遊戯王GX ~晴れのち豪雨~   作:大海

2 / 4
は~い。

んじゃ、時雨の決闘行きま~す。

行ってらっしゃい。



第一話 受験の天気は晴れのち豪雨 ~豪雨~

『決闘!』

 

 

クロノス

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

時雨

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「今度の先行は私。ドローニョ」

 

クロノス

手札:5→6

 

(手札には既に『古代の機械巨人』が来ていまスーが、最初のターン攻撃はできませんーノ……)

「『古代の機械兵士』を召喚」

 

『古代の機械兵士』

 レベル4

 攻撃力1300

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンドなのーネ」

 

 

クロノス

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

   『古代の機械兵』攻撃力1300

   魔法・罠

    セット

 

 

 クロノスのエンド宣言を聞いたことで、その病的な少女もまた、デッキに手を伸ばした。

 

「私のターン、ドロー……」

 

時雨

手札:5→6

 

 白く、細い指先を添え、カードをドローする。たったそれだけで、倒れてしまうのではないかと思うほど、彼女の体は震えた。誰もがそんな心配を向ける中、それでも彼女は、立っていた。

 そして、最初のターン、思案していた照とは違い、彼女の次の行動は、迷いが無かった。

 

「私は、『スコール・ソルジャー-サツキ』を召喚します」

 

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 レベル4

 攻撃力1500

 

 現れたのは、青い衣装を纏った青年。日本的な印象を与えながら、肩から下の腕と、腹部を露出させた軽快そうな服と、同じく青い、だが軽そうな長ズボン。そこに、また服と同じく青色の靴を履いた、少年の戦士。

 

(攻撃力1500。大した脅威ではありませんーノ)

 

 クロノスが、再びそうほくそ笑んだ、その瞬間だった。

 

「サツキのモンスター効果を発動」

「ニョ?」

 

 時雨が宣言したと同時に、無機質な照明以外に何も無い天井が、一瞬で厚い黒雲に覆われた。そして、会場にスコール――バケツをひっくり返したような大雨が突然降り出した。

 

「これは……!」

「『スコール』モンスターは召喚に成功した時、デッキから、スコールと名の付くモンスターを、可能な限り特殊召喚しなければなりません。現れなさい、デッキに眠る雨たちよ!」

 

 そして、先に召喚されたサツキと共に、新たなモンスター達が、黒雲の空から舞い降りた。

 

「二体目の『スコール・ソルジャー-サツキ』! 二体の『スコール・ダンサー-ミナ』! そして、『スコール・プレッシャー-フミ』!」

 

 その宣言で、新たに四体のモンスターが出現した。

 

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 レベル4

 攻撃力1500

『スコール・ダンサー-ミナ』

 レベル4

 攻撃力1200

『スコール・ダンサー-ミナ』

 レベル4

 攻撃力1200

『スコール・プレッシャー-フミ』

 レベル4

 攻撃力700

 

 最初の一体と同じく、青色の軽装を纏った『サツキ』。

 衣装の見た目はほぼ同じだが、紫色で、更に、外側の太ももを露出させた、女性である二体の『ミナ』。

 そして、二人とは違い、顔以外の露出がほとんどない、緑色の衣装を着た、水晶玉を持つ幼い少女の姿を取った『フミ』。

 

「こ、これは……!」

「ただ、この効果を使用したターン、私はスコール以外を特殊召喚できなくなりますが……」

 

「すげえ! 一度にモンスターを五体並べたぞ!」

 

「すごい! あんなに展開するなんて……」

「スコール……いや、待て。確か、あのカードには……」

 

 誰かが気付いたように、そう、焦りのような声を上げたが、既に遅かった。

 

「スコール達の効果。このカード達は特殊召喚した時、私は一体につき、300ポイントのダメージを受けます」

「なぬぅ……!」

 

 クロノスもまた、驚きの声を上げるが、その時には、天井に広がる黒雲が白く光り、ゴロゴロという音を響かせていた。

 そして、巨大な雷鳴と共に、四つの落雷が時雨に降り注いだ。

 

「うぅっ……!」

 

時雨

LP:4000→2800

 

