カレンブーケドールに幼馴染を奪われるお話(旧題:憎たらしき黄金の花束へ)   作:星組

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未勝利戦とクリぼっち

「おのれぇ! カレンブーケドールぅ!」

「……定期って後ろに付きそうなくらい叫んでるなぁ。週末3ペース?」

「そんな多くないわよぉ! 口に出さない分をカウントしたらもっと多いけどねぇ!」

「怖っ、近寄らんどこ。てか口より手を動かしなよ。男は落とせないのに卒論は落としたとか……ちょっと笑えるね。試しに前例になってみない?」

「黙れロリコン」

 

 十二月第二週。

 私は大学のゼミ室にて同期のペロリ(あだ名)と共にパソコンに向かい、一心不乱にキーボードを叩き続けていた。

 学部などによっては違うだろうが、私達にとっては四年生最後の冬にして、卒業論文の追い込みシーズンである。

 直線一気と行きたいが、そうもいかない難敵を相手に、切羽詰まった者は大学のゼミ室に泊まり込む者もいたりする。

 私やペロリもまた、その予備軍一歩手前といった所である。

 天才と呼ばれたあの日々は何だったのか。所詮井の中の蛙だったという事か。世は無常。カレンブーケドール。……また腹が立ってきた。

 

「訂正してほしいな。僕はロリコンじゃない。たまたま好きになる子が小柄なだけだよ」

「ペドフィリア」

「……いいのかい? その理屈でいえば、十四歳のカレンブーケドールに魅了された彼もまた……」

「殺すぞ」

「……血の涙ってリアルに初めて見たよ。何かごめん。振られ続けて十数年。誘いを袖にされたのは……九ヶ月更新中だっけ?」

「三月からアイツバタバタしてたから……十ヶ月」

 

 あと、振られ続けた訳ではない。初恋引きずり続けた年数である。

 告白なんか出来なかったし、プライド(笑)も高かったから、昔の私は相当嫌な奴だったと思う。

 今? そんなもん投げ捨てたに決まっている。

 もし過去に戻れるなら、私は真面目に近所の漁港に自分を沈めて心を入れ替えるように。かつ急げと説くだろう。

 

 間に合わなくなるぞ! 花束の化け物が来るぞ! ……といった具合に。

 ふぎぎ。と、歯を鳴らしながら、私はキーボードをクラッシュ……ではなくタイピングする。今日は進めるだけ進めるのだ。

 あと少しで……パドックお披露目の時間が来るから。

 

 今日はカレンブーケドールの、二回目となる未勝利戦なのだ。

 

「十ヶ月も遊びの誘い断られてるなら、それもう脈は……コホン! まぁいいか。もう見るんだろう?」

 

 そう言ってペロリはリモコンを操作して、教室内のテレビの電源を点けた。

 

「せっかくならスマホじゃなくてテレビ大画面で観ないかい? URAの会員登録はしてるんだろう? 繋げちゃおう」

「いや、こんなとこでレース中継観たら、他にもゼミ室使う人の邪魔に……」

「えっ? レース観るの? 観たい観たい!」

「俺もやっぱURAの会員入るかなぁ……メイクデビューから追ってみたいぜ」

「おや、未勝利戦ですか……懐かしいですねぇ。私も昔、あるウマ娘を応援しに現地へ観に行きましたよ……」

「――そうでもなかったわ」

 

 連日のレポート嵐に辟易していたのか、仲間たちは娯楽と息抜きを欲しているらしかった。

 それどころか教授までノリノリで皆と一緒に椅子を並べる始末だ。

 未勝利戦をはじめとする、その日のメインレース以外の様子は基本的にはテレビ中継はされない。

 その為、見るためには現地入りか各地にある場外観戦所に行く。そして私のように会員登録をしてネット上で観戦する。という方法がある。

 つまり普通にしていればなかなか観る機会はない。だから皆は興味津々なのだろう。

 

「おっ、パドック出てるぞ」

「トーコの彼氏を寝取った娘どれ〜?」

「カレンブーケドールだっけ?」

「花束と、人形……でしょうか? 可愛らしいお名前ですね」

「あっ、出てきたよ! ……ほほぅ?」

 

 登場した赤ブルマ姿のカレンブーケドールの姿に全員の注目が集まる。その後、一斉にこちらにも視線が集中し……皆が苦笑いする。

 

