割れた鏡と奇跡の足音   作:何もかんもダルい

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 いつだって旅の終着点は始発点なので初投稿です。

 色々悩んで迷いましたが、結局走り出しちゃった時点でワタクシに出来るのは踏み込んだアクセルをそのままにするか緩めるかの二択でしたわ。なのでやりたい放題やったもん勝ち精神でブッ千切って逝くことにしましてよ~~~!
 皆さまどうか盛大な縦方向大回転を見届けてくださいまし~~~!!!!!



ギラギラ煌めけ万華鏡

「……やってくれやがったあの野郎」

「面白くなってきましたわね」

 

 ミーティングルームでドンちゃんを前に呻いてしまう。

 呻きたくもなる。()()()()()()()()()()()()()と、彼女がいなければ頭を抱えて叫んでいただろう。薪侘トレーナーがやけに沈黙を保っていたのはこれが原因か。

 

「メイクデビューで()()()()()()()仕立ててくるバカが何処に居んだ……!!」

 

 前代未聞だ。不完全だろうが未熟だろうが、見る者が見れば一発で分かる出鱈目をよりにもよって初手にぶっ込んで来やがった。「違和感」の消失で少し大人しくなったな、なんて考えた俺がバカだった。アイツの破天荒は健在だ。

 

「誰もが一発芸だと思い込むでしょうね。かの伝説以降誰一人として出来なかった――――否、やろうとしなかった不文律を、外から踏み壊してきた」

「それもそうだが、問題はそうじゃない。ある意味全体への宣戦布告だぞ」

 

 トレーナーですらない何処かの誰かが、伝説が用いた手札を忍ばせることが出来る。輪を掛けて質が悪いのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()こと。鉄壁の城砦に籠ったまま火矢だけ飛ばして煽ってるのと変わらない。

 

 なぜ伝説だけが十全に使えたのか。簡単だ、それだけ本番で使うのが難しいからに他ならない。

 原理は簡単、模倣も可能。だが、()()()()()誰もが途中で挫けて己の武器を研ぎ澄ますことに集中する。誰でもできることと、それを誰にも負けないよう練り上げることはまるで違う。

 

「才能やら体格やらの問題じゃない……()()か、これは。ドンちゃんじゃちょっと無理だ」

「あら、言い切ってしまうのね」

「下手に奇をてらうと君の武器が使えない」

 

 ドンちゃん――――ジェンティルドンナの武器は圧倒的なパワー。コーナーの遠心力すら自前の体幹で無理やり制御し切るシンプルなゴリ押しにある。

 等速ストライドとは歩幅と回転速度(ピッチ)のコントロールによる速度維持。ギアチェンジしながらアクセルを適切に踏み抜いて一切のガク付きなく等速を保つ超絶技巧。自分が一番走りやすい歩幅やピッチというものが完成しているタイプほどまったくかみ合わない。

 

「走り方が洗練されて完成されているほど後付けが不可能な技術だ、アレは。今から君に再調整したところで凡走するのは目に見えてる」

「……ほほほ、()()()()とはそういうこと」

 

 雨乞は不特定多数を気にするタイプではない。であれば、現時点においてアレは俺たちへ向けたメッセージなのだろう。

 

 ――――お前じゃ出来ないことを目の当たりにした気分はどうだ?

 ――――これからも煽るから宜しく頼むぜ

 

「~~~~ッとに、やっぱアイツトレーナー向いてねーよ社会不適合のチンピラがよぉ!!」

「珍しく同意見ですわね、日和」

 

 昔のイカれっぷりを思い出して暴言が飛び出すが、口角は逆に上がってしまう。()()()()()と腹の底から吹き上がる炎が止められない。

 バカだと思っちゃいるが結局俺も()()なのだ。強い相手がいると、挑むべき壁があると燃えずにはいられない。病に蝕まれ続けた親友が今になってようやく解放され、あまつさえこちらに牙を剥いているのが肌で分かるからこそ退くなんて考えは思いつきもしない。

 

「あのいけ好かないにやけ面、いまに渋面に換えて差し上げましょう」

「もう一年研ぐのもアリだと思うけど?」

「あら、()()()()()()()()から逃げて力を示せるとでも?」

「無いな」

 

 心にもない選択肢を口にして自分で笑い飛ばす。ジェンティルドンナの力を証明する、そのためのトリプルティアラという大目標。

 阻まれれば未来はない? 敗北すればもはやそれまで? ()鹿()()()()

 

()()()()()()()で見切って力の何たるかも分からねぇ奴なんぞ蹴り飛ばしてやろう」

「ふふ、それでこそ」

 

 テレビ画面に映るのはメイクデビューの中継。

 特徴的なヴェールを被った中等部のウマ娘が駆ける姿に釘付けになる。

 