 ライフ1200。決して安くないダメージだが、健全な人間なら、大した威力ではない衝撃だろう。だが、病的な彼女にとって、それは大きな衝撃となり、足をふらつかせ、ひざを曲げさせる。

 

「だ、大丈夫なのーネ!?」

「……大丈夫、です……」

 

 それでも、彼女はふらつく足でどうにか踏ん張り、クロノスを見据えた。

 

「……『スコール・ソルジャー-サツキ』の効果。このカードが場に存在する限り、フィールド上の水族モンスターは、フィールド上のスコールの数の100倍、攻撃力をアップさせます」

「ンガ!」

「スコールはフィールドに五体。そして、スコール達は全員が水族。よって500ポイント。更に、サツキはフィールドに二体。合計1000ポイント、それぞれ上昇」

 

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 攻撃力1500+(100×5)×2

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 攻撃力1500+(100×5)×2

『スコール・ダンサー-ミナ』

 攻撃力1200+(100×5)×2

『スコール・ダンサー-ミナ』

 攻撃力1200+(100×5)×2

『スコール・プレッシャー-フミ』

 攻撃力700+(100×5)×2

 

「1000ポイント!?」

「更に、『スコール・ダンサー-ミナ』の効果。フィールド上のスコール一体につき、フィールド上の水族以外のモンスターの攻撃力を、100ポイントダウンさせます」

「な!?」

「『古代の機械兵』は、水族ではなく機械族です。よって、合計1000ポイントダウン」

 

 時雨のその宣言により、豪雨の中に立っていた機械兵の体は、一瞬で錆びつき、まともに立つことすらできなくなってしまった。

 

『古代の機械兵』

 攻撃力1300-(100×5)×2

 

「こ、攻撃力300……」

「バトルです」

「ニョ!」

 

 クロノスが呆然とする間に、時雨が言い、そして、スコール達に命を下した。

 

「『スコール・ソルジャー-サツキ』で、『古代の機械兵』に攻撃!」

 だが、その攻撃を、クロノスは良しとはしなかった。

「罠発動『重力解除』!」

 

 セットされていた罠が展開し、サツキの攻撃を合図に、時雨のフィールドのモンスター全てを跪かせる……はずだった。

 

「んあ?」

 

 確かに、操作したはずの罠が、発動する気配は無い。

 

「な、何なのーネ? なぜ発動しないのーネ?」

 

 その疑問に、答えたのは時雨だった。

 

「『スコール・プレッシャー-フミ』の効果。フィールド上にスコールモンスターが五体以上存在する時、相手は水族モンスターが攻撃する間、魔法・罠カードを発動することができません」

「何でスーと!?」

 

 その説明を受け、サツキは問題なく、『古代の機械兵』を破壊した。

 

「アガー!?」

 

クロノス

LP:4000→1800

 

「ぐぅ……」

 

 大きなライフダメージを喰らい、クロノスもまたふら付くが、それでも、再び伏せカードに手を伸ばした。

 

「ならば、攻撃前のこのタイミングで発動するのーネ! 罠発動『重力解除』! フィールド上のモンスター全ての表示形式を変更するのーネ」

「……」

 

 クロノスが発動させたカードにより、攻撃の態勢を構えていた全てのスコール達は、今度こそそのひざを着かせた。

 

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 守備力300

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 守備力300

『スコール・ダンサー-ミナ』

 守備力200

『スコール・ダンサー-ミナ』

 守備力200

『スコール・プレッシャー-フミ』

 守備力100

 

「これ以上攻撃はできませんね……私はカードを一枚伏せて、ターンエンドです」

 

 時雨が、エンドを宣言した時だった。

 

「こ、これは……!」

 

「え?」

「なんだ?」

 

 ターンエンドと同時に、フィールドに降り注いでいた豪雨は、徐々にその勢いを無くしていった。やがて、次第に雨は止み、空に掛かっていた黒雲は晴れていく。

 同時に、フィールドに並んでいたスコール達はその姿を消していき、晴れた雲から漏れた木漏れ日が、クロノスを包んだ。

 

