ようやっとメイクデビューですわよ! なんかもう日程とか考えてたら頭茹ってきたので日程ずらしてデビューということになりますわ。 頂上戦争バッチコイですわよ!
ウマ娘二次創作やってらっしゃる方々、これ全部考えてるの尊敬しかないですわよ。
そして史実を調べに調べてあらゆるオマージュぶっ込んだうえで夢まで突っ込んでくるサイゲには五体投地しかできませんわよ。すげぇよほんと。競馬ミリ知ら勢だったのにこんがり脳ミソ焼かれてしまって戻れなくなりましてよ。
朝日より前に目が覚めた。
音のない世界。明瞭に見える白んだ空。俺の人生で明瞭に見ることは無いであろうと思っていた景色がすぐそこにある。
何の苦痛もなく目覚めることに感動する日が来るとは思ってもみなかった。
ベーコンを焼いて、その脂で切ったバナナに火を通す。トーストも焼いて、その上に乗せて……
「……チョコソースは、いいか」
なんというか、何となく。こいつに味を付ける気になれなかった。
口に含む。咀嚼して、嚥下する。
ベーコンの塩気はこんなものだっただろうか。バナナの甘さは、もっと濃かったような気がする。トーストがいつもより甘い。いつもはスポンジの出来損ないみたいで……
「……は、何やってんだか」
何だか馬鹿馬鹿しくなってしまった。失くしたものを探す子供みたいな真似をしてしまったことに気付いて苦笑する。いざ無くなると、こんな形で追いかけようとしてしまう。ここ最近はずっとそうだ。「ここはこうだった気がする」をずっと探し続けている。
自分で思っていたよりもずっと深く、「違和感」は俺の一部だったらしい。こうして事あるごとに訳の分からない好奇心を発揮してぼうっとしてしまう。
それはまるで人生の目標が完遂されてしまったかのような、達成感を伴う喪失感。まだまだこれから先が続いているはずなのに、本当にエピローグを迎えてしまったと錯覚するような清々しさだった。
「偉そうに言った手前アレだが、無くなったら無くなったで本当に物足りないもんだな……」
飽くしかない、飢えるしかないとスティ子へ語った通りになったと思うと苦笑が込み上げてくる。ようやく手に入れた普通の人間としての暮らしに早くも飽いて飢え始めているのだから。
あの日から数日。喪失は違和感だけに留まらず、俺の頭は段階的に普通の人間へと繰り下がっていった。
とはいえ素の脳のスペックまでは誤魔化しが効かないのか、五感から入ってくる情報を基にした第六感は怪物レベルのもの。今でもフォーム矯正はおそらくできるし、的確な口出しも可能。ミラ子に教えるつもりだった“猛毒”もまだ直接伝授できるだろう。
ミラ子スティ子ユニ子の3人とはあの日以来直には会っていない。メイクデビュー前の追い込みということもあって学園に缶詰になっているらしい。とはいえ、俺の孤独死なんていうとんでもない事を心配し始めたミラ子が他の二人とも相談して毎朝毎晩電話を掛けてくるので寂しさは殆どない。
主にミラ子は朝に、スティ子とユニ子は昼か夕方に時間を作っては通話を繋げているらしく、時折思いもしない
ミラ子へのやらかしという至極真っ当な理由で俺を警戒してきたナリタトップロードとアドマイヤベガ。
ミラ子の同室で中等部のダンツフレームと、彼女の同期とかいうジャングルポケット。
ユニ子の友人だというゼンノロブロイ。
ジェンティルドンナと顔を合わせた時に日和を庇っていたシンボリクリスエス。
よく分からんがやけに破天荒なゴールドシップ。
スティ子と関わりのあるらしいアドマイヤグルーヴ、ホッコータルマエ。
あの日のパーティの繋がりでメジロ、サトノ、シンボリなどのお嬢様。
ジェンティルドンナとは顔を合わせた瞬間親指を下に向け合った。
他にも、他にも。自分の友達を紹介できるのが嬉しいとばかりに、周りの人間を巻き込んで他愛もないことを話してくる。
