララ、上等な酒を持ってやがるじゃねぇか」

 

「クソ親父は酒が好きだったから、僕の泥の中に入ってんだよ。少しは遠慮して飲みやがれ」

 

僕は白ひげの誘いを断った。まあ、色々理由はあるが、四皇だろうと誰だろうと、僕自身が誰かの下につくのが嫌だから。1番の理由はそれだ

 

「ケチケチすんじゃねぇ。オメェも大海賊を目指してんなら、ドンッと構えろ。ドンッとな」

 

「よく言うぜ。あんた自身はロックス海賊団時代、ロックスのツケで飲みまくってた常習犯の癖によ」

 

このジジイ、僕がもう少し成長してから何かの記念に飲もうと取っておいた秘蔵の酒を水みたいにグビグビ飲みやがって。二度と手に入らねぇヴィンテージなんだぞ。クソッ、そこらの安酒を出しておけばよかった

 

「──ロックスか。懐かしい名前だ」

 

「クソ親父が酔っ払ったらよく話してた、ロックス海賊団にいた頃の話を。まあ、歴史からは葬られたみてぇだがな」

 

現四皇の3人が所属していたというのに、ロックス海賊団の話は全く聞かない。記録にも残されていない。歴史から葬られたと思うのが妥当だ

 

「余計俺の船に乗せたくなってきた。本当に乗る気はねぇのか?リンリンのことなら俺がなんとかしてやる。ジョンの野郎が勝手に約束したことなんざ、当人であるオメェが嫌だといえばいいだけだ」

 

「誰かの下で守ってもらいながら過ごすなんざ反吐が出る。僕の上に立てる人間はこの世にもあの世にもいねぇ」

 

僕が新世界から偉大なる航路で名を上げたい理由。それがビッグマムだ。生前クソ親父はビッグマムの子どもと僕の婚姻の約束を勝手にとりつけやがった

 

クソ親父の財産を持つ僕を見つけたら、僕が生きていることを知れば、ビッグマムに狙われることになる。ビッグマムの行動範囲は新世界。偉大なる航路ならビッグマムが直接僕を襲うことはない。だからこそ、もう少し成長して確かな実力をつけてから新世界に戻ってきたい

 

「グラララ、なら無理は言わねぇ。それで、赤髪のところの小娘がこの国にいるのはどうしてだ?見たところ赤髪はいねぇみたいだが」

 

「ん? ああ、なんでも、赤髪海賊団がエレジアを滅ぼすと同時に捨てられたんだと。そのトラウマで海賊嫌いになったらしい。だから今も、この下の祭り騒ぎにも顔を出してねぇ」

 

僕は眼下のお祭り騒ぎを見下ろした

 

「ま、もう少ししたら楽しそうな雰囲気につられて現れんだろ。根は賑やかなのが好きなガキだからな」

 

「....赤髪のハナッタレが、理由もなくガキを捨てるとは到底思えねぇな。なんか事情があったんじゃねぇのか?」

 

「知らねぇよ。僕には関係ないし、本人が話したがらないんだから無理に聞くつもりもねぇ」

 

本人が話したいなら聞くが、そうでもないのに古傷をえぐる趣味はない。それに、結局大事なのは過去じゃない

 

「赤髪がウタを置いていった。それが事実で、結果だ。まあ、そのお陰で僕の船にウタを乗せるチャンスが巡ってきたんだ。そこだけは感謝しねぇとな」

 

白ひげがウタを気に入って自分の船に誘わないように、一応牽制しておく。僕の船に乗ってくれるかも分からねぇけど

 

「そうか。仲間は大切にしろよ、ハナッタレ小僧」

 

「....あ?」

 

なんだよその生暖かい、孫を見るような目は。ぶっ飛ばされてぇのか?

