僕たちはシャボンディ諸島の41番グローブの船着場に船を停め、そのまま上陸した。特にこれといった目的があるわけじゃない。新世界を出る前に、ちょっとばかり地上を観光するだけだ。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」
上陸してわずか20分。地響きみたいにバカでかい泣き声のせいで、周囲にフワフワと浮かんでいたシャボン玉がパチンパチンと次々に弾け飛ぶ。
「あ、ね、ねぇ、しらほし泣かないで!ほら、怖いアイツらならもうリオが全員やっつけたから!」
「──まったく、死にたいバカが多すぎる。加入してから日が浅いなんてもんじゃねぇが、それでもこいつは僕の仲間だぞ?」
僕の足元の地面には、黒い影のように広がったヌマが静かに波打っている。その底には、数分前まで『高く売れるぞ』『新種の人魚を奴隷に』なんて下劣な笑みを浮かべていた人攫いどもの成れの果てが沈んでいる。
こんな規格外のサイズの人魚を奴隷オークションに流せば、どれだけの金額に釣り上がるか想像もできねぇ。裏社会のマニアから天竜人まで、誰もが目の色を変えて求めるだろうよ。
だが、僕の仲間を僕の目の前で攫おうなんざ、欲に目が眩むにも程がある。自分の命よりも目先のあぶく銭が大切な救いようのないバカどもだ。
「来世はせいぜい、他人の物に手を出さねぇ善良な市民として生きるんだな」
路地裏の奥深くまでヌマを這わせ、窒息死させたクズどもをまとめて放出する。上陸してからわずか20分で、30人ほどの『ゴミの山』が路地裏の暗闇に出来上がっていた。
先に手を出してきたのは向こうだ、僕は悪くねぇぞ。
通りを行き交う通行人どもは、巨大な人魚の泣き声に驚いて立ち止まりはしても、足元のヌマの中にゴミどもが消えたことには誰1人として気づいていない。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!お外は......!お外の世界は怖いです〜〜〜!!」
「──おい、泣き止め。アイス、好きなだけ買っていいぞ」
正直、耳が痛くてうるせぇ。もし僕の仲間じゃなかったら、そしてしらほしがまだ小さなガキじゃなかったら、間違いなくその場で怒鳴り飛ばしていた。
(まあ、気の毒だとは思うがな)
グズグズと大粒の涙をこぼしながらも、しらほしは僕の『アイス』という言葉にピクリと反応して顔を上げた。
魚人島からなけなしの勇気を出して僕たちについてきて、生まれて初めて出た外海。
そこで最初に出会う人間が、自分を奴隷にしようと目論むゴミどもだなんて、あまりにも気の毒すぎる。
記念すべき初めてのお出かけが、そんな汚ぇ思い出だけで終わるのはあまりにも酷だろ。
「す、好きなだけ......ですか......?」
「ああ。10段でも100段でも1000段でも、お前が食えるなら好きなだけ買えばいい。初めての外海の記憶が、攫いにくるクズどもの顔で埋まるのはつまらねぇだろ」
「やったね、しらほし!あっちの通りに美味しそうなアイス屋さんがあったよね?早く買いに行こう!」
ウタがしらほしの大きな手を引き、41番グローブの賑やかなメインストリートへと走り出す。
「は、はい!ありがとうございます、ウタ様、リオ様......!」
しらほしは巨体を揺らしながら、空中に浮遊するシャボン玉にぶつからないよう慎重に、けれど同時に弾んだような明るい足取りで歩みを進める。
この島に浮かぶどのシャボン玉よりも、しらほしの身体の方がずっと大きい。その『美しく巨大な人魚』という圧倒的な存在感は、ただ歩いているだけで街中の注目を浴びるには充分すぎた。
(......どいつもこいつも、喧嘩を売る相手すら選べねぇのか)
41番グローブは、主に観光客向けの華やかな露店が立ち並ぶエリアだ。ウタとしらほしが向かった『シャボン・クリーミー』はこの島でも特に評判の店らしく、店の前には長い行列ができていた。
2人が楽しそうにアイス屋の行列に並んでいる間、僕は少し離れた巨大なヤルキマン・マングローブの根に背を預ける。
見聞色の覇気を周囲に広げれば、どす黒い欲望の澱が街のそこかしこから湧き出してくるのが手にとるようにわかる。この島の無法者どもにとって、無防備なしらほしは歩く財宝の山にしか見えないのだろう。