「……フィールドに存在するスコール達は、ターン終了と同時に破壊されます。そして、このカード達が破壊された時、一体につき、相手は400ポイントのライフを回復します。フィールドにいたスコール達は五体。よって、合計2000ポイント回復します」

「そ、そうだったのーネ……」

 

クロノス

LP:1800→3800

 

「え? 相手を回復させちゃうの?」

「そうだ、思い出した。スコール。確かに強力な展開力と効果を持ったカード達だが、自分へのダメージと、一ターンしか場に残らない場持ちの悪さ、そして、破壊と共に相手を回復させてしまうデメリットから、登場して間もなく敬遠されていったモンスター達だ」

 

「おまけにそれぞれのモンスターが強力な効果を持つが、そのほとんどが攻撃を最優先にした効果で、守備に向いたカードはほとんど無い。一撃必殺を狙える凶悪な爆発力を秘めている代わりに、防御の一切を捨てざるを得ないカード達。それがスコールだ」

「……確かに、今の彼女のフィールド、カードは伏せられてるけど、それ以外はがら空きだものね……」

 

 客席に座る生徒達が、そんな会話を進める。その間に、ターンは時雨から、クロノスへと移る。

 

 

時雨

LP:2800

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

クロノス

LP:3800

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「……少々驚きましたーが、あなたのフィールドはがら空き。一気に攻めさせていただくのーネ。私のターン、ドローニョ」

 

クロノス

手札:4→5

 

「私は『トロイホース』を召喚」

 

『トロイホース』

 レベル4

 攻撃力1600

 

 現れたのは、名前の通り、『トロイの木馬』を模した馬型のモンスター。

 

「更に、魔法カード『二重召喚(デュアルサモン)』。これにより、私はこのターン、通常召喚を二回行うのーネ。そして『トロイホース』は、地属性モンスターを生贄召喚する場合、二体分の生贄とすることができるのーネ。『トロイホース』を生贄に、『古代の機械巨人』を召喚!」

 

『古代の機械巨人』

 レベル8

 攻撃力3000

 

 再び現れる機械の巨人。がら空きのフィールドから、時雨はそれを見上げる。

 

「……照との決闘でも見ていましたが、さすがに間近で見ると、迫力が違いますね……」

 

 力の籠もらない声でそう漏らす。その目には、羨望や、感動といった感情を宿していた。

 

「バトル! 『古代の機械巨人』でダイレクトアタック! アルティメット・パウンド!」

 

 照との決闘でも見られた光景。機械巨人の巨大な拳が放たれる。一つ違うのは、照の時が、守備モンスターに対して放たれたもの。

 そして今は、フィールドががら空きの時雨目掛けて、放たれているということ。

 

「きゃあ!」

「危ない!」

 

 ほとんどの生徒が、その光景に、そんな悲鳴を上げた。先程からずっと見ている、普段から目にしている仮想立体映像(ソリッド・ビジョン)のそれである以上、いくらモンスターの攻撃力が高くとも、けがをするようなことはない。

 それなのに彼らが慌てて、悲鳴を上げるのは、ひとえに、目の前で決闘を行う少女の、病弱ゆえの危なげのせいだろう。

 だが、それでも、

 

「リバースカード、発動……」

 

 彼女はそんな声など、悲鳴など、心配など掻き消してしまおうと、伏せていたカードを発動させた。

 

「速攻魔法『通り雨』。手札からスコールを一体、通常召喚します。私は手札の『スコール・プレッシャー-フミ』を召喚」

 

『スコール・プレッシャー-フミ』

 レベル4

 攻撃力700

 

「む、ここでスコールを、通常召喚ということは……」

「ええ。これで再び、スコールのモンスター効果が発動します。私は手札、デッキに眠る、四体のスコール達を強制召喚します」

 

 再び天上が厚い雲に覆われる中で、静かに宣言しながら、手札から一枚、デッキから三枚のカードを取り出し、ディスクにセットする。

 

「来なさい、私の雨達よ。三枚目の『スコール・ソルジャー-サツキ』、『スコール・ダンサー-ミナ』、『スコール・プレッシャー-フミ』、そして通常モンスター『スコール』」

 