 

居心地が悪いから話を変えるか。いや、そもそもここからが本題だ

 

「エドワード・ニューゲート。僕は何も、ただ無償であんたの旗を借りたいわけじゃない。あんたの身体の古傷を治して、体調を万全にしてやる」

 

このジイサンは無償で貸し出す気満々みてぇだか、タダほど高いものはねぇ

 

「....あ?」

 

白ひげの眉が動いた。クソ親父が言っていた。いつまでも若々しさを保ち、常に全盛期であったクソ親父とは対照的に、白ひげは年齢と共に衰えてきていると。病に犯されているだろうと

 

まあ、全盛期のくせに仲間から後ろで刺されて死ぬなんてみっともない死に方だったがな

 

「タチの悪い冗談なんかじゃねぇぞ」

 

僕はそれを解消するのと、昔クソ親父の酒を盗んだことををチャラにすることで、対等な取引として旗を借りるつもりだった

 

「オメェの能力はヌマヌマの実だろ? 自然系にそんな治癒能力はねぇはずだ」

 

「まあ、話を聞いてみろって──僕は赤ん坊の頃から、常に食事の中に『チユチユの実』の能力者が流した涙を混ぜられ、摂取させられていた」

 

僕の母親は『チユチユの実』の前任者で、大層な泣き虫だったらしい。クソ親父はその涙を、なにかに使えないかと一滴残らず保管していたらしい

 

──結果、その使い道が僕だ

 

赤ん坊の頃から僕に涙を日常的に摂取させることで、僕の体──すなわち『ヌマヌマの実』の保管能力を底上げしようとしたのだ

 

 

僕は生まれた時から、クソ親父の実験台であり、同時に金庫だった

 

「クソ親父は僕という金庫の性能を上げたかっただけだろうが、得られた効果は僕の『沼』の変質。取り込んだ『癒やしの涙』の成分が沼に溶け込み、馴染んじまったんだよ」

 

結局、その涙が沼の容量を広げることはなかったが、クソ親父も予想していなかった効果が現れた。僕は攻撃用の沼、保管用の沼、癒しの沼の効果を行使できる

 

「僕の沼は浸かった生物を癒すことができる『薬湯』にもなる。クソ親父が歳をとっても若さを保っていたのは、僕の沼に入っていたお陰だ」

 

肉体的な古傷から内臓の病まで。僕の沼が悪い部分を飲み込みそして活性化させる。

 

僕は右手を白濁とした沼に変え、白ひげに向けてニヤリと笑った

 

 

「名付けて──『秘蔵・黄金の泥湯(トレジャー・マッド・スパ)』」

 

「この取引を飲むなら、風呂場に用意してやるよ」

 


 

白ひげ海賊団はエレジアが気に入ったのか、4ヶ月もの間滞在した。僕は毎日毎日白ひげとその船員たちから熱心な勧誘を受けていたので、ようやくいなくなってくれて安心した

 

クソが、こんなことなら白ひげの体調を万全にするんじゃなかった。僕の泥湯で癒やされたエドワード・ニューゲートの実力は初対面の時とは桁が違っていた

 

あれが『世界最強の男』。その肩書きは伊達じゃなかった。全盛期の片鱗を目の当たりにしたら、伝説が誇張でないことが嫌というほど理解できる

 

「将来は、あんな化け物級に強い連中を相手にしなきゃならねぇのか。世知辛ぇな」

 

そんな物思いに耽っていると、背後のドアが乱暴に開いた。お前、毎回毎回僕の部屋にノックもなく入ってくるんじゃねぇよ

 

「リオ? 何してるの?」

 

「...これからの事を考えてたんだよ」

 

僕がエレジアに滞在すると決めた期間は、残り一ヶ月を切っている。正直、エレジアの復興は既に軌道に乗っている。白ひげの旗という最強の盾もあり、観光客も増えた。もう僕の仕事は終わったと言っていい

 

「これからのこと?」

 

「ああ。エレジアを出航した後は、偉大なる航路前半に向かうからな。そのための航路を考えてた」

 

偉大なる航路で実力をつけ、来るべき時が来たら新世界に戻ってくる。幸い魚人島のエターナルポースはあるから何とかなるだろ

僕が海図に視線を落とすと、ウタがボソリと呟いた

 

「......エレジアに残ってればいいじゃん」

 

「あ?」

 

「この国はもう平和だよ。リオが作った国だよ?ゴードンもいるし、私もいる。一生、何不自由なく暮らせる」

 

