敏腕ハンドラーである俺は勇者の扱いを心得てる   作:バショウ科バショウ属

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アーチボルトの手記

――王国歴308年9月1日――

 俺の名前はアーチボルト。

 今日はろくでなし、もといハンドラーになった記念すべき日だ。

 これで晴れて地上人の仲間入り、天井世界の顔も知らない連中のために働くぜ!

 というのは、建前。

 俺がハンドラーになったのは、目玉が飛び出るくらいの高給取りだからだ。

 稼いで、稼いで、グロリア金貨の山を築く!

 そして、天井世界に舞い戻り、別荘を建てて優雅に暮らす。

 この日記には、その輝かしい道程を記していく。

 

――王国歴308年9月2日――

 ハンドラーとは、飼い主だ。

 飼うのは、かつて天井世界を護っていた勇者、その成れの果て。

 戦うたびに呪いで体が変質し、人の姿を保てなくなるまで続けた馬鹿野――

 ともかく、この勇者を使って地上で資源争奪戦をやらせるのが、ハンドラーの仕事だった。

 つまり、筋金入りのろくでなしだ。

 だが、そんなことを気にする俺じゃない。

 道具に同情してちゃ金なんて稼げないぜ。

 今日は勇者を買いに行こうと思っていたが、荷解きで一日が終わっちまった。

 勇者を買うのは明日からだ。

 

――王国歴308年9月3日――

 さっそく勇者を買うため、要塞で開かれる市場に出向いた。

 だが、どいつもこいつも高かった。

 そりゃそうだ。

 勇者は絶対数が多くないし、古代兵器と戦える唯一の地上戦力でもある。

 そんな中、「廃棄勇者」なるタグを見つけた俺を褒めてやりたい。

 そいつは他と比べて格段に安かった。

 名はマルティナ、性別は女、俺より一回りはでかい。

 頭には兎の耳、左腕は狼の頭、翼と尻尾が生えてる。

 だが、そんなものは誤差だ。

 いい目をしてやがる。

 猛獣の目だ。

 ブリーダー曰く訳ありらしいが、戦えるなら問題ねぇ。

 ハンドラーの腕でカバーすりゃいいのさ。

 いい買い物をしたぜ。

 

――王国歴308年9月4日――

 この勇者、一切口を開かない。

 というか開けないのか。

 口に拘束具をつけてるせいで、物理的に会話できない。

 外そうとすると抵抗してきやがる。

 「せめて飯は食え」と言ったが、それも拒否。

 左腕のでかい狼頭は飾りか!?

 ろくでなしの言葉は聞けねぇってか。

 せっかく買ったのに、稼ぐ前に餓死なんてされちゃたまらない。

 いい度胸だ。

 グロリア金貨風呂に入るためなら一肌脱いでやる!

 

――王国歴308年9月6日――

 侮ったな、勇者め。

 ハンドラーになるため磨いてきた俺の腕を!

 木端ハンドラーは料理なんてできねぇだろうが、俺は違うぜ。

 かなり粘った方だが、口から滴る涎は隠せねぇ。

 燻製肉と芋と油の誘惑には誰にも勝てねぇのさ。

 それでも拘束具を外してから中々食わなかったのには、さすがに参った。

 「冷めるから早く食え」と言ったら、ようやく食い出した。

 泣くほど美味かったらしい。

 手間かけさせやがって。

 

――王国歴308年9月8日――

 地上で戦う勇者は拠点に帰還したら、まず汚物と呪いを洗い落とす。

 水浴びみたいなもんだ。

 洗剤なんて使わないせいで、ほとんどの勇者は灰色だ。

 だが、汚い身なりは、これから金貨の山を築く俺にとって見過ごせねぇ。

 俺の道具である以上、身なりは整えてもらう。

 嫌がる勇者に湯をぶっかけて、とにかく洗う!

 抵抗しても無駄だ。

 黒く固まってる髪は石みたいだし、肌も爪もぼろぼろだし、まったく管理が行き届いてねぇ。

 追々改善してやる。

 バトルドレスを着せれば、それなりの身なりにはなった。

 勇者に服を見繕うこともできない木端ハンドラーどもを俺は笑う。

 ついでに、豆鉄砲を食った鳩みたいな面の勇者も。

 

――王国歴308年9月10日――

 ようやく初仕事!