それら全てにおいて、邪魔をしてくる幻覚も幻聴もない。声ははっきり聞こえるし、顔だってちゃんと見える。名前だって覚えることが出来た。それがなんとも面白おかしいのだ。
日和経由で理事長には「違和感」の消失とそれに伴う特異性の喪失は報告されている。今後も一報入れてくれれば学園への立ち入りを許可する旨を伝えられた時は人のことを信用しすぎではないかと心配したが、「今のお前ならば大丈夫」だそうで。何ともまぁ信頼されたものだと笑ってしまった。
――――忠告。言っておくが、君の資質の喪失を惜しみ快癒を祝わないほど私は人間を辞めていないからな
……あの小さな体から発されたとは思えないほど低く、圧の籠った声でそう言われたときは思わず姿勢を正してしまった。どうやら俺は、俺が思っていた以上にいろんな人間から心配されていたらしい。
これでも例の黒歴史のせいで権力者とかには悪い意味で有名になってしまったから、学園ではほとんどおらずとも学外には「違和感」のことを知っている人は多い。知っている面々が面々なのでほとんど上で留められている状態だが。
やたらと分厚い手紙が幾つも届いたときはすわ恨み言かと思ったが、そのどれもが快癒を祝うものばかりで、今は亡き爺さんに毒され過ぎたかと苦笑してしまった。
あと、まさかジェンティルドンナの弟からも来るとは思わなかった。当時は「違和感」のせいでまるで分からなかったが、あの場で直に見ていたらしい。内容は……まぁ、何だ。“若いから尖ってんな”と、そう思わずにはいられなかったが。無事と躍進を祈りたいものだ。
トレーナー資格については理事長にも勧められたが断っている。てんやわんやしていたここ最近で本格的に俺はトレーナーに向いていない気がしたのだ。資質は有っても気質がついてこない。俺にとっての勝利がレース場自体に存在しない以上、周囲との思想の違いで気を病むのが目に見えている。
それだったら――――多少狡いが――――幽霊運動場という隔離空間を利用して、個別のカウンセリングでも行う方が性に合っている。ミラ子や日和、薪侘さんを窓口にして何人かの相談に乗ったこともあった。
総じて、今は随分と元気にやらせてもらっている。付き合いの長い日和や、久々に電話の掛かってきた元不良連中からですら「病んだ空気感が消えた」「聞いたことが無いくらい声が落ち着いている」と言ってもらえるくらいには生気も戻ってきたらしい。
それを思い返すと、俺の本性とは「違和感」があった頃の荒れたものと今のいやに落ち着いたもののどちらなのかと考えることもある。考えたところで詮なきことと分かってはいるのだが、最初からただの人間であったのならどうなっていたのか、そのifに思いを馳せずにはいられない。
「……ま、どっちでも同じだわな。俺は俺だ」
今日はミラ子のメイクデビュー。
場所が九州なので流石に同行できず、日和も薪侘さんもスケジュール的に無理だったので早速あの不審者に頼る瞬間が来てしまったのは遺憾でしか無い。
念のため移動前に薪侘さんとこのウマ娘と協力してあの凶器は全部没収しておいたので施術はしないだろう。というか何十本持ってんだよ、銃刀法とか大丈夫かアイツ?
『うぅ~……震えが……お腹が……』
「何を今更ビビってんだお前は……もう出走間近だろ、腹括れ」
『だ、だってぇ……』
どれだけ鍛錬を積んでも、心まで強靭になるとは限らない。ミラ子はその典型例だった。
性根の部分が凡人なのだ。どれだけの場数を重ねようと緊張はするし、及び腰にだってなる。だがそれで甘やかしていられる時間ももう終わりなのだ。
『……ふつーに大学へ行って、ふつーに生活する。そんな風に考えてたんですけど……今日でそれともお別れなんですね』
「バァカ、お前今更普通に戻れるわけねぇだろ。これからドカドカ勝って名前広めちまうんだから」
『なんで雨乞さんがそんなに自信満々なんですか……!?』
なんでって、そりゃあそうだろ。こいつ忘れたのか?