(くだらねぇ)
僕にとっては、ただの『手のかかる泣き虫な仲間』だ。
僕はポケットに両手を入れたまま、足元の地面に薄く、不可視に近い膜のようなヌマを広げた。そのままヌマを、物陰に潜むゴミどもの足元へと音もなく這わせる。
「おい、ありゃあ本物の人魚だよな。オークションに流せば幾らになるか想像もできねぇぜ」
「巨人の血でも入った新種か?あいつを捕まえれば一生遊んで暮らせるぞ。今のうちに麻酔銃を準備しろ」
建物の影で下卑た密談を交わす男たちの足元から、ドロリと黒い泥が滲み出した。ゴミどもが懐の武器に手をかけるより早く、僕のヌマが音もなく全てを飲み込む。
「が......っ......!?」
悲鳴すら上げさせねぇよ。ゴミどもは、まるで最初からそこに存在しなかったかのように、底なしのヌマへと引きずり込まれて消えた。
(......まったく、救えねぇヤツらだな)
「リオ様ー!見てください、こんなに大きく特注で作っていただきましたぁ!」
パッと明るいしらほしの歓喜の声が響く。彼女の両手には、人間サイズなら特大のバケツを逆さにしたような大きさの特製コーンに、色とりどりのカラフルなアイスがまるで地層のように高く積み上げられていた。
「おいおい、よくその高さで倒れねぇな」
「お店の店主様が『こんなに珍しくて大きなお客様は初めてだ!』って、特別に頑張ってくださいました!」
「はい、リオの分もあるよ!特製3段アイス!」
ウタも自分用の10段重ねのアイスを幸せそうに頬張りながら、満足げに笑って僕に小さなアイスを差し出してきた。
おい、お前が10段で、金を払った僕がたったの3段かよ。しかも上からバニラ、ソルト、ミルクって、見事に全部真っ白じゃねぇか。少しは華やかさってもんがねぇのかよ。
2人が冷たいアイスを夢中で食べている間も、僕は見聞色で周囲を警戒し、さらに20人ほどの『誘拐犯予備軍』を街の景色から密かに消去した。
僕が白いアイスを1口食べるごとに、裏路地の冷たい死体が増えていく。
次に僕たちが向かったのは、35番グローブの高級ショッピングエリアだ。
ウタは魚人島で新調したばかりのドレスだけではまだ足りないと息巻いている。それと、身体の大きなしらほし用の新しい洋服もここで買うんだってな。
「リオ!見て見て、ここの生地屋さん、世界中の珍しい布が集まってるんだって!」
「いらっしゃいま......っ、ひ、人魚ぉ!?デ、デカい......!」
店に入るなり、恰幅のいい店主が泡を食って後ろにひっくり返った。しらほしの頭が店の入り口の屋根にぶつかりそうになり、彼女は慌てて大きな身体を屈める。
「す、すみません......私、大きすぎてお邪魔してしまいます......っ」
「いいんだよ、しらほしは悪くないもん!店主さん!この子に似合う、このお店で1番丈夫で1番綺麗な布を全部見せて!」
ウタの堂々とした要望に応え、店中の最高級のロール生地が次々とカウンターの前に並べられていく。光を弾いてキラキラと輝くシルク、澄んだ空の色をそのまま映し出すスカイオーガンジー。
「まあ......!竜宮城のサンゴの光より、ずっとずっと眩しくて綺麗です......!」
しらほしがおずおずと細い指先で布に触れる。その大きな瞳が女の子らしい純粋な憧れに染まっていくのを見て、僕は店主のカウンターに鈍く光る金塊を無造作に投げつけた。
「そいつが今見たもの、指先で触れたもの、店にある在庫ごと全部包め。僕は外で待ってるから、ウタと一緒に好きなだけ楽しんでこい」
「リオ様、そんな......っ!私なんかのために、もったいないです!」
「もったいないかどうかは金を払う僕が決める──それとも、僕の買い物の仕方が気に入らねぇか?」
「いえっ!そんなことありません!大好きです、リオ様っ!」
しらほしが嬉しさのあまり僕に抱きつこうとして、危うく店の太い柱がへし折れそうになった。──さて、それはそうと。外にいるテメェらは、店の前で堂々と僕たちを襲うつもりだったのか?命知らずのバカどもめ。
(本当に湧いても湧いてもゴミばかりだ。この島はなんだ?世界中のゴミ溜めか?)