「待ちなさい。ちょっと待ちなさい! ストップ! 何なのよ!  何なのよ! この娘相手ならしょうがないねって顔はぁ!」

「いや、何というかさ。……きっと、いいことあるって」

「まず! 私は! 寝取られて! ない!」

「そうだよね〜。彼氏ですらないもんね」

「ふぐっ!」

「恋してたけど変なプライドと初の敗北? 的なので嬉しくも憎しで拗らせて……告白出来なかったんだっけか?」

「おぐっ!」

「中等部に負けちゃったんだね。まぁ、仕方ないね。この娘は不思議な魅力と色気がある。……背がもう少し低くて、胸が更に控えめで、幼い顔立ちだったら……ヤバかったな」

「ペロリ、刑務所行け。お前は存在してはいけない生き物だ」

「あっはっは……トーコさんは皆に愛されてますねぇ」

「教授ぅ……」

 

 好き放題言いやがってコイツら……。

 あと教授。花束と人形……は、それっぽいし似合いますが、実は違います。Bouquetd'or――黄金の花束が正しかったりします。

 私がそう訂正すると、何故か全員が吹き出した。……何でだよ。

 ガチ勢? んな訳あるか。敵は知るべしという精神だとも。

 あと、実は私が最初に花束と人形だと勘違いした時に彼が誇らしげに紹介してきて……それが、印象深かっただけなのである。

 

 

「さて、今回がデビューから合わせて三戦目でしたか。どう思いますか? 解説のトーコさん」

「誰が解説だボケペロリ。……デビュー戦は、後で調べたけど、マイルが得意な相手のニ着だったらしいわ。重賞は取れそう。G1にも手が届きうるウマ娘で、トレーナーもベテラン。寧ろよく2着にまで持ってきたって話よ」

「うん。……うん?」

「? 続けるわ。次の未勝利戦は少し不利を受けてしまったわ。デビューしたてによくある不運なトラブル。それでも三着。しっかり掲示板内に入ってきたのはお見事よ。獲得賞金だって重要だから、来たる日の為の貯金が増えたと思うべきね」

「……トーコ。さては君、天然だな?」

「は? 殺すわよ?」

「いやだって、何かすっごい……思ってた以上に凄く凄い見てるんだなぁって。ちょっと僕、語彙力飛びそう。飛んだ」

「それやって可愛いのはナリタトップロードだけよ。やめときなさい」

「……把握してるし。ウマ娘苦手とは何だったのか」

 

 今度は皆から微笑ましい視線を向けられる。何なんだコイツらは。

 そうこうしているうちにゲートイン完了。出走の準備が整った。

 ……正直、パドックを見たがカレンブーケドールは一番人気も納得の仕上がりだった。まぁ、十月から十一月は空気を読んで連絡を控えてやったのだ。そうでなくては困る。

 ここで勝てないなら……彼が諦めるとは思えないから、これからも頑張るんだろう。だが、それは困る。今日こそ温めていた作戦に花を咲かせるのだから。

 

「(声援は送らないわ。絶対によ。――さぁ、仮にもダイゴを魅了しやがった脚……そろそろ魅せつけてやりなさい)」

 

 スタート。ポジションもいい。いや、ちょっと知識齧った素人目線だけども。

 ゼミの皆が「いけいけー!」と声援を送る中、私はただ、センスある耳飾りの恋敵だけを睨みつけていた。

 

「……それだけ真剣に観るなら、現地に行ってあげたらよかったのに」

 

 ペロリが肩を竦めながらそう呟く。

 だが、私は無言で首を横に振った。

 

「二回目までは観に行ってたわよ。でも私、天才ですから。たった一回の呪いが強すぎたんでしょうね。だからこうして離れたとこで念とか色々送るだけにしてるの」

「……ちょっと気にしちゃってると見た」

「通報すんぞ、犯罪者予備軍」

「僕への当たり強すぎないかい? 因みにどんな念を?」

「……決まってるでしょ」

 

 彼を悲しませるな。それだけだ。

 

「あと、頼むからトレーナーとアスリートという関係であり続けてくれとか、たまには彼の時間よこせとか、最近彼が園芸やガーデニング。家庭菜園にハマりつつあるの、どう考えてもお前の影響だよなぁ!? とか。女としてスタイルはそれ以上成長するなとか……他にも色々よ」

「一瞬芽生えた僕の感動返してよ。それだけとか言って複数あるじゃないかぁ」

 

