僕がキャプテン・ジョンの宝だ   作:Mr.♟️

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魚人島 完

 

僕たちは無事に魚人島に辿り着いた。道中は、ウタが海の中を泳ぐバカみたいにカラフルな熱帯魚や、今まで見たことのない海王類に目を輝かせ、船中を縦横無尽に駆け回っていた。

 

まあ、わからなくもない。僕たち能力者にとって水中を生身で見る機会なんて一生ないからな。グランドラインで新たに造ってもらう僕たちの船には、高性能な潜水機能もつけてもらうとするか。

 

「え?リオ、ついてきてくれないの?」

 

「僕にもやることがあるからな。まあでも、30分もあれば終わる。すぐに合流するさ。ビブルカードもあるし、少しくらい別行動しても問題ないだろ?」

 

お前はいつ如何なる時も僕が背後に控えていると思っているのか。ああ、思っていそうだな。

 

「ふーん。なら、私がリオの用事に付き合ってあげる!そしたら、その後に一緒に私の服を見に行こうよ!」

 

「ダメだな。今回の用事は僕一人じゃねぇとできない」

 

お前に知られたら意味ねぇだろ。どっかの誰かさんが『お揃いのアクセサリーが欲しい』なんて抜かすから、せっかくなら魚人島の最高級真珠をあしらえば、特別感もひとしおだろ?

 

今教えたらインパクトが薄くなるから言わねぇけどな。

 

「──あ、まさか!人魚カフェに行くつもりでしょ!」

 

「行かねぇよ。仮に行くとして、お前に逐一報告するようなことじゃない」

 

おい、なんだその目は。変な視線を僕に向けてくるな。はっ倒すぞ。

 

「なら、私に言えない場所ってどこなの?」

 

「あとで教えてやる」

 

なんて真っ直ぐな瞳を僕に向けてきやがるんだ。お前は一人で行動したら死ぬ病にでもかかっているのか?たまには単独行動してみろ。

 

「でも、」

「あとで絶対に合流する。どこに行ったかも、何をしていたかもな。だから、30分くらい一人でこの海底の楽園を楽しんでこい」

 

ウタは不服そうに唇を尖らせていたが、僕が引かないと悟ったのか、渋々といった様子で引き下がった。もっとも、その引き際まで『ちぇーっ!』と文句を垂らしていたから、全然大人しくなどはなかったが。

 

「10分だけ待ってあげる!10分すぎても合流しなかったら、リオがなんかやましいことしている最中に盛大にお邪魔しに行くからね!」

 


 

クソが。僕はもう少し──いや、もっと優雅に、品格を持って品定めをするつもりだったんだ。

 

それがどうだ。あのしつこいバカのせいで、この僕が魚人島の入り組んだ石畳を全力で走り回る羽目になっている。

 

あいつの10分という宣告は、海軍のバスターコールよりよっぽど質が悪い。そもそも、僕は30分と言ったはずなんだがな。

 

「──この店にある最高級の『真珠』、全部買い取らせてもらおうか」

 

店主が呆気にとられるのも構わず、僕はヌマの奥底から眩い金塊を引き抜き、カウンターに叩きつける。

 

よし、これで目星をつけていた土産屋と宝飾店はすべて回った。どの真珠を使い、どう加工するかは後で僕が決めればいい。

 

ウタと別れてから経過時間は7分。残り3分あれば、ビブルカードの指し示す方向へ合流するのは造作もないはずなんだが──。

 

「な──なんだ、この人混みは」

 

視界を埋め尽くすのは、色とりどりの人魚たちと、屈強な魚人たちの巨大な壁。まるで島中の住人が一つの広場に凝縮されたかのような、物理的な熱気が渦巻いている。

 

パレードか何かか?予想外の障害が僕の行く手を阻んでやがる。なんて日だ、クソが。

 

「──聞いたか!オトヒメ王妃様が、あの天竜人から署名をもぎ取ったんだぞ!」

「歴史が変わる瞬間だ!私たちはついに、本物の太陽の下へ行けるんだ!」

 

(世界貴族、天竜人が署名だと?)

 

どうやら、この国の王妃が心血を注いでいたという署名活動が、あの『神』を自称する連中を動かしたらしい。

 

あの強欲と傲慢の塊のような連中が、素直に署名に応じた?

