敏腕ハンドラーである俺は勇者の扱いを心得てる 作:バショウ科バショウ属
――王国歴308年9月■■日――
最近、気になる男がいる。
僕と同時期に■上世界へ降り立ったハンドラーだ。
その男の名■はアーチボルト、家名はない。
正直に言って苦手な男だ。
世■樹の下で初めて会った時から相容れない人種だという確信があった。
僕より身長が低いのに、それを全く感じさせない不遜な態度。
育ちの悪さが滲むような口調、荒んだ眼差し。
■年前に解体■れた王国軍の軍服を着込んでいるから、余計に高圧的に感じる。
でも、ハンドラーとしての実力はあるらしく、開拓団からの依頼を着実に処理していた。
その評価はフロス要塞の中堅たちと肩を並べつつある。
彼を指名する開拓■もいると聞いた。
飛ぶ鳥を落とす勢い、というのだろうか。
おかげで、嫌でも名前を聞くし、不遜な横顔が目に入る。
自身を敏■ハンドラーと宣う彼が、ひどく■■――ひどく疎ましかった。
家名もない軍人崩れのくせに……
だからといって、影で中傷するような見下げ果てた品性を僕は持ち合わせていない。
実績で見返してやるだけだ。
――王■歴3■■年10月11日――
ハンドラー・ア■チボルトの怒声を初めて耳にした。
彼への評価を妬んだ■派が廃棄勇者を嘲った瞬間、怒号と拳が飛んだ。
そのまま丸腰のハンド■ーたちは一方的に打ちのめされてしまった。
だけど、僕が衝撃を受けたのは、そんな些細なことじゃない。
あの男は勇者を人■扱いしていた。
廃棄勇者を買った時点で変人とは思っていたけど、命令印を使っていないだって?
正気じゃない。
勇者は言■が通じるだけで、人間の範疇を逸した怪物だ。
命令印がないと、とても扱えたものじゃない。
それが廃棄勇者ともなれば、フロス要塞の危険因子になりかねない。
この地■世界で聖人を気取るつもりか。
道具を使い潰せない半端者がハンドラーをするな!
勇者を命令印で従わせ、1本の剣として運用する。
それが地上世界のハンドラーだ!
あの軍人崩れは勘違いしている。
そう、正しいのは私たちだ。
……それな■に、ひどく惨めな気分になるのは■■……
エインズワースが劣っているとでも言うのか?
いや、そんなはず■■■!
――王■歴308年■■月17日――
僕は見た。
勇者を見た。
かつて天井世界を守っていた英雄を見た。
燃え落ちるフロス要塞の一角で■■ンドラー・アーチボルトと廃棄勇者が立ち上がる光景。
それは英雄譚の一片だった。
最強の古代■器を前に誰もが絶望し、生存を諦めていた。
でも、あの不遜なハンドラーは笑ってみせた。
使える剣は廃■■者で、自身も重傷を負っているにもかかわらず。
勝利を微塵も疑っていなかった。
ただの道具に、あそこまでの信頼が置けるものなのか?
そこから繰り広げられた戦いを僕は生涯忘れないだろう
あの勇者殺しと恐■られるロックウェル型を単騎で圧倒するなんて聞いたことがない。
ハンドラー・アーチボルトは廃棄勇者に何を施したのか。
分からない。
なぜ、目の前の怪物を信じられるのか。
理解できない。
どうすれば、この掃き溜めの地上世界で笑っていられるのか。
知りたい。
いや、知らなければならない
エインズ■ースに名を連ねる者として。
――王■歴308年11月■■日――
ハンドラー・アーチボルトは人付き合いが下手だ。
すぐ敵を作る。
それは間違いない。
フロス要塞を救った立役■という肩書も入院期間くらいしか機能していなかった。
開拓団の工員には慕われてい■けど、周囲からの人物評は壊滅的だ。
そんな彼だが、懐に飛び込むと全く違った顔が見えてくる。
僕は生まれて初めて他人に恥を忍■で教えを乞うた。
エインズワースに恩を売ることも、名を貶めることもできる絶好の機会。
だけど、アーチボルトは微塵の■味も示さなかった。
「授業料も無しに学ぼうとはいい度胸じゃねぇか」とだけ言って僕を蹴り出した。
これには衝撃を受けた。
正直、唾を吐きかけられ、嘲られると思っていた。
彼はハンドラー■毛嫌いしているように見えたから。
それから授業料を持ってきた僕を見て、アーチボルトは渋々という体で教鞭を執った。
普段の粗野な口調からは想像もつかないほど、彼の講義は理性的で有意義なものだった。
兵器の運用論というより人心■■…育成論で、それを軍人時代の経験が補強している。
傭兵の真似事をしているハンドラーでは思い至らないはずだ。
フロス要塞の誰よりも真剣に勇者と向き合っていた。
性格矯正不可と言われた廃棄勇■が懐くのも頷ける。
僕に対しても一切の忖度や偏見なく応じていた。
アーチボルトは真剣な人間を笑わない、それだけなんだろう。
でも、出自や階級に関係なく、それが出来る地上人はいない。
――王国歴30■年11■■4日――
彼の育成論を実践し始めてから勇者の能力が目に見えて向上した。
出費は増加したけど、それ以上の効果を得られている。
正直、怖いくらいだ。
あれ以来、アーチボルトとは運用や育成について話す機会が増えた。
彼と話すのは、楽しい。
エインズワー■の教導官より知識が豊富で、頭の回転が速い。
不遜な態度と粗野な口調で隠しているだけで、彼は理知的な男だった。
地上世界の陰湿なハンドラーたちと違って、言葉に毒蛇を潜ませるようなこともしない。
ふと、一度だけ見た天井世界の陽を思い出す。
刺すよ■に鋭い光なのに温かい。
アーチボルトなら……いや、やめよう。
子飼いの勇者から飛んでくる視線が、ロックウェル型の熱線よりも怖い。
僕はエインズワースの血を絶やすわけにはいかない。
師弟関係は結■せてもらうけど。
――王■歴308年11月20日――
あの■■■!
新しい勇者を買いに行くだって!?
あれだけ子飼いの勇者が毎日、自己主張しているのに!?
新手の自■願望者なのか……いや、そうなんだろう?
敏腕ハンドラーを名乗るなよ、この軍人崩れ!
まずい。
非常にまずい。
これがマルティナに知れたら■■――
――王■歴308年11月24日――
どうしてこうなった…?