 そして、再び現れた、三人の民族衣装を纏った若者達。だがそれに混じって、小さな黒い雲が一体、現れた。

 

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 レベル4

 攻撃力1500

『スコール・ダンサー-ミナ』

 レベル4

 攻撃力1200

『スコール・プレッシャー-フミ』

 レベル4

 攻撃力700

『スコール』

 レベル4

 攻撃力1550

 

「あれ? なんか、一体だけ他のと違うよ」

「ああ。あれは通常モンスターの『スコール』。確か、決闘モンスターズの最初期に生まれたカードの一枚だ。かなり古いカードだが……なるほど、確かにあれも、紛れもない『スコール』だな……」

 

「くぬぬ……また五体のモンスターが。しかも、一体は通常モンスター……」

「ええ。通常モンスターである『スコール』には、他のスコール達が持つダメージや回復、自壊効果を持ちません。ですので、先のターンよりもそれらは少なくなります」

「しかし、それでもダメージは発生するのーネ……」

「はい。通常モンスター以外のスコール達の効果により、一体につき300ポイント、計900ポイントのダメージを受けます」

 

 そしてまた、同じ光景だった。空を覆う黒雲から、三つの落雷が時雨を襲った。

 

「くぅぅあぁ……!」

 

時雨

LP:2800→1900

 

「はぁ……はぁ……」

 

 落雷の衝撃により、思わず息を切らしてしまう。

 だが、それでもクロノスを見据えた。

 

「……そして、サツキとミナの効果が発動します……それぞれ、水族モンスターの攻撃力を500ポイントアップ、水族以外のモンスターの攻撃力を、500ダウンです……」

「ぐぬぬ……」

 

『スコール・プレッシャー-フミ』

 攻撃力700+(100×5)

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 攻撃力1500+(100×5)

『スコール・ダンサー-ミナ』

 攻撃力1200+(100×5)

『スコール・プレッシャー-フミ』

 攻撃力700+(100×5)

『スコール』

 攻撃力1550+(100×5)

 

『古代の機械巨人』

 攻撃力3000-(100×5)

 

「さあ……どれを、攻撃しますか……?」

「むむぅ……」

 

 度重なるダメージに、披露と息切れを見せ始めているが、それでも彼女は、敢えて余裕を見せつけるよう、クロノスに笑い掛けた。

 そしてクロノスもまた、そんな彼女の笑顔に、ある種の恐怖を覚えながら、それでもその言葉には思案せざるを得ない。

 勝つために、相手のライフをゼロにするには、ライフポイントを削るしかない。そして、そのための最も効率的な方法が、戦闘ダメージを与えること。ここでそれを狙わなければ、少なくとも次のターンまで待たなければならない。

 だが、だからと言って、どのモンスターを戦闘破壊してもいい、というわけではない。

 どのモンスターを倒せばよりダメージを与えられるか。それ以上に、どのモンスターを倒せば後の展開でより優位に立てるか。それこそが、決闘では真ぶ重要なことだからだ。

 

(単純にダメージを狙うなら、最も攻撃力の低いフミを破壊するべきなのーネ。しかし、スコールモンスターは放っておいても効果で自壊し、おまけに私のライフを回復させてくれるモンスター。それに対し、通常モンスターである『スコール』はそれらの効果を持たない。むしろ、フィールドに残しておくと、後々厄介になるかもしれまセーン……ならば!)

「私は『古代の機械巨人』で、通常モンスターの『スコール』を攻撃! アルティメット・パウンド!」

「ええ。そうせざるを得ませんよね……」

 

 時雨が、嬉しそうに呟く中で、人型の四体の中に混ざる唯一の『雲』、『スコール』は、その巨大な鉄の拳の餌食となってしまった。

 

時雨

LP:1900→1450

 

「うぅ……」

(これで良いのーネ。ライフ的には、もう一度だけスコール達の特殊召喚を許してしまいまスーが、通常モンスターの『スコール』を召喚した所を見るに、既に彼女のデッキのスコールモンスターは底を突きかけているのーネ。ならば、今は防御の芽を摘んでおくのが得策。既に彼女のデッキにスコールモンスターが無いのなら、次の私のターンでとどめを刺せるのーネ……)

