カレンブーケドールに幼馴染を奪われるお話(旧題:憎たらしき黄金の花束へ) 作:星組
さり気なくスイートピーステークスに勝利したウマ娘にはオークスへの優先出場権があったりしたらしい。
まさかダイゴのやつ、これも見越して? あいつが言ったように運命というやつ? なんやかんやでカレンブーケドールを口説いて勝利に導く辺り、新人トレーナーの癖にやるではないか。
まぁ、そんな謎の上から目線はこれくらいにしよう。
私は今……猛烈に不機嫌だった。
「お〜! スゲェ! ここが東京レース場かぁ!」
「ダイゴ君どこかな?」
「いや、関係者席だろ?」
「流石にこっちで一緒に応援は出来ないよね」
「カレンブーケドールちゃんとお話出来たりしないかなぁ〜。インスタ追ってるから、生で見るの楽しみ〜」
「ああ、時坂くん……我が校出身の生徒がこんな偉業を……グスッ」
「いや先生泣くの早いって」
……何かいっぱいいる件。同窓会かな?
今年の春、大学を卒業し、無事社会人として新生活をスタートさせた私だが、本質というかやってることは変わらない。
仕事をし、金曜日の夜からは自分と趣味の時間。その最中にダイゴとカレンブーケドールの情報も追う。
次のレース日は確定していた。そもそも日曜日だからお休みなのだが、不意の仕事に備えてこの日は絶対に無理と対策を打っていた。
今日はオークス。生で見ると決めていたら、5月始めくらいにかつての同級生らがグループラインを作り、気がつけば担任教師も含めてこの地に集結したのである。
「まぁ、うちの高校からウマ娘のトレーナーが出る可能性が出ただけでも事件だったのに最速で就任。しかも初年度にいきなり担当持ちでしょ?」
「こうやって羅列してみるとダイゴ君やっべぇわ。流石はトーコの幼馴染み」
「トーコも大手出版社だもんね。てか、ダイゴ君とブーケちゃんを記事に出来るんじゃない?」
「うちのクラスのツートップは流石ですねぇ」
……別に面白くねーとか思ってない。高校時代なら三人に一人はダイゴを私の旦那と呼んでくれたりとか、夫婦扱いしてくれていたが……もはや貫禄の! ゼロ! 大学時代と今に至るまで進展がなくて「あっ……(察し)」となってるのかもしれないけどさぁ!
何なら今やダイゴの隣イコールカレンブーケドールになっている件。
「お姉ちゃん、顔にチックショオ! って書いてる〜。ウケる〜」
「妹よ。世の中には言っていいことと悪いことがあると知らんのか」
「お姉ちゃん、世には諦めも肝心って言葉があるんだよ?」
「よーし、妹よ。戦争がお望みらしいなぁ!」
うがぁ! と叫んで、この場で唯一、母校とは関係ない人間……妹に掴みかかる。因みに彼と私の両親。そして兄は実家で中継を観ている。仕事の関係ゆえに仕方がないが、とても残念そうにしていたことを追記しておこう。
「……トーコちゃん、もしかして」
「マジで?」
「こじらせてるなぁ思ってたけど……引きずってたのね」
「気づいてなかったのはダイゴだけか。おいたわしや……トーコ」
「これほど……年月がたってもか?」
「永遠に」
「黙れやテメェらぁ!!」
同時に、様々な事実を元クラスメイトらに気づかれて、一斉に同情の視線が集まった。てか最後の方誰だ! 分かりにくいハ◯ー・ポッターのシーン再現しおって!
「お姉ちゃん可哀想! 私ご飯三杯いけちゃう!」
「トーコさん。人は酸いも甘いも噛み分けて成長するものです。今は酸っぱい時期かもしれませんが、それもまた思い出になりますよ」
「何で誰一人私の逆転勝利の可能性を出してくれないんですかねぇ!」
妹はもういいよ! 先生までこの反応は酷くない!?
私がそう喚けば、全員が先程から一人ずつステージに立ち始めたパドックに目を向ける。
そこには丁度現れた勝負服姿のカレンブーケドールが佇んでいた。
白と黒が強調されたシックなドレスを思わせるデザイン。スカートの裏地には色彩豊かな花柄が散りばめられており、両腕にはエレガントな長手袋を着けている。ひっくり返したら何か花束みたいになるのでは? なんて冗談交じりで思ったりもしたが……もしかしたらあの二人ならばそれも狙っているのかもしれない。
ともかく、ここに来てついにカレンブーケドールが勝負服をお披露目である。まぁ、栄えるというか……個人的にデザインは秀逸だと思う。悔しいが。実際に優雅で可憐な姿にその場にいた全員が目を輝かせたかと思えば……こっちをチラッと見てから、何とも言えぬ顔になる。
あのなぁ! その反応は既に二番煎じなんだよぉ!
