TS転生美少女のデッキは切り札まで美少女天使   作:旅するチョコボ

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初投光です
よろしくお願いします


2-A/天嶺蒼龍VS三国佳蓮 リブラアーク、エンゲージ!(下)

 

 キャントリップ(cantrip)と呼ばれるカード、あるいは能力がある。

 スピリットの本体やスペルの本命の効果に加えて「おまけの1ドロー」がくっついてくるカードのことをそう呼ぶ。

 転じて、この「おまけの1ドロー」能力そのものもキャントリップと呼ばれることになる。

 

 言葉の元々の意味は、確か、「おまじない」とかそんな感じだった気がする。

 特別な名を持たないささやかな魔術。それがキャントリップだ。

 

 僕が今使っている「ゼロウェイト」レギュレーション用のデッキには、このキャントリップ・カードが満載されている。

 半分くらいはキャントリップ能力を持つカードで構成されている。

 


『見習い天使』/①○

スピリット/天使

飛行(飛行を持つスピリットは、飛行を持たないスピリットにブロックされない)

召喚時、デッキから1枚ドローする

パワー1/タフネス1


 

 


『天使のいたずら』/①○

スペル/ファスト

相手のスピリット1体に1点のダメージを与える。デッキから1枚ドローする。


 

 

 『天使のいたずら』なんかは完全にドロー目的の採用だ。

 もはや1点ダメージの方がおまけに成り下がっているけれど気にしてはいけない。

 ドローに加えて控えめな仕事ができるというのはなんだかんだで偉いのだ。

 今しがた、蒼龍くんの『火だるまドラゴン』を撃ち落としたように。

 

 ではなぜキャントリップを満載しているのか。

 ――ドロー枚数を増やして、絶対に引きたいキーカードを確実に引き当てるためである。

 

 

 

「俺のターン!ドローっ!!」

 

 

 蒼龍くんとのバトルは、今が後攻の4ターン目。

 互いにモンスターを出し合い、殴り合い、除去し合って。

 バトルゾーンにいるのは僕の『見習い天使』1体だけ。

 

 

「マナをセットして……来い!『吠え猛る竜』!!」

 

 


『吠え猛る竜』/②●●

スピリット/ドラゴン

疾風(疾風を持つスピリットは、フィールドに出たターンでも攻撃できる)

貫通(このスピリットの攻撃がブロックされた時、致死ダメージを与えた後の余剰ダメージを相手プレイヤーに与える)

パワー4/タフネス2


 

 

 対して、蒼龍くんが呼び出したのは「貫通」能力持ちのスピリット。

 サイズの小さなスピリットでブロックしても、パワーとタフネスの差の分だけダメージを受けてしまう

 ブロックに使ったスピリットを一方的に討ち取られることを承知の上でダメージを回避し時間を稼ぐ、今の僕みたいな戦法を許さない。

 きわめて攻撃的な能力だ。

 

 

「これならブロックできねーだろ!バトルだ!!『吠え猛る竜』でアタック!!」

 

「ノーブロック、ライフで受ける」

 

 

 4点のパワーがそのままダメージになり、僕のライフは残り12点。

 蒼龍くんのような好戦的な(アグロ)デッキが相手だと、頓死もあり得るラインに入ってきている。

 逆転の手段はあるけれど、はたして間に合うかどうか。

 

 

「楽しそうだな、佳蓮」

 

「……え?」

 

「顔が笑ってるぜ!ここからどうやって勝つか、必死で考えてる。まだ全っ然諦めてない奴の顔だ!!」

 

 

 蒼龍くんの言葉に、思わず口元に手をやる。

 触れれば、ほのかに口の端が上がっているのが自分でも分かった。

 

 

「楽しい……うん、そうだね、とても楽しい」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「俺のターンは終わりだ。見せてくれよ、佳蓮!お前のリブラアークを!!」

 

「私のターン……いいよ、見せてあげる」

 

 

 前のターンに使ったマナゾーンのカードを縦向きに直し、カードを引いて、マナをセットする。

 丁寧にルーティーンをこなして、ふぅっと息を吐く。

 

 

 

 さぁ、勝負だ。天嶺蒼龍。

 

 

 

「――プレイ、『天使のはしご』」

 

 


『天使のはしご』/②○○

ガジェット

自分の場の天使・スピリットは「還元」を持つ

(還元を持つスピリットがダメージを与えた時、そのダメージの点数分プレイヤーのライフを回復する)


