敏腕ハンドラーである俺は勇者の扱いを心得てる   作:バショウ科バショウ属

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開き癖のついた手記

――王国歴308年12月28日――

 愉快痛快ってやつだ。

 新入りの試し振り、もとい決闘の結果は上々だった。

 飛び方を思い出した鳥みたいに伸び伸びと暴れやがって。

 特注の聖剣じゃなかったら折れてたぞ。

 忠告を聞かなかった相手の勇者には悪いが、死んでもらった。

 手綱を引くハンドラーがあれじゃ、舐め腐った態度を改めるはずもない。

 勇者を殺すのは、いつだって無能な――

 ろくでなしに大した差はねぇか。

 まぁ、今回の半端者はトレーダーと兼業してるだけあって分は弁えてる。

 勝者の要求を突っぱねるなんて真似はしなかった。

 これで食糧の調達は解決だ。

 次はコックを雇いたいが、この地上世界ではペースト製造機が幅を利かせてる。

 よって敏腕ハンドラーである俺が新入りに勝利の味を振舞ってやる。

 混ぜ物なしのパンに、腐ってないチーズを贅沢に使う。

 それを見た新入りの第一声は「今日は誕生祭ですか?」だった。

 よく分かってるじゃねぇか。

 ハンドラーにこき使われる勇者の誕生だ。

 

――王国歴308年12月29日――

 ようやく2人体制を本格化できるぜ。

 マルティナが妙に張り切っていたが、今日は休みだと伝えたら目に見えて落ち込んだ。

 何のための2人体制か分かってねぇな。

 連日、古代兵器を潰して回ってたのを忘れたのか?

 仕事熱心なのは褒めてやるが、休息を取れ。

 良い仕事ってのは、十分な休息から始まるんだよ。

 よく覚えとけ。

 

――追伸――

 俺の仕事を見てたら意味ねぇだろうが……

 何が「しっかり休めてます」だ。

 腹が立ったから泥水同然の代用コーヒーを淹れてやった。

 相変わらず不味い。

 

――追伸――

 次は私が淹れますね。

 

――王国歴308年12月31日――

 今日は木端どもに活躍の場を譲ってやる。

 ただでさえ代わり映えのしない地上世界だ。

 新年まで灰色に染めたら、そのうち爪先から頭まで染まっちまう。

 だから、天井世界でくすねた年代物のボトルを開けてリセットだ。

 勇者殺しとは、俺にお似合いの1本だな。

 勇者どもが物欲しげな目で見ていたが、酩酊勇者を生み出すほど酔っちゃいない。

 勇者は毒物に対して高い耐性をもつが、無敵ってわけじゃない。

 酔う時は酔う。

 そして、勇者は総じて酒癖が絶望的に悪い。

 休息日でもリスク管理を怠らないのが敏腕ハンドラーだ。

 

――追伸――

 いいか、新入り。

 俺の指はチーズじゃねぇからな。

 

――王国歴309年1月1日――

 昨夜の記憶は、ある。

 就寝した時間まで事細かにな。

 なら、俺の寝床で間の抜けた面を晒す駄犬どもは、いつ潜り込んだ?

 まったく大した警戒心だよ。

 頭が痛くなってくるぜ。

 とりあえず駄犬どもは蹴り出した。

 

――王国歴309年1月2日――

 休みは終わりだ。

 こき使ってやるから覚悟しろ、勇者ども!

 

――王国歴309年1月19日――

 つくづく俺の慧眼には困っちまうな。

 この調子だとグロリア金貨の山河を築けちまうかもしれねぇ。

 仕事を選り好みしない新入りは、マルティナに並ぶ稼ぎを叩き出していた。

 最近、フロス要塞北方を荒らし回ってた旅団を潰せたのが大きい。

 移動中に消費される携帯食料を加味してもお釣りが来る。

 新入りは長期戦に向かないが、短期決戦なら負けなしだ。

 調子が良い時はマルティナでも止められるか怪しい。

 もう新入りとは呼べねぇな。

 

――王国歴309年1月20日――

 最悪の寝起きだ、馬鹿野郎!

 タチアナが寝床の下に潜んでいた。

 好きにしろとは言ったが、それは仕事の時だ。

 誰も寝床の下に潜り込んでいいとは言ってねぇよ。

 狭い所が落ち着くって言うなら良い場所があるぞ。

 マルティナの枕になってろ。

 

――王国歴309年1月22日――

 いつぞやの半端者が調理の最中に訪ねてきやがった。

 当然、門前払いだ。

 だが、どうしても礼がしたいと譲らねぇ。

 まったく意味が分からん。

 北の路を開いた功労者になった覚えはねぇよ。

 感謝の言葉は、お前が侮っていた廃棄勇者に言うんだな。

 しかし、子飼いの勇者を潰されようと商機に飛びつく潔さは見上げたもんだ。

 ついでにタチアナへ出す予定だった帝国料理、挽肉とハーブを包んだパンの毒見をさせてやろう。

 

――追伸――

 レストランを開く予定はねぇよ。

 俺はハンドラーだぞ。

 

――追伸――

 とても美味しかったです、ハンドラー。

 

――追伸――

 おう。

 

――王国歴309年1月26日――

 これまで指名してきた開拓団とは別の開拓団から指名が入るようになった。

 半端者、もといオーガスタ家と関わりのある連中だ。

 ここまで露骨だと笑っちまうな。

 地上世界の縄張り争いに興味はねぇ。

 猫の額ほどの土地に線を引く天井世界の真似か?

 馬鹿らしい話だ。

 仕事は受けてやるが、面倒事に巻き込んだら容赦しねぇぞ。

 俺は俺の道を行く。

 

――王国歴309年2月1日――

 縮こまってばかりだった新入りが俺の顔を見て話すようになった。

 それはいい。

 俺には読めないアンペール語圏の料理書を欲しがったことも問題ない。

 この足に巻きつけられた尻尾はなんだ?

 新入りは読書に夢中で気付いてないらしい。

 まぁ、わざわざ言うほどの事でもないか。

 俺は寛大だからな。

 しかし、妙に剣呑な表紙だが、本当に料理書なのか?

 

――追伸――

 いずれ内容をお見せしますね。

 

――追伸――

 そりゃ楽しみだ…とでも言うと思ったか。

 交換日記じゃねぇんだぞ。

 

――王国歴309年2月8日――

 俺ほどの敏腕ハンドラーにもなれば、その手腕を妬む連中が必ずいるもんだ。

 だから、お節介な自称弟子が語ったことに驚きはない。

 木端どもが徒党を組んで競合相手の俺を潰そうとしている、と。

 三流作家でも書かない陳腐な話だ。

 その労力を別に注げば大成したかもしれねぇのにな。

 いや、それが出来りゃハンドラーにはなってないか。

 さて、どう木端どもの鼻を折ってやろうか。

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