カレンブーケドールに幼馴染を奪われるお話(旧題:憎たらしき黄金の花束へ)   作:星組

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※カレンブーケドール視点です


閑話・運命の花束

 “あの人”の研修が終わった日。そして、あの人からのスカウトをお受けした日……私の中に芽吹いたのは未来への期待と知らない胸の高鳴り。そして、一抹の不安でした。

 

 不安と言っても、この人とやっていけるか? という類ではありません。ほぼ半年と少し身近で過ごしていましたが、本当に温かで、優しくて。でもちょっぴり不器用な頑張りやさん。

 ……雪割草みたいな人だ。そんな印象でしたから、一緒にやっていくことに関してはこれっぽっちも心配していませんでした。

 

 だからこそ、わからなかったのです。

 多分この人は、私のウマ娘としての“致命的な欠陥”に気づいています。なのにどうして……それでも私を選んでくれたのでしょうか?

 クロノさんとは特に仲良しなように見えましたし、グランさん、ラヴズさん……他にもG1戦線を戦える有力バとされる方々が、あの場には沢山いました。

 特に名をあげた御三方は、他の新人トレーナーさんは勿論、それぞれについていたベテラントレーナーさんですらキラキラした目を向けていたり、スカウトに走ろうとしてたことを知っています。

 

 新人だから、早く実績やウマ娘を担当する経験が欲しかった? そんな軽率な人ではありません。

 そもそも一年目から担当を持てるトレーナーは本当に稀で、よしんば担当を持てたしても未勝利戦の突破すら難しい。

 これは、スカウトが来ず、新人さんか名義を借りることしか選べないウマ娘と、まだ経験が足りない故に有力なウマ娘はスカウト出来ない新人トレーナーとで起こる悲劇であり、毎年何件かは起きている出来事だと聞きます。

 だから大半は、どこかのチームのサブトレーナーとして少しずつでも研鑽を積むのだそうです。

 それでも、私をスカウトしたいと思ったのは……。

 

『……そうだね。きっかけは、君の走りに一目惚れしたことだった』

 

 経緯を全部思い返すと……ちょっとだけほっぺたが熱くなります。

 私へ話を持ちかけるまでの一連の流れ。あの時、あの人が私にくれた言葉。お話した場所。そのような形で状況を整えた理由。

 全てが私への気遣いと尊重に満ちていて、それでいてあの人自身の気持ちもこもっていたから。

 

 喩えるなら花束。

 そう、あのスカウトは、あの人が私にと用意した花束でした。実際に片膝をつくあの人の姿を幻視してしまったし、後にラヴズさんが内容を聞いて「ラヴいじゃない! シチュエーションがほぼプロポーズじゃない!」と目を輝かせていたから間違いありません。

 貰った言葉は全部覚えています。それらは色とりどりの花みたいに今でも瑞々しく輝いていて。

 だから私は……あの人の手を取りました。取ってしまった。

 きっと苦労をかけてしまう。本来の私ならそう思ったら一歩引く筈なのに。それでも踏み出したのは……。

 もうあの人の陽だまりに身を委ねる心地良さを、知ってしまったからなのでしょう。

 

 だってスカウトはされない。そう思っていたのに。

 ベテラントレーナーさん達はすぐに私の問題に気づいてみせたし、普通のトレーナーさんならばそもそも私に目を向けないことの方が多かったのに。

 この欠点をどうにか出来る人がいるとは思えない。自分でもどうしようもないかもしれないと、諦めかけていた所へ……その欠陥を察した上で歩み寄ってくれる人が現れてしまったのです。

 

 地面の中にいたところに暖かさと水や栄養まで与えられたら。これからも丹念にお世話することを約束されてしまったら……芽を出したい。花を咲かせてみたいという気持ちが、溢れてしまった。

 

 だから、私は……。

 

 

 ※

 

 

「わざわざお見送りしてくれなくてもよかったんだよ?」

「私が、お見送りしたいと思ったんです。……ご迷惑でしたか?」

「まさか。嬉しいよ。ありがとうね。ブーケ。研修って言ってもガチガチなものじゃないから、何かあったら遠慮なく連絡してくれよ?」

「はい。分かりました」

 

 クリスマスの後に研修に旅立つトレーナーさんを見送りに来たら、だいたい予想した通りの言葉が出てきて、思わず笑ってしまいました。

 私を優しいと言ってくださる方は時々います。でもトレーナーさんだけは私を“優しすぎる”と評してくださります。後ろに悪い意味はないよ? と付け加えながら。

 曰く、それは美徳であるし、君の個性として大事にしていくべきものだと思う……と。

 泣きたくなるくらい優しいことを言いながら、私をそう褒めるのです。

 

 

 二つ前の新幹線が発車したアナウンスが聞こえてきます。今いる場所は駅の中にある喫茶店。

 もうしばらくしたら、この穏やかなお茶の時間を切り上げて、トレーナーさんは行かなければなりません。

 だから――

 

「えっと……あのさ」「あの……」

「おっと、ごめん。ブーケからどうぞ」

「い、いいえ。トレーナーさんの方が速かったので」

 

 同時に言葉が出て、二人揃って譲り合い。少しだけ見つめ合った後、私達は思わず吹き出しました。

 よくある日常の一コマがここで出てきて安心したのもあるのでしょう。トレーナーさんは私にラッピングされた小包を手渡してくれました。

 

「昨日はトレセン学園内のパーティーやら市内パトロールで渡す暇がなかったからね」

「これ……は?」

「クリスマスプレゼントと、少し間が空いたけど、初勝利記念に」

「――っ!」

 