 

 

「げっ!!」

 

「ああ、やっぱり『回復エンジェル』なのね……」

 

 

 このデッキの要となるガジェット・カード(置き物)を場に出した瞬間、騒ぎながら見守っていたクラスメイト達から歓声が上がる。

 リブラアークへの理解度は皆そこそこ高いらしい。

 蒼龍くんは露骨にしかめっ面になり、僕のデッキを察していたであろう鈴ちゃんも思わず苦笑いを浮かべている。

 

 

 還元持ちのスピリットでライフを回復しながら時間を稼ぎ。

 飛行持ちのスピリットでブロックされずに殴り切る。

 シンプルなミッドレンジデッキ*1、それが「回復エンジェル」。

 

 

 コモンカードでデッキを構築する「ゼロウェイト」レギュレーションの下では、『飛行』と『還元』の2種類の能力の両立が難しい。

 どちらか片方しか持たないスピリットがほとんどで、逆に両方を持つスピリットはマナ・コストが重すぎて扱いにくい。

 

 だから、『天使のはしご』(このカード)が必要なのだ。

 これさえフィールドにあれば、天使族であるだけで『還元』の能力を持ち、攻撃した時やブロックした時にライフを回復できるようになる。

 このデッキのスピリットはすべて天使族に統一してあるから、実質全てのスピリットが『還元』を持つことになる。

 

 一度ライフに余裕ができれば、相手のスピリットによる攻撃を、ブロックするのではなくライフで受けて耐えることができるようになる。

 減ったライフは、また回復すればいいのだ。攻防一体のすごく使い勝手のいい能力なのである。

 

 

「私のマナは、まだ1点残っている。『天界の繭』をプレイ」

 

 


『天界の繭』/○

スピリット/天使

残響(このカードが戦闘または効果によって破壊され墓地に置かれた時に発動する)

デッキからマナ・コストがX以下の天使・スピリットを1枚選んでバトルゾーンに出す。

Xはこのスピリットが受けたダメージの値に等しい。

パワー0/タフネス1


 

 

 ダメージに反応してスピリット(次の壁)をデッキから呼び出せるスピリット。

 効果を嫌って除去系のスペルを使ってくれるならそれはそれでアドバンテージになる、使い勝手の良い一枚だ。

 

 本当は今出したいカードではないんだけど、マナを無駄に余らせるよりは使い切った方がずっといい。

 今の手札では残してても使い道がないし、ブロッカーぐらいにはなる。

 僕の場のスピリットは2体。攻撃は……やめておこう、今1点削り出したって焼け石に水だ。

 

 

「攻撃はしないからこれでターンエンド。何かある?」

 

「いや、何もないぜ!俺のターン、ドロー!!」

 

 

 ドローしたカードを見て、蒼龍くんが目を見開いた。

 盤面を見て、手札を見て、また盤面を見て、声も上げずに考え込んでいる。

 …………もしかして、リーサル*2

 

 

「んんんんん……足りねぇ!マナをセットして『漲る闘気』を発動だ!」

 

 


『漲る闘気』/

スペル/ファスト

スピリット1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+3/+0の修正を受け、『貫通』を得る。


 

 

 場を支配する『吠え猛る竜』のパワーはこれで7点。とてつもない大きさだ。

 だが、元々「貫通」を持っているスピリットにわざわざこのスペルを使う理由は――

 

 

「続けて『竜麟裂華』を発動!!」

 

 

 


『竜麟裂華』/●●

スペル

ドラゴン・スピリット1体を対象とする。それを破壊する。

赤の1/1のドラゴン・スピリット・トークンをX体生成する。Xは破壊されたスピリットのパワーの値に等しい。


 

 

 

「……わぁ」

 

「へへっ、驚いてくれたか!?対象はもちろん『吠え猛る竜』!力あるドラゴンが引き裂かれ、胸の炎は分かたれる!!」

 

 

 盤面にずらりと並ぶのは、小さな竜の群れ。その数は7体。

 トークンの生成数を増やすために、あえて先にスペルでパワーを強化したのだ。

 

 とはいえ、場に出たスピリットは次のターンまで攻撃できない。

 ()()()『吠え猛る竜』の攻撃後に使うスペルだろう。

 もう1枚、コンボが来る!蒼龍くんの、最後の手札が!!