「残らねぇよ。僕は海賊になる」

 

それ以外に選択肢はねぇ。クソ親父の遺産を抱えて隠居すれば、確かに平和に生きて死ねるかもしれない。だが、なぜこの僕がそんな退屈な生き方を選ばなきゃならないんだ

 

「海賊になんてなってもいいことないよ!海軍に追われるし、他の海賊たちにも狙われるし!危ないことだらけだよ!」

 

「うっせぇな。僕がなると決めたからなるんだ。海軍?他の海賊?上等だ、格の違いを思い知らせてやる」

 

そんなリスクは百も承知だ。それをねじ伏せてこその支配者だろうが

 

「──ねぇ、リオ。お願い、海賊になるのやめなよ....!」

 

ウタが僕の腕を掴んだ。手は震えていて、真剣な表情でそんなことをほざいてきた

 

ハッ、ふざけてんのか?──いや、違うな。こいつは、目の前から親しい人間がいなくなるのが怖いんだ。赤髪のシャンクスのように、僕がいなくなるのが

 

「──ウタ。勘違いすんな」

 

僕は掴まれた腕を振りほどくのではなく、逆にウタの手を強く握り返した

 

「僕がエレジアを立て直したのは、ウタ、お前のためだ」

 

ウタが目を見開く

 

「僕がこの国に惜しみなく金と時間を注ぎ込んだのは『ウタが僕の船に乗ってくれれば、それ以上の価値がある』と踏んだからだ。6000億ベリーなんざ安いと思えるほどのな」

 

あと一ヶ月待つ必要なんてない。約束していた国の復興は成った。白ひげも帰った。機は熟している

 

 

今ここで、ハッキリとさせようじゃねぇか

 

 

僕はウタの目を真っ直ぐに見据え、最後の問いを口にした

 

「答えてくれ、ウタ。お前は僕と一緒に来て、世界一の歌姫(海賊)になるか。それとも....この平和な音楽の楽園(平和な鳥籠)に残るのか──どっちなんだ」

 

 

 

 

張り詰めた沈黙が部屋を支配する。ウタの瞳が揺れている

 

やがて、ウタは震える唇を開いた

 

「──ごめん」

 

その一言は、蚊の鳴くような声だったが、僕の鼓膜には鉛のように重く響いた

 

「....そうか」

 

予想していなかったといえば嘘になる

 

滅んだはずの国が復興し、手に入れることのできた安住の地エレジア──ゴードンと、今や1000人を超える国民がいるこのエレジアからでるのは、彼女には酷な選択だったのかもしれない

 

でも、断られると、なんというか───ああ、思った以上に、堪えるな

 

僕は最後の悪足掻きと知りながら、みっともなく説得なんてものを試みる。ハッ、我ながらダッセェな

 

「もし、もしもだぞ。もしも僕が、ウタの代わりに『赤髪海賊団』をぶっ潰してやるって言っても、その答えは変わらないか?」

 

ウタの瞳が大きく見開かれる。シャンクスへの愛憎。それを僕が晴らしてやると言ったんだ

 

だが、ウタは苦しげに顔を歪め、首を横に振った

 

「....ごめん、ね」

 

その拒絶に迷いはなかった

 

(──そうかよ。お前は、この国で歌うことを選ぶんだな)

 

「いや、いいんだ。答えを聞かせてくれて助かった──ありがとうな、ウタ」

 

僕は無理やり口角を上げ、申し訳なさそうに俯くウタの頭を、いつもより乱暴に、でも丁寧にわしゃわしゃと撫でた

 

こんなふうに頭を撫でてやるのも、これが最後になるかもな

 

「リオ....」

 

「気にするな。僕は僕の道を行く。お前はお前の道を行く。それだけだ。お前の人生を、僕が決める権利はない」

 

僕が次にエレジアに帰ってくるのはいつになるだろうか。一年後か、十年後か、はたまた更に先か

 

なにはともあれ──この国にこれ以上残る理由は、もうなくなった。キッパリと断られたからな

 

「悪いけど、今日一日1人になりたい。部屋から出て行ってくれるか?これからの航海計画を練り直さなきゃなんねぇからな」

 

