敏腕ハンドラーである俺は勇者の扱いを心得てる 作:バショウ科バショウ属
――王国歴309年1月24日――
記録という作業は昔……死体を数えていた頃を思い出すから好きではなかった。
でも、ハンドラーの真似なら嫌いじゃない。
ハンドラー・アーチボルトは全てを与えてくれる。
今、私が手にしているペンも、書き込んでいる紙片も、手元に置かれた代用コーヒーも、全てだ。
昨日は、二度と味わうことはできないと思っていたプィリジキを食べさせてもらった。
あまりの美味しさに大皿を一瞬で空にしてしまった。
ハンドラーには栗鼠みたいだと笑われたが、それすら幸せの香辛料だ。
毒見役と称してオーガスタ家当主へ先に食べさせたことは……決闘の時、事故死させた方が良かったかもしれない。
要塞の人間を殺したら、さすがにハンドラーも怒るだろうか?
あの当主からはハンドラーを勢力争いの駒に加えたいという思惑が透けて見えるが、まだ泳がせる。
今の私なら、いつでも殺せる。
勇者マルティナもハンドラーのためなら喜んで手伝ってくれるはずだ。
――王国歴309年1月25日――
ハンドラーの寝床に潜り込みたい衝動を抑える。
あの人の重みを感じたい。
でも、怒らせたくはない。
与えられてばかりの身で困らせたくない。
――王国歴309年1月26日――
殴る、砕く、潰す。
技量も主義も乗せない単純な暴力に心が躍る。
敵対者の血とは、こんなにも鮮やかなものだったか?
敵対者の断末魔とは、こんなにも心躍るものだったか?
近衛旅団で日常的に接していた退屈な事象が、今では私を昂らせる香辛料だ。
ハンドラー・アーチボルトが与えてくれたもの。
私の力に耐えられる特注の聖剣、私の体格に合わせたバトルドレス。
そして、全力で暴れてもいい舞台。
対価が…必要だ。
――王国歴309年1月27日――
そうだ、近衛旅団だ。
あの時の経験は無駄じゃなかった!
ハンドラーに喜んでもらう方法を私は知っていた!
――王国歴309年1月28日――
細かな知識が抜け落ちている。
地上世界に降り立ってから使っていない知識、錆びつくのも無理はないか。
心苦しいが、無理を承知でハンドラーに参考書の購入をお願いした。
必ず満足させます。
――王国歴309年2月1日――
内容について聞かれたが、料理書で通した。
美味しく調理する。
嘘は言ってない。
――王国歴309年2月4日――
ハンドラーが要塞中央区の高級娼館に通っていることは把握しているが、彼は行為に及んでいない。
私の鼻を誤魔化すには、香水の種類が不適当だ。
ひとまず安心――ではなかった、本題は別だ。
つまり、彼は欲求を我慢している。
そこで調合した■■■■を使う。
理性的なハンドラーも好きだが、もっと暴力性を剥き出しにしていい。
我慢は、そう我慢は良くない。
私の身体に魅力がないのは百も承知。
ただ好きに貪って捨てるだけで構わない。
ハンドラーの発散に使われるなら本望だ。
それに……普段、貪る立場が逆になるというのは――
――王国歴309年2月7日――
ハンドラーを独占してはいけない。
私を信じてくれた唯一の勇者、彼女にも報いたい。
だから、協同奉仕を提案した。
一度目の拒否は想定内、勇者マルティナは内に秘めた狼を抑え込むのが得意だ。
大した理性だと思う。
でも、私は知っている。
ハンドラーの背中を見つめる瞳が獣欲で暗く濁っていること。
ハンドラーの役に立っている私を本当は殺したくて仕方がないこと。
後者については喜んで相手をしたいところだが、彼が良しとしないだろう。
なら、取れる手は1つだ。
私の説得に生唾を飲み込みながら勇者マルティナは同意してくれた。
大丈夫、誰も不幸にならない。
皆、幸せになれる。
――王国歴309年2月12日――
邪魔が入った。