 

 

「さぁ!行くぜ!!『先導する竜』を召喚!!」

 

 


『先導する竜』/①

スピリット/ドラゴン

召喚時、あなたのバトルゾーンにいるすべてのスピリットは、ターン終了時まで+1/+0の修正を受け、さらに疾風を得る。

(疾風を持つスピリットは、フィールドに出たターンでも攻撃できる)

パワー1/タフネス1


 

 

 横並べからの全体バフ。お手本のような火力コンボ。

 パワー2/タフネス1のドラゴンが8体、16点の暴力が、襲ってくる!!

 

 

「バトルだ、佳蓮!!全員で一斉攻撃!!」

 

「リブラアークのルールに一斉攻撃なんてものはない。一体ずつ処理する」

 

 

 まぁ、一斉攻撃(フルパン)したい気持ちは僕にも分かるんだけども。

 ここは丁寧にやらせてもらう。蒼龍くんの見落としにも気づいちゃったし。

 

 

「1体目のトークンを『見習い天使」でブロック。2体目のトークンを『天界の繭』でブロック」

 

「そして……『天界の繭』の効果を発動する」

 

 


『天界の繭』/○

スピリット/天使

残響(このカードが戦闘または効果によって破壊され墓地に置かれた時に発動する)

デッキからマナ・コストがX以下の天使・スピリットを1枚選んでバトルゾーンに出す。

Xはこのスピリットが受けたダメージの値に等しい。

パワー0/タフネス1


 

 

「これにより、デッキから2マナ以下の天使・スピリットを出す。対象は……『天恵の護り手』」

 

 


『天恵の護り手』/①○

スピリット/天使

飛行(飛行を持つスピリットは、飛行を持たないスピリットにブロックされない)

パワー1/タフネス3


 

 

「あ、やっべ!?」

 

「場に出た『天恵の護り手』で『先導する竜』をブロック。……残りの5体は、私のライフにダメージを与える」

 

 

 僕が厳密な処理にこだわった理由がここだ。

 ルール通りにきちんと一体ずつバトル処理をこなせば、()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()

 蒼龍くんも、己の計算違いをはっきりと認識したみたい。

 

 

 僕のライフは12点。場にはパワー2のスピリットが8体。

 2体がブロックされても残る6体は僕を攻撃出来て、ライフはちょうど0……にはならない。

 『見習い天使』に付与された「還元」分の回復が1点だけ入るのでかろうじて生き残るのだ。

 とはいえ1点のライフなら、次のターンにプレイヤーに直接ダメージを与えるカードを叩き込めば余裕で勝てる。

 

 ところが『天恵の護り手』が増えちゃったことでさぁ大変。

 (プレイヤー)に牙を届かせたドラゴンは1体減って5体になり、さらに「還元」も発動する。

 

 

 蒼龍くんの全力攻撃をしのいだ僕の今のライフは、4点。

 首の皮2枚ぐらい繋がった感触だ。

 

 

「ぐああああ、ミスった……!しゃーねー、切り替えていくぜ!!ターンエンドだ!!」

 

「私のターン。バーチ、ドロー……うん、じゃあ、切り替える前に追撃する」

 

 

 たった今引いてきた都合のいいスペルを見て、小さく息を吐き出す。

 ギリギリの綱渡りを強いられたけど、ようやく形勢をひっくり返せそうだ。

 

 

「マナをセットしてから、プレイ『アローレイン』」

 

 


『アローレイン』/③

スペル

他のプレイヤーと、他のプレイヤーのスピリットすべてに1点のダメージを与える。


 

 

 全体除去……と呼ぶには、あまりに貧弱な火力。

 でも今は。場にタフネス1のトークンが並ぶ今は、最高にピッタリの1枚。

 

 

「これにより、天嶺くんの場のスピリットは……全滅する」

 

「おいおい、マジかよ!やるじゃねぇか、佳蓮!!」

 

 

 周りで見ているクラスメイト達から歓声が沸く。

 ……蒼龍くん、なんで君まで嬉しそうにしてるんだ。ダメでしょ。

 

 

「さらに『天界の書記官』をプレイ。バトルフェイズに入って、『天恵の護り手』でアタック」

 

 


『天界の書記官』/②○

スピリット/天使

飛行(飛行を持つスピリットは、飛行を持たないスピリットにブロックされない)

召喚時、カードを1枚引く。

パワー2/タフネス1


 

 

 新たな壁を出し、カードを1枚引いて(キャントリップ)、ライフを回復させるために殴る。

 たかが1点、されど1点。ライフ4から5への回復は、大きな意味を持つ。

 高速速攻(アグロ)デッキに採用されているような、マナ・コストの軽い直接火力カード1枚じゃとどめに届かない点数。

 届かないと思うけど……どうかな?ないよね?重火力積んでないよね?

