カレンブーケドールに幼馴染を奪われるお話(旧題:憎たらしき黄金の花束へ)   作:星組

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ジュニア級編
宿敵との出会い


 私は天才。彼は努力の人。

 文武両道。我が校のツートップ。

 幼馴染。もはやおしどり夫婦。

 光の美少女と影がある美少年。

 神様は不公平。もうちょっと加減しろ。

 その辺が……私と彼に対する周りからの評価であり、立ち位置だった。

 

 

「いや、隠れ凄い人なのは知ってたけど。アンタの旦那、超凄くない? これでエリートコースまっしぐらじゃん」

「えっ? う、うん。まぁ……ね」

 

 高校卒業を間近に控えた頃の話だ。我が校からトレセン学園のトレーナー養成所……『トレーナー学校』へ進学する者が出た。そんな話と共に幼馴染が朝の全校集会にて壇上で褒めちぎられていたのが数分前。

 朝のホームルーム前と、終わった後も質問攻め。私はそれを仲のいいクラスメイトと遠巻きに眺めていた。

 ここは進学校とされてはいても、実態は田舎のパッとしない普通の高校だ。だからそこへこんな感じの大ニュースが舞い込んでくれば……。拍手喝采。どんちゃん騒ぎになるのは言うまでもなかった。

 

「いや、凄いって! マジ半端ねぇって!」

「目指すはG1トレーナーだな!」

「よっ! 我が校の星!」

「ねぇねぇ時坂君! 連絡先教えてよ〜! 私、もっとトレセン学園について知りた〜い」

「バッ! ダメだよ! トーコが怒るよ! ……で、でも私もその話、ちょっと興味あるかな〜? なんて」

 

 外野が煩い。カースト中堅くらいの分際でどさくさに紛れて彼に擦り寄る雌豚が何人か確認出来たので、それは処すことにして。

 私はさり気なく、彼の様子を観察する。

 文句無しの偉業である。だから少しくらいは自慢げに、誇らしげにすればいいのに。……話題の中心にいる彼は、寧ろここまで周りに喜ばれるとは思っていなかったのか「お、おう……」なんてどもり声を漏らして終始戸惑っている様子だった。

 昔からそう。凄いやつなくせに、引っ込み思案。人に慣れにくく、打ち解けるまではわりと口下手。だから私がずっと引っ張ってきた。

 仕方がないなぁ。そんなことを思いながら私は立ち上がり、彼の方に歩を進める。

 

「おっ! ほら、嫁さんのお出ましだ」

「あんま独占しちゃ悪いか」

「今回ばかりは、時坂君の勝ちじゃなぁい? 偉業的な意味でも、進路のレベル的な意味でも〜」

「いや、勝ち負けなのコレ? まぁいいか。本当におめでとう! 時坂君!」

 

 一斉に人だかりが散る。すると、少しだけ目を丸くしながらも、彼は私の顔を見て、照れくさそうに笑った。

 ……直前の「いや、嫁じゃねぇってば!」という言葉にはちょっとムカッときたが、今は不問にしよう。

 

「……夢だって言ってたもんね。まさか叶えちゃうとは思わなかった。おめでとう。ダイゴ」

「おう、サンキューな。トーコ。まぁ、絶対これからが大変なんだろうけど」

 

 そう言う彼の顔は幸福に満ち溢れていて。だからこそ、私の中に芽生えかけたドロドロしたものは、ここで出すべきじゃないと抑え込んだ。

 

 祝福するのが、幼馴染として正しいこと。けど……。

 ずっと学校の成績では私が勝っていた。何をするにも私の方が抜きん出ていた。

 彼が好きなレースで喩えれば、最後の最後に差し切られたというやつだ。私が行く大学も、この高校から入学となれば創設以来の快挙となる名門だが……彼が成したことに比べたら霞んでしまう。

 クソ雌の一人が言っていた、彼の勝ち。……元より勝負はしていなかったが、私は明確に、生まれて初めて彼に先んじられた。それがやはり、悔しかった。

 抱える感情が複雑すぎたとも言えよう。

 友達以上。ライバルというか、私に比肩しうる人。そして……口にはしたことなかったが、好きな人。

 隣にいるのが当たり前で、可能な限りはいつも一緒にいて。故にまわりから夫婦とか持て囃されてたのは満更でもなくて……

 認めよう。私は彼に……執着していた。

 容姿も、頭脳も、家柄も関係なく接してくれたのは……小さい頃から彼だけだったから。

 