「うん....」

 

ウタは何度も振り返りながら、惜しむように、そしてどこか逃げるように部屋を出て行った

 

パタン、とドアが閉まる音が、僕とエレジアの縁を切る音のように聞こえた

 

「──はぁー」

 

深い溜息が漏れる。この部屋で過ごした八ヶ月、悪くなかった。ウタの綺麗な透き通る歌声も、生意気な態度も

 

あんな泣きそうな顔を見せられたら、真正面から『今すぐ出航する』なんて言えねぇよな

 

また泣かれて引き止められたら、今度は僕に迷いが生まれちまう

 

「...大人しく、静かに出ていくか」

 

僕は机に向かいペンを走らせた。ゴードンへの別れの手紙と、ウタへの──まあ、簡単な書き置きだ

 

手紙を書き終え、それを机の一番目立つ場所に置く。僕は窓辺に歩み寄り、港に設置させた電伝虫を鳴らす

 

『はい、こちら第一ドッグ』

 

「僕だ。一隻、30分以内に出航の準備を整えろ」

 

『リオ様?お急ぎの用事ですか?必要でしたら、船乗りたちに声をかけておきますか?』

 

「いらねぇ。一番速い船を用意しろ──あまり騒いで作業するなよ。なるべく少人数で気づかれないようにしろ」

 

受話器を置き、僕は振り返ることなく部屋を後にした

 


 

私は今、初めてリオと出会った海辺に来ている

 

あの時は瓦礫の山と砂浜しかなかった場所なのに、今では立派なドックが建ち、何十隻も船がある。全部、リオが魔法みたいに変えてしまった景色だ

 

(.....リオ、怒っちゃったかな)

 

さっきのリオの顔が頭から離れない。傷ついたような、それでいてどこか諦めたような、寂しげな笑顔

 

リオがエレジアを立て直してくれたのは、私を船に誘いたいからだって最初から言ってた。『お前には6000億ベリー以上の価値がある』って

 

実際、リオは有言実行で国を復興させた。約束を守った。それなのに、私はその誘いを....断ってしまった

 

(リオと同じ船に乗るのは、嫌じゃない。ううん、一緒に航海できたら絶対に楽しい)

 

海賊が悪者ばかりじゃないのは知ってる。白ひげ海賊団の人たちは豪快で優しかったし、リオだって....口は悪いし生意気だけど、一度懐に入れた仲間は見捨てないって言ってくれた

 

でも、それでも、怖かった

 

『海賊』という言葉を聞くだけで、あの日の記憶が蘇る。燃えるエレジア。遠ざかるレッド・フォース号

 

リオもいつか、シャンクスみたいに私がいらなくなったら、理由をつけて私を置いていくんじゃないかって

 

そうなったら....二度も捨てられたら、私はもう立ち直れない。それが怖くて、今日は誘いを断ってしまった

 

(──リオが出航するまで、あと1ヶ月ある)

 

リオは『航海計画を練り直す』って言ってた。だから、まだ時間はあるはず

 

私ももっと、今まで以上に真剣に考えないとダメだ。リオについていくのか、それともエレジアに残るのか

 

エレジアには、私が置いてかれてから親身に世話をしてくれたゴードンがいる。ゴードンは私を大切にしてくれる

 

でも....リオは、私が落ち込んでいる時に颯爽と現れて、落ち込む暇がないくらい毎日喧嘩して、笑い合いながら一緒に過ごした

 

 

 

 

 

リオがいないこれからのエレジアを想像すると、急に世界が色褪せて見える

 

「──価値、か」

 

リオは言った。『投資した以上の価値がお前にはある』って。シャンクスは私を価値がないから置いていったのだろうか。嫌いになったから置いていったのだろうか。それは今も分からない

 

でも、一つだけ確かなのは、リオは私を『必要だ』と言って誘ってくれている

 

(私は、対等なパートナーとして、リオの隣にいたい)

 

海賊になるのは怖い。でも、リオがいなくなることの方が、もっと怖い。リオなら、もし大喧嘩しても何か問題が発生しても、ちゃんと話せば『めんどくせぇ』って言いながら笑ってくれる気がする

