んじゃ、時雨の決闘行きま~す。
行ってらっしゃい。
『決闘!』
クロノス
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
時雨
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「今度の先行は私。ドローニョ」
クロノス
手札:5→6
(手札には既に『古代の機械巨人』が来ていまスーが、最初のターン攻撃はできませんーノ……)
「『古代の機械兵士』を召喚」
『古代の機械兵士』
レベル4
攻撃力1300
「カードを一枚伏せ、ターンエンドなのーネ」
クロノス
LP:4000
手札:4枚
場 :モンスター
『古代の機械兵』攻撃力1300
魔法・罠
セット
クロノスのエンド宣言を聞いたことで、その病的な少女もまた、デッキに手を伸ばした。
「私のターン、ドロー……」
時雨
手札:5→6
白く、細い指先を添え、カードをドローする。たったそれだけで、倒れてしまうのではないかと思うほど、彼女の体は震えた。誰もがそんな心配を向ける中、それでも彼女は、立っていた。
そして、最初のターン、思案していた照とは違い、彼女の次の行動は、迷いが無かった。
「私は、『スコール・ソルジャー-サツキ』を召喚します」
『スコール・ソルジャー-サツキ』
レベル4
攻撃力1500
現れたのは、青い衣装を纏った青年。日本的な印象を与えながら、肩から下の腕と、腹部を露出させた軽快そうな服と、同じく青い、だが軽そうな長ズボン。そこに、また服と同じく青色の靴を履いた、少年の戦士。
(攻撃力1500。大した脅威ではありませんーノ)
クロノスが、再びそうほくそ笑んだ、その瞬間だった。
「サツキのモンスター効果を発動」
「ニョ?」
時雨が宣言したと同時に、無機質な照明以外に何も無い天井が、一瞬で厚い黒雲に覆われた。そして、会場にスコール――バケツをひっくり返したような大雨が突然降り出した。
「これは……!」
「『スコール』モンスターは召喚に成功した時、デッキから、スコールと名の付くモンスターを、可能な限り特殊召喚しなければなりません。現れなさい、デッキに眠る雨たちよ!」
そして、先に召喚されたサツキと共に、新たなモンスター達が、黒雲の空から舞い降りた。
「二体目の『スコール・ソルジャー-サツキ』! 二体の『スコール・ダンサー-ミナ』! そして、『スコール・プレッシャー-フミ』!」
その宣言で、新たに四体のモンスターが出現した。
『スコール・ソルジャー-サツキ』
レベル4
攻撃力1500
『スコール・ダンサー-ミナ』
レベル4
攻撃力1200
『スコール・ダンサー-ミナ』
レベル4
攻撃力1200
『スコール・プレッシャー-フミ』
レベル4
攻撃力700
最初の一体と同じく、青色の軽装を纏った『サツキ』。
衣装の見た目はほぼ同じだが、紫色で、更に、外側の太ももを露出させた、女性である二体の『ミナ』。
そして、二人とは違い、顔以外の露出がほとんどない、緑色の衣装を着た、水晶玉を持つ幼い少女の姿を取った『フミ』。
「こ、これは……!」
「ただ、この効果を使用したターン、私はスコール以外を特殊召喚できなくなりますが……」
「すげえ! 一度にモンスターを五体並べたぞ!」
「すごい! あんなに展開するなんて……」
「スコール……いや、待て。確か、あのカードには……」
誰かが気付いたように、そう、焦りのような声を上げたが、既に遅かった。
「スコール達の効果。このカード達は特殊召喚した時、私は一体につき、300ポイントのダメージを受けます」
「なぬぅ……!」
クロノスもまた、驚きの声を上げるが、その時には、天井に広がる黒雲が白く光り、ゴロゴロという音を響かせていた。