 

フンッ、虫が良すぎて信じられねぇな。まあいい、この魚人島の狂喜乱舞っぷりを見る限り、それがこの国にとっての悲願だったことは理解できた。

 

(だがな、今はそんな悲願だの歴史的瞬間だのに付き合っている暇はねぇんだよ)

 

僕は舌打ちを漏らし、胸元からウタのビブルカードを取り出す。紙片は、この熱狂の渦のど真ん中──パレードの最前線近くを執拗に指し示していた。

 

(──おいおい、マジかよ。まあ、それもそうか。あの好奇心の塊が、こんな楽しそうな騒ぎを見逃すはずがねぇか)

 

人混みの隙間を縫い、ヌマを滑らせるように移動する。10分を1秒でも過ぎてみろ。ウタがどれだけ根に持って拗ねるかが、容易に想像できて吐き気がする。

 

「──見つけた。ったく、もう少し探しやすい場所にいろよ。気遣いって言葉を辞書で引いておけ」

 

歓喜に沸くパレードの最前列。目をキラキラと輝かせ、壇上を眺めているウタの背中をようやく捉えた。

 

人をかき分け、前へ──ようやくその肩に手をかけようとした、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

──乾いた破裂音が、パレードの喧騒を無惨に切り裂いた。

 

 

パァンッ!!

 

 

 

 

直後、僕の網膜が捉えていた色彩が、急速に色褪せて消える。

 

さっきまでそこにいたはずの、紅白の髪をしたガキ、ウタの姿が──視界から消え失せた。

 

「──は?」

 

一瞬の静寂。そして、誰かが倒れる鈍い音と共に、耳を劈く悲鳴が上がった。

 


 

「....殺す」

 

その思考と同時に、僕の見聞色は今までにないくらい研ぎ澄まされた。民衆に紛れた狙撃手。銃口から立ち昇るわずかな硝煙、事細かな動きの全てがわかる

 

「なに、やってんだ.......お前は」

 

わかる。さっきの銃声は王妃を狙ったものだったはずだ。それなのに、どうして床に転がってお前が血を流してんだ

 

(......楽に死ねると思うな)

 

地面に広げたヌマが意思を持つ蛇のようにうねり、少し離れた場所にいる逃げようと動いていた魚人を飲み込んだ

 

同時に倒れ込んだウタの元へ駆け寄る

 

「あっ、リオ!来るの遅いよ!もう10分なんてとっくに過ぎてるんだから!」

 

「.....バカか。守るならせめて武装色で防げ。僕が教えた意味がねぇだろ」

 

わかる。この底抜けのバカは、放たれた弾丸に真っ先に気がついて、王妃を庇ったんだ

 

肩口に赤い染みが広がっている。傷は浅い。弾丸は掠めた程度だったんだろう。いや、それでも

 

「えへへ、いきなりだったから、考える余裕なんてなかったんだもん!」

 

なにをヘラヘラ笑ってやがる

 

怪我が軽かろうが、命に別状がなかろうが──関係ねぇ

 

魚人島の、どこの馬の骨とも知れねぇゴミが、お前に傷を負わせた。僕の仲間を傷つけるってことは──僕に喧嘩を売ったってことだ。

 

「───笑うな。腹が立つ」

 

僕は乱暴に上着を脱ぎ、彼女の肩を包み込むように羽織らせた。

僕の仲間だ。代わりなど世界中どこを探しても存在しない、僕の仲間を──それを汚し、傷つけた報いだ。

 

「──テメェの薄汚いツラ、ここで拝ませてもらおうか」

 

僕は足元のヌマをドロリと広げ、回収しておいた狙撃手を、白日の下へと吐き出した。

 

「あなたは──ホーディ、ですか?」

 

僕がヌマから吐き出したのは、一人の魚人だった。それも、魚人島の兵士が纏う制服に身を包んだネプチューン兵だ。

 

王妃が地面に這いつくばっている『ホーディ』と呼ばれた男に歩み寄り、ホーディが何かを叫ぼうと醜く口を歪めたが──その言葉が形を成すことはなかった。

 

 

ガンッッ!!

