敏腕ハンドラーである俺は勇者の扱いを心得てる 作:バショウ科バショウ属
――王国歴309年2月9日――
指名の中に妙な依頼が混ざってやがる。
覚えのない開拓団からの護衛依頼、相場を無視した高額な報酬、それも全額前払いと来た。
こんな露骨な罠に引っ掛かると思ってんのか?
なるほど、木端どもは俺を舐めてるらしい。
くだらねぇ依頼は屑箱へ…と凡庸な連中ならするんだろうが、敏腕ハンドラーである俺は違う。
探す手間が省けていい。
わざわざ待ってくれてんだ。
一網打尽にしてやるぜ。
――王国歴309年2月10日――
不測の事態を予測しろ、こいつは相手にこそ必要な助言だったな。
勇者4人が死亡、1人が再生不可。
文面だけ読めば、ロックウェル型との遭遇戦かと見違う。
これがマルティナとタチアナが件の護衛依頼で叩き出した戦果だ。
接敵して3分で、タチアナが勇者3人を物理的に粉砕。
援護に徹するよう命じていたマルティナが狙撃で勇者2人を殺傷。
当然の勝利だ。
だが、今回は失敗だったかもしれん。
磨き上げた道具は別の用途にも通じることを証明できた。
つくづく俺の手腕には困っちまうぜ。
――王国歴309年2月12日――
駄犬が代用コーヒーを淹れると言い出した。
軽く流してたが、どうやら年末の話は本気だったらしい。
この俺に泥水を出すとは良い度胸だ。
まぁ、新しい芸を仕込むのも悪くねぇ。
今日は自称弟子を毒見役にでき■■■■■
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保安隊がいる要塞内で襲撃とはやってくれるな、木端ども。
おかげで、マルティナの淹れた代用コーヒーが台無しじゃねぇか。
だが、いつぞや鉄屑にしてやったロックウェル型の装甲板を使った机は鉛弾ごときじゃ抜けねぇ。
被害といえば、既製品のマグと紙面くらいだ。
いや、代用コーヒーを頭から飲む羽目になった自称弟子の足取りが怪しかったな。
箱入り娘には刺激が強かったか?
――王国歴309年2月13日――
目に見えて落ち込んでやがる。
マルティナは分かるが、タチアナまで落ち込んでる意味が分からん。
まったく手間の掛かる勇者どもだ。
だが、ここで手間を怠る俺じゃない。
敏腕ハンドラーってのは些細な問題も見過ごさないもんだ。
――王国歴309年2月14日――
俺に恩を返したい、ね。
笑っちまうな。
道具が「使ってくれてありがとう」と謳ったら誰だって笑う。
おめでたいにも程があるぞ。
俺は勇者を使ってグロリア金貨を稼ぐ地上世界のろくでなし、ハンドラーだ。
使えるようにするのが当たり前なんだよ。
――追伸――
私たちには、その当たり前がありませんでした。
――追伸――
なら、ありがたく噛み締めとけ。
お前らに返してもらう恩なんざねぇよ。
――王国歴309年2月16日――
らしくねぇな、まったく。
そろそろ、日記の保管場所を変えるか。
――王国歴309年2月20日――
左腕が狼の頭になっているマルティナは髪を結うことができない。
だから、俺が直々に結ってやっている。
優れた道具ってのは見てくれも整ってるもんだ。
敏腕ハンドラーは細かな手入れを怠らない。
今日も悪くねぇ出来だ。
――追伸――
私の髪も結ってほしいです。
――追伸――
手癖の悪い鼠には躾が必要らしいな。
まったく、保管場所を変えた意味がねぇ。
――王国歴309年2月21日――
オーガスタ家の当主ってのは暇なのか?
俺が淹れてやった代用コーヒーに文句をつけられるあたり、面の皮も厚い。
何が「混ぜ物はやめた方がいい」だよ。
耳寄りな情報とやらがなかったら蹴り出してるところだ。
内容自体は自称弟子が言ってたことの焼き直しだった。
俺の手腕を妬んだ木端どもが潰しに来る。
違いがあるとすれば、フロス要塞防衛戦時に外征してた連中が相手ってところか。
間に合わなかった奴の肩身が狭いのは、地上世界も変わらねぇな。
それを挽回する方法は、あまりにもお粗末だがな。
そこらの木端より出来ると思ってたが、とんだ期待外れだ。
情報提供者の言葉が事実なら、な。
――追伸――
嘘は言っていないようです。
あと、躾はまだですか?
――王国歴309年2月23日――
あの半端者が言ってた通り、招かれざる客が現れた。
開拓団とは名ばかりの呪薬工房を潰すだけの簡単な仕事で、タチアナが奇襲を受けた。
襲撃者は、防呪印を施したバトルドレス装備の勇者が1人。
呪薬の撒き散らされた一帯で優位に戦おうって腹だ。
連携も取れないくせに徒党を組む連中と比べりゃ及第点。
だが、相手が悪かったな。
タチアナのバトルドレスには、とっくに防呪印を施してる。
あらゆる局面を予想するのが、敏腕ハンドラーってもんだ。
――王国歴309年3月1日――
あれから勇者を3人、泥の中に沈めた。
小細工を思い付く知恵はあるらしいが、その程度じゃ相手にならん。
最近、妙に血気盛んなマルティナやタチアナは小細工ごと粉砕する。
本当にどうしたんだ、こいつら?
しかし、お呼びじゃない連中を何人潰そうが稼ぎにはならねぇ。
まったくもって無意味だ。
要塞内では俺と木端のどっちが勝つか、携帯食料からグロリア金貨まで雑多なベットを使って賭けてるらしい。
自称弟子曰くこのままだと賭けが成立しない、と。
そんなもん始める前から分かり切ってたことだろうが。
――追伸――
オッズは俺の方が圧倒的に高かった。
どうやら心配性な自称弟子も含めて要塞の連中は目が曇ってるらしいな。
――王国歴309年3月4日――
盤外戦術とは恐れ入った。
目的のためなら手段を選ばないってか。
なら、こっちも倣ってやるよ。
ついでに自称弟子も返してもらうぜ。