店のすぐ外の通りに、網や武器を隠し持った人攫いの連中が待ち構えていた。僕を舐めてんのか。
「さっきのガキ、相当な金を持ってやがるぞ」
「あのデカい人魚と小娘と金、全部まとめて俺たちで頂こうぜ」
ああ、心底くだらねぇ。僕の買い物の邪魔をして不快にさせたんだ。その命で詫びろ。
店内で楽しそうに買い物している2人に気づかれないよう、外へ出ると同時に即座にヌマを広げ、ゴミどもを一網打尽にする。
「え......?」
「おい、地面が勝手に──」
捕獲用の網や罠を構えていた連中が、断末魔すら残さず音もなくヌマの底へと消えていく。ったく、今日1日だけで僕に一体何100人殺させるつもりだ。
手早くひと仕事を終えて店の中に戻ると、2人はまだ楽しそうに髪飾りや装飾品を見ていた。
「あ、あの、旦那様......生地だけでこれだけの量になるんですが......本当に運べますか?」
金額と量に怯える店員から、山のように積まれた荷物を受け取る。
「なんだ、遠慮してこれしか買わなかったのか。さっさとよこせ」
僕は買い上げた商品を、その場で全て自分のヌマの中に収める。店員は目を丸くしていたが、どうでもいい。
午後は、32番グローブにある『シャボンディ・パーク』へと向かった。
空高くそびえる巨大な観覧車、シャボン玉の浮力を利用したジェットコースター。夢のようなアトラクションが立ち並ぶ、この島最大の遊園地だ。
「観覧車......私も乗ってみたかったです......」
しらほしが寂しそうに、空へ昇っていく巨大なゴンドラを見つめる。残念ながら、この島最大のシャボン玉を使ったゴンドラですら、しらほしの巨体を乗せるにはサイズがまるで足りない。
「そ、そうだ!ねぇしらほし、せっかくだし美味しい物を食べに行こうよ!」
「おいウタ、さっき特大のアイスを食ったばかりだろ、お前は」
僕の呆れたツッコミを華麗に無視して、ウタが明るくしらほしの肩を叩いた。
「観覧車には乗れなくても、あっちの高い丘の上からなら街が全部見えるよ!あそこで一緒にお弁当食べようよ、リオに買ってきてもらってさ!」
「テメェ、いつの間にか僕のことパシリ扱いするつもりか?はっ倒すぞ」
「だって、この中でリオが1番足が速いから。ね、お願い!」
まったく納得はいかねぇが、わざわざしらほしを人混みに連れ回すよりはマシかと自分に言い聞かせ、僕は人気の弁当を買い込んでからすぐに2人と合流した。
『リオ、早いね!次もよろしく!』じゃねぇよ、本気でぶっ飛ばしてやろうか?
僕たちはマングローブの巨大な根が形成するなだらかな広場を登り、街が一望できる展望エリアへと向かった。
見晴らしのいい丘の上には、心地よい潮風に乗って無数のシャボン玉がキラキラと舞い上がっている。まるで夢の中のような幻想的な風景が目の前に広がっていた。
「......すごいです。シャボンが太陽の光でキラキラして、とっても綺麗......」
しらほしがマングローブの柔らかな地表に腰を下ろし、うっとりと目を輝かせる。そんな情緒ある空気の中、ウタは早速僕に弁当を催促してきやがった。
仕方ねぇから、僕はヌマの中からさっき買ってきたばかりの豪華なランチボックスを取り出して広げる。
「この『シャボン・パイ』、サクサクで美味しいって島でも有名らしいよ!」
「そうかよ」
僕をここまでパシらせておいて、これで味が不味かったら本気でぶん殴るぞ、お前。
(......まあ、2人とも機嫌が良さそうだな)
「──♪」
パイを食べ終えたウタがご機嫌に鼻歌を歌い出し、しらほしがその綺麗なメロディに合わせて楽しそうに巨体を揺らし始めた。ああ、ようやく僕も平和な気分になれた。
穏やかで、あまりにも平和な空間。たぶん今日だけで100人近くの無法者を殺して路地裏に捨ててきたけど、その独特の気疲れが2人の姿を見ているだけでスッと取れていく気がする。
(悪くねぇ、すごく気分がいい)
ウタの透き通る歌声、しらほしの穏やかな揺らめき、そして空中でパチンと弾けるシャボンの音。それらが1つに重なり合い、この丘の上で完璧な調和を生み出している。
