【非在】幻創の旅路と真実の明日を運ぶものたち 作:楠崎 龍照
ただいま到着の幻創電車は、各駅停車 エピローグ行です。
次は、3話 圧倒的な力に止まります。
─マザークラスタ極東支部─
ドールとの一件が落ち着きを取り戻した頃。
私、小野寺龍照は早速、ある場所へと向かった。
マザークラスタ極東支部駅は相も変わらず、しかも朝早いというのに観光客でごった返している。
1番線のホームには海洋路快速と特急オーシャンアローが停車しており、私は特急の方に乗る予定だ。
正直、ダークファルス特有のワープで目的地に移動するという手もあったが、個人的にあんなセコイ技は使わずに文明の利器を利用したい拘りがあった。
あと、調べたい物があったから、特急に乗って調べたかった。
「ここだな」
私は特急券の券売機の前に立ち、タッチパネルで操作した。
「えーと、マザークラスタ極東支部から天王寺行……は? 片道7550円!? 高ッ!!」
あまりの高額な値段に思わず大声を上げてしまう。
周りの冷ややかな視線を感じつつ、それを購入。
ワンチャン経費が降りる事を心の中で祈ってから、オーシャンアローへと乗り込んだ。
「(……1号車の……ここか……)」
私は特急券に記された座席番号と、座席シートにある番号を照合し、その席に座った。
そして、予め買っておいたコーラを開けて一口だけ飲んだ。
「ふぅ……」
一息ついた私は、早速カバンに入れていた1枚の紙の資料を取り出して確認する。
それはマザークラスタ極東支部の力を持って手に入れた、具現武装を発現している1人の日本国民の情報だ。
名前の欄には火之鳥エースと記載されており、赤髪の熱血青年と思われる顔立ちの証明写真が載っていた。
職業欄には南海の幻創種討伐士と記載されている。
「(大阪府堺市美国原区……ほむほむ……)」
彼の個人情報のあらゆる内容を確認する私。
いつの間にか特急オーシャンアローは出発して、鈍いジョイント音と水を切る音が微かに聴こえてくる。
そして、座席の前と後ろからビール缶のカシュッ!と蓋を開けた時の音が5、6回ほど私の耳に入ってきた。
「(具現武装は炎を顕現させる能力か)」
買い物袋からおつまみでも取り出しているのだろうか、カサカサと音が鳴っている。
そして、私の鼻にスルメと思しき香りがプワッとくすぐってきた。
「(うわぁぁ腹減ったぁぁぁぁ)」
私はマザークラスタ極東支部本島駅でスルメを買わなかった事を少し後悔しつつ、エーテルを用いてスルメの創造物を具現化させてそれを食べた。
「(美味い。さて、火之鳥さんの情報確認。えーと、友人の青空 楽とは旧知の中で、共に幻創種討伐の仕事に就いていると……)」
私はコーラを再び一口含み、ゲップが出るのを少し我慢しながらスルメを一齧りして、カバンの中から別の資料を取り出す。
何十枚にもなる具現武装発現者の資料から青空 楽の名前を探し始める。
「(あった。こいつか。どれどれ……)」
その後、私は天王寺に到着するまで、来るべき日の為にスカウトする人々の情報を確認し続けた。
「(天王寺か。久しぶりやな)」
私は少し近未来化している天王寺駅を眺めた後、新今宮駅まで普通電車で向かい、目的の南海の会社まで歩いた。
「すみません、マザークラスタ極東支部 幹部【四神】赤の使徒 小野寺龍照です。突然の訪問、大変申し訳ありません。少しお伝えしたい事があって参りました」
ロビーの受付の人に、なるべく丁寧に説明すると、そのお方は少し焦った様子で「少々お待ちください」と仰ってから内線で話しをしていた。
その間、私は少し受付から離れて待っていると、身なりの整った中年の男性がやってきた。
高そうなスーツ、見ただけで分かる。
かなり役職が高い人だ。
部長……いや、もっと上だろう。
代表取締役か……?
まぁ、何にせよ、その方に連れられて大きめの会議室に招かれた。
「まずは、突然のアポ無し訪問、大変失礼しました。この話し合いの時間で生じた損害は、全て
「いえいえ、お気になさらず。それでお話とはなんでしょうか?」
役員数人と対面で私は話を始める。
単刀直入に極楽橋駅からマザークラスタ極東支部まで延伸させたい。
その旨を伝えた。
その言葉を聞いた役員達は顔を見合わせて訝しむ表情を見せた。
「極楽橋駅から五光の滝、樹山雲海、龍神温泉、熊野本宮を通り、クレ崎まで南下しつつ、マザークラスタ極東支部まで繋げる予定です。延伸の着工は3ヶ月後。完成は着工から3日で済ませます」
「……」
そう話す私に、役員たちは心の中で思っただろう。
コイツは何を言っているのか。と。
普通に有り得ない内容に困惑を極めている事は疑いない。
鉄道延伸の手順なんて、そんな数ヶ月でできるようなことではない。
まず新しい路線の目的、ルート、規模などを具体的に計画し、鉄道事業法などに基づき、関係機関へ申請し許可を得なければならない。
そこから地盤の調査や地形の測量など、ルートの詳細を確定するための調査行い、線路の構造、駅の設置、トンネルや橋などの詳細な設計を行う。
それと併用に線路を敷設するために必要な土地を、土地所有者から買い取る、または借用しないといけない。
それが完了して、やっと線路や枕木を敷設する作業に入る。
必要に応じてトンネルや橋、高架線などを建設しなければならない。
ここまで来れば、あとは開業前に国の検査官などが線路の安全性や設備が基準を満たしているかの確認が入る。
全ての確認が完了した後、新しい路線が開業するのだ。
期間はだいたい数十年は要することになる。
それを3ヶ月で行うなんて夢物語にも程がある。
