TS転生美少女のデッキは切り札まで美少女天使   作:旅するチョコボ

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初登校です
よろしくお願いします


1-C/新たなる物語の幕開け

 

(こんなにカラフルな頭の学級(クラス)、ほんとにあるんだ……)

 

 

 秋という言葉が消滅して久しい、蒸し風呂のような暑さの続く首都トーキョーの9月1日。

 ()()()()()()()()の扉を開いた瞬間、飛び込んできた極彩色の世界に思わず目を丸くした。

 もはや何度目になるかもわからない、自分の常識とは全く違う世界への驚嘆。

 目覚めてすぐのころは戸惑ってばかりだったけれど、今はもう、この程度のことで身をすくめたり足を止めたりはしない。

 

 教壇でニコニコしながら待っている先生の下へ、五歩、静かに駆け寄る。

 腰まで伸びてしまった金髪がふわりと風に舞って、二十何人かいるクラスメイト達の関心が一斉に引きつけられたのを感じた。

 

 

「というわけで、2学期の始まる今日からこのクラスに新しいお友達が加わります。三国さん、自己紹介よろしくね」

 

「初めまして、三国(みくに)佳蓮(かれん)と申します。よろしくお願いします」

 

 

 先生の言葉に続けて一息で言い切って、ぺこりと頭を下げる。

 時が止まったような静寂が数秒。顔を上げると、先生が首を傾げながらこちらを見ていた。

 これからクラスメイトになる少年少女たちも、皆ポカンとしている。何かまずかっただろうか。

 

 

「……えーっと、そ、それで終わりかな?何か好きなこととか、特技とか意気込みとか、何でもいいからみんなに伝えてみない?」

 

「……と、言われても」

 

 

 コミュ障を舐めるなと言いたい。言える人間はだいたいコミュ障じゃないんだけども。

 意気込みとか言われても頑張りますくらいしか言えないし、特技らしい特技もこの世界で目覚めてからは持っていない。

 唯一まともな答えを返せそうなのは好きなことの話だが、一度口にしたが最後、面倒ごとに巻き込まれる予感しかしない。

 

 

「えーっと……好きなことは、カードゲームで」

 

「なんだって!?佳蓮も『()()()』好きなのか!?」

 

「っ!?」

 

 

 ほら来た。

 椅子を蹴飛ばす勢いでガタンと立ち上がったのは、教室の後方、窓際の席に座っていた少年だ。

 

 声変わり前の男児特有の、よく通る高い声が耳に突き刺さって抜けない。

 意識をハッキリと向ければ、色彩豊かなクラスの中でもひときわ目立つ、オレンジ色のトゲトゲヘアーがそこにある。

 天高くそびえ立つ非現実的な髪型は、彼の低めの身長を打ち消して余りある大きな存在感を主張していた。

 真っ赤に燃える瞳からは、まっすぐすぎるほどの意志の強さがビシビシと伝わってくる。

 

 カードゲームをメインに据えたアニメの主人公を具現化したら、まさにこんな感じになるんだろう。

 

 少年の全身からほとばしる炎と陽気。いかにも暑苦しそうで、あまり積極的に関わりたいタイプではない、が。

 

 

 

「なぁ!!やろうぜ、『()()()()()()』!!俺と『()()()()()』しよう!!」

 

 

 

「あ、えっと、その」

 

 

 ものすんごい押しの強さで迫ってくる。

 少年は机を離れていないから物理的な距離は多少あるはずなのに、顔と顔を突き合わせて叫ばれているかのような圧を感じる。

 どうやって躱すかを必死にシミュレーションしていた頭がフリーズして、口からこぼれるのは意味のないフィラー表現ばかりになってしまう。

 

 

 『リブラ(Libra)アーク(Arc)』とは、この世界を統べるカードゲームの名前。リブラと略されることも少なくない。

 『エンゲージ』は、リブラにおいて対戦を意味する用語として使われている言葉。

 

 

 つまり、この少年は『俺とカードで遊ぼう!!!!!』って言ってるだけ。

 だけなんだけど!あまりに直情径行が過ぎると思うんだ!!

 

 

「佳蓮はどんなデッキを使うんだ!?俺は『()()()()()()』でも『()()()()()()』でもどっちのレギュでも対応できるし、なんなら『()()()()()()()』だって――」

 

「あ、わぁ、ぁあ……」

 

 

 満面の笑みを浮かべながら、まっすぐに自分の気持ちをぶつけてくる。

 三段飛ばしで対戦の算段をつけていく少年に、色んな意味で言葉が出ない。

 誰か何とかしてくれ!そう願った瞬間、気持ちが通じたのか、1人の女の子が立ち上がった。

 

 月が照らす明るい夜空のような紺色に艶めく、肩口で切り揃えられたショートヘアが揺れる。

 オレンジの少年とは真反対なほど感情の薄い表情では、何を考えているかさっぱりわからない。

 いや、少年も少年で何考えてるんだ、って感じだけれど。

 

 少女は、どうかしたかと言いたげに振り向いた少年の下へとスタスタと歩み寄って。

 

 

蒼龍(そうりゅう)、いい加減にしなさい。あの子、困り果ててすっかり固まっちゃってるでしょう」

 

 

 スパァン!と。それはもうキレのいい音を立てて。

 丸めたノートで、少年の頭をはたき飛ばした。

 

 

「痛ってぇ!?何すんだ、邪魔しないでくれよ、()()!」

 

「何すんだはこっちの台詞よ。あの子の、三国さんの立場に立って考えてみなさい。転校してきた学校で、名前も知らない相手に、突然リブラで勝負を挑まれたらビックリするでしょう」

 

「え、俺だったら即『エンゲージ』するぜ?」

 

「そんなことをするのはあなただけよ、このカードバカ」

 

 

 目の前で突然始まったこの漫才には、どうリアクションしたらいいのか。誰か教えて欲しい。

 クラスの他の子たちは「まーた始まったよ」とでも言いたげな生暖かい目で見てるし。え、これが日常茶飯事なの?