 多分私は、目が真ん丸になっていたと思います。

 まさかそんな贈り物を頂けるとは思っていませんでしたから。

 だからそれを確認した私は慌てハンドバッグの中に手を伸ばし、お花のラッピングを施した箱を取り出しました。

 

「……あの、私も」

「へ?」

「クリスマスプレゼントと……感謝を込めました」

 

 受け取ったトレーナーさんは、まさかこちらにも用意があると思ってなかったのか、しばらくポカンとしていました。ちょっと可愛らしいと思ってしまったのは……内緒です。

 

「……ははっ、なんだよぉ。二人して同じこと考えてたのか」

「あはっ……あっ、ごめんなさい。でも、ふふ。嬉しいです。ありがとうございます。開けてもいいですか?」

「勿論。俺もいいかな?」

「はい♪」

 

 知らず知らずのうちに、語尾が弾んでしまう。意識しないと、尻尾が遊び始めそうでした。

 箱の中からは私が好きな、花のいい香りがしていたから。それをトレーナーさんが選んでくれたというだけで、心がほぐれるようでした。

 

「……色んなお花の香りのアロマキャンドルに……あっ、綺麗」

「ガラスのアロマポットだよ。綺麗で可愛らしいデザインのがあったからね。しかもそれ、お花の水栽培にも使えちゃうらしいんだ」

「嬉しい……ありがとうございます、トレーナーさん。早速今夜から使ってみますね」

「お礼を言うのはこっちの方さ。ブーケ、素敵なネクタイとタイピンをありがとう」

 

 ネクタイは普段遣いしやすい物を。ネクタイピンは……ある花の模様が刻まれた、ちょっといいものを選びました。

 獲得した賞金は私が成人するまでは母に預かって貰っていますが、今回のプレゼントはそこから初めて使ったものでもあります。

 

「うん、せっかくだ。早速研修に着けて行っちゃおう」

「――あっ、それなら……私が」

 

 立ち上がり、そっとトレーナーさんが元々つけていたネクタイを受け取って、丁寧にプレゼントしたネクタイを結んでいく。

 思い描いていた通り、その色はトレーナーさんによく似合っていました。

 

「……めっちゃ研修頑張るよ。超気合い入った」

「頑張りすぎも禁物ですよ? トレーナーさん、頑張りすぎる時は常軌を逸してますから」

「……え、そんなに?」

「はい」

「即答!? そ、そっか〜気をつけるよ。そういえば昔、白鳥か何かかお前はって言われたことあったなぁ」

 

 その綺麗ながらもどこか胸を締め付ける喩えに、一瞬私の手が止まりかけました。

 見た目は優雅に。でも水面下では必死にいっそ泥臭いくらいに。……なるほど、確かにトレーナーさんの本質を突いていると思えたと同時に……。この人のそういう所を見てくれてる人は私や……クロノさん以外にもいらっしゃるんだなと感じます。

 

「………………」

 

 そっと布地にそってネクタイピンをかけます。蔦と鬼灯に似た果実の意匠を刻まれたデザインのそれが、パチン。という剪定鋏のような音を立てて、アナタの首に添えた私の彩りを繋ぎ留める。

 不思議な高揚が私の中に芽生えます。それは会心のフラワーアレジメントを完成させた時の喜びにも似て――。

 

「ブーケ? ぼんやりしてどうしたの?」

「……えっ? あっ、ごめんなさい。……行っちゃうんだなと思いまして」

 

 ……ち、違います。そんなことを言いたかった訳ではなくて。

 慌て頭を振ると、トレーナーさんは笑いながらポンポンと、頭を優しく撫でてくださりました。

 

「何だかんだで、契約を結んでからほとんど毎日一緒にいたからね。次に会えるのは年明けかぁ……そう思うと確かに俺も寂しいなぁ」

「――っ! えっと……」

「ん? わっ! ごめん! 無意識だった!」

「……あっ」

 

 戸惑う私にトレーナーさんは慌てたように手を引っ込める。「ほぼセクハラだろ俺ぇ……!」と頭を抱えるトレーナーさんでしたが、私がつい名残惜しげな声を上げてしまったことには気づいてないみたいでした。

 別に、嫌なわけじゃありません。辛うじて呟いた小さな言葉はトレーナーにも届いたらしく、ホッと息を吐く気配がして……私はまた笑ってしまった。

 

「ごめんなさい。ちょっと変でしたね。それより、トレーナーさん、お時間大丈夫ですか?」

「……あ」

 

 やっば! と立ち上がるトレーナーさん。私も一緒に立ち上がり、二人で改札口へ急ぐ。慌ただしくも幸せな時間を噛み締めながら、私はトレーナーさんに並走しながらスーツの裾をちょんと掴みました。

 これだけは、伝えなければいけない事がありましたから。

 

「――フウセンカズラです」

「……ん?」

「そのネクタイピンに刻まれてる花の名前です。私の……気持ちを刻みました」

 

 入口に立つ。次にお会いする時は……クラシック級。だから改めて、私はアナタに伝えたかった。

 欠陥が解決した訳ではない。それでもこの心は確かなものだから。

 

「行ってらっしゃい。トレーナーさん」

「うん、行ってきます。ブーケ」

 

 よいお年を。

 そんな言葉と共に、私のジュニア級最後の日はくれていく。

 願わくば……先の未来でも、アナタに勝利の花束を捧げられますように。

 




後にウマスタグラムにて匂わせ投稿と言う名のネクタイセットとキャンドルセットの写真を見たトーコ=サンの反応

トーコ「あああああああああああああああああっ!!」


因みにフウセンカズラの花言葉は「一緒に飛びたい」「自由な心」「永遠にあなたとともに」「多忙」
……最後だけは、ブーケちゃん渾身のブラックジョーク。
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