悪くはないけど、ね。みたいなそれがわりと一番堪えるんですけどねぇ! 今回ばかりはまぁ勝てる気がしないけど……納得いかねぇなぁ。
『10番、カレンブーケドール。12番人気です』
『可愛らしい勝負服ですねぇ。このメンバーの中では一番若いトレーナーが担当しているウマ娘でもあります。因みに一番人気、ラブズオンリーユーのトレーナーは今年で三年目なのだとか。チームのサブトレーナーとして下積みを経て昨年度から独立。最近は若い世代も存在感を見せてくださり、頼もしい限りですねぇ』
コメントうっす! G1の解説者として失格じゃない?
なお、これには我が同級生らもちょっと不満そうだった。
「なんだよぉ12番人気とかさぁ」
「何で他のトレーナーの方にコメント割いてるわけ?」
「はーっ、つっかえ」
「いやまぁ桜花賞には出れず、スイートピーステークスからの優先参戦だもの。残当ってとこでしょ。寧ろG1に出れた時点で上澄み中の上澄みよ。それは誇るべきとこね」
地力は他のウマ娘に負けてはいまい。今からビックリする奴らが続出するだろうから、見ものというやつだ。
私がそう締めくくると、クラスメイトら全員がほえ~という顔でこっちを見てくる。もうこの反応も慣れたものだ。
「ファンじゃないわよ? 寧ろアンチよりなんだから」
「嘘乙」
「これがツンデレかぁ」
「お姉ちゃん、ダイゴくんとブーケちゃんのレースにインスタとかも全部追ってるからね」
生暖かい目、向けるのやめーや。
ほらレースが始まるぞ。私じゃなくそっちを見やがれ。
既にパドックからウマ娘達はスタンバイを完了させていた。
「(……桜花賞ウマ娘のグランアレグリアはいない。……いや、いたとしても距離的に敵にはならなさそう? だから舐めプしなきゃ勝てる。問題は……)」
小柄な芦毛のウマ娘を見る。赤い髪の一番人気にも目を向ける。
クロノジェネシスとラヴズオンリーユー。……恐らくこの二人が樫の冠を戴く有力候補とされていることだろう。
カレンブーケドールはどこまで戦えるか。
「(勝ちなさい。いやマジで。同級生や恩師がそろってるなら、祝勝会に皆でご飯は確実! つまり! 二人きりではなくとも幼馴染としての存在感は出せる……! あとクラスメイトらの援護射撃とか……!)」
猪口才なことを考えてる? 他力本願で恥ずかしくないの? やかましい。勝てば官軍だ。
『18人のウマ娘がゲートイン! ――スタートしました!』
そうこうしてるうちに、オークスのレースが開始される。
何かロケットスタートを決めたウマ娘がいたが、それだけで勝ちは決まらない。
「(インコースのいい位置。そしてクロノジェネシスもしっかりマーク出来てる。クイーンカップではしてやられたものね。今のところ、作戦通りってとこ?)」
見るべき相手と必要な場所は手にしている。後は……。
前半タイムは59.1
そのまま静かなせめぎ合いを経て、レースは後半へともつれ込んでいく。
第四コーナーを越えた最終直線は――。
『10番カレンブーケドール……カレンブーケドール!? 先頭です!』
実況が東京レース場がどよめきで揺れている。
そりゃそうだ。誰がこんな伏兵の好走を予想できただろうか。
かつてG1を人気最下位だったウマ娘が勝利したという事例もあったらしいが、このクラシック三冠レースの中ではそんな番狂わせは無かった筈だ。……あったらスマン。私の勉強不足だ。
ともかく、先頭に躍り出たカレンブーケドールの姿に、同級生らはワッと盛り上がり、全員が必死に声援を送っていた。
え? 私? 当然、腕組みして見守るのみだ。
ただ、気になることがあってゴール前にだけ少し目線を向ける。――いた。
ダイゴだ。ここからだと声は聞こえないが、多分この場にいる誰よりも声を張り上げて、誰よりもカレンブーケドールの勝利を願っているのだろう。……でも。
『ゴール間際やその間近での競り合いで……どうしても脚が鈍る』
『勝ちたくない訳ではないのです。走るのだって、勿論好きです。ですが……皆それぞれ、譲れないものの為に走っています。それが挫かれてしまったら? その原因が……確固たる何かがない私だったら?』
あの喫茶店でカレンブーケドールが口にした事実がリフレインする。
その時、カレンブーケドールや内から走るクロノジェネシスの表情がターフビジョンに大映しになった。
真剣な顔。だが、何故だろうか。方向性は違うが、この二人には迷いが……否、引っかかる何かがあるようにも見えた。それが脚を鈍らせている。