 声援が高まる。カレンブーケドールが見事なフォームでスパートをかけているのを見て、私は勝利を確信して静かに目を閉じた。

 

 おめでとう。ま、褒めてやるわ。

 

 心の中で私がそう呟くのと、皆のやったぁ! という歓声が上がったのはほぼ同時だった。

 

「ああ……よかった。この一勝は、彼と彼女にとって偉大な一歩ですね」

「……まだ未勝利戦を脱しただけですよ?」

 

 随分と感慨深そうに教授がそう呟くので、寧ろどんどん勝って貰わなきゃ困る。そんな意味で私がそう言えば、教授は静かに首を横に振った。

 

「ええ、でも大きな一勝です。トーコさんもご存じでしょう? 未勝利戦を突破できずに涙ながらに夢を諦めるウマ娘の方が圧倒的に多い。……現に私の応援していた娘がライブのセンターに立つことは……一度もなかった」

 

 輝く未来を信じて。“君と”一緒に。そんな意味合いの歌詞を紡ぎながら、カレンブーケドールが踊っている。

 そうだ……当たり前だけど、ここに立てる娘より。バックダンサーの方が多いのだ。

 

「……それでも、挑むのね」

 

 その事実を目の当たりにして、生涯において一度しか敗北していない私には、やはりウマ娘達の精神構造が理解できそうもなかった。……というか。

 

「……アレ? アイツら、勝ったのよね? ヒャッホウ! やっと飲みに誘えるぅ!」

「あっはっは! うん、トーコさんはどうかそのままで」

 

 シリアスなんてどうでもいい! これで勝つる!

 

 

『初勝利おめでとう! 祝勝会にアンタが好きな焼き鳥食べにいかない?』

 

 LANEで連絡を送る。

 これぞ! トーコ、ずっと見てくれていたのか? トゥンク……大作戦である。

 ゼミ生の奴らが「便乗ワロタ」「空気読もうよ。最低だよw」と笑うのが見えたが、勝利で舞い上がってる今がチャンスかもしれないのだ。今ならガードも下がって……。

 

 そこで、不意に肩を掴まれた。

 

「トーコ。すまない。勝利後のライブも見終わったところで、頼みがあるんだ」

「……ペロリ?」

 

 いつになく真剣な表情でペロリが映像巻き戻してくれ。と要求してくる。

 よくわからないが、今の私は機嫌がいいので言う通りにしてやった。

 映像は、カレンブーケドールが勝利した直後。

 最前列で応援していた彼が嬉しそうに小さくガッツポーズをしている(可愛い)姿をカメラが捉えた瞬間だった。

 

「ああ……見つけた」

 

 リモコンがひったくられる。ペロリの視線は……彼の横。

 今更気づいたが、彼の隣に私服姿のウマ娘がいる。頬を紅潮させ、彼と興奮気味に何かを話しながら、喜びを分かち合っているようだった。……何か距離が近い。気安い間柄なのだろうか? 

 あ、拳軽めに突き合わせてからハイタッチ。……何か知らんがやっぱり慣れてる? 明らかに繰り返された動き。……何だぁ? テメェは?

 芦毛のロングヘアー。青緑色の瞳に、時計を思わせる不思議な造形の耳飾り。服装は水色の上着と紺色のスカートという青系のコーディネート……というには大人しめな印象の出で立ちで、小さな鞄を襷掛けにしている。

 コイツは……見覚えがある。カレンブーケドールのインスタによく出てくる、同期の一人。クロノジェネシスだ。

 

「ウララちゃんは天使。ニシノフラワーちゃんは妖精。マヤノちゃんは悪戯な小悪魔で、ライスシャワーちゃんのお兄様になりたいだけの人生だったんだ……けど……ああ、見つけた」

 

 取り敢えずスマホを取り出し、110番。いつでも通報準備はOKだぞとアピールするが。

 これで止まったら、彼はペドフィリアでロリコン。略してペロリと皆に呼ばれていない。

 ……どっちかといえばただ小柄な子がタイプなだけだとは思うが、日本人の偏見ってやつは恐ろしいのだ。

 

「ああ……! 名前、名前ぇ! トーコ! 彼にアポを! あるいは話を聞いて欲しいっ! あの芦毛の天使で女神なウマ娘の名前が知りた……痛ぁい!」

 

 取り敢えず、兄同様ドロップキックに処す。慈悲はないのだ。

 

 

 因みに……。彼から返事が来たのは一時間後だった。

 

『サンキュ! まさかずっと観てくれてたなんて思わなかった。ただ、ごめん、今日だけはダメだ。ブーケとクロノと一緒に祝勝会するんだ。でもトーコとも久々に話したいな』

 

 まぁ残当。だって初勝利だぞ? と、皆に笑われた。まぁ、正直これは予想できていた。

 ……てか、クロノジェネシスも何か愛称で呼ばれてる件。嘘でしょ? まさかロリコン増えた? 処すべきか?