『私ね〜。W大学行くわ』

『……えっ、そうなんだ。さすがだな』

『うん』

『うん……ん? どうした?』

『……いや、アンタはどうすんのかなって』

『あー。それは……どうすっかな』

『特に決めてないなら、同じ大学にしようよ。近くにお互いがいれば……相談とかし合えるでしょ? アンタ結構、決断するの苦手じゃん』

『失礼だな。決める時はキメるぞ。……た、多分』

 

 ニ年の夏休みに、彼と交わした会話を思い出す。相談は名目。……本当は、これからも一緒にいられるでしょ? という気持ちを隠していた。

 

『まぁ〜。そうさな。“もし行くことになったなら”そこにしようかな』

『……もしって……ああ、トレーナー学校? まだ諦めてなかったの?』

『夢だからな』

『……ふ〜ん。ま、がんば』

 

 私にすら勝ったことないなら、無理だろうけど。という毒は飲み込んだ。結局一緒に行くことを妥協案みたいに言うのがムカついたので、それ以来進路の話はしなかった。

 最終的に道は同じになる。トレーナー学校は狭き門だ。彼が通るとは思えない。慰めで一緒に残念でした会くらいは開いてやろう。そう思ってたのに……。

 

「じゃあ、春から寮生活?」

「ああ、スムーズにいけば、3年だな」

「ん、なら4年以上か。ダメだったら言いなさい。お父様に頼んで、うちの会社で雇ってあげるわ」

「おい、バカやめろ。いきなり暗い未来を話すんじゃない!」

 

 減らず口がポンポン出る自分が嫌になるが、実際3年のスムーズコースは難しいだろう。昔、軽く調べたら卒業生が出ない年もありうると聞く。

 だから……。

 

「ま、そんな道もあるよ〜ってことで? 応援はしてあげる」

 

 もっと酷いことを言いそうになったので、私はそれだけ告げて席に戻る。

 丁度先生が教室に入ってきたのに救われた。

 普段はどうでもいい話。ほぼ自習みたいな授業をする輩だが、今回だけは感謝である。

 そんな中で私は湧き上がる負の感情を自覚しつつ、これから来る大学生活へとどうにか意識を向けようとした。

 

 ……頑張ってたのは知ってたよ? でも、受かったのが分かったのって、今日より前だよね?

 どうして私にも言ってくれなかったの? 幼馴染なのに……。

 

 浮かんでくるのは理不尽な怒りばかり。面倒くさくて性格が悪いのは自覚してるが……今だけは、素直になれない自分が悲しかった。

 いっそ私もトレーナー学校を受けるべきだった? ……いや、無理だ。“ウマ娘がそんなに好きじゃない”私が行った所で、超厳しいとされる適性検査で落とされるだろう。

 だから私は……。こうして彼と離れて日々を過ごすことになる。そんな初めての未来に、震えることしか出来なかったのである。

 

 

 ※

 

 

 時は飛ぶように流れた。

 大学生活は灰色だった。

 いや、表向きは上手くやっていたので、心情は。が正しいか。

 将来へのステップアップとステータス強化という意味では充実してはいる。ただ……物足りない。そんな日々がもう三年目。

 彼は忙しいらしく、連絡はまばらというか……今までは当たり前のように近くにいたからわからなかったのが、私から連絡しないと、永久に向こうから連絡が来ないということが判明した。

 薄情な野郎である。

 因みにこれは私にだけではなく、彼のご両親に対してもそうらしい。

 

『実は昔から風来坊気質だったのよね〜。困った子だわ』

 

 とは、彼のお母さんの言葉である。

 そんな訳で、絡みらしい絡みは定期的な里帰り……つまりお盆とお正月に彼と私の両家でやるお食事会くらいのみになってしまったのである。

 そして……離れて生活が始まった、三年目のお正月のこと。

 我が家の庭でジンギスカンをつつきながら、彼は明日の天気予報を伝えるノリでこう言ってきたのだ。

 

「あっ、そうだ。トレーナー免許、ほぼ確定だって。春から新人トレーナーなるわ」

 

 一瞬の沈黙。から、ワッ! とその場に喜びが弾ける。

 彼の両親や祖父母は勿論のこと、私の両親や兄、妹までも。

 ポカンとしてたのは、私だけだった。

 やる奴だけれど微妙に鈍臭い。それが私の中での彼だった。

 要領の悪さを血の滲むような努力で補う。周りからは出来るような人間に見えるが、それはあまり見せないようにしているからこそ。水面下で必死にバタ足する、白鳥のような人。

 滑稽なことこの上ない。いや、そこがいいんだけれども。でも、それにしたって……こうもスムーズに卒業出来るとは思わなかった。

 