 

 

重く鈍い衝撃音が響き、ホーディの顔面が石畳にめり込む。僕の右足が、そのツラを情け容赦なく蹴り飛ばしたからだ。

 

辛いだろうよ?僕のヌマに閉じ込められている間は、絶望的な窒息状態だったんだ。ようやく出られたと思ったら、次は暴力だ。

 

「ぅっ、ガハッ.....!」

 

「なっ、何をするのですか!やめてください!」

 

悲鳴のような王妃の制止を黙殺し、僕は逃走の余地を与えぬようヌマを這わせ、ホーディを僕の足元へと力尽くで引き戻す。

 

「白ひげのジジイのナワバリだし、今日はめでたい日みてぇだからな。余計な騒ぎを起こすつもりはなかったんだが」

 

僕はホーディの後頭部を、みしりと骨が軋む音が出るほどの力で踏みつけた。苦悶の呻きが漏れるが、僕が力を緩める理由にはなり得ない。むしろ、踏みしめる足にはさらなる憎悪がこもる。

 

「──お断りします!ホーディが今回の暴挙を、私の暗殺を試みたのだとしても、それを裁く権利は私たちにあります。お願いです、その足を下ろしてください!」

 

「あ?あんたらの面子を立てて、犯人を捕まえた事実を隠さずに伝えてやったんだ。あんたを救ったのはウタで、犯人を特定し、取り押さえたのは僕だ。それなのに、指をくわえて見ていただけのテメェらに、黙ってこの獲物を渡せってのか?」

 

この甘ちゃんが魚人島の王妃だと?

 

笑わせるな。平和を説く理想の裏で、自分の足元に潜む毒蛇一匹処理できていなかった女が、よくもそんな綺麗事をホザきやがる。

 

「....えぇ。私はあなたのお仲間に命を救われました。心から感謝しています!ですが、ここは魚人島です!いかなる罪人であろうと、法を無視した私的な制裁、そのような無体な扱いは、ここでは決して許されません!」

 

「僕たちは海賊だぞ。そっちの綺麗な理屈なんて端から通用しねぇよ。僕はただ、僕の仲間を傷つけた『対価』を、こいつの身柄で清算したいだけだ。他の無関係な連中に手を出すつもりもなけりゃ、不当な金を要求しているわけでもねぇ。これ以上ないほどフェアな取引だろうが?」

 

なぜ、そんな単純な話が理解できない。怒りに任せて踏みつける力が、無意識に強まっていく。ホーディの顔面の下、石畳にじわりと亀裂が走り始めた。このまま、不快な中身ごと踏み潰してやろうか。

 

「──なあ。僕だって、白ひげのナワバリでこれ以上暴れたくはねぇんだ。僕の寛大な気持ち、いい加減に汲んでくれねぇか?」

 


 

「あっ、リオ!来るの遅いよ!もう10分なんてとっくに過ぎてるんだから!」

 

あれ、リオ、いつもとなんか違う?もしかして、私が勝手に30分を10分に短くしたのを怒ってるのかな?

 

「.....バカか。守るならせめて武装色で防げ。僕が教えた意味がねぇだろ」

 

「えへへ、いきなりだったから、考える余裕なんてなかったんだもん!」

 

そうなんだよね。音が聞こえて弾丸も見えたから、ヤバいっと思って王妃様を守ったんだけど、他のことはなんにも考えられなかった。

 

いつもみたいに笑いながら話すと、リオの纏う空気がピンッと張り詰めたのが、私にもわかった。

 

「───笑うな。腹が立つ」

 

壊れ物を扱うような優しい手つきで私の傷を確認してから、リオは自分の上着を私の肩にかけた。

 

リオの体温と、微かに香る彼の匂いに包まれた瞬間、胸の奥がじんわりとした熱に満たされていく。

 

 

 

 

リオがヌマの中から引きずり出した魚人──ホーディとかいう奴を容赦なく蹴り飛ばす音が響く。

 

ガンッッ!!

