ヤニ吸う彼女とナニをする?   作:雅鳳飛恋

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第二章 ヤニ吸う彼女と同居する
第1話 気掛かり


 昨日も今日もあまり講義に集中できなかった。

 昨日、灰咲さんが俺の家を出て行ってからずっと気掛かりだったからだ。

 

 だから今日、バイトで灰咲さんに会えるのが待ち遠しかった。昨日はバイトがない日だったからな……。

 

 もし俺と別れた後に灰咲さんが元カレと遭遇してしまったら……とマイナスな考えばかりが脳裏を(よぎ)ってしまい、不安でいっぱいだった。

 

 なにも手が付かないは言いすぎかもしれないが、このまま不安を抱えたままでいると本当になにもできなくなってしまうかもしれない。

 

 知人の女性が危機と隣り合わせの状況に身を置いていると知っていながら防ぐことができず、万が一のことが起きてしまったら、やっぱり男としては目覚めが悪い。

 

 それに男としてとか、後悔から最悪感に苛まれるとか、そういう自分のプライドやメンタルを守るためではなく、純粋に友達として心配になる。

 

 本に関われるからバイトは好きだが、こんなに早く職場に行きたいと思う日が来るとは思いもしなかった。

 

 一日千秋の思い、というやつを、身を以て体験してしまったよ。

 

 逸る気持ちを押し殺して講義を受けた俺は今、急いで職場に向かっている。

 吉祥寺駅で電車を降りると、バイト先の書店が入っている商業ビルへと駆け込んだ。

 

 エレベーターに乗って一気に六階まで移動する。

 いつもなら一回から六階までの移動時間なんて気にならないのに、今この時ばかりは無性に長く感じ、もどかしくて堪らなかった。

 

「――獅子原君、おつかれさま」

 

 俺の気持ちが届いたわけではないとわかっているが、エレベーターを降りたら目の前に灰咲さんがいて、すぐに会うことができた。

 

 ここの書店はエレベーターを降りたら廊下を挟んですぐ目の前に商品棚が並んでいるから、店員がいても不思議ではない。

 もちろん偶然に決まっているのだが、タイミングが良すぎてどこか運命的なものを感じてしまう。

 

 商品と向かい合っていた灰咲さんは首を回して振り向いている。背後のエレベーターの音に気がついて、客が来たとでも思ったのだろう。

 店員として「いらっしゃいませ」と接客しようとしたら、客ではなく俺だった、というところだろうか。

 

 相変わらず表情に変化がないからわかりにくい。だからまったくの見当違いかもしれない。

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 彼女が今なにをしていたとか、そんなことはどうでもいい。

 

 俺にとって大事なのは、灰咲さんが変わらぬ姿でいつも通り働いているということだからだ。

 

「おつかれさまです。昨日は大丈夫でしたか?」

 

 挨拶して早々、気掛かりだったことを尋ねてしまった。

 

「うん。なにもなかったよ」

「そうでしたか」

「……心配してくれたの?」

 

 安堵してホッと胸を撫で下ろすと、灰咲さんは意外そうにしながら首を傾げた。

 

「そりゃしますよ」

 

 いくら平日だから元カレさんが来ることはないと言っても、推測にすぎない以上、安心なんてできるわけがない。

 

 俺が男だから余計に不安になってしまう。

 男だから女性のことはわからない。

 

 どれくらい腕っぷしが強くて、どれくらい頑丈で、どれくらい男と張り合える気概があるのか、そういったことはまったくわからない。

 だから実態以上に、か弱い存在だと思っている可能性がある。

 

 もちろん、個人差はあるだろう。

 だが、明らかにガタイが良かったり、格闘技をやっていたりしない限りは、見分けなんてつきようがない。

 

 それにいくら強い人でも、トラウマや苦手な人が相手だと気弱になってしまうことだってあり得る。

 

 わからないからこそ、心配になってしまうのだ。

 

「そっか……。ありがとう」

 

 心配してくれたのが嬉しかったのか、不安そうにしていた俺を安心させようとしたのかはわからないが、灰咲さんは頬を緩めながらそう呟いた。

 

「とりあえず、何事もなかったようで安心しました」

「なにかあったら多分、私は今ここにいないね」

 

 灰咲さんは苦笑しているが、まったく笑いごとではない。

 

「だから、もし私がバイトの時間になっても連絡なしに姿を現さなかったらなにかあったと思って」

「そうならないことを祈ってます」

「それは私も祈ってる」

 

 祈ってどうにかなるなら苦労はしない。

 だが、なにもしないよりはマシだろう。

 

 なにより俺が耐えられそうにない。

 灰咲さんの安全が気掛かりで既に集中力が欠如しているのに、この状況が今後も続くと本当になにも手に付かなくなる。

 

 過度の心配で心臓が痛くなって、正常ではいられなくなるかもしれない。

 それくらい灰咲さんのことが気掛かりなのだ。

 

 だから彼女にとってもだが、俺にとっても祈ることが気休めになる。――むしろ、俺の精神衛生上、なにかに縋る必要があった。

 

 なにかに縋りたいのは渦中の中心にいる灰咲さんのほうなんだろうけど……。

 そう思うと、一人で戦っている灰咲さんは本当に強いな。心の底から尊敬する。

 

 彼女のために少しでも力になれればいいが、家に泊める以外に、俺になにかできることはあるのだろうか……?

 

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