「お前が言ったんだろ、信じるから期待しろって。だからアホみたいに期待してやるよ」
『…………それ、先に言ったの雨乞さんですよ』
「そうだな。期待するから信じてみろ。そんで負けたら……まぁ、俺のせいにでもしとけ。勝ったらお前の実力だ」
『それはそれでなんか嫌です』
「我儘だなお前この野郎」
どうしろと。
しかし、さっきからずっとあれやこれやと言っている。ここに来てもなおコイツは足踏みしまくっているらしい。
ここに薪侘さんでも居れば背中をブッ叩いておしまいだったのだろうが、俺にはその手の圧で何とかするってのは出来ない。
だから、代わりに発破を掛ける。
「じゃあ現状確認でもしとくか」
『え?』
こいつには自信なんてない。あるのは俺というちっぽけな一人の木っ端のような期待だけ。
足を踏み出させるには全然足りない。何てったってズブ娘のミラ子だから、そんなもんじゃ全然動かない。おだてて持ち上げて調子に乗せて、それでやっとだ。
けれど、いいじゃないか、それで。少なくとも俺はそう思える。
「お前、俺んとこの運動場見つけた時なんつったっけ?」
『……たまたま、って』
「そうだな、偶々だ。そんで、その偶々見つけたとこの持ち主はお前に何つった?」
『期待してる、って』
「よく分かってんじゃねぇか。んじゃ、お前はそれを妄言か何かと思って何にもしなかったか?」
『…………いっぱい、トレーニングしました。なんか知らないうちにトレーナー付いちゃったりしましたけど、そうじゃなくても自分でやれること、全部いっぱいやった……つもり。でも、ですよ。他の子はもっといっぱい――――』
「そんなんだからお前ミラ子なんだよ」
『はぁ!?』
こいつの根幹に居座る劣等感。周りより遅くて勝てた試しなんかない、
けど、お前頑張ってたろ。足りない足りないって、ずっと。それをお前が認めてやらないでどうすんだ。
それを、精一杯言葉にする。
「他と比べんな。お前はお前なりきに頑張ったんだろ」
『……………………はい』
「ならそれでいいじゃねぇか。負けたら“アイツが期待したから恥かいた”って責任転嫁しちまえ。そのくらいの八つ当たり、いくらでも受け止めてやるよ」
『……』
「俺の期待まで卑下すんな。せめて全部振り絞ってからそういうことは言えよ」
沈黙。僅かに聞こえた鼻をすするような音。今泣いてどうすんだ、そんなの
10秒、20秒。永遠にも思える時間をじっと待つ。無粋な違和感はもう居ない、幾らでもコイツの言葉を待ってやれる。
『…………雨乞さんは』
「おう」
『このまま、ずうっと勝てなくても、怒りませんか』
「何で怒るんだよ、意味分からん。まさか“期待外れだった”なんて言うと思ったか」
『……はい』
「残念ながら俺はギャンブル苦手でな。当たるか外すかでいちいち気荒立てるくらいなら端から返ってこなくても別にいい」
『…………うん』
「期待するってのはそういうこった。勝とうが負けようがどうでもいいんだよ。そこに焦点ねぇんだから」
そうだ、勝つかどうかなんでどうでもいい。
頑張ったんだっていつか来る明日で笑ってくれるなら、それでいい。
「だから――――めんどくせぇな、要するにだ。
『……ぅん、うん…………!』
「だーから、挑戦前に泣いてどうすんだって……まぁいいか。そら、行ってこい。もう踏み出せるだろ、こっちで待ってるからな」
そう言って、一方的に電話を切る。
結果は……後で本人から聞けばいいだろ。
◇
「……良い人ね、彼」
「……」
涙が止まらない。まだ出走前なのに、デビューすらしてないのに。
スティルちゃんが“酷い人”なんて言ってた理由、ちょっと分かった気がする。あんなのズルいや。
普通なところなんてどこにも無いくらい変な人だ。
ずっとずっと一人で苦しんで、抱え込んで、まともな道を歩けなくても頑張って……全部言わないまま勝手に解決して、“治ったんだからいいだろ”なんてこっちのこと考えもしない。自分のことを心配してた人がどれだけいたのかまるで分ってない。質問にも答えたふりをして流そうとしてくる。きっと死ぬその時までずっとそうなんだろう。
最低。酷い。無自覚タラシ野郎。ダメ人間。理事長のヒモとか言われちゃえばいいんだ。
なのに、なのに……
「期待される、って、嬉しいなぁ……」
スティルちゃんとか、ユニヴァースちゃんとか、すごい子はわたしの周りにいっぱい居る。比べるなって言われたって目に付いちゃう。自分のズブさとか、緩さとか、このままでいいのかなって思いがずっと膨らんでた。
だから余計に不安になって、それでも私なりに頑張ろーって、なんとかそう思ってたのに。
「酷い」
我慢して膨らませてた風船に、何のためらいもなく針を突き込んで破裂させてしまう。心が読めないなんて嘘だ。あれは絶対自覚してやってる。他人の傷口抉りが上手いんだ。最悪。
自分の頬を叩いて気合を入れ直す。もう時間だ。
雨乞さんは“負けたっていい”なんて言ったけれど。それでも、やっぱり勝ちたい。
デビューできるだけミラクルなんて思ってた。
トレーナーがついたのもミラクルだって。
それで、勝つことを期待されるなんてもっと奇跡的で……
でも、全部ミラクルだとしても、頑張ったことは……きっと、違うよね。
スティルちゃんやユニヴァースちゃんは日程の関係でデビュー戦は少し後になる。私が先頭。
でも、期待値はたぶん、一番下。
それで構わない。そこからでも構わない。
「やったりますか……!」
「……やっぱり、みんなピリついてるなぁ」
パドックに出た瞬間、さっきの言葉が嘘みたいに及び腰になってしまった。
誰だってそうなんだ。人生一度きりの勝負、負けると思って挑んでる人はいない。
ゲートへ入る。視界が遮られる。
……やっぱり怖い。負けたらって思ったら、怖い。
「ふっ――――!」
開いた視界に向けて疾走。
練習した通り出遅れることも無く飛び出して、集団の真ん中くらいへ。
温まり切らないエンジンじゃうまく加速できないけど、それをなんとかするためのロングスパート。
――――現状、スタミナの観点から2000m以上を走れると言えるのはお前くらいだ、ヒシミラクル
――――心肺は十分鍛えられている。いつも走っている分の燃料を全て一瞬に叩き込め。それでもガス欠にはならん
薪侘トレーナーの言葉を信じて、必死で加速する。併走でもやらなかったくらいの本気の本気でアクセルをベタ踏みし続ける。
苦しい、しんどい、正直緩めたい。けど、今それをしたら絶対後悔するから……!
