敏腕ハンドラーである俺は勇者の扱いを心得てる   作:バショウ科バショウ属

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新調された手記

――王国歴308年11月23日――

 勇者を顎で使って仕事をする地上世界のろくでなし、それがハンドラーだ。

 つまり、勇者がいなければ仕事にならない。

 頭数を増やせば、稼ぎも増える。

 馬鹿でも分かる簡単な話――

 と思っていた俺は甘かったらしい。

 2人体制の話を聞くなり、マルティナがのしかかってきやがった。

 この世の終わりみたいな顔しながら「嘘つき」だと何度も喚く。

 べそべそ泣くわ、手には噛みくわ、さっぱり意味が分からん!

 まさか、お払い箱にするとでも思ってんのか?

 舐められたもんだ。

 手間をかけて磨いた道具を手放す間抜けがどこにいる?

 「お前が愛想を尽かすか、墓に入るまで働かせてやる」と言ってやったら黙った。

 まったく……よく泣く勇者だよ。

 

――追伸――

 噛み痕のことは気にしてないから舐めるんじゃねぇ。

 俺は甘味じゃねぇぞ。

 

――王国歴308年11月24日――

 2人体制を確立するため、再開された要塞の市場へ繰り出す。

 なぜか、俺を師と仰ぐ木端が付いてきた。

 初めてでもないだろうに、妙に強張った面だった。

 まぁ、邪魔をしなけりゃいい。

 俺の目的は勇者だ。

 それも廉価で手に入る廃棄勇者を探してる。

 これを貼ったハンドラーは無能と宣うタグは、俺にとって埋蔵金の立て看板だ。

 しかし、マルティナを売ったブリーダーは要塞防衛戦の時にくたばったらしい。

 運のねぇ奴だ。

 御用達のブリーダーを紹介したいと抜かす木端は蹴り出した。

 何をしに来たんだ、お前は?

 今日は収穫なし、やれやれだぜ。

 

――王国歴308年11月25日――

 フロス要塞は共和国傘下にある。

 だが、ブリーダーに国境はない。

 駄犬の髪を結う俺を呼び出したブリーダーは、帝国出身の勇者を扱っていた。

 帰属にこだわる連中もいるが、俺にとってはどうでもいい。

 そんなことよりも勇者だ。

 このブリーダー、廃棄勇者ばかり扱ってやがる。

 得意げな面は気に食わねぇが、商談には乗ってやった。

 ブリーダーが紹介した一番廉価な廃棄勇者はマルティナよりも安かった。

 名はタチアナ、性別は女。

 頭には鼠の耳、膝から下は鳥の足、あと虎の尻尾が生えてる。

 人の形は保ってるが、あまりに身体が薄い。

 抱けば折れそうな薄さだ。

 廃棄勇者のタグを付けられた理由は、聞くまでもなく明白だった。

 くだらねぇ。

 勇者を外見で判断するから木端なんだよ。

 俺を見上げる目は腐ってなかった。

 「私はまだ使えます」だと?

 そんなことは言われなくても分かってる。

 なんせ俺は敏腕ハンドラーだからな。

 

――王国歴308年11月26日――

 来たばかりのマルティナなんざ比べ物にならないほど新入りは従順だ。

 敏腕ハンドラーの洗礼に驚くあたりは同じだが、驚くほど手間がかからない。

 俺がやることに抵抗せず、素直に従う。

 気になることと言えば、飯の分量くらいか。

 マルティナの2倍は食ってるが、それでも物欲しげな顔をしやがる。

 まぁ、木端どもの出すペーストは味が酷くて食えたもんじゃねぇから分からなくもない。

 たらふく食わせて働かせてやるから覚悟しろよ。

 

――追伸――

 私の方が従順です。

 

――追伸――

 勝手に書き込んでんじゃねぇよ、駄犬。

 

――王国歴308年11月28日――

 今日は新入りの初仕事だった。

 依頼は、採掘場の候補地を徘徊する古代兵器の排除。

 結論から言えば、辛うじて及第点ってところだ。

 身のこなしは悪くない、どちらかと言えば良い。

 だが、決め手に欠いている。

 古代兵器でも木端のブリネル型に苦戦するとは思わなかった。

 そして、何より気に食わねぇことがある。

 戻るなり謝るばかりの新入りだ。

 命令印は使わないでほしいだの、飯は抜かないでほしいだの…馬鹿にしてんのか?

 初仕事で何もかも上手くいったらハンドラーはいらねぇんだよ。

 ここからだろうが。

 

――王国歴308年12月5日――

 あれから新入りには、いくつか仕事を振った。

 駄犬と違って依頼を選り好みしないのは良いことだ。

 ただ、どれも結果は芳しくなかったがな。

 お守りの駄犬がいなけりゃ、今頃は泥に沈んでる。

 戻ってきても縮こまって話にならねぇから、駄犬と頭を突き合わせて問題の洗い出しだ。

 先週と打って変わってご機嫌な駄犬には呆れちまう。

 2人体制は負担の軽減も兼ねてるのが分かってねぇのか?