 

鈍い衝撃音と共に、石畳に叩きつけられる魚人。

 

普通なら目を逸らすべき光景なのかもしれない。以前の私なら、きっと目を逸らしてすぐにリオを止めていた。それこそ、オトヒメ王妃様が必死に叫んでいるように。

 

だって、これは残酷なことだから。リオという圧倒的な強者が、ホーディという弱者を一方的に蹂躙しているのだから。

 

(──でも、ああ.....どうしよう)

 

私のために、リオが怒っている。かすり傷程度の、ほんのちょっとしたケガなのに。それなのに、この島ごと沈めてしまいそうなほどの憎悪を、リオは私一人のために燃やしてくれている。

 

シャンクスに置いていかれたあの日から、私はずっと『必要とされること』に飢えていたんだと思う。

 

『誰かにとっての特別』になりたかった。二度と捨てられることのない『唯一無二の存在』に。

 

目の前で繰り広げられている一方的な暴力を見て、私の心は、どうしようもなく歓喜に震えている。

 

(止めなきゃ。リオが本当にこの魚人を殺してしまう前に。私が....止めないと)

 

頭のどこか冷めた場所で、そんな正論が響く。でも、私の唇は微笑みの形に固まったまま動かない。いつから笑っていたんだろう。

 

「僕たちは海賊だぞ。そっちの綺麗な理屈なんて通らねぇよ。僕は、僕の仲間を傷つけた『対価』を、こいつの身柄で清算したいだけだ」

 

リオが放つ言葉のひとつひとつが、私の鼓動を激しく跳ねさせる。

 

リオが私のために、私以上に怒ってくれることで、私の存在が肯定されていく気がする。私の命に、リオが世界で一番高い価値をつけてくれているように感じる。

 

オトヒメ王妃様が叫んでいる魚人島の法律も正論も、今の私には、遠くの雑音のようにしか響かない。

 

私のためにリオが怒ってくれている。それだけで満たされる。必要とされている。リオにとって、特別な存在になっている。今までに感じたことがない幸福が、自分の中でどろりと溶け出している。

 

ホーディの頭を踏みつけるリオの足に、さらに力がこもる。石畳に、不吉な亀裂が走った。

 

その破壊の音さえ、私には祝福の鐘の音のように美しく響いた。

 

(嬉しい。ねぇ、リオ。もっと怒って。もっと私のために、その感情を燃やし尽くして)

 

自分でも気づかないうちに、指先がリオの上着を強く握りしめていた。

 

傷口が少しだけズキリと痛むけれど、その痛みさえ愛おしい。

 

この傷がなかったら、私はこんなにも剥き出しのリオの感情を独り占めすることはできなかったのだから。

 

「これ以上ないほど、フェアな取引だろうが」

 

足元の魚人を冷徹に見下ろし、淡々と、けれど地を這うような怒りを込めて言い放つリオ。

 

その横顔を見つめながら、私は確信していた。

 

 

あの日、レッド・フォース号が水平線の彼方に消えていった絶望。

 

胸を引き裂くようなあの孤独さえ、今のこの幸福を味わうための『前奏曲(プレリュード)』に過ぎなかったのだと。

 

ゴードンと過ごした、静かで物悲しく少しだけ温かいエレジアの日々が『間奏曲(インタールード)』。

 

リオが私の前に現れ、日常を鮮やかに塗り替えていった日々が『終曲(フィナーレ)』。

 

そして今、リオと二人で漕ぎ出したこの果てしない冒険が、私にとっての新しい....真っ白な──『序曲(オーバーチュア)』の始まり。

 

今までの人生で、今が一番幸せ。

 

誰かにこんなにも強く、激しく、狂おしいほどに想われ、大切にされ、守られている。

 

「──なあ、僕も白ひげのジジイのナワバリで暴れるなんてしたくないんだ。僕の気持ち、汲んでくれねぇか?」

 

リオの足の下で、石畳が悲鳴を上げて砕け散る。

 

ホーディの呻き声、王妃様の悲鳴。

 

リオは本気だ。本気で、この男の頭を踏み潰そうとしている。ダメ。ダメだよ、リオ。

 

その魚人の命に、リオが手を汚す価値なんて、これっぽっちもない。

 

 

 

でも....