そして、巨大な雷鳴と共に、四つの落雷が時雨に降り注いだ。
「うぅっ……!」
時雨
LP:4000→2800
ライフ1200。決して安くないダメージだが、健全な人間なら、大した威力ではない衝撃だろう。だが、病的な彼女にとって、それは大きな衝撃となり、足をふらつかせ、ひざを曲げさせる。
「だ、大丈夫なのーネ!?」
「……大丈夫、です……」
それでも、彼女はふらつく足でどうにか踏ん張り、クロノスを見据えた。
「……『スコール・ソルジャー-サツキ』の効果。このカードが場に存在する限り、フィールド上の水族モンスターは、フィールド上のスコールの数の100倍、攻撃力をアップさせます」
「ンガ!」
「スコールはフィールドに五体。そして、スコール達は全員が水族。よって500ポイント。更に、サツキはフィールドに二体。合計1000ポイント、それぞれ上昇」
『スコール・ソルジャー-サツキ』
攻撃力1500+(100×5)×2
『スコール・ソルジャー-サツキ』
攻撃力1500+(100×5)×2
『スコール・ダンサー-ミナ』
攻撃力1200+(100×5)×2
『スコール・ダンサー-ミナ』
攻撃力1200+(100×5)×2
『スコール・プレッシャー-フミ』
攻撃力700+(100×5)×2
「1000ポイント!?」
「更に、『スコール・ダンサー-ミナ』の効果。フィールド上のスコール一体につき、フィールド上の水族以外のモンスターの攻撃力を、100ポイントダウンさせます」
「な!?」
「『古代の機械兵』は、水族ではなく機械族です。よって、合計1000ポイントダウン」
時雨のその宣言により、豪雨の中に立っていた機械兵の体は、一瞬で錆びつき、まともに立つことすらできなくなってしまった。
『古代の機械兵』
攻撃力1300-(100×5)×2
「こ、攻撃力300……」
「バトルです」
「ニョ!」
クロノスが呆然とする間に、時雨が言い、そして、スコール達に命を下した。
「『スコール・ソルジャー-サツキ』で、『古代の機械兵』に攻撃!」
だが、その攻撃を、クロノスは良しとはしなかった。
「罠発動『重力解除』!」
セットされていた罠が展開し、サツキの攻撃を合図に、時雨のフィールドのモンスター全てを跪かせる……はずだった。
「んあ?」
確かに、操作したはずの罠が、発動する気配は無い。
「な、何なのーネ? なぜ発動しないのーネ?」
その疑問に、答えたのは時雨だった。
「『スコール・プレッシャー-フミ』の効果。フィールド上にスコールモンスターが五体以上存在する時、相手は水族モンスターが攻撃する間、魔法・罠カードを発動することができません」
「何でスーと!?」
その説明を受け、サツキは問題なく、『古代の機械兵』を破壊した。
「アガー!?」
クロノス
LP:4000→1800
「ぐぅ……」
大きなライフダメージを喰らい、クロノスもまたふら付くが、それでも、再び伏せカードに手を伸ばした。
「ならば、攻撃前のこのタイミングで発動するのーネ! 罠発動『重力解除』! フィールド上のモンスター全ての表示形式を変更するのーネ」
「……」
クロノスが発動させたカードにより、攻撃の態勢を構えていた全てのスコール達は、今度こそそのひざを着かせた。
『スコール・ソルジャー-サツキ』
守備力300
『スコール・ソルジャー-サツキ』
守備力300
『スコール・ダンサー-ミナ』
守備力200
『スコール・ダンサー-ミナ』
守備力200
『スコール・プレッシャー-フミ』
守備力100
「これ以上攻撃はできませんね……私はカードを一枚伏せて、ターンエンドです」
時雨が、エンドを宣言した時だった。
