トレーニングの描写って滅茶苦茶難しいと思うんですの。よしんばフィクションで納得させるにしたってそれなりに常識的じゃないといけませんし。
ウマ娘なんて言っちゃえばフィクションのスポーツですものね。ギリギリ陸上とは言い張れますけど詳しい事なんて陸上部でもなかった人間には分からんのでかつての部活の経験を頼りにとにかく土台作らせますわよ。基礎も作らず沼にいきなりログハウスぶっ建てるおバカはおりませんわ。
あ、それと気が付いたらお気に入り400件突破とかいうドえらいことになってましたわね。
拙作を見て期待していただいていること、本当にありがたいですわ。
なお今後もプロット作ったとはいえアドリブぶちかましていきますので付いてきてくださいまし~~~~!!!!
ネオユニヴァースという少女は、現実とは乖離した存在に見られがちだった。
だが、内情を紐解いていけば、そこに居るのは一人の少女だ。つまるところ、人が持っている感情はちゃんと彼女も持っている。
つまるところ、これはそういうことだった。
「……」
「いや頬だけ膨らませても何も分からんっての」
ジェンティルドンナは高等部で、彼女も高等部。例の衝突を察知して遠巻きに眺めていたのだが、ネオユニヴァースが抱いた思いは恐怖ではなかった。
「“未知”の“軌跡”……“ネオユニヴァース”では“観測”できない、“ダークマター”……」
「そりゃアイツのこと嫌いだし、俺。お前と対応違うのは当然だろ」
――――私にはそういう顔見せてくれなかったよね。
「『JLSY』――――ネオユニヴァースは、“嫉妬”を、するよ」
「嫌われるのを羨ましがるなっつの。第一お前のこと嫌う要素今んとこゼロだぞおい」
「ネオユニヴァースの“観測”は、“嫌い”?」
「だーから、そもそもアイツとは根っこから反りが合わないんであって……面倒くせぇな、お前とアイツは違うだろうが……」
――――何で私にも同じように接してくれないの?
――――私に自分を見せるのは嫌なの?
傍目には謎の会話かもしれないが、要は自分には見せてくれない側面を目撃して嫉妬の念が沸き上がったというだけの話。彼女の根底にあるものが「雨乞のことをよく知りたい」であり、同時に雨乞は雨乞で「ジェンティルドンナのことは根源的なレベルで嫌い」であるが故の対応だったのでネオユニヴァースに同質の感情をぶつける謂れが無いのだ。
「ねぇ、あれって……」
「さっきジェンティルさんと睨み合いしてた人、だよね……?」
学園において、雨乞の知名度はゼロに等しい。例の運動場の認識阻害が雨乞自身にも及んでいる影響で、彼が外部の人間とはいえ学園関係者であるということが頭の中で繋がらない。入構証を掛けているだけの学園とは無関係の人間が何故か構内を歩き回り、あまつさえ高等部の不思議ちゃんに絡まれている……それが客観的事実であった。
ネオユニヴァース自身素行に問題がある部類ではないが、“いつの間にか居なくなった”と思われるほどに存在感が希薄な瞬間のあるタイプであることが災いし、「よく知らない人と見知らぬ生徒が何故か内容の分からない会話をしている」という謎の空間が出来上がっているのだ。
「つーかミラ子どこいったよ。アイツも今日トレーニングだろ」
「“黙秘”をするよ」
「いやなんでだよ」
「ネオユニヴァースは、“ランデブー”を求める……よ?」
「馬鹿たれ、そこにスティ子居るだろーが」
――――もう少し二人で居たいな。そんな言葉を掛けるもつかの間、ネオユニヴァースにしてはかなり珍しく耳と尾が天を突く勢いで起き上がった。
肩越しに親指で示した先、誰も居ないと思っていたはずの場所。そこにはネオユニヴァースと同室の少女がいた。あまり見ない絡み方をする先輩を目撃して声を掛けそびれ、そのまま雨乞の背後で棒立ちになっていたのだ。
雨乞に指を指されるまでネオユニヴァースは察知できなかった。それはすなわち、スティルインラブが割と気合を入れて
「え、っと……お邪魔でしたでしょうか……?」
「…………『
「顔面レッドだけどな」
耳を絞って睨みつける。ネオユニヴァースは正直少し、いや、だいぶ恥ずかしかった。上気した頬はいつまでたっても熱が引かず、下手人は彼女の視線など一顧だにせず手をひらひらと振る。
「お前の事だからとっくに気付いてると思ってたんだよ」
「…………」
「マジだっつの。嘘こいて何になるんだよ」
「……」
「おうコラスティ子、お前まで睨むな。裾引っ張んな、あぁもうとっととアップ行けよお前ら! 30分前集合してやることじゃねぇだろうが!」
二人の美少女にやけに懐かれたサングラスの不審者。
だが、その光景に周囲が抱いた情景はといえば……
(飼い主に嫉妬する犬……)
なんとも微笑ましいような、ちょっと妙なものであった。
◇
なぜ校内のレーンでトレーニングを監視しているのか。これもまた薪侘さんの計らい――――と、いう訳ではなく。
