ヤニ吸う彼女とナニをする?   作:雅鳳飛恋

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第四章 ヤニ吸う彼女と対策する
第1話 親友


 結局、昨日は灰咲さんと話しても良い解決策を捻り出すことはできなかった。

 遠くへ引っ越さないことを前提に考えるなら、灰咲さんがバイト先を変えるくらいしか思い浮かぶ案がなかった。

 

 だが、バイト先を変えたとしても生活圏が変わらない以上は、またすぐに大須賀に見つかってしまうだろう。

 時間稼ぎにしかならないのなら、慣れた職場を変えるのは負担にしかならない。なので、この案は没になった。

 

「――なあ、千尋(ちひろ)、どうしたらいいと思う?」

 

 答えが出ずに途方に暮れていた俺は、大学に来たついでに親友の深美(ふかみ)千尋(ちひろ)に助言を求めた。

 

「半月ちょっとの間にそんなことになっていたことに驚きなのだけれど……?」

 

 諸々の事情を聞いた親友が目を瞬く。

 

「言ってなかったっけ?」

 

 溜息を吐いた後に「……初耳だね」と口にした親友が肩を竦める。

 

「最近、間が悪かったからなぁ~」

 

 そもそも、お互いに都合が合わなくて会うこと自体ほとんどなかった。

 会っても話し込むほど一緒にいたわけじゃなかったし、今ほど悩んでもいなかったから相談することもなかった。

 

 だから別に隠していたわけではない。

 ただただタイミングがなかっただけだ。

 

「まあ、わざわざ言わなきゃいけないわけじゃないから別にいいんだけど」

 

 そう呟いた親友は頬杖をつく。

 

「――それでその、灰咲さんだっけ? あんたがそんなに気にかけるなんて意外ね」

「そうか?」

「だってあんた、基本、本のことしか考えてないでしょ? 女のことなんて二の次って感じで」

「まあ、女に構ってる暇があるなら本を読みたいけども……」

「でしょう?」

 

 俺のことを良くわかっていらっしゃる。

 さすが親友。

 

「もしかして、本よりも優先してしまうほどの美人さんなのかしら?」

「……正直、めっちゃタイプ」

「へえ……」

 

 少し前のめりになった親友の姿から察するに、どうやら興味を引いたらしい。

 まあ、俺が女性関係で悩むのも、相談するのも滅多にないことだからな。

 

「珍しいこともあるものね」

「いくら俺が本の虫とはいえ、好みのタイプの女性がいたらさすがに気になるって」

「それもそうね」

 

 親友は納得したように頷くが、こいつはいったい俺のことをなんだと思っているのだろうか? 異性に興味を持たない奴とでも思われているのだろうか?

 

 俺だって若い男なのだから、多少は意識するに決まっているじゃないか。

 

「だから放っておけないのね」

「まあ、そうだな……」

 

 タイプの女性だからといのもあるが、バイト仲間っていうのもある。

 それに身近な人が困っていたら、さすがに無視できない。事情が事情だけに尚のこと。

 

「――なんか良い解決策はないか?」

「あんたにできることはやり尽くしているんじゃないかしら。少なくとも、話を聞いた限りではそう思ったわ」

「そうか……」

「納得できないって顔しているわよ?」

「……納得できてないからな」

 

 俺もできることは余すことなくやっているつもりだ。

 だが、まだやれることがあるんじゃないかと考えてしまう。

 灰咲さんを助けられていないからこそ、余計にそう思ってしまうんだ。

 

「私、こんなナリしているけれど、心は男だから女性側の気持ちは想像することしかできないわよ? だから申し訳ないけれど、結局あんたが考えている以上の案は出ないから、こうやって話を聞くことしかできないわ」

 

 千尋は口調も身形も仕草も女性だが、身も心も男だ。女性の格好をするのが好きなだけの男である。

 

 その日の気分によって女装と男装を切り替えている。

 女装している時と男装している時とでは、口調や仕草など、立ち居振る舞いが変わり、完全に別人のようになる。

 

 しかも元々中性的なルックスだからか、女装している時は美女にしか見えない。誰がどう見ても美女なのだ。

 

 実際に千尋のことを女だと勘違いして告白した男は数多くいる。ファッションやメイクなどの話が合うからか、女友達も多い。

 