「こ、これは……!」
「え?」
「なんだ?」
ターンエンドと同時に、フィールドに降り注いでいた豪雨は、徐々にその勢いを無くしていった。やがて、次第に雨は止み、空に掛かっていた黒雲は晴れていく。
同時に、フィールドに並んでいたスコール達はその姿を消していき、晴れた雲から漏れた木漏れ日が、クロノスを包んだ。
「……フィールドに存在するスコール達は、ターン終了と同時に破壊されます。そして、このカード達が破壊された時、一体につき、相手は400ポイントのライフを回復します。フィールドにいたスコール達は五体。よって、合計2000ポイント回復します」
「そ、そうだったのーネ……」
クロノス
LP:1800→3800
「え? 相手を回復させちゃうの?」
「そうだ、思い出した。スコール。確かに強力な展開力と効果を持ったカード達だが、自分へのダメージと、一ターンしか場に残らない場持ちの悪さ、そして、破壊と共に相手を回復させてしまうデメリットから、登場して間もなく敬遠されていったモンスター達だ」
「おまけにそれぞれのモンスターが強力な効果を持つが、そのほとんどが攻撃を最優先にした効果で、守備に向いたカードはほとんど無い。一撃必殺を狙える凶悪な爆発力を秘めている代わりに、防御の一切を捨てざるを得ないカード達。それがスコールだ」
「……確かに、今の彼女のフィールド、カードは伏せられてるけど、それ以外はがら空きだものね……」
客席に座る生徒達が、そんな会話を進める。その間に、ターンは時雨から、クロノスへと移る。
時雨
LP:2800
手札:4枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
クロノス
LP:3800
手札:4枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「……少々驚きましたーが、あなたのフィールドはがら空き。一気に攻めさせていただくのーネ。私のターン、ドローニョ」
クロノス
手札:4→5
「私は『トロイホース』を召喚」
『トロイホース』
レベル4
攻撃力1600
現れたのは、名前の通り、『トロイの木馬』を模した馬型のモンスター。
「更に、魔法カード『
『古代の機械巨人』
レベル8
攻撃力3000
再び現れる機械の巨人。がら空きのフィールドから、時雨はそれを見上げる。
「……照との決闘でも見ていましたが、さすがに間近で見ると、迫力が違いますね……」
力の籠もらない声でそう漏らす。その目には、羨望や、感動といった感情を宿していた。
「バトル! 『古代の機械巨人』でダイレクトアタック! アルティメット・パウンド!」
照との決闘でも見られた光景。機械巨人の巨大な拳が放たれる。一つ違うのは、照の時が、守備モンスターに対して放たれたもの。
そして今は、フィールドががら空きの時雨目掛けて、放たれているということ。
「きゃあ!」
「危ない!」
ほとんどの生徒が、その光景に、そんな悲鳴を上げた。先程からずっと見ている、普段から目にしている
それなのに彼らが慌てて、悲鳴を上げるのは、ひとえに、目の前で決闘を行う少女の、病弱ゆえの危なげのせいだろう。
だが、それでも、
「リバースカード、発動……」
彼女はそんな声など、悲鳴など、心配など掻き消してしまおうと、伏せていたカードを発動させた。
「速攻魔法『通り雨』。手札からスコールを一体、通常召喚します。私は手札の『スコール・プレッシャー-フミ』を召喚」
『スコール・プレッシャー-フミ』
レベル4
攻撃力700
「む、ここでスコールを、通常召喚ということは……」