もともとはチーム全体を見る予定だった薪侘さんに変わり日和が3人のトレーニングを見張っておくはずだったのが、ジェンティルドンナのコントロールに失敗。現在アイツはマンツーマンを強いられ、薪侘さんも“自業自得だ”と援護を放棄。その場に居た俺に監視役を押し付けたというのが真相である。
「ま、日和は日和でいっぺん痛い目見た方が良いのは同意だけどな」
思春期女子、それも自分をはるかに上回る身体機能と気性の苛烈さを併せ持つ存在のコントロールとかいうどう考えたって難題なことを強いられているのだ。“失敗すれば周りにも影響が及ぶ”という事実を致命傷にならないうちに学ばせるのはあながち間違いでもないだろう。
見方を変えれば予防接種だ。今のうちに対策を練る時間を与えておけば、将来似たような状況を起こした時により良い手を打てるようになる。
俺自身、学園に居る間は頭痛も収まっていて気分的に相当楽なので別に迷惑とも思っていない。これが外で「違和感」の酷い日だったらかなり本気でキレていたかもしれないが、それはあくまで「もしも」の話。現状が最良かつ最小限の被害で収まっているのだから別に構いやしない。
「スティ子ー、無理にユニ子についていこうとすんなー? お前とソイツじゃスタミナの差あるんだからアップで体力使い切んぞー」
「あ……はい!」
「ユニ子はユニ子でもうちょい飛ばしていいぞー。スティ子と同じタイミングで終わらせなくちゃいけない道理とか無いかんな?」
「アファーマティブ」
こうして「違和感」のない世界を俯瞰して気付いたのだが、俺はどうも目や耳は相当に良いらしい。足音で知っている人間かどうか判別できるレベルだし、無理をしているかどうかくらいは見ていれば簡単に分かる。顔色で疲労の度合いの判断も容易。
同時、「違和感」がこの無駄に良い目と耳にどれほどの負荷を掛けていたのかがよく分かってちょっと憂鬱になった。学校から帰りたくない日が来るとは思わなんだ。面接やら担ぎ込まれた時やらはこうまで調子よくならなかったはずなんだがなぁ……?
閑話休題。そうこうしているうちに予定より早く集まった分二人のアップも早く終わり、いざ本格的にメニューをこなすという段になって聞き覚えのある足音が聞こえてきた。
「ごめんなさい遅れましたぁ~!」
「おう遅ぇよ。つーか珍しいな、お前が遅刻、とか……」
ここ最近で聞き慣れた声に返事を返しながら振り返る。ミラ子はサボりたがりはするが、実際にサボるかというとそうでもない。遅刻する時は大抵何かあった時だ。
弁明だけ聞いてさっさとアップでもさせればいいかと思ったのだが、そうもいかなくなったらしい。
ミラ子の背後に立っていたのは、だいたい同じくらいの背丈の少女達。なにやら警戒されている。だが、当のミラ子は大して気にもせずキョロキョロと周囲を見回していた。
「あれ、日和トレーナーは……」
「あぁ、アイツ自分の担当の機嫌損ねて連れてかれた。代打で俺が監視ってワケ」
「ひえぇ……話には聞いてましたけど怖い」
「まぁぶっちゃけアイツにとって必要な経験だけどな。そら、とっととアップ行ってこい」
「はぁい……あ、わたしの友達も一緒にやっていいですか?」
「良いけど面倒は見れんぞ? あくまで俺が此処に居るの、お前らの監視だし」
「あ、そっか……」
「……まぁ、同じ場所使うくらいはいいんじゃね? そう特別な事するわけでもねぇし。走り込みだのスクワットだの、トレーナー居なくてもいつもやってる範疇だろ」
日和から預かった資料を見ながらそう言う。実際絶対にレーンが開いていないといけない訳でもないし、中身的には複数人で同じことをやったって問題ないものばかりだ。負荷も無茶苦茶に重い訳でもない。
「……ま、何か言われたら俺のせいってことにしとけ。ほら一緒に行ってこい」
「はぁい、ありがとうございます! じゃ、行こ~」
「う、うん……」
ミラ子に続いてレーンに入りアップを始める少女たち。手元の資料越しに顔を見てみれば、見間違いではなく此方を警戒している。耳も逐一こちらを向けているから間違いないだろう。
正直恨まれる覚えは無いし、何かした覚え自体がない。であれば状況的にミラ子が何かやらかしたという辺りだろう。そして、どうしてかその犯人に俺がなっている、と。
まぁ、後で考えればいい。今更何人に嫌われようが構いやしないからな。終わり際にでも聞けばいいだろ。
ミラ子がいつも通りゆるゆるとアップをやっている間に、スティ子とユニ子のアップが終わる。血色の良くなった肌が赤みを帯び、すぐにでも動けることを伝えてきた。
軽く走ったおかげか先ほどまでの少女性は鳴りを潜め、ただ己を研ぎ上げんとする鋭さが顔を見せている。