「そ、そっか。おめでと〜」

「おう。まぁ……これでもまだスタートラインなんだけどな。てか、スタートラインがめっちゃ多いから、何回もレースに挑戦してる感覚でさ。俺自身がウマ娘になった気分になるよ」

「なるほど、一心同体ってやつか!」

「お兄ちゃん、それちょっと違くな〜い?」

「細けえことはいいんだよっ!」

 

 兄と妹が会話に入ってくる。ウマ娘……そう、ウマ娘だ。

 私はそこで、至極真っ当な事実に直面した。

 

「ねぇ……今、純粋に気づいちゃったんだけど。アンタ、トレーナーになったのよね?」

「まぁ、限りなく確定した未来だけど、そうなるな」

「ウマ娘、担当しなきゃじゃん?」

「? そうだな」

「……出来るの? スカウト」

 

 幼馴染だからわかる。彼の交友関係は狭い。超狭い。

 クラスメイトらと仲が悪い訳ではないけど、親しく休日に遊びに行く間柄の人間が……そんなにいない。てか見たことない。

 だから勉強とか努力に全振りは出来たんだろうけど、今は置いておく。

 当然ながら、私以外の女と話してるとこなんて見たことないし、浮いた話なんて全くなかった。……女に関しては変なのは私が幼馴染の圧をかけて引き下がってもらってはいたけれども。

 とにかく。

 

「ウマ娘……思春期の女の子を、口説き落とせる訳? 恋人いたことない、童貞トレーナーのアンタが」

「ど、童貞ちゃう……わ。とは言えねぇな。今まで恋人もいなかったし。けどそれは関係ないだろ。トレセン学園は婚活会場じゃないからな」

「え〜? 本当でござるかぁ? ……トレーナーと卒業後にゴールインしたウマ娘、それなりにいるだろ」

「お兄ちゃん黙って! わかりにくいけど、お姉ちゃんが今頑張ってる!」

 

 私達の会話の隅で、またしても兄と妹が騒いでいる。特に妹は……どうやら私がこれから言おうとしていることを察しているのだろう。

 何なら私の両親。彼の両親すら、「おっ!」といった顔でこっちを見ている。……見透かされているようで大変に遺憾だが、ここは我慢しよう。

 

 私は、天才だ。……故に優秀な脳細胞は回転し、この場における最適解と、危惧すべき未来も叩き出していた。

 

「(危惧する未来は彼がスカウト失敗すること……ではないわ。なんだかんだでコイツはやる奴よ。その辺はライク・ザ・スワン……バタ足で超頑張って何とかする筈。真の危機は、その担当ウマ娘……!)」

「(担当ウマ娘がダイ兄に近づく→何かいい感じになる→卒業後にゴールイン! が、最悪なパターンだよね!? お姉ちゃん!)」

 

 凄いナチュラルに妹に思考を読まれたのは少し怖いが、概ねその通りである。

 

「(……ぶっちゃけ幼馴染のアドで高校の女の子は何とかしてたが、大学生や社会人辺りじゃそんなの通じないからな。離れる前に仕留めきれなかったのが痛すぎたなぁ妹よ。判断が遅いっ!)」

 

 黙れクソ兄。今内心で泣くほど後悔してるんだ。

 何だよ普通に留年回避しやがって。私に縋りついてこいや。……学生寮生活だから無理か。

 

「(とにかく! この災厄を回避しつつ、ダイゴの助けにもなれる画期的な作戦があるわ……! 題して、私で慣れろ! お試しで恋人も可! 作戦……!)」

 

 具体的には、未成年指導するんだし、変な事故防止に、お試しで恋人になっとく? 女にも慣れるし、一石二鳥でしょ? と持ちかけるのである。

 さり気なく私も変な男達に言い寄られてうんざりしてるから、利害の一致よ。なんて言えば完璧〜だ。

 勿論、お試しは嘘である。恋人という肩書を得たならば、もう逃がさん! お前だけは……!

 高校卒業し、三年離れた。ちょっと寂しさでそろそろ耐えられなくない? 私は耐え難い。

 だからこの辺でちょっと関係見つめ直そうや……!