「ええ。これで再び、スコールのモンスター効果が発動します。私は手札、デッキに眠る、四体のスコール達を強制召喚します」
再び天上が厚い雲に覆われる中で、静かに宣言しながら、手札から一枚、デッキから三枚のカードを取り出し、ディスクにセットする。
「来なさい、私の雨達よ。三枚目の『スコール・ソルジャー-サツキ』、『スコール・ダンサー-ミナ』、『スコール・プレッシャー-フミ』、そして通常モンスター『スコール』」
そして、再び現れた、三人の民族衣装を纏った若者達。だがそれに混じって、小さな黒い雲が一体、現れた。
『スコール・ソルジャー-サツキ』
レベル4
攻撃力1500
『スコール・ダンサー-ミナ』
レベル4
攻撃力1200
『スコール・プレッシャー-フミ』
レベル4
攻撃力700
『スコール』
レベル4
攻撃力1550
「あれ? なんか、一体だけ他のと違うよ」
「ああ。あれは通常モンスターの『スコール』。確か、決闘モンスターズの最初期に生まれたカードの一枚だ。かなり古いカードだが……なるほど、確かにあれも、紛れもない『スコール』だな……」
「くぬぬ……また五体のモンスターが。しかも、一体は通常モンスター……」
「ええ。通常モンスターである『スコール』には、他のスコール達が持つダメージや回復、自壊効果を持ちません。ですので、先のターンよりもそれらは少なくなります」
「しかし、それでもダメージは発生するのーネ……」
「はい。通常モンスター以外のスコール達の効果により、一体につき300ポイント、計900ポイントのダメージを受けます」
そしてまた、同じ光景だった。空を覆う黒雲から、三つの落雷が時雨を襲った。
「くぅぅあぁ……!」
時雨
LP:2800→1900
「はぁ……はぁ……」
落雷の衝撃により、思わず息を切らしてしまう。
だが、それでもクロノスを見据えた。
「……そして、サツキとミナの効果が発動します……それぞれ、水族モンスターの攻撃力を500ポイントアップ、水族以外のモンスターの攻撃力を、500ダウンです……」
「ぐぬぬ……」
『スコール・プレッシャー-フミ』
攻撃力700+(100×5)
『スコール・ソルジャー-サツキ』
攻撃力1500+(100×5)
『スコール・ダンサー-ミナ』
攻撃力1200+(100×5)
『スコール・プレッシャー-フミ』
攻撃力700+(100×5)
『スコール』
攻撃力1550+(100×5)
『古代の機械巨人』
攻撃力3000-(100×5)
「さあ……どれを、攻撃しますか……?」
「むむぅ……」
度重なるダメージに、披露と息切れを見せ始めているが、それでも彼女は、敢えて余裕を見せつけるよう、クロノスに笑い掛けた。
そしてクロノスもまた、そんな彼女の笑顔に、ある種の恐怖を覚えながら、それでもその言葉には思案せざるを得ない。
勝つために、相手のライフをゼロにするには、ライフポイントを削るしかない。そして、そのための最も効率的な方法が、戦闘ダメージを与えること。ここでそれを狙わなければ、少なくとも次のターンまで待たなければならない。
だが、だからと言って、どのモンスターを戦闘破壊してもいい、というわけではない。
どのモンスターを倒せばよりダメージを与えられるか。それ以上に、どのモンスターを倒せば後の展開でより優位に立てるか。それこそが、決闘では真ぶ重要なことだからだ。
(単純にダメージを狙うなら、最も攻撃力の低いフミを破壊するべきなのーネ。しかし、スコールモンスターは放っておいても効果で自壊し、おまけに私のライフを回復させてくれるモンスター。それに対し、通常モンスターである『スコール』はそれらの効果を持たない。むしろ、フィールドに残しておくと、後々厄介になるかもしれまセーン……ならば!)