僕のこれまでの労働には到底見合わねぇが、たまにはこういう休日も悪くねぇ。少なくとも、ウタとしらほしにとっては最高の外海の思い出が作れただろ。
──なんて、柄にもなく微笑ましく思ってたのによ。少しばかり気を抜きすぎたか?あとはこのまま船に戻ってゆっくり休むだけだったのに。
「おい!そのデカい人魚!今すぐわちしの奴隷にするえ!」
「リ、リオ、様......っ」
突如響いた甲高い不快な声に、しらほしがビクリと肩を震わせ、怯えたように僕の小さな背後に隠れる。そんな不安そうな目で僕を見つめるな。お前をこんな薄汚いゴミに渡すわけねぇだろ。
「それから、そっちの生意気そうなメスガキはわちしの新しい妻にしてやるえ!」
「リオ!あいつ、今私のことメスガキってバカにした!今すぐぶん殴ってよ!」
おいお前、仮にも新世界の海賊船にいたくせに『天竜人』のことを知らねぇのかよ。よくその知識レベルで、魚人島の署名パレードを最前列で見てたな。
「──おいガキ!わちしの道を塞いでるお前は今すぐ死刑だえ!」
「お、おい坊主、頼むから控えろ......!天竜人様に目をつけられたら終わりだぞ......!」
道端で額を地面に擦りつけて跪いている通行人の男が、僕にそう小声で忠告してくれるが、いらねぇよ、そんな弱気な忠告。──とりあえず、邪魔くさい天竜人の護衛どもは先にヌマに沈めておくか。
「なあ、ウタ。お前、あのクソだせぇ宇宙服みてぇなのを着てるやつら、本当に知らねぇのか?」
「うん、全然知らない」
少しは世間の常識を知っとけ。政治に興味がなくても、海に出るならそのくらいは頭に入れておけ。
「しらほし、お前は当然知ってるよな?」
「は、はい、あのお方は──せ、世界貴族、天竜人様です!」
だよな、王族のお前は流石に知ってるよな。この世界で最も滑稽で、最も醜悪なバカどものことを。
「いいか、ウタ。無知なお前のために特別に教えてやろう。天竜人、もしくは世界貴族なんて大層な名称で呼ばれているが、実態はなんてことはない」
ただの生きる価値もないゴミだから。
「この世界の腐りきった膿だ。例えば、あのゴミが道端で誰かを気まぐれに殺しても、誰かの家族を無理やり奴隷にしても、この広場のど真ん中でいきなり盛っても、全て無罪で許される」
ただのゴミのくせにな。
「理由は単純、あいつらが『天竜人』だからだ」
「例えば、今のあのゴミの理不尽な言葉に逆らって、僕たちがしらほしを差し出さなかったら、僕たちは世界政府と海軍から全力で狙われることになる」
それを守る海軍も同罪のゴミだから。
「えっ、なんで!?悪いのはあいつらなのに!」
「この世界では天竜人が絶対のルールだからだ。仮にムカついたからといって、お前の言葉通り僕があいつを殴れば、海軍本部から『大将』が軍艦を率いて飛んでくる。ついでに、僕たちは世界中に『とんでもない極悪人』だと新聞で書き立てられるだろうな」
それこそ、歴史に残る世紀の大悪党にされるんじゃねぇの?知らねぇけど。
「それが、『天竜人は絶対だから』っていうこの海のクソみたいな仕組みだ」
「......でも、リオは絶対にしらほしを差し出したりしないでしょ?......さすがに、殴ってはくれないかもしれないけど」
おいおいおいおい、ちょっと待て。誰がそんな弱気なことを言った?
「殴るに決まってんだろ。相手が天竜人だとか、僕に何か関係あるか?どうせこれから懸賞金がかかれば、どの道僕たちは海軍から追われる身になるんだ」
僕たちは、自由な海賊だからな。
「新聞で極悪人と報じられても、何1つ問題ねぇ」
だって、僕たちは最初から悪党──海賊だからだ。
「あいつは今、僕の目の前で、僕の大切な仲間を『奴隷』と『奴隷同然の妻』にしようとしたんだぜ?これで殴らない理由がどこにある?」
「......本当に殴ってくれるの?私のために」
お前は僕のことを、権力にビビるような腑抜けかなんかだと思ってんのか?