 

 

海はどこまでも広く、太陽の陽を反射させキラキラと輝いている

 

 

 

「──決めた。私は、リオについていく」

 

迷いは吹っ切れた。今すぐリオのところへ行こう。そして、『1ヶ月後に一緒に連れて行って』って言うんだ

 

きっとリオは『遅ぇよ、バーカ』って呆れるだろうけど、それでもいい。あと1ヶ月、しっかりと準備をして、リオと一緒にこの島を出る

 

私はリオと一緒に、海賊をやるんだ

 

 

そう決意して、私は足取り軽く王城への道を戻ろうとした──が、声をかけられた

 

「あれ、ウタさん?ここにいるの珍しいですね。あ、もしかしてリオ様が船を急ぎ用意してるのと関係あるんですか?」

 

 

 

 

「──え?」

 

何の話か分からない

 


 

私は今、リオが用意させた船の──甲板に置かれた酒樽の中に忍び込んでいる。本来なら、リオが今日船を出すような予定は入っていなかったはずだ。それなのに、急に一番速い船を用意させるなんておかしい

 

もしかして、リオは私たちに何も言わずにエレジアを去ろうとしているのかもしれない

 

(そんなわけない。リオがそんな不義理をするはずがない......ないよね?)

 

樽の中から外の様子が伺えるように、小さな覗き穴を空けておいてよかった。狭くて暗い樽の中、木の匂いと潮の香りに混じって、リオの足音が近づいてくるのが分かる

 

私は息を潜め、穴から外を覗いた

 

「.....気が滅入るな」

 

リオは、いつもの自信満々な様子とは程遠い、沈んだ顔で海を見つめていた

 

「──エレジアからは離れたし、もう音も届かねぇだろ」

 

視界は限られていて何をしているかまでは完全に見えないけど、自分の身体(ヌマ)の中から何かを取り出したみたいだ。白い、貝殻のようなもの

 

「しばらくすれば....一人の時間にも慣れるはずだ」

 

そう自分に言い聞かせるように呟き、リオは貝殻のスイッチをカチッと押した。その直後、静かな海上に私の歌声が流れ出した

 

(──え?)

 

もしかして、音貝(トーンダイアル)

 

私が歌声を入れてあげよっか?って言った時は、『ハッ、音貝がもったいねぇ』とか言って、鼻で笑って断ったくせに

 

いつの間に録音してたの?

 

(──それに....なんでそんな寂しそうな顔して、私の歌を聴いてるの)

 

私の歌声が、何度も何度もリピートされる。すると、その旋律に合わせるように、リオも小さな声で歌を口ずさみ始めた。私が教えてあげた時より、ずっと上手くなっている

 

でも、私にはその歌声が震えているように聞こえて、少しだけ胸が締め付けられた

 

『ぷるぷるぷるぷるぷる』

 

リオは慌てて音貝を止め、電伝虫をとった。樽のすぐ近くで受話器を取ったから、声がよく聞こえる

 

『リオ! なぜ何も言わずに出航してしまったんだ!』

 

ゴードンの声だ。こんなに取り乱しているゴードンは初めて。やっぱり....リオは私たちに黙って出航したんだ

 

その事実がショックだった。ドックの人からこっそり話を聞いてなかったら、私はまた、何も言われずに置いていかれるところだった。シャンクスの時と同じように

 

『ハッ、ゴードンか。はなっから僕は言ったはずだぜ?ウタを仲間に入れるために、誘う権利を得るために、僕はエレジアの復興に尽力したんだと』

 

『約束まではあと1ヶ月あったはずだ!何も言わずにいなくなるなんて....そんなに急いで行動しなくてもよかったはずだ!』

 

『仕方ねぇだろ?ウタを誘って、断られたんだから』

 

(え....?)

 

『フラれた男がいつまでも女の近くをウロウロしてんのは格好つかねぇだろ。まあでも、僕がもっと強くなって、偉大なる航路から新世界に戻ってきたら、その時はエレジアにも顔を出すから安心しろ』

 

(私が、断ったから?)

 

(私がいらなくて、私が嫌いで黙って出航したわけじゃないんだ....)