カレンブーケドールは、以前言っていた事実が答えだとして、クロノジェネシスは何が原因なのだろうか。やっぱり喫茶店での一件? いやいやまさか。
ただ、問題はそんな状態でも、この二人は並のウマ娘には負けないであろうことだった。……勿論。あくまで並の奴が相手だったらに限るけど。
「譲ら――ないわぁああ!」
坂を登った辺りから、大外より赤い閃光が躍り出た。
ラヴズオンリーユーだ。みるみるうちに加速する彼女だけは純粋にゴールを睨みつけていて。それに触発されたかのようにカレンブーケドールも再加速する。
だが、一手遅い。
クロノジェネシスは引き離し、完全にカレンブーケドールとラヴズオンリーユーの一騎打ちという形になったが……気迫や勢いまでは巻き返せなかった。
『13番ラヴズオンリーユー! ラヴズオンリーユー、ゴールイン!』
思わず目を閉じてしまったので、ゴールの瞬間は見ていない。何かブライダル雑誌で見出しになりそうな文字の並びだったなぁというアホな考えが浮かびかけるが、そこを気にしたら負けだろう。
息を切らしながら、もどかしそうにうつむくカレンブーケドール。周りの同級生らはそれを「悔しそう……私も悔しい」だとか、「大健闘だったよ!」と囃し立てていたが……それだけではないのだと私は知っているからこそ、沈黙を貫かざるを得なかった。
そりゃあ、長年克服したくても出来なかった自分のバッドステータスだ。
すぐに解決するものではないと思ってたし、この晴れ舞台で奇跡が起きるなんて漫画めいたことは起きないだろう。
現実は無情なのだ。私の恋と同じくらい。……言ってて悲しくなってきた。
こりゃあ時間かかるぞぉ。マジでクラシック期間を使って矯正する気なんだなぁと改めて実感する。しかもそれで治る保証もないという。
やっぱダイゴの奴、考えることぶっ飛んでるわ。そう再認識しながらも、私は最後の直線での叩き合いを思い出す。
クロノジェネシスには勝っていた。競り合いでも負けずにトップをキープ。ただ、ラヴズオンリーユーには及ばなかった。……本当に?
「(最後のラヴズに並ばれた時に見せた再加速。あれをもっと早く出してたら……追いつかれなかったかも。現に抜かれてから差を開かれることはなかったんだから)」
勿論ifを並べてもキリがないとは分かっているが……なんだかなぁ。てか。
「祝勝会っ……出来ないじゃん……! な、なら残念会を……!」
「いや、流石に空気読も? お姉ちゃん」
「ブーケちゃんのそばにいてあげてほしいよ。割り込むのは無粋よね」
「そうだな。挨拶だけ軽くして、飲むのは俺達だけでするか」
「てか、語り合いたいわ。最高に熱いレースだったもん」
「俺達のダイゴとブーケちゃんの最高ペアに乾杯だな!」
「沢山頑張りましたからね。いっぱい褒めてあげることでしょう。二人きりにしてあげましょうか。今日は私が奢りますよ」
先生の言葉に皆がキャッキャと騒ぐ中、私は啞然と立ち尽くしていた。味方がいねぇ。
てか、俺達のダイゴとブーケちゃんの最高ペアだぁ!?
喧嘩売ってんのかぁ?
「ぐ、うぅう……おのれカレンブーケドールゥ! 負けてんじゃねぇぞぉ!」
さっさとクールダウンして飯食べて休みやがれ。
お前、次のレースも重賞な。さっさと勝って私を料亭辺りに連れて行くんだよぉ! あ、勿論お前はお留守番で。
「お姉ちゃんサイテー」
「いやこれ、下手したらダイゴとブーケちゃんの次に強く勝利を願ってないか?」
「やっぱアンチというよりただのファンでは?」
外野は黙れぇ! と私の叫びがこだましたのは数秒後のことだった。
カレンブーケドール。戦績は6戦2勝4敗。……まぁ、一番欲しい1勝が得られない私よりは上等かもしれんと思ったのは内緒の話。
因みに、3着だったクロノジェネシスが物凄く落ち込んでいたことも追記しておく。
というか、ラヴズを見て、悔しげにしながらもこれが歴史かと受け入れるような顔をしてたくせに……カレンブーケドールとそれを見つめ続けるダイゴを交互に見て、唇を噛みながら俯いていたのが印象的だった。それどういう感情? と思いつつも何故かシンパシーを感じたのは……私だけの秘密である。
次回はクロノジェネシス視点で秋華賞とクラシック終わりまで
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