 のはずだったが、勇者が指示を聞かねぇ。

 余所の開拓団を追い散らすだけの仕事をキャンセルする羽目になった。

 護衛の勇者も、厄介な古代兵器もいねぇ簡単な仕事だってのに!

 まぁ、過ぎたことはいい。

 それよりも「お前も同じか」って抜かしやがったことが許せん。

 俺を木端どもと一緒にするとは、いい度胸だ。

 舐めるなよ、勇者め。

 

――王国歴308年9月12日――

 開拓団のお守りを振ったら、勇者は大人しく番犬の仕事をした。

 つくづく俺の慧眼には困っちまうぜ。

 廃棄勇者なんて間抜けなタグができるのは、こいつの歴代ハンドラーが軒並み癇癪持ちだったからだ。

 その点、敏腕ハンドラーである俺は道具の扱いを心得てる。

 道具に当たるなんて馬鹿はやらねぇ。

 合わせた仕事を振ればいいだけだ。

 

――王国歴308年9月15日――

 勇者の仕事ぶりは悪くない。

 というか、聖剣に加えて狼頭から吐く炎が、かなり強力だ。

 忌々しい古代兵器も軽々と鉄屑に変える。

 開拓団のお守りは安い仕事だが、稼ぎは稼ぎだ。

 俺は堅実に事を進めている。

 まったく優秀で困るぜ。

 

――王国歴308年9月17日――

 勇者の聖剣が折れた。

 ぽっきりと。

 やれやれ、敏腕ハンドラーともあろう俺が道具の確認を怠るとはな。

 勇者が修繕に出す聖剣を渡そうとしないから苦労したぜ。

 誰が廃棄すると言ったんだ、馬鹿野郎。

 使い慣れた道具を捨てるなんて論外だ。

 ついでに要望を聞いて、取り回しを良くしてから返してやる。

 

――王国歴308年9月20日――

 聖剣を仕立て直してから勇者の動きは格段に良くなった。

 ここまで上手くいくと、鼻歌の一つも歌いたくなっちまう。

 ご機嫌な俺に、勇者が「どうして私の望みを聞くのか」なんて抜かしやがった。

 おいおい、せっかく道具が喋ってくれるのに聞かない持ち主がいるのか?

 木端どもを見てきたせいで、目が曇っちまったらしいな。

 俺みたいな敏腕ハンドラーになると、道具のことで妥協しねぇんだ。

 よく覚えとけ。

 

――王国歴308年9月26日――

 うるさくて敵わん!

 まったく勇者ってのは、静かに寝られねぇのか?

 悲鳴で起こされる身にもなれってんだ。

 勇者に問い詰めたところ、どうやら誰かに連れ去られる夢を見ているらしい。

 くだらねぇ。

 今度その野郎が出てきたら「俺のグロリア金貨500枚に手を出してみろ。ぶち殺すぞ」と言ってやる、と言い放ってやった。

 それでも大人しく寝ないものだから、仕方なく今日の仕事は勇者の寝床ですることになった。

 やれやれだぜ。

 

――追伸――

 尻尾を巻きつけないよう言い含めておく。

 骨が折れるかと思った。

 

――王国歴308年9月29日――

 ずいぶん寝相が良くなった。

 手間かけさせやがって。

 しかし、俺が寝床を出ていくと尻尾を伸ばしてくるのが課題だな。

 

――王国歴308年10月11日――

 木端どもが喧嘩を売ってきた。

 俺の堅実な仕事ぶりに嫉妬したらしい。

 全くもってくだらねぇ。

 あまりに下らないことを言うから、防呪マスクを引き剥がして要塞の外に捨ててきた。

 すっきりしたぜ。

 今日は勇者も大人しく寝てるし、いい気分で仕事ができそうだ。

 

――王国歴308年10月13日――

 妙に勇者の距離が近い気がする。

 いや、気のせいじゃねぇ。

 敏腕ハンドラーである俺は些細な異変も見逃さない。

 どうやら勇者は木端どもを締め上げた時に掠り傷を負った左手が気になるようだった。

 なるほど、頼りないハンドラーだと思われているらしい。

 まったく生意気な勇者だぜ。

 そんな軟じゃねぇっての。

 

――王国歴308年10月17日――

 まずいことになった。

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