 

 

 

 

(──ああ、なんて素敵なの)

 

もう、充分。私がどれだけ愛されているか、リオがその残酷なまでの行動で証明してくれた。

 

私が求めたからじゃない。リオが自分の意思で、私のために、私を傷つけた世界に牙を剥いてくれている。

 

私はゆっくりと立ち上がり、リオの背中にそっと手を添えた。彼の背中を、優しく、包み込むように抱きしめる。

 

上着越しに伝わる、焼け付くような怒りの熱。それを全身で感じながら、私は彼の耳元で、甘く──静かに囁いた。

 

「──リオ」

 

その一言で、リオの肩がわずかに跳ねた。

 

「リオ、もういいよ.....ありがとう。リオが私のために、そんなに怒ってくれただけで、私はもう──死んでもいいくらい嬉しいよ」

 

私はリオの前へと回り込み、怒りに染まったその瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

(──なんて、綺麗な瞳なんだろう)

 

怒りに狂う未来の海賊王を、この世で唯一、言葉一つで止めることができる特権。

 

それを心の底から噛み締めるように、私は最高の笑顔で微笑んだ。

 

「だから、もうやめよう?──ほら、私の服もまだ選んでもらってないよ。ねぇ、一緒に見よう?」

 

私の声が届いた瞬間、リオの足先から、そして全身を覆っていた刺すような殺気が、嘘のように霧散していくのがわかった。

 

リオは、私のわがままなら聞いてくれる。私のお願いなら、世界を敵に回してでも叶えてくれる。そう思わせてくれる。

 

 

 

 

 

ああ、これが『人を好きになる』ということなんだろうか。

 

 

 

ルフィにも、シャンクスにも、大好きだった誰に対しても感じたことのない、胸が燃え焦げるようなこの感覚。

 

──私のこの感情は、きっと『愛』なんだ。

 

誰かを100%、逃げ場がないほどに好きになると、人はこんなにも残酷で、そして美しい気持ちになれるんだ。

 

「.....興が削がれた。オトヒメ王妃、僕たちにあなたのパレードを邪魔するつもりはありませんでした。ホーディは、歴史的偉業を成し遂げた王妃に敬意を表して譲ることにします」

 

リオは王妃から視線を外すと、まだ足元で喘いでいるホーディを冷たく見下ろした。

 

殺気は消えても、その瞳に宿る温度は絶対零度のままだ。

 

「ホーディ。お前が尊敬する海賊は誰だ。3秒以内に答えろ。これ以上、苦しみたくなければな」

 

「あ、!アーロ、ン....さ......ん」

 

「そうか。答えてくれてありがとうよ」

 

リオの口角が、悪人のようにつり上がった。

 

「──お前の憧れに、この世で最も苦しい窒息死を、僕のヌマの中でじっくりと味合わせてやる。安心しろ、殺しはしない──僕のヌマの中で永遠に保管してやるからな。窒息死寸前まで何度も何度も繰り返せば....何回で壊れるだろうなァ?」

 


 

私たちは1週間魚人島に滞在し、そして今は浮上してシャボンティ諸島に向かっているところだあんな事件があったから疎まれるかもしれないと思っていたけど、全然そんなことはなかった。

 

「ねぇ、リオ。じゃなかった、『真珠王』さん?」

 

「はっ倒すぞ、クソガキ」

 

そう、リオが真珠を買い占めてくれていたお陰で、あれだけ怒ったのは『恋人を傷つけられた』からだと魚人島の人は結論づけた。なんていっても、魚人島の真珠全てを買い占めるくらい大切にしている恋人が傷つけられたんだから、あれだけ怒るのも仕方ない...らしい。まだ恋人じゃないけどね!まだ!

 

(....まあ、いずれはそうなるけどさ)

 

「サメちゃーん、リオがまた怒ってるよー。怖いねー」

 

私は足元で跳ねる可愛らしいサメに話しかける。

 

魚人島で手に入ったのは、新しい服や真珠だけじゃない。なぜかリオに懐いてついてきた、愛嬌のあるサメちゃんもだ

 

リオは『飼うなら船を引く海王類にしろ』なんて毒づきながら、自室の一部をせっせと水槽に改造していた。本当に素直じゃないんだから。

 

 

 

 

 

「──んなことより、一応これ渡しておくぞ」

 