「私はこれでターンエンド」

「……残った四体のスコール達の効果です。全員を破壊し、クロノス先生のライフを、合計1600ポイント回復させます……」

 

 前のターンと同じ光景が広がる。フィールドにいたスコール達が消え、同時に空の雨が上がり、黒雲が晴れ、そこから溢れる木漏れ日がクロノスを包む。

 

クロノス

LP:3800→5400

 

 

クロノス

LP:5400

手札:1枚

場 :モンスター

   『古代の機械巨人』攻撃力3000

   魔法・罠

    無し

 

時雨

LP:1450

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    無し

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「あの人、苦しそうだ……」

「まだ、決闘続けるのかな……」

「もう無理だろう……」

 

 周囲からは、息を切らし、額に汗を光らせながら、か細い二本の足でかろうじて立っている、時雨に対する同情の声が上がっていた。

 だがそれも無理は無い。この色白の可憐な少女は、暴風雨どころか、そよ風が吹いただけでも倒れてしまいそうなほど、弱っている。

 ただでさえ、娯楽ではあるが、立ちっぱなしの状態で、頭と体を使うことで、見た目以上の疲労とストレスをはらむカードゲームに、幾度ものライフダメージが重なったのだ。

 健全な人間でも音を上げてしまいそうな状況の中、それでも、移動に車椅子が必要なほど脆弱なはずの少女は、やめる素振りも見せず、立っているのだから。

 

「……それ以上は無理なようなーら、ここでサレンダーしてもよろしいのーネ」

 

 再び、クロノスは親切心から、そんな提案を出す。

 サレンダー。降参。文字通り、決闘の敗北を自ら認め、これ以上の勝負を放棄する行為。

 

「あなたの決闘に対する姿勢と、華麗なタクティクスは見せて頂きましたのーネ。筆記試験の成績も、全体で二位と最高。ここでサレンダーしても、アカデミアの合格は間違いありまセーン。ですから、サレンダーしたとしても、あなたが咎められることは無いのーネ」

 

 そしてそれは、クロノスだけでなく、この決闘を見ているほとんどの者が感じていることだろう。

 これだけやったのだ。筆記でも優れていたのだ。だから、もう十分だ。彼女の辛そうな姿に、誰もがそう感じてしまっていた。

 だがそれは、あくまで『ほとんどの者』。決して、この海馬ドームに集う、『全員』ではない。

「……私の、ターン……」

 

時雨

手札:2→3

 

 返事をする代わりに、彼女はカードをドローした。

 

「ま、まだ続けるのーネ……!」

「……決闘者(デュエリスト)、ですから……」

 そう、笑顔で言う。そして、その笑顔に、

 

「……!」

「……」

 

 会場を囲む生徒達は、息を呑んだ。

 そして、そんな時雨は、引いたカードを見る。見て、笑った。

 

「良いカードを引きました。私は魔法カード『貪欲な壺』を発動します」

「『貪欲な壺』……!」

「ええ。ご存知ですよね。墓地のモンスター五枚をデッキに戻してシャッフルし、その後カードを二枚、ドローするカード……私が戻すのは、これらです……」

 

 時雨が墓地のカードを取り出すと、彼女の頭上に五枚のカードが表示された。

 

『スコール・ソルジャー-サツキ』

『スコール・ソルジャー-サツキ』

『スコール・ソルジャー-サツキ』

『スコール・ダンサー-ミナ』

『スコール・ダンサー-ミナ』

 

「く、その五体とは……」

「これらのカードをデッキに戻し、シャッフル。そして……」

 

 シャッフルしたデッキをディスクにセットし、そこに指を掛ける。

 

「この二枚のドローでスコールモンスターをドローできなければ、私の敗けです……」

 

 誰もが理解していることを、敢えて言葉にする。このドローに全てを賭けるために。そのドローに、運命を託すために。

 

「……ドロー」

 

時雨

手札:2→4

 

「……」

「……」

 

『……』

 

 会場を、沈黙が包む。その中で、時雨は手札を見ながら、言った。

 

「……私の手札に、スコールモンスターは存在しません」

「……!」

 

「マジかよ!」

「そんな……!」

 