 だから誤解を受けやすいが、千尋の恋愛対象は女性だ。本当にただ女装が好きなだけの男なのである。

 

「それはわかってる。でも、俺よりは女性と距離が近いだろ?」

「それはそうかもしれないけれど……」

「だからなにかわかることがあるんじゃないかと期待してしまうんだよ……」

「頼ってくれるのは嬉しいわよ? でも、私にできることなんてたかが知れているわ」

 

 そりゃまあ、急にこんな無茶ぶりされても困るよな……。

 誰だって今の千尋のように肩を竦めたくなるに決まっている。

 

 そんなことはわかっているんだけど、つい縋りたくなってしまうんだ。情けないことに……。

 

「まあ、でも、なにかしたいことがあるなら、多少は強引に物事を運んでもいいんじゃないかしら? 女って好意がある男になら強引に引っ張られるのは案外嫌いじゃないみたいだしね」

「強引に、か……」

「もちろん、全ての女に当てはまるわけじゃないから注意は必要だけれど……。そういうのが嫌いな子もいるから」

「そう言われると余計に二の足を踏んでしまうんだが……」

 

 灰咲さんは自分勝手な男に散々振り回されてきたわけだし、強引に事を運ばれるのは地雷の可能性がある。そう考えてしまうと、躊躇せざるを得ない。

 

 半月ちょっとの付き合いである程度は灰咲さんの為人(ひととなり)を把握しているつもりだから、多少強引にされても嫌がる人じゃないのはわかっている。

 

 だが、それでも――

 

「だだの同僚で、ただの友人でしかない部外者の俺が、どこまで首を突っ込んでいいものかと思うと、躊躇してしまうんだよ……」

 

 大須賀に言われた言葉が今でも耳に残っている。

 

 確かに俺は灰咲さんの同僚でしかない。

 灰咲さんとは友達だが、彼女と大須賀の仲に俺は一切関係ない。

 二人の関係については、話を聞いた限りのことしか知らない。

 

 そんなぽっと出の友達でしかない俺が、いったいどこまで介入していいのか……。

 情けないことに、躊躇してしまう理由ばかり頭に浮かんで来て、堂々巡りを繰り返している。

 

 これが良い解決策を考えることができなくなっている一番の原因だ。

 

「……別に友達なんだから首を突っ込んでもいいと思うけれど? 助けるためなら尚のこと」

「……そういうもんか?」

「難しく考えすぎなんじゃない?」

 

 千尋はそこで言葉を区切ると、改めて俺の目をしっかりと見据える。

 俯き気味だった俺が見返したのを確認した千尋は、再び口を開いた。

 

「助けたいから助ける。力になりたいから手を貸す。首を突っ込む理由なんてそれで充分でしょう?」

 

 言われてみると、確かにその通りかもしれない。

 友達を助けるのに理由なんて必要ない。

 

 難しく考えすぎていた……。

 込み入った事情だし、急に身近な存在になった人に関することだから、単純なこともわからなくなっていた。

 

 視野狭窄(きょうさく)に陥ると、簡単なことすらわからなくなる。本当に情けない……。こんな(れい)たらくで力になりたいなんて良く言えたものだ。

 

 自分の情けなさに自然と溜息が零れた。

 

「それでも躊躇してしまうのなら、あんたが灰咲さんの元カレさんにとって無視できない存在になってしまえばいいのよ」

「無視できない存在……」

「言い方を変えるなら、部外者じゃなくなればいいってことね」

 

 意味ありげな表情でそう口にした千尋は、「まあ、それはあんた一人で決められることじゃないけれど」と続けた。

 

「そうか……」

 

 簡単なことだったんだ。

 

「光明を見出したって顔をしているわよ」

「ああ。ありがとう、千尋。お陰で俺のやるべきことがわかった」

「そう、なら良かったわ」

「そうと決まったら、早速行って来る!」

「ええ。善は急げと言うし、それがいいわ。いってらっしゃい」

 

 勢いよく立ち上がった俺は少し乱暴に鞄を手に取ると、足早にその場を後にする。

 

 やっぱ持つべきものは頼りになる親友だな、と千尋に感謝の念を送った。

 

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