 新入りが戦力にならねぇと困るんだよ。

 

――王国歴308年12月7日――

 知己から資料を取り寄せた。

 几帳面に纏められた資料によると新入りは帝国式剣術を使ってるらしい。

 道理で馬力の割に威力が出ねぇわけだ。

 ちゃちな技を使ったところで、屑鉄の古代兵器を壊せるものかよ。

 まったく、帝国は勇者に何をやらせてたのやら。

 

――王国歴308年12月12日――

 ようは火力不足を如何に補うか、だ。

 新入りには駄犬のように古代兵器を一撃で鉄屑にする手段がない。

 得物の聖剣は薄く軽い上、黴びた帝国式剣術が悪さをする。

 だが、勇者としての能力も、相手に食らいつく度胸もある。

 あとは使い方だ。

 しかし、最近は食糧の消費が激しくて敵わん。

 依頼の報酬が、そのまま食糧に変わって翌日には消える。

 そして、よく食う割に新入りの身体には肉がつかない。

 どうなってやがる?

 

――王国歴308年12月14日――

 新入りが寝言を抜かしたから寝床に放り込んでおいた。

 お前を手放すつもりはねぇ。

 勇者は娼婦じゃねぇ。

 魅力を感じてほしいなら肉をつけろ。

 この3点を頭に叩き込んで、とっとと寝ろ!

 価値を証明したいなら勇者として働け、馬鹿野郎が。

 そもそも俺ほどにもなれば、木端には手の届かないような高級娼館に行くっての。

 

――追伸――

 私がいますよ?

 

――追伸――

 お前も躾が必要らしいな。

 

――王国歴308年12月17日――

 たまには自称弟子も役に立つ。

 人の姿から遠ざかるほど勇者の力は強まる、ハンドラーなら知っていて当然だ。

 だが、常識が正しいとは限らない。

 自称弟子が語ったエインズワースとやらの薀蓄は、ようは「水に浮かぶ氷」だった。

 氷は水面より下に大部分が沈んでいる。

 それと同じで、呪いによる変質が目視できない勇者がいるって話だ。

 もう解は見つかったようなもんだった。

 自称弟子に授業料を叩きつけ、計画の修正を図る。

 小手先だけの工夫で解決しないのは分かってた。

 さぁ、投資の時間だ。

 

――王国歴308年12月20日――

 新入りが飯を残そうとしたから無理やり食わせた。

 腹を鳴らしながら、口を開けない馬鹿野郎に腹が立って仕方ねぇ。

 何が「食べる資格がありません」だ。

 それを決めるのは、ハンドラーである俺だ!

 何が「飼料でも大丈夫です」だ。

 腹は膨れりゃいいもんじゃねぇんだよ!

 ふざけやがって。

 仕事量と食費が見合わない無能だから廃棄されただと?

 そんなもの、とっくに天井世界で釣り合ってんだよ。

 上等だ。

 本当の無能が誰か教えてやる。

 

――王国歴308年12月22日――

 ようやく目当ての代物が手に入った。

 安くない買い物だったが、中途半端な道具は願い下げだ。

 あとは実戦で確かめる。

 だが、開拓団のお守りはダメだ。

 新入りは余計なことを考えると途端に動きが鈍くなる。

 自分じゃ気づいてないみたいだがな。

 

――王国歴308年12月24日――

 実戦の機会が巡ってこねぇ。

 あまりに暇だから新入りが「どうして私に期待するんですか」なんて聞いてきやがる始末だ。

 まだ使えますと抜かしたのが誰か忘れたのか?

 俺は使えるようにしてるだけだぜ。

 他人に施しをくれてやるような殊勝な心は持ち合わせてねぇよ。

 ハンドラーはろくでなしだからな。

 

――王国歴308年12月25日――

 ついに駄犬、マルティナを引き抜こうとする木端が現れた。

 いちいち判断が遅ぇよ。

 この要塞のハンドラーは三流作家以下か?。

 そんな連中に俺の道具を触る資格はねぇ。

 出直せと蹴り出してやるつもりだったが、自称弟子に慌てて止められた。

 なんでも木端は要塞の物流を仕切るトレーダーでもあるらしい。

 ようは半端者だ。

 だから「適正な価格で取引しよう」なんて寝言が出る。

 適正な価格とやらをつけたら破産することも分からねぇか。

 それでも食い下がるから条件を出してやった。

 実力で下してみろってな。

 もちろん、俺たちが殴り合ったところで意味はない。

 ハンドラーの実力は勇者で測るもんだ。

 ちょうどいいところに来たな。

 見つけたぜ、叩き台を。

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