 驚きと、落胆。沈黙の次に会場を包んだ、それらの感情の声。

 そして、そんな会場の中で一人だけ、クロノスは、笑っていた。

 

「ならば、この決闘、私の勝ちのよう……」

「ですので、新たに呼び込ませて頂きましょう。速攻魔法『リロード』。手札を全てデッキに戻し、その枚数分、カードをドローします」

「なんでスーと!!」

 

 クロノスが驚く間に、時雨は残る手札三枚をデッキに戻し、シャッフルしていた。そしてそこから、新たに三枚のカードをドローした。

 

「……来ました」

「んな!?」

 

 引いたカードを見ながら、こちらへ笑みを向ける、病弱の少女。時雨はその笑顔を絶やすことなく、手札のカードをディスクにセットした。

 

「来なさい。『スコール・ダンサー-ミナ』!」

 

『スコール・ダンサー-ミナ』

 レベル4

 攻撃力1200

 

「そして、仲間と共にフィールドに降り注げ! デッキに眠る雨達よ!」

 

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 レベル4

 攻撃力1500

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 レベル4

 攻撃力1500

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 レベル4

 攻撃力1500

『スコール・ダンサー-ミナ』

 レベル4

 攻撃力1200

 

「そして、特殊召喚されたスコール達の効果により、私は合計1200ポイントのダメージです」

 

 三度(みたび)、同じ光景が再現される。フィールドを覆う黒雲。そこから降りしきる豪雨、そして、その豪雨の奥で、まるで解放を望むかのように猛り狂う迅雷の音。

 計四つのそれらが、形を作り、地上に向かって、その光の腕を伸ばした。

 小鳥遊時雨。彼女という、地上に向かって……

 

「うぅ……ああああぁぁぁぁ……!」

 

時雨

LP:1450→250

 

 再び降りしきるダメージ。上がる悲鳴。そして、傾く彼女の体。

 

『ああっ!』

 

 そんな彼女の姿に、会場の生徒達は、一斉に声を上げた。そしてそれは、今まで一人、決して声を上げることの無かった者。

 

「姉ちゃん!」

 

 肉親である、照さえ叫ぶほどの事態だった。

 それほど慌てていたから、照は反射的に、決闘場へ上るための翔階段へ足を掛けていた。

 しかし、

 

「だい……じょう、ぶ……」

「……!」

 

 力の無い声で、それでも、確かな安心を与えるための声で言いながら、時雨は、照に手を向け、静止を促す。

 

「だいじょうぶ……大丈夫、だから……照は、私のこと信じて、待ってて……」

「姉ちゃん……」

 

 まるで、母親が子供をあやすような愛情が、そこにはあった。その言葉に従い、全てを信じたくなり、委ねたくなる。それほどの力を持った、笑顔だった。

 

「……」

 

 焦りの表情は拭えない。それでも照は、決闘場に乗せていた足を下ろし、元の位置に戻った。

 それを見届けた時雨も、再びクロノスに目を向ける。

 

「ここで、スコール達のモンスター効果が発動します。説明は、もう不要ですね……」

「……」

 

『スコール・ダンサー-ミナ』

 攻撃力1200+(100×5)×3

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 攻撃力1500+(100×5)×3

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 攻撃力1500+(100×5)×3

『スコール・ソルジャー-サツキ』

 攻撃力1500+(100×5)×3

『スコール・ダンサー-ミナ』

 攻撃力1200+(100×5)×3

 

『古代の機械巨人』

 攻撃力3000-(100×5)×2

 

 『古代の機械巨人』の攻撃力が1000にまで下がり、スコール達はそれぞれの攻撃力を1500ポイント上昇させる。

 逆転勝利。今日だけで三度目の、生徒相手の敗北。

 それでも、クロノスの表情に、悔しさや、憤りと言った、負の感情は見られなかった。

 見られるのは、素晴らしい決闘を見られたことへの清々しさと、病弱を理由に決して退くことのない、強い少女の姿への、感動だった。

 

「バトルです……」

 

 微笑みながら、豪雨に見舞われたフィールドを見渡す。そこに立つ少女は、弱々しい体が嘘のような強さを総身に溢れさせ、堂々と、最後の宣言を行った。

 