 

リオの言葉に、安堵と、それ以上の猛烈なツッコミが湧き上がってきた

 

(いや、だとしてもおかしいでしょ!!)

 

だって、約束まであと1ヶ月あったもん!

 

1回断られたからってすぐに諦めないでよ!

 

私には6000億ベリー以上の価値があるんでしょ!?

 

カッコ悪くていいから、諦め悪く誘ってよ!!!?

 

樽の中で叫び出しそうになるのを、手で口を押さえて必死に堪える

 

『はぁ....今更何を言っても手遅れなのは分かっている。ただ、これだけは言わせて欲しい──エレジアが復興したのは君のおかげだ。国王として、お礼を言わせてもらう。ありがとう、レイヴン・リオ』

 

『....フンッ、僕は僕の目的のために動いただけだ。今度は滅びねぇように精々気をつけるんだな』

 

『ああ、もちろんだとも。それと...ウタの友達になってくれてありがとう。君が来てから、彼女はとても楽しそうだった』

 

『それも気にするな。僕は僕の意思でウタに関わった。生意気なガキではあったが...まあ、悪くない日々だったよ』

 

リオの声が少し優しくなる

 

『──っと、もう切るぞ。ああ、それと、もしウタがウダウダして僕の手紙を見てなかったら、無理やりでもいいから見させてくれ』

 

『わかった、約束するよ』

 

『.....直接別れを言えなくて悪かったってのも、伝えてくれ。あとは、手紙さえ見てもらえば伝わるはずだ』

 

ガチャっと、リオは乱雑に電話を切った。

 

私への手紙? リオは、私とゴードンに別れの手紙を書いてたの?やっぱり、リオは口が悪くて偉そうなくせに、律儀で不器用で....優しい

 

「──ハッ、せっかくの僕の船出だっていうのに、ゴードンのせいで湿っぽくなっちまった」

 

リオがふぅ、と息を吐く気配がした

 

「進水式でもやるか」

 

進水式?これからどうするかを誓う儀式みたいなやつ?海賊流だと、誓いを言うのと同時に酒樽を鏡開きする──つまり、蹴り破るんだよね。シャンクスが言ってた

 

 

.....ん?

 

(ここにある樽って....)

 

「なんの樽だ、これ?まあ、ちょうどいい。倉庫取りにいくのが面倒だったんだ」

 

私が入っているこの樽で進水式やるの!?やめて!考え直して!リオの蹴りなんて喰らったら、痛いじゃ済まない! 死んじゃう!

 

樽がガタッと持ち上げられ、甲板の中央に置かれた。逃げ場がない。飛び出すわけにも声を出すわけにもいかず、私は中で縮こまるしかない

 

 

 

 

ドンッ

 

 

 

頭上で音が響く。リオが樽の縁に足を乗せたんだ

 

やばい、やばい、やばい!

 

 

『僕は生きたいように生き、誰にも屈することなく──海賊王になる!絶対にキャプテン・ジョンみたいな生き方はしない!』

 

リオが高らかに宣言する

 

『.......ついでに、エレジアに残ってるクソ生意気なガキにも、幸あらんことを願う』

 

リオ....!そんな最後に私の幸せを願うなんて、かっこいいこと言わないでよ!

 

(って、感動してる場合じゃない!! 感覚的にわかる。リオは樽を壊すために、樽の上に置いた足を天高く浮かせた──!!)

 

今出ないと、カカト落としで頭が割れる!もう仕方ない!バレてもいい!死ぬよりマシ!!

 

 

 

私は思い切り足を踏ん張り、頭突きをする勢いで立ち上がった

 

 

「ストォォォォップ!!!」

 

 

 

バッゴーーーン!!