 

 

「三国さんとリブラしたいなら、まずは挨拶からでしょう。そもそもあなた、まだ名乗りもしてないわよ。私たちは三国さんの名前一つ覚えればいいけれど、三国さんは私たち全員の名前をなるべく早く覚えてね、って状況なんだから」

 

「あ、そっか、わりぃわりぃ」

 

 

 少年が、頭を掻きながら笑う。

 そして、再びこちらへ真っ直ぐな視線を向けてくる。

 

 

「さっきはごめんな!俺の名前は、天嶺(あまみね)蒼龍(そうりゅう)!!使うデッキは『ドラゴン族』だ!あらゆるドラゴンが、俺の仲間だぜ!!よろしくな、佳蓮!!」

 

「……改めて、三国(みくに)佳蓮(かれん)です。よろしくお願いします、天嶺くん」

 

 

 名前を聞けばあまりにド直球なキラキラ主役ネームで、思わずクスリと笑ってしまった。

 ドラゴン使いの蒼龍くん、なんと安直で分かりやすい名前だろうか。

 しかも、纏う空気が名前負けしていないのがまたすごい。よく似合っている名前だな、って思う。

 

 二言目にはカードの話をしてきそうな勢いがあるが、大丈夫だろうか。ちょっと不安だ。

 別にカードの話をするのが嫌いというわけじゃない。あまりに全速力でぐいぐい距離を詰めてくるので、心理的に後ずさってしまうだけなのだ。

 まぁ、少しずつ仲良くなればいいんじゃないだろうか。加減してくれると嬉しい。

 

 

「ついでだから私も。月影(つきかげ)(りん)よ。蒼龍とは……まぁ、腐れ縁という奴ね。クラスの委員長も務めているから、分からないことがあったら何でも聞いてね」

 

「はい、よろしくお願いします、月影さん」

 

 

 こっちもこっちでクールビューティーな名前だ。名前も顔も雰囲気も、かわいらしさよりカッコよさが勝る。

 直前の彼とは違って、あまりにもまともな挨拶にふっと気が抜けた。

 カードゲーム世界と言えど、ちゃんと常識的な人もいるみたいだ。

 彼女がいれば、最低限このクラスでもやっていけそうな気がする。そう思わせる頼もしさがあった。

 

 

「あ、次は俺俺!成谷悟って言います!仲良くしてくれな、三国ちゃん!」

 

「私は丸瀬理依奈、気軽にリーナって呼んでね」

 

「俺、大野(つるぎ)!」

 

「ウチは星野地球(テラ)、よろしゅう」

 

「僕は――」

 

 

 堰を切ったように、怒涛のように押し寄せてくるクラスメイト達の名前の奔流。

 いっぺんに受け止めきれずに目を回しているところを助けてくれたのは、先生だった。

 

 

「はいはい、仲良くなりたいみんなの気持ちは嬉しいけど、三国さんにも三国さんのペースがあるわ。三国さんも大丈夫、今すぐ覚える必要はないのよ。後からゆっくり、1人ずつ顔と名前を覚えて行けばいいからね」

 

「あ、はい、ありがとうございます……」

 

「それじゃあ、三国さんの席はあそこね。窓際の一番後ろ、天嶺君の後ろの開いてる席よ」

 

 

 先生に促された席について、ようやくひと心地つく。

 身体から力が抜けたことで、全身の筋肉がプルプルと小刻みに震えだす。

 新たな日常の始まりに対して、自分で思っていた以上に緊張していたことに気が付いた。

 

 先生がテキパキと告げる新学期の事務連絡が、右から左へ抜けていく。

 ちゃんと聞かなきゃいけない大事なことなんだけど、先ほどの一幕で気力を使い果たしてしまったみたいだ。

 仕方がないから後で月影さんに聞けばいいやと割り切る。事務的なやりとりなら全然平気だし。

 

 ぼんやりしている間にホームルームが終わって、休み時間特有の喧騒が教室に満ちて。

 2列向こう側の席に座っている月影さんのところへ行こうとして。

 

 

 

「佳蓮!リブラアークの時間だ!俺と『エンゲージ』しよう!!」

 

 

 

 すぐ前の席に座っていた蒼龍くんが叫んだ。

 めちゃめちゃいい笑顔でサムズアップしている。

 

 

「……え、ええっと」

 

 

 救いを求めるように周りを見回しても、止めてくれそうな人は誰も見当たらない。

 興味深そうに見てくる子、待ちきれないとニヤニヤ楽しそうに笑ってる子、まーた始まった、と呆れながらも目線はこっちに向いてる子。

 頼みの綱になってくれそうな月影さんでさえ、両手を上げて首を振っている。

 

 

 

 ――え、これ、もしかして、今この場で対戦しなきゃダメぇ……?

 

 

 

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