ふいに出されたリオの右手に、私は息を呑んだ。それは綺麗な──とっても綺麗なネックレスだった。真珠に加え、何種類の宝石が使われているのか見当もつかないほど煌びやかだった。

 

「....えっ?なんで??こんなすごいの貰っていいの??」

 

「あ?お前が言ったんだろ。『お揃いのアクセサリーが欲しい』って。仲間内で同じアクセサリーを身につけるのは結束の証として悪くねぇし、今後仲間が増えた時用にもいくつか作った。いいから大人しく受け取れ」

 

「う、うん」

 

あ、そうだった。リオは魚人島でそのために走り回って真珠を集めてくれていたんだ。

 

手渡されたネックレスを私は身につけた。

 

「.....あの、似合ってるかな?」

 

恐る恐る首にかけて尋ねると、リオは一瞬だけ目を見開き、すぐに視線を逸らした。

 

「さあな。世の中には『馬子にも衣装』って言葉があるらしいぞ」

 

「あー!またひどいこと言った!」

 

「そんなに酷くねぇだろ」

 

「ふふん。リオはお子ちゃまだから素直に褒められないんだよね。いいよ、私には全部分かってるから」

 

「はっ倒すぞ、このク──」

「あ...あの....っ」

 

「なんだよ。人の言葉を遮るんじゃねぇ。これだからガキは──」

 

「...え?リオ、今の声だれ?」

 

私とリオは顔を見合わせ、声のした場所──水槽の中でゆらゆら揺れるサメちゃんの大きな口へと視線を向けた

 

 

 

 

「──!」

 

「...サメの口から、」

「人魚が出てきたぁぁぁ!!?」

 

現れたのは大人と比べても倍以上はありそうな、巨大で、すっっごく可憐な人魚の少女だった。

 

よくサメちゃんの口に収まっていたね!?

 

「あ、あの....私...その、しらほしと....申します....っ」

 

「あ、うん....あ?おい、嘘だろ...?」

 

リオが珍しく呆然と固まっている。驚くのも無理はないけれど、そんなにびっくりする?

 

「その、あの....私、リオ様に──一目惚れしてしまいまして....っ!その、どうしても離れたくなくて、魚人島からついてきました....!」

 

「えっ!?」

 

人魚の、それもあんなに可愛い子が一目惚れしてついてくるなんて!さすが私のリオだね、鼻が高いよ!──って、ちょっと待って。一目惚れ!?まさかのライバル!?

 

「それで、その....私も、この船に乗せていただけませんでしょうか....?」

 

「リオがいいなら私はいいよー!しらほしちゃん、とっても可愛いし!性格も良さそうだし!」

 

私が賛成すると、リオはこめかみを押さえて──それから堪えきれないように噴き出した。

 

「──フッ、ハッハハハ!面白ぇ!──僕は基本、覚悟のねぇ奴は仲間に入れるつもりはなかった。仲間にしても、信頼に足るまではお揃いのアクセサリーを渡す気もなかった」

 

リオは言葉を続ける。

 

「だが、お前なら大歓迎だ。人魚姫しらほし。僕たちの船へようこそ」

 

「リオ、しらほしちゃんのこと知ってるの?」

 

「知ってるも何も、魚人島の王族だぞ。しかも、しらほし──お前、誰にも言わずに来たな?」

 

「は....はい....っ」

 

王族?誰にも言わずに?ということは、それってつまり。

 

「──もしかして私たち」

 

「ああ、そうさ。僕たちは人魚姫を誘拐した『天竜人でさえやらないことをやった大悪党』ってことだ」

 

リオはこれまでにないほど楽しそうに、不敵な笑みを浮かべていた。リオが楽しそうだと、私までワクワクしてくる

 

そうだよね。どうせこれから世界を揺るがす大海賊になるんだから、最初の航海からこのくらい派手な方が私たちにはお似合いだよ!

 

「よし、決まり!サメちゃんに、しらほしちゃん。新しい仲間も加わって、私たちの『序曲』は最高に盛り上がってきたね!」

 

「この子はメ、メガロって言います」

 

深海を抜けた船が、ついに光輝く海面へと飛び出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──まだシャボンディ諸島へつかないんかえ?遅いえ」

 


 

味をしめて泥風呂に毎日入るウタ

 

 

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