確かに僕は、クソ親父が仲間に殺された時、島にいる海賊たちをまともに相手にしたくなくて樽に入って逃げた。だがそれは、あいつらと争っても僕が手に入れられるものが何1つなかったからだ。既に僕がクソ親父の全財産をヌマの中に持っているのに、わざわざ命懸けで何も持ってない雑魚どもと戦う意味がねぇだろ?
その証拠に、エレジアではあの『白ひげ』と真っ向から戦った。エレジアという僕たちが1から作り上げた国と国民を失わないために。そこに守らなくちゃならねぇ価値あるものがあったから、僕より遥かに強い世界最強の男と戦うことに一切の迷いはなかった。
反して、ビッグ・マムからは迷わず距離をとった。今の段階でビッグ・マムに僕の生存がバレてもいいことが1つもねぇ。
だから、一旦新世界からこの偉大なる航路の前半まで身を引いた。確かな実力と勢力をつけてから新世界に戻り、僕に対して干渉できなくするために。
僕は基本、得るものがない無駄な戦いはしねぇ。常にメリットとデメリットを天秤にかけて行動を選択する。
まあ、時折どうしても譲れねぇ例外とか、その時の気分もあるがな。
そこで、よく考えてみろ。今ここで天竜人を殴るメリットを。
第1に、僕が最高にスッキリとした気分になれる。
第2に、派手に指名手配されて高い懸賞金をかけられれば、今後無駄な雑魚海賊との面倒な戦闘を大幅に減らせる。
第3に、世界に『レイヴン・リオ』の知名度が手に入る。
そして何より──しらほしとウタを僕から奪おうとしている目の前のゴミをぶちのめせて、ウタも喜んでくれる。
デメリットなんか実質ない。海賊が海軍に追われるのは当たり前。世間から恐れられるのも当たり前だ。
「殴るに決まってんだろ」
僕は冷たく言い放ち、1歩前へと踏み出す。
「大体、こんなゴミみたいな天竜人がいつまでも偉そうにふんぞり返ってるのは、守ってる海軍も悪りぃが、海を支配してるはずの『四皇』と『王下七武海』もダメだからだよな」
「王下七武海なんざ、世界政府の飼い犬に成り下がった、プライドだけ1丁前の海賊どもで、本物の権力に逆らう度胸がねぇ」
「要するに『負け犬』の別称だろ?王下七武海ってのはよ」
「四皇にしたってそうだ。自分の支配国に引きこもってるババアと化物。自分の育てた子どもを平気で島に捨てるゴミ。あの白ひげでさえ、『めんどくせぇ』って理由で天竜人との衝突を避けている」
「そんな現状維持に甘んじた腰抜け共が『海の皇帝』なんて呼ばれてるから、この世界はいつまでも腐り続けてるんだ。僕とあいつらを一緒にするな。世界の権力に正面から逆らう度胸がねぇのは、四皇も七武海も変わらねぇ」
まあ、今はまだそいつらと全面的にぶつかりたくねぇから、僕は新世界からこっちの海に来たわけだが。まずはこの偉大なる航路の前半で、世界政府非加盟国を次々と僕の支配下に入れ、大量の傘下を作って──僕が『海賊王』になるための絶対的な土台を固める。
「しらほし。お前が勇気を出して僕と仲間になる道を選んだ以上、僕が誰かにお前を渡すことなんて天地がひっくり返ってもねぇよ。お前自身の希望で僕から離れない限りな。──けど、そのうるせぇ泣き虫はそのうち直せよ」
「は、はいっ!ありがとうございます、リオ様!」
「そしてウタ。今まで、僕がお前の期待に応えなかったことが1度でもあるかよ。ねぇだろ?」
「うん!リオは絶対に私の願いを叶えてくれる!どんな凄い権力になんて、絶対にひれ伏したりしないよね!」
いつの間にか黒服の護衛どもを全員僕のヌマに沈められ、1人ぼっちで喚き散らしている天竜人に、僕はゆっくりと近づく。
「ち、近寄るんじゃねぇえ......!わちしを誰だと思って......!」
守ってくれる護衛を失い、無様に地面を這いずり回りながら喚き散らすゴミ──天竜人の目の前に、僕は歩み寄る。
そして、迷いなく殴る。殴る。殴る。殴る。
最後に顎を思い切り蹴り飛ばし、硬い地面にその醜い顔面を叩きつける。
パリンッ!と空気を遮断していた宇宙服のような特製ヘルメットが派手に砕け散り、下品な鼻水と赤い血が混ざり合ってマングローブの地面が汚れていく。
周囲で見ていた人間たちは恐怖に顔を真っ青にし、呼吸することすら忘れているようだが、僕の心は驚くほど静まり返っていた。堕落しきった自称・神様はよ、誰かが討伐する必要があるよな?
