12yo   作:バージ1590

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第1話

 

 沈みかけた陽光が荒野を彩る。岩と砂ばかりの荒野には崩れかけた高層建築の建造物が並び陽光を受けて影を伸ばしていた。開けた砂漠と文明の残骸。

 崩れたコンクリート壁の隙間から射線を確保しているシノンは、スコープと適切なアイリリーフ(照準器と眼球の距離)をとり堅固な伏射姿勢をとっていた。シノンがスコープを通して視界に捉えている6人の男、標的の一団は、全員がその顔に緊張を浮かべている。当然だろうとシノンは思う。この標的の一団は、つい先週に待ち伏せを受け全滅するという屈辱を受けている。シノンは男達の装備を見てとり、そのうちの1人、分隊支援火器を持つ男にレティクルを合わせたところで、ヘッドセットから仲間の声が聞こえた。

 

 『こちらは位置についた。いけるか?』

 

 無線を通して鼓膜を揺らした声を不快に思いながらも、シノンは無表情に答えた。

 

 「標的は捉えてる。キルゾーンに入り次第、いける」

 

 シノンはスコープから眼を離さず、自分とは別行動をとっているチームの仲間4人もまた、標的を一方的に攻撃することができる、待ち伏せの位置についているという事実を改めて自覚し、思わず嘆息した。

 シノンは元来ソロプレイヤーだったが、今回は事情が違った。小規模な対人スコードロンに雇われ、チーム唯一の狙撃手としてこの待ち伏せ参加している。

 

 はっきり言って、胸糞悪いような作戦だ。

 

 Mob狩りを専門としているスコードロン(対人戦闘に不利な装備しか整えていないような連中)のみを標的とし、ドロップした装備を回収する連中の一員として行動するのは気分がいいとは言えないかったが、雇われたからには自分に課せられた仕事はこなすつもりだ。忠誠心を売ったわけではない。

 今回のチームリーダーは、ジェルと呼ばれるプレイヤーだった。HK416という小銃をメインウェポンとしている、前回のバトル・オブ・バレッツにおける上位入賞者だった。いずれ敵として戦場でまみえるその時にジェルに優位性を取るため、その思考と行動を探るために、シノンは懐に潜り込んだのだ。

 シノンの心中など知る由もないジェルが『よし』と無線越しに呟く。

 

 『シノンのタイミングで狙撃を開始。MG(Mimimi)持ちをやれ。同じタイミングで俺達も強襲をかける』

 

 「了解」

 

 短く返答したシノンは僅かに眼を細めると、そっと人差し指をライフルの引き金に添える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シノン達の標的が廃墟の並ぶ通りに入る少し前、その男は伏せながらライフルのスコープを覗いていた。銃身に人差し指を添えて、薄く笑う。スコープ越しの光景に、男は思わず感心していた。

 

 (L字形伏撃(エルシェイプ)か)

 

 ライフルのスコープを通して男ーー狙撃手の視界が捉えている4人の男達の行動はまずまず理にかなっている。標的とする敵の進行方向と並行するL字の長い部分に2人の射手を配置する。射手2人が射撃を開始して、敵に線状伏撃だと思わせておいてから、L字の短い部分に配置された射手も攻撃。射線が交差し、キルゾーンが形成される。

 標的とされているであろう集団はあと10数分でキルゾーンに入るだろう。死んだも同然だ。

 

 そして、その伏撃を仕掛ける男達もまた、死んだも同然だ。

 

 今すぐにでも伏撃をかけようとしている男達こそ、ライフルを構えた狙撃手の標的だった。Mob狩り専門のスコードロンのみを狙う薄汚い連中だ。狙撃手はその連中のうちの1人ーージェルと呼ばれるプレイヤーだけを高価値目的(ハイバリュー)としていた。

 目的はジェルのメインウェポンであるHK416だった。そこそこのレアアイテムだ。高く売れるかもしれない。ジェルをキルしたところで目当てのアイテムをドロップするとは限らないが、可能性はある。

 

 (長く待たされたんだ。頼むぜ)

 

 狙撃手の計画はシンプルだった。ジェルのチームが標的を攻撃、全滅した後に取る行動は一つだ。標的のドロップアイテムの回収。そのためには、ジェルのチームは遮蔽物から離れ、開けた砂漠に身を晒さなければならない。