否、夢物語でももう少しマシな内容を考えるだろう。
「……」
そう思えるのに、何故だろうか。
彼の真剣な表情から、本当にしてしまいそうな、そんな気を感じ取れた。
しかし、役員の1人は訝しむ表情のまま、彼に思った事を投げかけた。
「非現実的な夢物語ですね。ただ、マザークラスタの幹部がわざわざ出向いたという事は……」
「ええ。可能だからこそ、私が来たのです。この延伸にかかる費用や人員はこちらが全て負担します。また、電車についても、海を渡れるに足る性能の車は全てこちらで用意するつもりです。」
「……」
「こちらが、新路線、南海海洋線の詳細な書類です。まだ国の認可は受けていませんが、確実に承認を得ることはできるので先にお渡ししておきます。それと……」
私は火之鳥エースさんの資料を見せて、口を開いた。
そして……。
後日、火之鳥エースはマザークラスタ極東支部に呼ばれた。
─単刀直入に申し上げます。マザークラスタ極東支部に転職して頂けますか?─
「転職ですか?」
俺がそう言うと、小野寺さんはコクリと頷いた。
「ええ。現在マザークラスタ極東支部は諸事情により人手不足故、人員確保を急務としています。そこで具現武装保持者である貴方には、是非とも我がマザークラスタ極東支部で正式な職員として働いて頂きたく思います」
「正式な職員で……」
「ええ。仕事内容ついては……」
小野寺さんはマザークラスタでの仕事内容を説明し始める。
内容としては、運転手と車掌の業務とのこと。
「3ヶ月までに動力車操縦者運転免許を取得するに足るスキルを身につけて頂きます。普通なら駅員や車掌などの経験を積んでから動力車操縦者養成所で訓練を受けないとなりませんが、それらはマザークラスタの力を使って無理矢理免除させます」
「……そんな事ができるんですか?」
「マザークラスタ極東支部の権力や財力を使えば大した問題ではない。……闇に消えた歴史を知っている彼らなら尚更……」
「……??」
「あーいや、ごめん、こちらの話。マザークラスタ極東支部に入ったら教えますよ!」
そう言って、小野寺さんは求人表の紙を出した。
勤務時間、休日、保険、給与に目を通したが、あまりにも高待遇な内容に、一周まわって警戒心が強まってしまう。
「……これって本当の内容ですか?」
恐る恐る訊ねるも、小野寺さんの口から出てくるのは、世にあるホワイト企業も真っ青な白さだ。
「本気で貴方を採用したいのに、嘘の情報を出す訳がないでしょう」
彼はゲラゲラと大きく笑いながらそう言った。
ひとしきり笑ったあと、「ただ……」と少し何か考えるような仕草をしてから話を始める。
「海という孤立した場所を走る都合上、シージャックやテロリスト、他の幻創種の襲撃にあう可能性もあります。その際には運転士と車掌の2人がその対処に当たらなければならなくなります」
「はい」
「ですので、それらを噛ませにする程の強靭な人間離れした強さを手に入れて頂きます」
「……どうすれば?」
「マザークラスタ月本部所属の火の使徒ファレグ=アイヴズさんに稽古をつけて頂きます。私の方から、彼女には既に伝えてあります」
「ファレグ……アイヴズ……??」
聞いた事のない名前に、俺は頭を傾げた。
「マザークラスタ月本部にて最強の人類です。3ヶ月間の稽古をした後、彼女とのサシで戦って、7分の間に彼女に攻撃を1回でも攻撃を当てることが出来れば合格。そこから動力車操縦者運転免許の取得をお願いします」
彼がそう言い終えた時、俺は直ぐに疑問点に気づきそれを指摘しようとした。
しかし、それを言うよりも先に小野寺さんはすかさず話を投げ入れた。
「動力車操縦者運転免許を取得する3ヶ月間は、極東支部に所属しているエスカファルス・ルーサーさんの時間停止した上で、3ヶ月後の世界を完全に模した変容空間で、実際に南海の極楽線から海洋線を運転士、あらゆるシチュエーションやトラブル等の全てを叩き込んでもらいます」
「……」
最早、この人が何を言っているのか理解できない。
時間停止……?
変容空間……?
3ヶ月後の世界を模した……?
ぶっ飛んだ超現実を前に俺の思考は停止した。
「……どうしますか? もし受けてくださるのなら、明日にでもファレグさんとの稽古をお願いしたいのですが」
「その稽古って給料は……」
「つきますよ。その紙に書いてる通り、初任給は30万。その次からは50万」
正直……かなりハードな感じはするものの……この給料額は惹かれてしまう……。
俺は、その額に心を奪われてしまい、小野寺さんの誘いに頷いてしまった。
そして、次の日……。
俺は地獄の世界へと足を踏み入れてしまった……。
月面に再建されたマザークラスタの本部。
その中にある訓練場。
小野寺さんによって、俺はそこへ案内された。
「初めまして。マザークラスタ月本部所属。幹部【オリンピア】火の使徒を務めております。ファレグ=アイヴズと申します。どうぞ、お見知り置きを」
俺の目の前にいる女性……黒いドレスに身を包んだその女性は、まるで研ぎ澄まされた刃のようだ……。
美しい……だが、彼女からは人間とはかけ離れた暑い覇気を感じる。
まるで……最強という概念が人の形をして歩いているかのよう……。
俺は具現武装を手にして初めて、心の底から恐怖という感情を覚えた。
俺の身体や心が本能的に訴える。
目の前にいる存在と戦ってはならない。
と。
「それでは始めましょうか。猛き闘争を」
現実から大きく乖離した声が俺の耳をくすぐった刹那。
俺の視界は暗黒の世界へと飲み込まれた。
続く