コーナーを曲がる。遠心力で振り回されないよう歩幅を縮めながら回転率を上げて、ほんの僅かに減速しつつ内側へ。
――――どんだけデカい車だってカーブ差し掛かったら減速するもんだ。遠心力でぶん回されるからな。
――――つまりは、内側入れるヤツってのはそれだけ遠心力に対抗すんの上手いんだよ。ジェンティルドンナくらいになれば力業で無理矢理突破すんだろうが、基本そんなんムリだから
雨乞さんに散々指摘された。外に膨らめば膨らむほど基本は不利になる。それだけ走る距離も膨らむから。
膨らまない為にパワーが要る、知識が要る。だから薪侘トレーナーは筋トレをしこたまやらせたのだ。
他にもレース映像を見て、上手い人の走りをじっと観察するなんてこともした。
――――死ぬ気でブン回せ。そうすりゃ、嫌でもエンジンは暖まるだろ
(――――来た!)
いつもだったらみんなより長い時間をかけてからやってくる感覚。エンジンが暖まって体が自由に動く感触が、最後の直線手前でようやっとやって来た。
周りはみんな疲れてる。わたしもだいぶしんどいけど、まだいける!
「――――ここ……!」
一瞬。ほんの一瞬、前を走ってた子が疲れて息を吸おうとしたのが見えた。此処しかない。
周りよりずっと早くスパートを掛けていた分、加速に力を入れる感覚も慣れた。集団から抜け出て、一気に最前列までのし上がる。
――――最終直線まで来れればあとは問題ないだろう
――――残った分纏めてブチ込め
速く、速く、もっと、もっと、もっと――――
――――期待するから、信じてみろよ
期待された分だけ、もっと……!
「……っは、はぁ、ぁ、ひぃ……」
……気が付いたら、ゴールはとっくに後ろの方にあって。
一緒に走ってた子たちが悔しそうな顔をしてて、じゃあ誰が、って掲示板を見て……
「……ぁ、え、勝った……?」
1着にあったのはわたしの番号。ぼんやりと見上げる中に歓声が響いていて、それもなんだか遠くて。
何でだろう、というか、何が起きたんだっけ。頭を抱えてしまう。わたしちゃんと走ったんだよね?
「わからん~……なんも、なんも分からん~……」
疲れたのもあるけど、緊張でゲートに入った辺りから走っている間何考えてたのか思い出せない。
訳も分からないうちに全部出し切っていた気がする。
「でも……勝ったんだ」
勝てた。それだけは絶対の事実で。
あの人の期待に少しでも応えられたかな、なんて思った。
まずはミラ子一勝ですわ。スティルとネオユニとかいう一等星がすぐそばに居たせいでちょっと不安定になってますがおおよそいつものゆるふわガールですわよ。
次をスティルにするかネオユニにするかは決めてませんけど、どっちも書くだけ書きはしたいとこですわね。
ドンちゃん? だいしゅき幼馴染バフに加えて大嫌いクソ野郎バフで負ける要素ゼロになってますわよ。もう実質ラスボスですわ。
個人的な思想として史実馬≠ウマ娘と考えてる(色んな世代の名馬が同じ時代の学校に居ると考えるとこんがらがってくる)ので、イメージ的には聖杯戦争が近いんですのよね。
うまいこと全員の戦績を着陸させたいとこなんですけどマジで難しいですわよこれ。デジたんじゃないですけど全員贔屓したくなってくるせいで超高難易度の詰将棋やってる気分になって参りましたわ。
自業自得とはいえまーじでティアラ路線どうしましょ。何処にどう転んでも女の戦場しか待ってませんわよ。まぁウマ娘みんな女の子なので全部そうと言われたらそうなんですけども。
黒白のアヴェスターならぬ紅蒼のヴェンデッタみたいな感じになりそうで今から肝冷やしてますわ。