「『スコール・ソルジャー-サツキ』で、『古代の機械巨人』に攻撃!」

 

 機械兵士の時と同じく、サツキに破壊される機械巨人。

 それによって削られる、クロノスのライフ。

 

クロノス

LP:5400→3400

 

「そして、残る四体のスコールで、ダイレクトアタック!」

 

 最初に攻撃したサツキを除く、四体のスコール達が、一斉にクロノスへ向かっていった。

 

「大天瀑布!」

 

 それぞれのモンスターの、それぞれの攻撃。それが、寸分の狂いなく、クロノスを捕らえた。

 

クロノス

LP:3400→0

 

 

「……ありがとう、ございました……」

 

 受験生を相手に喫した、よもやの三連敗。

 そんな屈辱の中にありながら、それでも感慨深そうに、目を閉じるクロノス。

 そんなクロノスに、時雨もまた照と同じように、礼を言う。そして、踵を返した。

 

「……はぁ……」

 

 だが、たった一回の決闘で、彼女の体力も相当に削られたらしい。歩きながらもふら付くその姿は、見ている者達にとって、痛々しく、苦々しい光景だった。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 それでも、彼女は足を止めることはしなかった。ふら付く体に鞭を打ち、二本の足を前へと進め、歩いていく。そこで待っている、弟の元へ。

 

「照……」

 

 小階段まで辿り着き、そこで、半ば躓き、飛び込むように、目の前の照へ体を預ける。

 それを照は、しっかりと抱き止めた。

 

「大丈夫か?」

「うん……大丈夫」

「良い決闘だった」

「……本当は、最初のターンで、格好良くワンターンキルを狙ってみたかったけど……やっぱり、先生って強いんだね。照と違って、ギリギリになっちゃった……」

「……それでも、開始の時より増えたライフポイントを一度に削ったんだ。俺には真似できない」

「……ありがとう」

 

 抱きしめ、頭を撫でてやりながら、そう会話をして、再び車椅子に乗せる。

 

「帰るか」

「うん……」

 

 そして、二人は元来た道を、戻り始めた。

 

 カタ、カタ、カタ、カタ……

 

 そんな、車椅子の音を、再び会場に響かせて……

 

 

『……』

 

 去っていった双子の姉弟。

 思い起こせば、その二人の決闘は、あまりに対照的だった。

 

 たった一体をフィールドに残す。そして、新たなターンの開始と共に、姿を変え、能力を変え、その度に、戦術を変え、適格に、堅実に、守りを固め、時間を掛け、最後は、その一体の最強モンスターで勝負を決める。

 強い体から、鋭い眼差しを向けながら、自分からは、決して激しく動くことはせず、静かなカードプレイでクロノスを手玉に取り、ノーダメージで勝利した。

 堅牢な、寡黙の少年『小鳥遊 照』。

 

 たった一体をフィールドに出す。それを合図に、大量のモンスターをフィールドに並べ、自身を強化し、敵を封じ、激しく、大胆に、防御を捨て、短期決戦に懸け、大量のモンスター達で相手を蹂躙する。

 それと引き換えに、病弱な体にとっての過酷な代償を、全てその小さな体で受け止め、ライフをギリギリまで削り、倒れかけながらも、クロノスを打倒して見せた。

 超攻撃的な、病弱の少女『小鳥遊 時雨』。

 

 正に、二人の名前と、使用するデッキが、全てを物語っているようだった。

 照と時雨。弟と姉。

 光と雨。守りと攻め。無表情と笑顔。健全と病弱。強さと儚さ。永遠と一瞬。

 双子でありながら、顔も、外見も、印象も、性格も、状態も、そして決闘も。何もかもが対照的な、強い二人の決闘者が残したもの。

 それは、衝撃と、驚愕と、沈黙と、脅威。

 そして、そんな二人が、これからアカデミアにもたらすもの。

 それは、まだ、誰も知らない。

 ただ、二人は前に進むだけだった。一人の足で。それでも二人で。ただ前へ、進んでいくだけだった。

 今、この瞬間も、車椅子の音を響かせながら。

 