 

「(流石お姉ちゃん! 仮恋人って辺りがヘタレ過ぎ! どうしてこうなったの? 大好き!)」

「(寂しいよ。を何故高校卒業時に言えなかったのか……お前は未だにゲートにいる。ここで立ち上がるは致命的な出遅れよ……!)」

 

 何かうるせぇ兄と妹はもう無視する。

 でぇじょうぶだ。彼は自分の世界をしっかり持っていて、散々思い知らされたが、夢に向かって突き進める人である。だからこそ、こういった合理的な作戦には食らいつく筈。ウマ娘の為にという名目で。

 それでいて誠実だし、何より幼馴染だし? 私のことだって無下にはすまい。

 疑似でも恋人同士という既成事実があればもうこっちのもんだ。後は私が頑張って……。

 

「確かに、所詮は新人トレーナーだ。多分苦労するだろうな」

「――! そうでしょう? そうでしょう? なら、提案があるの! 私と――」

「ただ、一応。アテはあるんだ」

「仮……けい、や……く……に?」

 

 ……今、何と言った? アテが、ある?

 兄が。妹が、両親らが一斉に「あちゃ〜」と言った顔になるのが見えた。

 

「見習いトレーナーってことで三年時は年間を通して実習があるんけど……その時に教官について行って、トレセン学園に行ったんだ。少し前にそこで、仲良くなった子がいてさ」

「…………な、仲良く。って、アンタが?」

「オイ、未確認動物でも見たような顔やめろよ。俺だって傷つくんだぞ?」

 

 私は今まさに傷つけられそうだが? と叫ぶのは辛うじて堪えた。

 

「担当になってくれないか……頼んでみようと思ってる。ようは初スカウトってやつだ」

「はつ、すかうと……」

「ただ、俺が可能性感じるってことは、他から見てもそうって訳で……正式トレーナーになる前に、誰かに取られないか心配なんだよなぁ〜。いや、それであの子がデビュー出来るなら、勿論応援するんだけどさ」

 

 ねぇ、そんな顔知らない。何でそんな照れくさそうな、でも愛おしそうに微笑むの? 私には、わりとぞんざいな、塩対応だったよね? 今思い返すと。

 塩効きすぎて涙出そう。私がナメクジだったら消滅していたに違いない。

 ……他にも何かコメントを述べていた気もしたが、私にはもう聞こえてなかった。

 

「(お労しや……姉上。……ぷぷっ)」

「(初スカウトってら何か響きエロいな。というか、まるでプロポーズみたいだな。いや、人生背負うもんだから、正しいのか?)

「(人生……プロポーズ……あっ、あっ、ああっ……)」

 

 もう、兄妹間の脳内コミュニケーションも繋がらない。

 既に場の話題は彼がスカウトしたいウマ娘についてで持ちきりだった。こんなとこに私と恋人仮契約しない? なんて、バカ丸出しな提案など出来る訳がなかった。

 

「因みに、何という名前なんだい? そのウマ娘は?」

 

 にこやかに動向を見守っていた、彼の祖父が問いかける。すると彼はスマートフォンを取り出して……実習の集合写真だろうか? その画像を皆に見せた。

 同期。雄二人。雌一人。そして彼。周りをウマ娘らが数人取り囲んでいるが……。

 何だろう。他の連中が野菜やらスコップ。果てはスポーツ新聞。ピースサインにラブなハートマークと思い思いに謎のポーズを取る中で。彼と彼の隣にいるウマ娘だけ控えめに微笑みながら……同じバスケット型の鉢植えに入れられた、花を抱えていた。

 白、黄色、ピンクに紫。これは……スイートピーだろうか?

 

 淡い鹿毛の髪はゆるい三つ編みのおさげにされており、前髪には細い月を思わせる流星がある。アクセサリーは白いカチューシャに左右非対称の耳カバー。片方が黒で、もう片方は白リボンで包まれた花束を思わせる華やかなもの。さり気なく園芸用のタグらしきものも付いている。

 ファッションセンス◎。加えてウマ娘は容姿が整っている者が多いが、その中でも清楚な印象かつ、わかりやすく女の子女の子した雰囲気。

 もうこれだけで、私の中で警戒ゲージが真っ赤っかの最大値にまで跳ね上がって、虹色の輝きが放てそうだった。

 

 お願いします。何か嫌な予感がするのでこの娘ではありませんように。私は内心でそう願ったが、世は無常。彼の指はその花を携えたウマ娘を差していた。

 

「カレンブーケドール。花の世話やフラワーアレンジメントが好きな、優し過ぎるほどに優しいウマ娘なんだ」

 

 これが、始まりだった。

 後に辛酸を舐めるどころか5リットルぐらい口に叩き込まれることとなる、憎っくき、彼の担当ウマ娘。

 Bouquetd'or(黄金の花束)の意をその名に刻む宿敵の姿を、私が最初に目にした瞬間であった。




主人公の恋愛脚質は追い込み(尚追いつけるとは言ってない)
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