「そんじゃ……えーっと? まずはプランクか。両肘、右肘、左肘の順に30秒と休憩1分でそれぞれ5セットか。時間はこっちで見る。余裕ありそうなら2セット追加……結構基礎的なことキッチリやるよな薪侘さん」
薪侘さんのトレーニングはというと、かなり基礎的なことを徹底的にやらせるタイプだ。可能な限り機材が無くてもやれることを徹底し、自分が見ていなくても積み上げられるものがあるということを叩き込む。その上で必要に応じて負荷を上げていく。
方針のせいか渡された機材は手足や体に付ける重りやラダーといった簡素なものばかりであり、予約や先着で機材が使えなくとも似たものは自前で揃えることができ、言い訳の余地を極限まで排斥している。
とにかく張り子のように鍛錬を積ませる。そんなイメージが浮かんでくる。
加えて、メニューの指示が所々不自然に雑だ。ここは前もって聞いておくか自分で考えてやってみろということなのだろう。走る側と走らせる側を同時に鍛えるなどというとんでもなく器用な事をしている。
「あ、余裕そうなら重り載せて、落としたら10秒追加して良いらしいからどんどん積んでくぞ~」
プルプルしている二人を尻目に重りを背中に乗せていく。“重り”と言う割にはお手玉くらいの重量しかないし、多分体を傾けて変な癖付けるなよってことか。バランス目的だなこれ。体の左右に均等に置いておこう。
「「……」」
あっ耳絞った。背中にモノ乗るの嫌らしいな。
まぁだからと言って止めないが。
◇
「……めっちゃ安定してんじゃんミラ子」
「いまはなしかけないで落ちる落ちる落ちる……!」
「ふんぬぎぎぎぎ……!」
「おかしい……やってることそんなに変わらないのに……いつもよりキツい……」
ミラ子とその友達も少し遅れて同じメニュー。スティ子とユニ子がかなり寡黙にやるタイプだっただけに喧しさが数割増しになった気がする。女子が上げていいとは思えない悲鳴がさっきから鳴り止まない。なんか虐待してる気分になってくるな。
スティ子とユニ子はひとまず今日の分は終わり、柔軟に移行している。今自主練をさせても意味がないとのことで、やることやったらさっさと上がらせる手筈になっている。「違和感」の見えない今走らせても矯正も何もあったもんじゃないしな。
「はい終わり」
「「「ぶへぁ……!!」」」
終了を宣言した瞬間潰れたカエルみたいになる3人。なんか愉快だなこいつら。
「薪侘トレーナーのメニュー、相変わらずしんどい……やってること前と変わらないのにぃ……」
「鍛える場所を認識させるのがハチャメチャに上手いんだろ。無意識に分散させてる負荷を意識的に掛けて全身隅から隅まで鍛えさせてる感じあるしな」
「普段使ってない筋肉ってことですか……?」
「使ってないっつーか使わないに越したことない部分とか、そんな感じじゃね? 逆説的に鍛えればそれだけ土台が広がって積みやすくなるってヤツ」
ミラ子は辛そうにはしているが喋る余裕がある。前は一言も発せないまま干物になってたのにな。
むしろ、今
「し、しぬ……」
「筋トレだけで……汗びっちゃびちゃになる日が来るとか……」
「あはは、しんどいよね~……」
俺も試しにとやってみたことがあるのだが、薪侘さんの筋トレメニューは死ぬほどキツイ。変なやり方をすると確実に体のどこかを傷めるので姿勢から徹底指導するようにとは書いてあるんだが、それが猶更にキツい。やった後に筋肉痛で呻いたので効果のほどはガチだ。リアルブートキャンプである。
ちなみに日和の方にはこういったものはあまり見せていないのだとか。曰く“強みを潰しかねない”とのこと。
まぁジェンティルドンナとか自前でメニュー組めるだろうし、むしろアイツが修めるべきは進め方じゃなくて止め方なんじゃなかろうか。オーバーワークで体傷めましたとか本当によくある事故だろうし。
……考えれば考えるほど、俺はトレーナーという仕事はやはり向いていなかったように思う。恩師には悪いが、誰かのことをずっと考えて過ごすとかそのうちストレスでハゲていただろうし。結局自分のことしか考えられない、利己心の強い性格だから。
「あ、そういえば」
「ん? どうしたミラ子」
しばらくぐったりとした後、遅れて柔軟を始めたミラ子。足を開いて手を伸ばしながらこちらに声を掛けてくる。
「この後、正門前くらいで待っててもらってもいいですか? ちょっとお話したいので」
「別にいいぜ、俺も色々聞きてぇことあったし」
なんかすごい視線が集まった気がした。今日何度目だ?
薪侘トレーナーは積み上げ特化(育成ブースト)
日和トレーナーはブレーキ特化(失敗率減衰・体力回復上昇)
雨乞はカウンセリング特化(デバフ解除・一部ストーリー上の制限突破)
何が言いたいかって? 私が欲しいですわよこんなサポカ。
おユニがやけに懐いてるのはなんかそんなイメージがあるからですわよ。雨乞とかいう観察してよし会話してよしの面白生命体見逃しはしないと思いますの。