 

 

内側からの衝撃で、樽の蓋と側面が派手に弾け飛んだ。木片が舞い散る中、私はリオの目の前に飛び出した

 

リオが勢いよく振り下ろしていた足は、私の鼻先数センチ──風圧を感じるほどのギリギリの距離で、ピタリと止まっていた

 

「..............は?」

 

リオが目を見開き、片足を上げたままの妙なポーズで固まっている。気まずい沈黙が、海の上に流れた

 

私は木屑だらけの頭をかきながら、精一杯の愛想笑いを浮かべた

 

「えっと、あの..........やっぱり、ついてきちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでそれで、ねぇねぇ、手紙にはなんて書いたの??教えてよー」

 

「.....クソガキが」

 

「はい、負け惜しみ〜。あ、そうだ!進水式やり直そう!私もやりたい!」

 

「....今すぐタコ殴りにしてやろうか?」

 

「あ、そういえば、私の歌声はいつ録音したの?私と同い年のリオく〜ん」

 

「........泣かせてやりたい、全力で」

 

「負け惜しみ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束だよ。何があっても、私のこと置いてかないって」

 


 

リオの手紙(国庫保管)

 

 

僕の初めての親友、親愛なるウタへ

 

この手紙を読んでるってことは、僕はもう海の上だ。

 

黙って出ていく非礼を許せとは言わない。だがな、これだけは絶対に勘違いするな。

 

僕は、赤髪とは違う。

 

あいつがどんな高尚な理由でお前を置いていったかは知らねぇ。安全のため?足手まといだから?いらなくなったから?

 

ふざけるな。理由はどうあれ、赤髪はお前をこの島に捨てたんだ。

 

だが、僕は違う。

 

僕がお前を置いていくのは、守るためでも、厄介払いでもねぇ。

お前が『エレジアに残る』と、自分で選んだからだ。

 

仲間だからこそ、僕はその意思を尊重する。

 

もしお前が『行く』と一言でも言ってくれれば、相手が世界政府だろうが四皇だろうが、僕は迷わずお前を連れて行った。

 

危険?上等だ。僕が全部ねじ伏せて、隣にいるお前を守ればいいだけの話だろ?

 

僕は赤髪とは違う。自分の宝一つ守れねぇほど弱くはねぇし、お前と一緒に戦うなら、僕たちは誰にも負けねぇ。

 

.....ま、強がってはみたが。本音を言えば、やっぱり僕の隣にはウタがいてほしかった

 

6000億ベリーの投資?ああ、そんなはした金はどうでもいい。ただ、お前と一緒に──僕の初めての親友と一緒に、世界の頂点からの景色を見たかった。

 

僕の船の『音楽家』の席は、空けておく。

 

他の奴を乗せる気はサラサラねぇ。その席に座っていいのは、世界で唯一、この僕に喧嘩を売れる生意気な歌姫だけだ。

 

気が変わったらいつでも来い。ビブルカードがあるだろ?

 

迎えに来てほしいなら連絡しろ。ゴードンに番号は渡してある。

 

もし、それでもお前がずっっっっっと来なかったら──僕が海賊王になった時、一番最初に迎えに行ってやる。

 

世界一の歌姫を、世界一の海賊船でな。

 

だから、それまで元気で過ごせよ。

 

僕はお前の歌が、この世の誰よりも大好きなんだ。

 

今までクソガキ扱いして悪かった。

 

訂正してやる。お前は──誰よりも立派なレディーだ。

 

 

レイヴン・リオ

 

 

 


 

ゴードン→リオにならウタの真実を伝えてもいいのかもしれないと葛藤していた。出航まで1ヶ月あるから冷静に考えよう──前倒しで何も言わずに出航した!?ウタもいない!!!?あ、ついて行ったのか....良かった。手紙は国庫に保管するんだ!絶対に!

 

ウタ→途中意思確認だよね?決めた、リオについていく!これから1ヶ月どうするか一緒に考えよ〜♪

え?何のために船用意してるの?まさか....忍び込もう。1ヶ月後っていったじゃん!!!?それにしてもリオ、私の事好きすぎ〜♪

 

リオ→断られたのに食い下がるのはダサいな、引き際は美しく。出航しよ。同い年の友人初めてだったから、思ってたよりも寂しい。歌聞こ、進水式やろっ───は?ゴードン、僕のウタに向けた手紙は燃やせ!灰になっても燃やせぇェェェェッッ!!!

 


 

ウリエルが船を用意してることを知ったウタ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

何もなかった海辺を思い出すウタ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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