「私は『古代の機械巨人』で、通常モンスターの『スコール』を攻撃! アルティメット・パウンド!」
「ええ。そうせざるを得ませんよね……」
時雨が、嬉しそうに呟く中で、人型の四体の中に混ざる唯一の『雲』、『スコール』は、その巨大な鉄の拳の餌食となってしまった。
時雨
LP:1900→1450
「うぅ……」
(これで良いのーネ。ライフ的には、もう一度だけスコール達の特殊召喚を許してしまいまスーが、通常モンスターの『スコール』を召喚した所を見るに、既に彼女のデッキのスコールモンスターは底を突きかけているのーネ。ならば、今は防御の芽を摘んでおくのが得策。既に彼女のデッキにスコールモンスターが無いのなら、次の私のターンでとどめを刺せるのーネ……)
「私はこれでターンエンド」
「……残った四体のスコール達の効果です。全員を破壊し、クロノス先生のライフを、合計1600ポイント回復させます……」
前のターンと同じ光景が広がる。フィールドにいたスコール達が消え、同時に空の雨が上がり、黒雲が晴れ、そこから溢れる木漏れ日がクロノスを包む。
クロノス
LP:3800→5400
クロノス
LP:5400
手札:1枚
場 :モンスター
『古代の機械巨人』攻撃力3000
魔法・罠
無し
時雨
LP:1450
手札:2枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「はぁ……はぁ……」
「あの人、苦しそうだ……」
「まだ、決闘続けるのかな……」
「もう無理だろう……」
周囲からは、息を切らし、額に汗を光らせながら、か細い二本の足でかろうじて立っている、時雨に対する同情の声が上がっていた。
だがそれも無理は無い。この色白の可憐な少女は、暴風雨どころか、そよ風が吹いただけでも倒れてしまいそうなほど、弱っている。
ただでさえ、娯楽ではあるが、立ちっぱなしの状態で、頭と体を使うことで、見た目以上の疲労とストレスをはらむカードゲームに、幾度ものライフダメージが重なったのだ。
健全な人間でも音を上げてしまいそうな状況の中、それでも、移動に車椅子が必要なほど脆弱なはずの少女は、やめる素振りも見せず、立っているのだから。
「……それ以上は無理なようなーら、ここでサレンダーしてもよろしいのーネ」
再び、クロノスは親切心から、そんな提案を出す。
サレンダー。降参。文字通り、決闘の敗北を自ら認め、これ以上の勝負を放棄する行為。
「あなたの決闘に対する姿勢と、華麗なタクティクスは見せて頂きましたのーネ。筆記試験の成績も、全体で二位と最高。ここでサレンダーしても、アカデミアの合格は間違いありまセーン。ですから、サレンダーしたとしても、あなたが咎められることは無いのーネ」
そしてそれは、クロノスだけでなく、この決闘を見ているほとんどの者が感じていることだろう。
これだけやったのだ。筆記でも優れていたのだ。だから、もう十分だ。彼女の辛そうな姿に、誰もがそう感じてしまっていた。
だがそれは、あくまで『ほとんどの者』。決して、この海馬ドームに集う、『全員』ではない。
「……私の、ターン……」
時雨
手札:2→3
返事をする代わりに、彼女はカードをドローした。
「ま、まだ続けるのーネ……!」
「……
そう、笑顔で言う。そして、その笑顔に、
「……!」
「……」
会場を囲む生徒達は、息を呑んだ。
そして、そんな時雨は、引いたカードを見る。見て、笑った。
「良いカードを引きました。私は魔法カード『貪欲な壺』を発動します」
「『貪欲な壺』……!」
「ええ。ご存知ですよね。墓地のモンスター五枚をデッキに戻してシャッフルし、その後カードを二枚、ドローするカード……私が戻すのは、これらです……」
時雨が墓地のカードを取り出すと、彼女の頭上に五枚のカードが表示された。
『スコール・ソルジャー-サツキ』
『スコール・ソルジャー-サツキ』
『スコール・ソルジャー-サツキ』
『スコール・ダンサー-ミナ』
『スコール・ダンサー-ミナ』
「く、その五体とは……」
「これらのカードをデッキに戻し、シャッフル。そして……」
シャッフルしたデッキをディスクにセットし、そこに指を掛ける。
