ヤニ吸う彼女とナニをする?   作:雅鳳飛恋

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第7話 たられば

   ◇ ◇ ◇

 

「――今日は大変でしたね……」

 

 帰宅後、夕食を済ませて人心地つくと、俺は無意識にそう呟いていた。

 

 今日は灰咲さんの元カレの大須賀がバイト先に来たせいで酷い目に遭ったからな。

 

「そうだね……。巻き込んでごめんね」

「あ、いや、すいません。別に話を蒸し返したいわけじゃなくてですね……」

 

 ミスった……。

 完全にミスった……。

 

 灰咲さんの罪悪感を煽るようなことを口にしてしまった。

 無意識だったとはいえ、そんなこと灰咲さんにはわからない。

 

 不注意が招いた失言だ。

 思いっきり気が緩んでいた。

 

 これは全面的に俺が悪い。

 

「大丈夫だよ。今後のことを考えると無視できないことだし」

 

 灰咲さんはそう言ってくれるが、彼女の気を落とすようなことを口にしてしまった事実は覆らない。

 

 せめて大須賀の話題になった時くらいは、ちゃんと気を引き締めよう。

 

「帰る時に待ち伏せされなかったのは幸いでしたね」

 

 姿勢を正した俺は、帰宅時のことを思い出す。

 

「獅子原君が一緒だったとはいえ、さすがに待ち伏せまでされていたら怖かったよ」

 

 灰咲さんとはバイトのシフトが同じだったので、一緒に帰って来た。

 大須賀が待ち伏せしていたらどうしよう? と不安を抱えながら帰路についたが、幸いにも杞憂で済んだ。

 

 大人しく帰ってくれていたようでなによりだった。

 

「今日はなんとかなりましたけど、ちゃんと対策を考えたほうが良さそうですね。あの人、「日を改める」って捨て台詞を吐いてましたし」

「今日ので懲りてくれていればいいんだけど、希望的観測すぎるよねぇ……」

「最悪の事態を考慮しておくべきかと」

 

 肩を落とす灰咲さんは「だよねぇ……」と呟くと、天を仰いだ。

 

「本当に過去の自分が恨めしいよ」

 

 そう思ってしまう気持ちは理解できるが、灰咲さんが悪いわけじゃない。

 百パーセント大須賀が悪いのだから、自分を責めるのはやめてほしい。

 

「あんな奴と付き合ったのも、好きになってしまったのも、過去の自分が犯した過ちだから向き合うしかないんだけどさ……」

 

 灰咲さんは、人を見る目はなかったのかもしれない。実際に手痛い失敗をしているわけだし。

 

 だけど、人を好きになることが過ちなわけがない。

 

 人を好きになるというのは、美しくて儚い、尊くて眩しい、人を彩ってくれる素敵な感情なのだから――。

 

 良いことも悪いこともあるかもしれないが、その経験を糧に人は成長し、幸せを手にするもののはずだ。成功と失敗、どちらに転ぶかわからないからこそ、必死になるし、感情に振り回される。

 

 それらは全て人生を彩ってくれる絵具のようなものだ。

 状況によって、赤にも、青にも、黄色にも、ピンクにも、黒にも、虹色にも人生を彩ってくれる。

 

 仮に失敗したとしても、そのうち笑い話にできるようになるかもしれない。

 恋が実っても、時が経つと破綻するかもしれない。

 

 所詮、たらればでしかないのだ。

 

 だったら過去の自分を責めるよりも、未来に想いを馳せたほうが心が豊かになる。

 なにより、そのほうが楽しいじゃないか。

 

 ほかの人がどう考えているのかはわからないが、少なくとも俺はそう思っている。

 

「挙句の果てに、無関係の獅子原君まで巻き込んでいる始末だし……」

「別に俺は巻き込まれたと思ってないですよ」

 

 これは嘘偽りない本心だ。

 

 灰咲さんに泊めてと言われなかったら、彼女の置かれている状況に気づくことはできなかったかもしれない。

 だが、もし気づけていたら間違いなく自分から首を突っ込んでいた。

 

「それに灰咲さんが大須賀と付き合わなかったら、こうして俺たちが出会えることもなかったでしょうし」

 

 灰咲さんが大須賀と別れて東京に逃げて来たからこそ、俺たちは出会うことができた。

 もし灰咲さんが大須賀と付き合っていなかったら、一生出会うことはなかったはずだ。

 

「灰咲さんは複雑かもしれないですけど……」

 

 出会えて良かったというのは、あくまでも俺の気持ちだ。

 だから大須賀と付き合ったことで大変な目に遭った灰咲さんにとっては、きっとポジティブな要因にはならないだろう。

 

「私も獅子原君と出会えたのは嬉しいから、怪我の功名ってやつなのかな」

「灰咲さんが大須賀を利用してやったって思えばいいんですよ」

「確かに獅子原君と出会うためにあいつを利用してやったってことにすれば、多少は溜飲が下がるかも」

 

 大須賀には散々酷い目に遭わされたんだ。だったら灰咲さんが大須賀のことを利用したって(ばち)は当たらないだろう。

 

「ポジティブに行きましょう。ポジティブに」

「ふふ、獅子原君といると前向きになれるね」

 

 微笑む灰咲さんは、「なんか根拠はないけど、なんとかなる気がしてきた」と続けた。

 

「その調子で大須賀への対処法を一緒に考えましょう」

「うん。ありがとう」

 

 そうして俺たちは時折脱線しながらも話し合いを続けるのであった――。

 

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