 カタ、カタ、カタ、カタ……

 

 カタ、カタ、カタ、カタ……

 

 

 

 




お疲れ様~。

そんじゃ早速、姉の時雨の使用カード。
共通効果が多いので、先にそれだけまとめておきます。なお、共通効果は全て強制効果です。

①このカードが召喚に成功した時、手札またはデッキから「スコール」と名のついたモンスターを可能な限り特殊召喚する。
 この効果を使用したターン、自分は「スコール」と名のついたモンスターしか特殊召喚できない。
②このカードが特殊召喚された時、自分は300ポイントダメージを受ける。
③ターン終了時にこのカードが表側表示で存在する時、このカードを破壊する。
④このカードが破壊された時、相手は400ライフポイントを回復する。

……うん。自分でも酷いと思うよ。
何が酷いって、いくらダメージがあるからって、一体召喚しただけでモンスターが最大五体並ぶわけですから。
一応スコール以外に特殊召喚できなくなる効果も付けてますが、GXの時代じゃどっちでも同じです。
まあこれ付けずにエクシーズにでも使われたらそれこそ大変な悲劇が生まれるだろうけど。

ついでに言っておくと、ダメージ、回復、自壊は、各カードがそれぞれ持っている効果なので、作中の通り、通常モンスターの『スコール』を呼んだ場合は、一体分ダメージと回復が減って、自壊もしません。
でもって、ダメージは『特殊召喚』、回復は『破壊』がそれぞれの条件なので、共通の効果関係なくこれらが行われた時点で執行されます。
まあそれでも強過ぎるかなとは思いますが……


続いて、作中の使用カード。


『スコール・ソルジャー-サツキ』
 レベル4
 風属性 水族
 攻撃力1500 守備力300
 このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の「スコール」と名のついたモンスター1体につき、フィールド上の水族モンスターの攻撃力は100ポイントアップする。

『スコール・ダンサー-ミナ』
 レベル4
 炎属性 水族
 攻撃力1200 守備力200
 このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の「スコール」と名のついたモンスター1体につき、フィールド上の水族以外のモンスターの攻撃力は100ポイントダウンする。

『スコール・プレッシャー-フミ』
 レベル4
 炎属性 水族
 攻撃力700 守備力100
 このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の「スコール」と名のついたモンスターが5体以上存在する時、水族モンスターが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動する事ができない。

『通り雨』
 速攻魔法
 「スコール」と名のついたモンスター1体を通常召喚する。


ご覧の通り、フィールド上の「スコール」の数を参照して、水族モンスターを強化、もしくは水族以外を弱体化させる効果を持ちます。
なお、参照するのはフィールド全体なので、相手フィールドにスコールがいればその分効果も強くなります。
逆に、相手のフィールドに『カエル』とか『ペンギン』等の水族モンスターがいれば、こっちが痛い目を見る場合もあります。
そして速攻魔法は、見ての通り、ただ相手ターンでも雨を降らせるための効果です。

ちなみに、気付いた人もいるかも分かりませんが、それぞれの名前の由来は、陰暦の皐月(五月)、水無月(六月)、文月(七月)から来ています。属性は各季節ごとに、光と闇以外の四つに分けております。
だので、メインデッキに入る「スコール」は、全部で十二種類おります。全然考えてないけどね……一体はチューナーにしようかな、ということくらいしか……
ついでに、攻撃力はそれぞれの名前に守備力の数値を掛けた数値です……これはまあ、どうでもいいか……



そういうことで、ただ単純に作者が考えたカードを形にしてみたかった、という仕様も無い理由から書いてみたわけですが、いかがでしたでしょうか?
気に入らなくてもいいです。ただ、楽しんで下さったことだけ心からお祈ります。
なお、連載する予定は全く無いので、気に入って下さった方には謝罪しておきます。
なぜって、他に連載してるからさぁ……

とまあ、そんな感じで、この小説に関してはここまでにします。
本編も後書きもクッソ長くなりましたが、それでもここまで付き合って下さった方には、本気で感謝致します。
大海の書いた下手糞な小説を読んで下さって、心からありがとうございました。

ではでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。