「この二枚のドローでスコールモンスターをドローできなければ、私の敗けです……」
誰もが理解していることを、敢えて言葉にする。このドローに全てを賭けるために。そのドローに、運命を託すために。
「……ドロー」
時雨
手札:2→4
「……」
「……」
『……』
会場を、沈黙が包む。その中で、時雨は手札を見ながら、言った。
「……私の手札に、スコールモンスターは存在しません」
「……!」
「マジかよ!」
「そんな……!」
驚きと、落胆。沈黙の次に会場を包んだ、それらの感情の声。
そして、そんな会場の中で一人だけ、クロノスは、笑っていた。
「ならば、この決闘、私の勝ちのよう……」
「ですので、新たに呼び込ませて頂きましょう。速攻魔法『リロード』。手札を全てデッキに戻し、その枚数分、カードをドローします」
「なんでスーと!!」
クロノスが驚く間に、時雨は残る手札三枚をデッキに戻し、シャッフルしていた。そしてそこから、新たに三枚のカードをドローした。
「……来ました」
「んな!?」
引いたカードを見ながら、こちらへ笑みを向ける、病弱の少女。時雨はその笑顔を絶やすことなく、手札のカードをディスクにセットした。
「来なさい。『スコール・ダンサー-ミナ』!」
『スコール・ダンサー-ミナ』
レベル4
攻撃力1200
「そして、仲間と共にフィールドに降り注げ! デッキに眠る雨達よ!」
『スコール・ソルジャー-サツキ』
レベル4
攻撃力1500
『スコール・ソルジャー-サツキ』
レベル4
攻撃力1500
『スコール・ソルジャー-サツキ』
レベル4
攻撃力1500
『スコール・ダンサー-ミナ』
レベル4
攻撃力1200
「そして、特殊召喚されたスコール達の効果により、私は合計1200ポイントのダメージです」
計四つのそれらが、形を作り、地上に向かって、その光の腕を伸ばした。
小鳥遊時雨。彼女という、地上に向かって……
「うぅ……ああああぁぁぁぁ……!」
時雨
LP:1450→250
再び降りしきるダメージ。上がる悲鳴。そして、傾く彼女の体。
『ああっ!』
そんな彼女の姿に、会場の生徒達は、一斉に声を上げた。そしてそれは、今まで一人、決して声を上げることの無かった者。
「姉ちゃん!」
肉親である、照さえ叫ぶほどの事態だった。
それほど慌てていたから、照は反射的に、決闘場へ上るための翔階段へ足を掛けていた。
しかし、
「だい……じょう、ぶ……」
「……!」
力の無い声で、それでも、確かな安心を与えるための声で言いながら、時雨は、照に手を向け、静止を促す。
「だいじょうぶ……大丈夫、だから……照は、私のこと信じて、待ってて……」
「姉ちゃん……」
まるで、母親が子供をあやすような愛情が、そこにはあった。その言葉に従い、全てを信じたくなり、委ねたくなる。それほどの力を持った、笑顔だった。
「……」
焦りの表情は拭えない。それでも照は、決闘場に乗せていた足を下ろし、元の位置に戻った。
それを見届けた時雨も、再びクロノスに目を向ける。
「ここで、スコール達のモンスター効果が発動します。説明は、もう不要ですね……」
「……」
『スコール・ダンサー-ミナ』
攻撃力1200+(100×5)×3
『スコール・ソルジャー-サツキ』
攻撃力1500+(100×5)×3
『スコール・ソルジャー-サツキ』
攻撃力1500+(100×5)×3
『スコール・ソルジャー-サツキ』
攻撃力1500+(100×5)×3
『スコール・ダンサー-ミナ』
攻撃力1200+(100×5)×3
『古代の機械巨人』
攻撃力3000-(100×5)×2
『古代の機械巨人』の攻撃力が1000にまで下がり、スコール達はそれぞれの攻撃力を1500ポイント上昇させる。
逆転勝利。今日だけで三度目の、生徒相手の敗北。
それでも、クロノスの表情に、悔しさや、憤りと言った、負の感情は見られなかった。
見られるのは、素晴らしい決闘を見られたことへの清々しさと、病弱を理由に決して退くことのない、強い少女の姿への、感動だった。
「バトルです……」
