TS転生美少女のデッキは切り札まで美少女天使   作:旅するチョコボ

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初灯港です
よろしくお願いします


2-B/天使の増えた教室の日常

 

「起立、気をつけ。礼」

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

 

 クラス委員長を務める月影さんの几帳面な号令とあいさつで、無事に1時限目の授業を終えた後。

 クラスの皆が、わぁっと一斉にこちらへと群がって来てしまった。

 

 

「三国ちゃん!さっきのリブラ、すっげぇカッコよかった!!」

 

「あの蒼龍くんに勝っちゃうなんて!ただものじゃないわね!!」

 

「ふっ、うちは信じとったで、この子は強いって」

 

「どこ目線なんだよお前」

 

 

 席を立つ間もなくあっという間に机を取り囲まれて、言葉の奔流を浴びる。

 皆が口々に語るのは、さっきの――蒼龍くんとのエンゲージに対する称賛だ。

 

 なんでも、蒼龍くんは昨年の、1年生の時点で学校最強の称号をほしいままにしていたらしく。

 条件を問わず、リブラアークで彼に土をつけたことのある生徒は月影さんをはじめ片手で数えるほどだとか。

 初戦にして蒼龍くんに勝った事実が、思った以上に大きく評価されているようだった。

 

 

「ねぇねぇ、なんで天使族デッキを選んだの?」

 

「相性バッチリ、プレイングも完璧だったよな!誰に教わったんだ!?」

 

「え、ええっと」

 

 

 一斉に集まる視線、矢継ぎ早に投げかけられる質問。

 思わず言葉が詰まる。雑談に類するコミュニケーションは苦手なのだ。

 一人で大人しくカードいじっていたいタイプ。

 

 それに、彼ら彼女らとの共通の話題になりそうなことがリブラアークしかない。

 皆もなんとなく分かっているから、先の対戦から根掘り葉掘りしようとしてるのだろう。

 

 

「はいはい、あなた達落ち着きなさい。……名札でも作りましょうか、三国さん?」

 

 

 月影さんが見かねて割って入ってくれたが、どうも勘違いされているような気がする。

 蒼龍くんと月影さん以外の名前を覚えていない故に返事ができなくなってる、と思われてるような……。

 実体は斜め下なんだけど、わざわざ訂正して恥をさらす必要もない。

 

 

「ありがとうございます、でも、皆の手を煩わせるわけには」

 

「気にしないで。みんなあなたのことが気になってる。少しでも早く、あなたと仲良くなりたいのよ」

 

「……じゃあ、お願いします」

 

 

 月影さんがにこりと笑って頷くと、皆に小さな紙片を配って回る。

 プロキシ*1用の白紙(ブランク)カードか、あれ。

 真面目な委員長の顔とカードゲーマーの顔が綺麗に両立しているみたいで面白い。

 

 一度の新弾追加で何十何百と増えるカードの名前と効果はすぐに覚えられるのに。

 30人に満たないクラスメイトの顔と名前を覚えられないのはなんでだろうね。不思議だ。

 皆の好意を有り難く受け取っておくことにする。

 

 

「なぁ鈴、俺の分は?」

 

「蒼龍、あなたにはもう要らないでしょ」

 

「そうだね、蒼龍くんのことを忘れるなんて、あり得ない」

 

「へへっ、嬉しいぜ佳蓮!!」

 

 

 一人だけカードを配られなかった蒼龍くんも、あっさり丸め込まれて豪快に笑っている。

 悪い子じゃないんだよね……いつだってテンションが振り切れてて暑苦しいだけで……。

 

 

「ああ、そうだ佳蓮、今日の放課後って予定はあるか?」

 

「放課後?……ううん、予定らしい予定は、ない」

 

「本当か!?じゃあ、俺たちと一緒に『ショップ』に行かないか!!」

 

 

 蒼龍くんが、ぐいと身を乗り出してきて誘ってくる。何の店かは自明だ。

 この世界でただ『ショップ』と言えば、それはカードショップ。リブラアークのカードを扱う専門店で間違いない。

 

 地方都市でも一つの町に2つ3つショップがあるのは珍しいことじゃないし。

 ここトーキョーでは、個人経営の地域密着ショップから、ビル一棟丸ごとリブラアークに特化した大規模ショップまで、数えきれないほどたくさんのショップが存在している。

 その中でも、今日は蒼龍くんや月影さんたちがホームとしている近場のショップに行こう、ということだった。

 

 

「てめーっ!蒼龍~~~っ!!抜け駆けして三国さんを誘いやがって~っ!!」

 

「悪りぃな!せっかくだから、お前たちも一緒に来いよ!!俺と『エンゲージ』しようぜ!!」

 

「蒼龍に勝てる訳ねぇだろ!!でも行く!!」

 

 

 近場のショップということは、当然クラスメイト達にとっても近場で、彼ら彼女らもまたホームにしているショップということになる。

 5人、6人と手が上がって、ずいぶん賑やかな大所帯でお邪魔することになりそうだ。

 ……前世では絶対にありえなかった光景だなぁ。

 

 

「大丈夫?私、お金持ってないけど」

 

「心配すんな!カードやパックを買わなくたって、店長は怒ったりしねぇって!」

 

「そうよ、『ショップ』はカードを買うためだけの場所じゃなくて、リブラアークの全てを楽しむための場所なんだから」

 

 

 確かに、カードショップには対戦スペースもつきものだ。

 パックを剥いたりシングル買いしたりして手に入れたカードを、その場で試すことができる。

 そして、プレイヤーたちが集まって腕を競う小規模な大会の開催も。

 

 元より、強く断る理由も、優先しなければならない用事もない。

 カードという共通の話題で親睦を深めれば、少しは皆との距離も近づけやすいだろう。

 

 

「誘ってくれてありがとう。……私も、行く」

 

「っしゃ!放課後、楽しみにしてるぜ!!」

 

 

 蒼龍くんを見ていると、こっちまでワクワクした気分にさせられてしまう。

 ほんの少し前は苦手なタイプだと思ってたのに、不思議だね。

 

 

*1
実物のカードの代わりに使う代用品として使うカードのこと。

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