 まぁ、それはさておき。私は見逃さなかった。

 久々にトーコに会いたいという一文を。

 捻じ曲げるな? 黙れ私がルールだ。

 ならば……。

 

『クリスマスがレポートで潰れそうなんだけど、せっかくだから息抜きしたいです』

 

 ここで、追い込みだぁ! ほら、クリスマスに美女とお食事だよ? 来い来い来い来い食いついてこ……

 

『あ、悪い。トレーナー一年目は、トレセン内でのクリスマスパーティーの準備手伝ったり、市内パトロールしたりするから無理なんだ』

 

 オイぃい! クリぼっちになるぞ! 幼馴染が! お前それは……ダメだろ! ちょっとは気を回してよ!

 別にパトロール上がりの深夜でもいいんだよ私は? 具体的には性の六時か……。

 

『で、翌朝がトレーナー一年組の研修が三日間あるんだ。だから流石にね。何でも年数重ねるごとにトレーナーらのクリスマス前後の集合率が下がるから、今のうちに……らしい』

 

 ……ピンときた。それウマ娘らが捕獲するからやん。

 笑うしかないというやつだ。これだからウマ娘は……!

 

『だから、お正月に帰省がてら家でご飯食べよう! 三が日の最後に帰るからさ』

『OK。じゃあ楽しみに……あれ? 待って。年越しはこっちでしないの?』

 

 本当は二人きりがいいとか、それいつもと変わらぬ家族ぐるみの食事会ですよねェ!? と言いかけたが、そこは我慢する。

 もっと重大な……毎年両家でカウントダウンしたやん! 何で!?

 私のそんな心の叫びは……。

 

『うん。今年はこっちで過ごすよ。ブーケと初詣に行く約束もあるんだ』

 

 隕石のようなブーケトスで封殺された。

 因みに現在地はゼミ室だ。

 いつの間にか周りには人が集まってて、私と彼のLANE上のやり取りが鑑賞されていた。

 ブフッと吹き出したのは、ペロリの野郎だった。

 

『OK。改めて、初勝利おめでとう。担当ウマ娘さんにもよろしく』

 

 辛うじてそれだけを打ち込んだ私は天井を仰ぎ、大きく息を吸い込んだ。

 

「おのれぇ! カレンブーケドールぅうう!!」

 

 お前絶対に許さないからなぁ!!

 取り敢えず、クリぼっちと、新年最初の挨拶が取られることが確定した瞬間だった。

 

 

 ※

 

 

・時坂ダイゴのインスタグラムより

 

 本日、担当が初勝利を飾りました。沢山頑張った彼女をいっぱい褒めてあげたいです。

 両親や友人ら。トレセン学園でお世話になっている方々からも祝福の連絡を沢山頂きました。改めて感謝!

 これからも二人三脚で頑張って行けたらと思いますので、カレンブーケドールを宜しくお願いいたします!

 

 

・カレンブーケドールのインスタグラムより

 時坂ダイゴとクロノジェネシスがメニュー表を片手に論争をしてる写真。

 

 

 お鍋屋さんにて、鍋煮込みの方向性の違いで喧嘩するトレーナーさんとクロノさんの様子です。二人とも可愛いって思ってしまったのは内緒です。

 私はどっちのやり方も好きだったので、この後はみんなで二種類の味を楽しみました。

 

 

 

 

・トーコの日記から抜粋

 

 ……いや、勝利を喜ばんかい、カレンブーケドールぅ!

 あと、クロノジェネシスは要警戒対象。そう確信した。やっぱダイゴはロリコンなの? 違うよね? ペロリだけで間に合ってるんですけどぉ!

 てか、まだジュニア期なのに、私の情緒が持ちそうもない件。……このペースで後二年も経ったら、私爆発しそうなんですが!?

 振り回すのやめてくれませんかねぇ!

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