微笑みながら、豪雨に見舞われたフィールドを見渡す。そこに立つ少女は、弱々しい体が嘘のような強さを総身に溢れさせ、堂々と、最後の宣言を行った。
「『スコール・ソルジャー-サツキ』で、『古代の機械巨人』に攻撃!」
機械兵士の時と同じく、サツキに破壊される機械巨人。
それによって削られる、クロノスのライフ。
クロノス
LP:5400→3400
「そして、残る四体のスコールで、ダイレクトアタック!」
最初に攻撃したサツキを除く、四体のスコール達が、一斉にクロノスへ向かっていった。
「大天瀑布!」
それぞれのモンスターの、それぞれの攻撃。それが、寸分の狂いなく、クロノスを捕らえた。
クロノス
LP:3400→0
「……ありがとう、ございました……」
受験生を相手に喫した、よもやの三連敗。
そんな屈辱の中にありながら、それでも感慨深そうに、目を閉じるクロノス。
そんなクロノスに、時雨もまた照と同じように、礼を言う。そして、踵を返した。
「……はぁ……」
だが、たった一回の決闘で、彼女の体力も相当に削られたらしい。歩きながらもふら付くその姿は、見ている者達にとって、痛々しく、苦々しい光景だった。
「……はぁ……はぁ……」
それでも、彼女は足を止めることはしなかった。ふら付く体に鞭を打ち、二本の足を前へと進め、歩いていく。そこで待っている、弟の元へ。
「照……」
小階段まで辿り着き、そこで、半ば躓き、飛び込むように、目の前の照へ体を預ける。
それを照は、しっかりと抱き止めた。
「大丈夫か?」
「うん……大丈夫」
「良い決闘だった」
「……本当は、最初のターンで、格好良くワンターンキルを狙ってみたかったけど……やっぱり、先生って強いんだね。照と違って、ギリギリになっちゃった……」
「……それでも、開始の時より増えたライフポイントを一度に削ったんだ。俺には真似できない」
「……ありがとう」
抱きしめ、頭を撫でてやりながら、そう会話をして、再び車椅子に乗せる。
「帰るか」
「うん……」
そして、二人は元来た道を、戻り始めた。
カタ、カタ、カタ、カタ……
そんな、車椅子の音を、再び会場に響かせて……
『……』
去っていった双子の姉弟。
思い起こせば、その二人の決闘は、あまりに対照的だった。
たった一体をフィールドに残す。そして、新たなターンの開始と共に、姿を変え、能力を変え、その度に、戦術を変え、適格に、堅実に、守りを固め、時間を掛け、最後は、その一体の最強モンスターで勝負を決める。
強い体から、鋭い眼差しを向けながら、自分からは、決して激しく動くことはせず、静かなカードプレイでクロノスを手玉に取り、ノーダメージで勝利した。
堅牢な、寡黙の少年『小鳥遊 照』。
たった一体をフィールドに出す。それを合図に、大量のモンスターをフィールドに並べ、自身を強化し、敵を封じ、激しく、大胆に、防御を捨て、短期決戦に懸け、大量のモンスター達で相手を蹂躙する。
それと引き換えに、病弱な体にとっての過酷な代償を、全てその小さな体で受け止め、ライフをギリギリまで削り、倒れかけながらも、クロノスを打倒して見せた。
超攻撃的な、病弱の少女『小鳥遊 時雨』。
正に、二人の名前と、使用するデッキが、全てを物語っているようだった。
照と時雨。弟と姉。
光と雨。守りと攻め。無表情と笑顔。健全と病弱。強さと儚さ。永遠と一瞬。
双子でありながら、顔も、外見も、印象も、性格も、状態も、そして決闘も。何もかもが対照的な、強い二人の決闘者が残したもの。
それは、衝撃と、驚愕と、沈黙と、脅威。
そして、そんな二人が、これからアカデミアにもたらすもの。
それは、まだ、誰も知らない。
ただ、二人は前に進むだけだった。一人の足で。それでも二人で。ただ前へ、進んでいくだけだった。
今、この瞬間も、車椅子の音を響かせながら。
カタ、カタ、カタ、カタ……
カタ、カタ、カタ、カタ……
お疲れ様~。
そんじゃ早速、姉の時雨の使用カード。
共通効果が多いので、先にそれだけまとめておきます。なお、共通効果は全て強制効果です。
①このカードが召喚に成功した時、手札またはデッキから「スコール」と名のついたモンスターを可能な限り特殊召喚する。