 

 狙撃手からしてみれば、格好の的だ。

 

 狙撃手が隠れているのは、ジェルのチームが隠れている廃墟のような潜伏場所ではなかった。

 ジェルのチーム、その標的のスコードロンが通るルートから300メートル離れた砂漠の丘をスコップで掘り下げた掩体に伏せていた狙撃手は、その他にも、崩れたコンクリート壁や建造物が狙撃手に完璧に近い遮蔽物を提供してくれる場所があることは理解した上で、狙撃手がこの潜伏場所を選んだことには理由があった。

 300メートル程度の射撃には90度の視界があれば充分であるうえに、建造物などはまず狙撃手の潜伏場所として警戒される。初弾を放ったあとにジェルのチームの生き残りがその場に伏せて狙撃位置を特定しようとした時にまず眼を向けられるだろうし、自暴自棄になって放った敵の銃弾がたまたまこちらを捉えないとは言い切れない。

 

 もっとも、13秒もあれば生き残りの連中を全滅させられるだろうが。

 

 狙撃手の構えているライフルは、セミオート式のSR25スナイパーライフルだった。ボルトアクション式のライフルと比べて遥かに速射性に優れている上に、狙撃手はこの手の射撃を幾度となく経験しており高い技量を備えている。射撃した時に砂埃が舞うのを最小限に抑えるよう、掩体には砂漠迷彩のシートを敷いてなおかつ、銃口の付近には水を撒いていた。

 

 完璧な計画だと、狙撃手は判断していた。

 

 スコープを通して、ジェルが無線に手を伸ばす様子が鮮明に見える。ライフルをゆっくりと振り、ジェル以外のチームの3人の様子を確認する。誰も無線交信している様子がないことを確認した狙撃手は眼を鋭く細めた。

 そして、閉じる。額をライフルの床尾に載せて、しばらくじっとしていた。

 

 あっけなく自身の計画が潰れたことを狙撃手は知った。

 

 今自身が目にしているジェルのチーム以外に、バックアップのチームが存在している。狙撃手が視認できていないバックアップチームとジェルが交信しているのだ。ジェルを含めた4人の間抜けを葬ることは造作もないことだが、まだ見ぬバックアップチームにこちらの位置を知られた場合、ろくな遮蔽もない場所に潜伏する狙撃手は1分と保たないだろう。

 

 

 撤退せざるをえない。

 

 ジェルのチームが間抜けな羊を狩り終えた後、1時間待機。その後離脱。あまりにも腹が立つ状況だ。今すぐジェルの脳幹に1発叩き込んでやりたいところではあるが、その欲を抑える自制心はある。

 

 「Fack off」

 

 狙撃手は吐き捨てるが、1秒後にふと思考を巡らせる。

 

 (バックアップのチームをこの砂漠でわざわざ雇うか?)

 

 ジェルのチームが傲慢なクソ野郎のチームであることは知っている。

 

 めちゃくちゃ嫌われていることも知っている。

 

 バックアップの強襲チーム(少なくとも1チーム4人)と一致団結できるのか?

 

 スナイパーを1人雇っている方がしっくりくる。(むかつく)

 

 開けた位置で線上攻撃を行うのはない。

 強襲チーム、、うーん。

 廃墟にバックアップチームを待たせてるにしろ、8人は必要。

 ……ないかなと思う。

 

 (スナイパー1人でってのがしっくりくるな。少し待つか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 シノンはジェルの指示で狙撃を開始。

 引き金をゆっくりと絞り、ジェルのチームが指示した標的の頭を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 狙撃手は笑う。

 ジェルのチームが3分間かけて彼らの敵を掃討したことはどうでもいい。笑える理由はバックアップの強襲チームがいないことを知ったからだ。

 

 最初の一撃が狙撃によるものからの待ち伏せだからだ。

 

 完全な待ち伏せと陣形をひいて、この出来なら。

 

 そして、ジェルのチームが雇った狙撃手の位置を把握できた。

 

 

 

 

 シノンはしっかりとスコープでジェルのチームがMob専門で対人相手に何もできない連中をキルしている光景を見た。うんざりするなと思った直後のことだった。

 

 

 

 

 

 狙撃手はあっさりと、崩れたコンクリート壁の、高さのある場所に移動したのち。シノンの頭を撃ち抜いた。

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