「ハッ、ちっとも怖くねぇんだよ。テメェら天竜人なんざ、僕にとってはただの脆い肉塊だ」
僕は足元でピクピクと惨めに痙攣するゴミを、僕は冷たく見下ろした。
これで、僕たちは正式に『世界の敵』になった。
だが、それがどうした?これからは僕たちが法だ。僕たちがルールだ。僕たちの行く先に立ちはだかるなら、相手が神だろうが海軍大将だろうが全員ぶちのめす。誰だろうと一切関係ねぇ。
「──おい、そこで震えて見てるテメェら。僕たちがこの島を出航して30分が経過してから海軍に通報しろ。通報が遅れた理由は『凶悪な海賊に命を脅されたから』とでも言っておけ」
周囲の連中は、僕の言葉にコクコクと首を縦に振って従うしかない。あの天竜人を一切の迷いなく半殺しにする僕に、一般人が逆らうことなんてできるはずがねぇからな。
本来なら黒服の護衛どもが即座に大将を通報してるんだろうが、そいつらはもう僕のヌマの底で全員死んでる。
──って、おいウタ。お前はなんでさっきからそんなうっとりとニヤニヤしながら僕のことを見てんだよ。
「えへへ、なんでもなーい!ありがとう、リオ!」
「......フン。さて、テメェのことはこれから最大限に利用してやるよ。尊き天竜人様よォ」
足元にヌマを広げ、気絶した天竜人をズブズブと体内に取り込んで保管する。さてどうすっか、このままヌマの中で適度に窒息を繰り返して痛めつけるか、それとも人質や交渉カードとして何もせずに生かして保管しておくか迷うな。
いっそ恐怖を刷り込んで徹底的に調教し、僕に絶対服従させるか?それとも、頃合いを見て使い捨てるか......まあ、すぐに決めなくてもいいか。
「親父、これ見るよい!シャボンディでとんでもなくド派手なことやってるよい!」
「あん?なんだマルコ、朝っぱらから騒々しい」
差し出された今朝の新聞の1面には、世界中を震撼させる特大の見出しが躍っていた。
【超弩級の不敬】聖地を嗤う『不遜王』現る!天竜人への凄惨な暴行と、世界秩序への宣戦布告!!
■シャボンディ諸島に築かれた『100の屍』
昨日、シャボンディ諸島にて未曾有の残虐事件が発生した。観光地の路地裏から次々と発見される無法者たちの死体は既に100体を超え、検死の結果、その全てが奇妙なことに『窒息死』を遂げていることが判明した。
犯人は新進気鋭の海賊『不遜王』レイヴン・リオと思われる。現場の目撃者の証言によると、リオは世界貴族である天竜人を公衆の面前で『世界の膿』と断じ、一切の躊躇なく殴る蹴るの暴行を加えたという。
さらに、同行する『破滅の歌姫』ウタと共に、直前に立ち寄った魚人島にてリュウグウ王国の人魚姫を『誘拐』したという情報も入っている。
■「四皇も七武海も腰抜けだ」──既存勢力への凄まじき罵倒
目撃者のさらなる証言によると、不遜王リオは血塗れの天竜人を足蹴にしながら、現在の海を支配する強者たちを公然と嘲笑したという。
『王下七武海は、プライドだけは1丁前の政府の飼い犬。四皇は自分の縄張りに引きこもっているジジイとババアの集まり。そんな権力に逆らう度胸もない腰抜け共を恐れる理由がどこにある?』
この傲慢不遜極まりない態度は、単なるルーキー海賊の暴挙を超え、世界政府の根幹、ひいては現在の世界のパワーバランスそのものを真っ向から否定する『思想的テロ』であると政府高官は強く警鐘を鳴らしている。
■最新の指名手配:世界を揺るがす【最悪の王室】
【船長:『不遜王』レイヴン・リオ】
懸賞金:2億ベリー(DEAD OR ALIVE)
罪状:リュウグウ王国・人魚姫の誘拐、天竜人への直接暴行および拉致、シャボンディ諸島における100名以上の殺害、および国家転覆を示唆する危険言動。
【音楽家:『破滅の歌姫』ウタ】
懸賞金:1億5000万ベリー(DEAD OR ALIVE)
罪状:人魚姫誘拐、天竜人暴行の教唆、および不遜王リオの共犯。