この効果を使用したターン、自分は「スコール」と名のついたモンスターしか特殊召喚できない。
②このカードが特殊召喚された時、自分は300ポイントダメージを受ける。
③ターン終了時にこのカードが表側表示で存在する時、このカードを破壊する。
④このカードが破壊された時、相手は400ライフポイントを回復する。
……うん。自分でも酷いと思うよ。
何が酷いって、いくらダメージがあるからって、一体召喚しただけでモンスターが最大五体並ぶわけですから。
一応スコール以外に特殊召喚できなくなる効果も付けてますが、GXの時代じゃどっちでも同じです。
まあこれ付けずにエクシーズにでも使われたらそれこそ大変な悲劇が生まれるだろうけど。
ついでに言っておくと、ダメージ、回復、自壊は、各カードがそれぞれ持っている効果なので、作中の通り、通常モンスターの『スコール』を呼んだ場合は、一体分ダメージと回復が減って、自壊もしません。
でもって、ダメージは『特殊召喚』、回復は『破壊』がそれぞれの条件なので、共通の効果関係なくこれらが行われた時点で執行されます。
まあそれでも強過ぎるかなとは思いますが……
続いて、作中の使用カード。
『スコール・ソルジャー-サツキ』
レベル4
風属性 水族
攻撃力1500 守備力300
このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の「スコール」と名のついたモンスター1体につき、フィールド上の水族モンスターの攻撃力は100ポイントアップする。
『スコール・ダンサー-ミナ』
レベル4
炎属性 水族
攻撃力1200 守備力200
このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の「スコール」と名のついたモンスター1体につき、フィールド上の水族以外のモンスターの攻撃力は100ポイントダウンする。
『スコール・プレッシャー-フミ』
レベル4
炎属性 水族
攻撃力700 守備力100
このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の「スコール」と名のついたモンスターが5体以上存在する時、水族モンスターが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動する事ができない。
『通り雨』
速攻魔法
「スコール」と名のついたモンスター1体を通常召喚する。
ご覧の通り、フィールド上の「スコール」の数を参照して、水族モンスターを強化、もしくは水族以外を弱体化させる効果を持ちます。
なお、参照するのはフィールド全体なので、相手フィールドにスコールがいればその分効果も強くなります。
逆に、相手のフィールドに『カエル』とか『ペンギン』等の水族モンスターがいれば、こっちが痛い目を見る場合もあります。
そして速攻魔法は、見ての通り、ただ相手ターンでも雨を降らせるための効果です。
ちなみに、気付いた人もいるかも分かりませんが、それぞれの名前の由来は、陰暦の皐月(五月)、水無月(六月)、文月(七月)から来ています。属性は各季節ごとに、光と闇以外の四つに分けております。
だので、メインデッキに入る「スコール」は、全部で十二種類おります。全然考えてないけどね……一体はチューナーにしようかな、ということくらいしか……
ついでに、攻撃力はそれぞれの名前に守備力の数値を掛けた数値です……これはまあ、どうでもいいか……
そういうことで、ただ単純に作者が考えたカードを形にしてみたかった、という仕様も無い理由から書いてみたわけですが、いかがでしたでしょうか?
気に入らなくてもいいです。ただ、楽しんで下さったことだけ心からお祈ります。
なお、連載する予定は全く無いので、気に入って下さった方には謝罪しておきます。
なぜって、他に連載してるからさぁ……
とまあ、そんな感じで、この小説に関してはここまでにします。
本編も後書きもクッソ長くなりましたが、それでもここまで付き合って下さった方には、本気で感謝致します。
大海の書いた下手糞な小説を読んで下さって、心からありがとうございました。
ではでは。