 

 

「私はこれでターンエンド。天嶺くん、どうぞ」

 

「へへっ……俺が有利なのはライフだけ、すっかり捲られちまったぜ!」

 

 

 今やバトルゾーンに立つのは僕の天使が2体だけ。蒼龍くんは、すっかり攻め手を失ってしまっている。

 そして、僕たちの有利不利をひっくり返す要素がもうひとつ。

 

 

 ――()()()()()()()()()0()()

 先のターンの前のめりな全力攻撃で、完全に使い切ってしまっていた。

 彼を助けてくれるのは、デッキトップから引く1枚の新しい手札だけ。

 

 

 対して僕の手札には余裕がある。

 キャントリップでカードを引きまくっていたことで、手札の枚数が減っていないのだ。

 

 これが、僕がキャントリップを満載していたもうひとつの理由。

 手札の枚数は、そのまま手数。そして可能性。

 ゲームの終盤に手札(ハンド)・アドバンテージを得る手段として、キャントリップを多用したのだ。

 

 今僕たちはレアカードを使えない『ゼロウェイト』レギュレーションのデッキで戦っていて。

 蒼龍くんのデッキは、1マナ・2マナのカードを中心に構成された高速速攻(アグロ)デッキ。

 1枚のカードで全てをひっくり返すパワーなど、持ち合わせていない。

 

 

「俺のターン!ドローっ!!……佳蓮、お前すげぇよ」

 

「え?」

 

「俺は『溶岩地獄』を発動する!!」

 

 


『溶岩地獄』/●●

スペル

全てのプレイヤーにそれぞれ4点のダメージを与える。


 

 

 あっっっっっぶなっ!?!?!?

 さっきライフ回復よりブロッカー確保を優先して攻撃しない選択肢を選んでたらトップ解決*3されて負けてたってことぉ!?

 

 

「お、さすがに佳蓮もビビったな!くっそー、惜しかった!!」

 

「うん、すごかったよ、天嶺くん。……これで、私の優勢は動かなくなった」

 

 

 諦めてサレンダーしてしまう人もいる状況だけど、蒼龍くんの瞳は未だ闘志を燃やしたままでいる。

 ならば、僕もキチンと応えなければ。――さぁ、トドメを刺そう。

 

 

「私のターン。バーチ、ドロー、マナセット」

 

スペル(呪文)・カード『天使の祝福』をプレイ。対象は『天恵の護り手』」

 

 


『天使の祝福』/①○

スペル/ファスト

スピリット1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+2/+1の修正を受ける。あなたは2点のライフを得る。


 

 

「パワー3になった『天恵の護り手』と、パワー2の『天界の書記官』でアタック」

 

 

 蒼龍くんが5点のダメージを受け、僕のライフが同じだけ回復する。

 『天使の祝福』の2点直接回復と合わせて、僕のライフは8点に。

 これを手札1枚で一息に削り切れるコモンカードは――存在しない。

 

 

 

 次の蒼龍くんのターンを難なく凌いで、返しのターンに総攻撃。

 ライフを削り切った攻撃の瞬間、皆の歓声がわぁーっと教室を包み込んだ。

 そして、その狂騒にかき消されかけながらなんとか存在を主張する、1時限目の始まりを告げるチャイムの音も。

 

 

「ナイスエンゲージだったぜ、佳蓮!」

 

「ありがとう、私も楽しかったよ、天嶺くん」

 

「蒼龍って呼んでくれよ!これからはクラスメイトで、リブラ仲間で、友達だろ?」

 

「うん、分かった。改めてよろしくね、蒼龍くん」

 

 

 2人して笑って、それから大慌てでカードを片付ける。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、授業中にカードをいじってたらさすがに先生に怒られてしまう。

 

 

 こうして僕は、新たな生活の始まりに勝利という大きな一歩を刻んだのだ。

 

 

*1
アグロ(速攻)とコントロール(長期戦)の中間に位置し、マナコスト制のゲームでは主に3~5コスト帯のカードと性能を重視したデッキ

*2
そのターン内にライフポイントを削り切って勝利できる状況のこと

*3
今ドローしてきたカードで局面を打開すること。またの名を「デスティニードロー」




カードバトルの描写、難しいですね
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