敏腕ハンドラーである俺は勇者の扱いを心得てる   作:バショウ科バショウ属

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焼け焦げた手記

――王国歴308年10月22日――

 こいつが燃えてなくてよかったぜ。

 勇者の手柄を書き加えてやらないとな。

 王国歴308年10月17日、フロス要塞はロックウェル型の襲撃を受けた。

 現状確認されている古代兵器の中で最強と言われてる奴だ。

 ほとんどの勇者は外征中で、俺のところにしか勇者がいなかった。

 まさに絶体絶命って状況だ。

 だが、格の違いを見せつける好機でもある。

 そして、敏腕ハンドラーである俺の目に狂いはなかった。

 マルティナはロックウェル型を鉄屑の山に変え、要塞の窮地を救ってみせた。

 あれが廃棄勇者なものかよ。

 生き残った木端どもの間抜け面は見物だったぜ。

 まぁ、これまでの落ち度を認めて頭を下げた点は見直してやらんこともないが。

 

――追伸――

 見舞いに甘ったるい合成甘味はやめろ。

 

――王国歴308年10月23日――

 ベッドが恋人ってのは、なかなかに苦痛だ。

 物書きはできるが、ほとんど身体が動かせねぇ。

 しかめっ面の医官曰く絶対安静だそうだ。

 そう言うなら勇者を引き剥がしてくれないか?

 必要な時以外、俺の傍から離れないんだが。

 看病と抜かして頬を擦りつけてくるわ、膝に顎を置いてくるわ、好き放題しやがって。

 お前は甘えたがりの犬か!

 まったく、困った勇者だぜ。

 

――王国歴308年10月24日――

 とっとと復帰して勇者の首根っこを摑まえておく必要がある。

 マルティナはロックウェル型を撃破した。

 結果、廃棄勇者と見下してた木端どもは手の平を返す。

 三流作家でも思いつく陳腐な話だ。

 今は静かでも、そのうち引き抜きに来るだろう。

 回答は決まってる。

 出直せ、だ。

 

――王国歴308年10月25日――

 残念ながら、今日の来客も木端どもじゃなかった。

 開拓団からの見舞いばかり来やがる。

 護衛の依頼を引き受けたのは仕事で、戦ったのは勇者だ。

 感謝するなら俺の膝上で呑気に寝息を立ててるマルティナにするんだな。

 少しは体面を気にしろ、この駄犬め。

 

――王国歴308年10月26日――

 文字との睨めっこはやめだ。

 今日は軍服に開いた穴を黙々と縫う。

 敏腕ハンドラーである俺にかかれば、この程度のソーイングなんてことない。

 ただ、泣きそうな面の勇者が袖を握ってたせいで若干手間取った。

 よく泣く勇者だよ、お前は。

 

――王国歴308年10月30日――

 そろそろ復帰だ。

 いつまでも寝てられねぇ。

 グロリア金貨を稼いで天井世界の一等地を買い取るまでは働いてやる。

 こき使ってやるから覚悟しろよ、勇者め。

 

――王国歴308年11月3日――

 ひと月前と比べて勇者の動きが良い。

 俺はベッドの上で無為に時間を過ごすような木偶じゃない。

 積んでいた戦闘記録を読み漁り、勇者の運用を練っていた。

 それが上手く噛み合った――

 と言いたいところだが、それだけじゃない。

 マルティナだ。

 フロス要塞の戦いを経て、古代兵器相手の立ち回りが洗練されてる。

 いや、これが本来の実力か。

 歴代ハンドラーが何を評していたのか、聞いてみたいところだ。

 

――王国歴308年11月6日――

 古代兵器の撃破数が積み上がっていく。

 人類を襲う厄介者だが、実は鉄鋼資源として有用な連中でもある。

 回収の手数料を引いてもお釣りが来るほどの額が入り、グロリア金貨風呂が現実味を帯びてきやがった。

 今度、勇者に何か買ってやるか。

 飴と鞭を使いこなしてこその敏腕ハンドラーだ。

 

――追伸――

 頭を撫でるだけで褒美になるのか?

 安上がりで結構だが、解せねぇ。

 それでいいのか、お前?

 

――王国歴308年11月9日――

 同じハンドラーの知己から連絡が来た。

 どうやら西までロックウェル型撃破のニュースは届いてたらしい。

 祝報かと思ったら、懐かしのお節介だった。

 廃棄勇者はやめておけ、だと?

 余計なお世話だっての。 

 敏腕ハンドラーの華麗な手際を見せてやりたいぜ。

 

――王国歴308年11月13日――

 すべては順調に進んでいく。

 仕事を受け、古代兵器を潰し、報酬を受け取る。

 勇者に携帯食料の上手い調理法を教えたり、俺を師と仰ぐ木端を蹴り出したり、時に喧しいイベントが入る。

 フロス要塞の復興も進み、襲撃の痕跡は墓標の数だけだ。

 この世に不変のものはない。

 何事もな。

 

――王国歴308年11月20日――

 グロリア金貨の備蓄が庭付きの別荘を買えるぐらいになった。

 だが、俺が目指すのは旧王国領の一等地。

 まるで足りねぇ。

 ついに勇者を2人体制にする時が来たかもしれん。

 ようやく再開された市場に顔を出してみるか。

 また廃棄勇者を掘り出すのも悪くない。

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