【ペット兼人質:『アイス大好き』しらほし】
懸賞金:2000万ベリー(ALIVE ONLY)
備考:不遜王と破滅の歌姫に拉致されたと見られる巨大な人魚姫。現場では周囲の混乱に恐怖で震えて泣きながらも、特大のアイスを夢中で頬張るという極めて不可解な行動が目撃されている。
世界政府は彼女を事件の重要参考人とし、早急な保護のために『生け捕り(ALIVE ONLY)』を厳命している。
「グラララララッ!あのハナッタレ、初めての指名手配でいきなり2億超えか!あの小娘まで1億5000万とは、景気のいい船出じゃねぇか!」
「親父、笑い事じゃないよい!天竜人を殴っただけじゃなく、そのまま拉致して逃げてるんだよい!」
「天竜人をぶちのめして攫っちまうとはな。痛快な小僧だ」
「親父がエレジアに4ヶ月も滞在して直々に鍛えてやったから、変な自信をつけちまったんじゃないかよい?」
「にしても、直々に稽古までつけてやった俺のことを『引きこもりのジジイ』呼ばわりか──おいマルコ、たまには気分転換に『偉大なる航路』前半の海に俺たちも行ってみるか?」
「バカ言うなよい!親父が動いたら新世界のバランスが完全に崩れるよい!」
「......そうか」
「やれやれ、親父は本当にあの生意気な2人を気に入ってるよい。まあ、俺たちもあいつらのことは嫌いじゃないけどよい」
新世界・ホールケーキアイランド。
「この『レイヴン・リオ』って名前──どこかで見たことがあると思ったら、昔死んだジョンの倅じゃねぇか!マママッ!確か生前、あいつはうちの子と婚約の約束をしていたはずだよな......この威勢のいい小僧をうちの家族に引き入れれば、誰も見つけられなかったキャプテン・ジョンの莫大な宝は全て私のものさ!おいお前たち、今すぐ船を出せ!行くぞ、『偉大なる航路』前半の海に!」
「まずは情報網を使って、電伝虫で本人に直接連絡を取ってみるのはどうだろうか?」
新世界・鬼ヶ島。
「......ウォロロロロ!行くか、『偉大なる航路』。久しぶりに骨のある面白そうなガキが出てきたじゃねぇか」
「待て、カイドウさん。あんたの気まぐれな独断行動は、せめて新世界の縄張り内だけにしてくれ」
とある海域・赤髪海賊団。
「元気なルーキーが......って、おい、この隣に写ってる『破滅の歌姫』って......ウタ!?なんであいつがこんな凶悪な海賊と一緒にいるんだ!?」
偉大なる航路・とある古城。
「ふむ、ちょうど退屈して暇をしていたところだ。この『不遜王』とやらが剣士なら嬉しいが......」
魔の三角地帯・スリラーバーク。
「キシシシシッ!なんだこの生意気なガキどもは!1発で2億と1億5000万だと!?こいつらの影を奪って、俺の最強のゾンビにしてやりてぇなぁ!」
女ヶ島アマゾン・リリー。
「天竜人を公衆の面前で殴って、蹴って、そのまま攫った......じゃと?まだ幼い子供に見えるが、この海にそのような気概のある人間が、男がいたのじゃな。もしこの先も政府の追手を振り切って死なずに生き残れるのであれば、1度直接言葉を交わしてみたいものじゃ」
魚人島・竜宮城。
「しらほし姫を誘拐などと──絶対に逃さんぞ!」
「ジンベエさん!しらほし姫を助けてください!!」
迫り来る四皇は?
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お見合い催促ビッグマム海賊団幹部
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寂しがり屋カイドウ
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自称親父白ひげ
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娘を救いに来た赤髪海賊団