 あまりに未熟で、まだまだ発展途上。しかし内に秘めた暴力的なまでの獣性は確かな技術によってその牙をより鋭利に磨いている。

 ()()()と素直に想う。()()()()()()()()()()()()()()3()()()()()()()()と傲慢にも確信する。

 

「君に正面から喰らい付いてくる相手が何人も現れた気分はどうだ?」

()()、とでも言えばよろしくて?」

()()()()()()()()()()()()()()()?」

()()()()()

 

 泰然自若にそう返す姿はこれまで通り頼もしい。

 例えそれが女王であろうが魔獣であろうが真っ向迎え撃つ。それを以て強者というものを示そう。

 勝ち負けなどというたった二色でしか力というものを、強者を測れない不躾な定規を、俺たちで踏み砕こう。

 

 さあ来るがいい。彼女に伍した時点でお前たちは強者だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でお前たちを飾ってやろう。

 

「見てろよ雨乞。俺の幼馴染は小細工で壊せるほど甘かないぞ」

「まるで悪党のような顔。あの男にそっくり」

「バカ言え、アイツの真似なんて死んでも御免だね」

 

 姿見に映った自分の顔は、驚くほどにギラついていた。

 

 

 

 

 

「……やってくれたな、雨乞」

 

 中継映像でワープとしか思えないバ群抜けを披露して1着をもぎ取る特徴的な髪色のウマ娘を見ながら、嘆息することしかできない。相談を受け、あまつさえメニューに組み込んできた時は遂に気が狂ったかと思ったが、そうではないことは走りを見てよく分かった。

 遂に、ではないだろう。()()()()()()()()()()のだ。明確な自分のスタイルというものがまだ未成熟なことを利用して仕込んだ一芸。よりタチが悪いのは、傍目から見れば一発芸か未熟な切り札でしかない疑似等速ストライド(それ)()()()であるということ。

 

「アレはここから進化する、いわばプレーンだ。本人たちが一番使いやすい形へチューニングされて大化けする前段階……だというのに、現時点で脅威なのだからたまったものではない」

 

 認めねばならないだろう。雨乞という男の才覚は正しく怪物だ。

 わざと不完全な状態で教えて基盤として整える。“伝説だけが使い熟せた”で終わらせることなく、()()()()()()()()()を明確に理解して基礎技術として叩き込んだ。

 言葉にすれば簡単になるソレがどれほどの難易度なのか……人知を超えた目と耳を失い、ただ己の感覚のみで教え方を掴んでいるのだから始末に負えない。あるいは、人の域に堕ちて来たからこその怪物性なのか。

 

 何にせよ、目指すべきは決まっている。止まることなど許されない。その上で、打つべき手を打つまで。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。どうだ、お前の()()は」

「……すごいね。今はただ、そうとしか言えない」

「はい……これから、私もあそこへ、ユニさんと同じ場所へ……!」

 

 やんごとなき身分に怯み、誰もが手を挙げなかった少女。

 英雄譚の主人公になりたいと願い、憧れを現実にすべく立った少女。

 

 才覚はある。やる気もある。資質も十分。だが、()()()()()

 

「お前達の戦場は波乱になるだろう。ややもすれば冠1つで終わる可能性とて十二分にある。特にファインモーション、お前にとっては箔が付かずに終わるかもしれん――――それでも、今挑むのだな?」

「どれほど不利でも()1()()は信じてくれるんだね?」

()()()()()()()()()

 

 大波乱の幕開けになるだろう。どれほどの歯車の狂いとうねりを生み出すのか想像もできない。ややもすれば、俺は責任という名の下裁かれ全てを失うことになるかもしれない。

 

 ――――()()()()()()()

 

「人生ただ一度、全てにおいて最初で最後の機会。全霊で挑むからこそ価値がある。僅かでも頂点を望む意思があるのなら、俺は背を押すまでだ」

「じゃあ、その意思には報いないと、ね?」

「はい……!」

 

 ただ全力で夢を追うことこそ彼女達に必要な事。そのために文字通り全てを背負う覚悟を権威と立場を盾に問われたところで、20年も前にはとうに腹を括っている。

 

「――――久方ぶりの感覚だ」

 

 心の炎が再び燃え上がる。消えるはずのない狂った熱量はもはや停止不可能。所詮トレーナーなぞ、特に中央のソレは狂人しか残らんと相場は決まっている。正気のまま続けられる人間こそ狂気とすら言える場所だ。

 

 ベテラン(きぐるい)の非常識ぶりをあまり舐めてもらっては困る。断頭台に首を掛けるなど何十とやってきたことだ。

 

「全力で掻っ攫いに往くぞ。遠慮はいらん、()()()()()()

「はい!」

「うん!」

 

 

 

 

「「だァっははははは!!!!」」

「ちょっと、大声はやめてください! 迷惑ですよ!」

「いやぁだってヴィルちゃん、こんなん笑わずにいられんでしょ~?」

「誰がヴィルちゃんですか!」

 

 某所、個別に割り振られたミーティングルーム。

 メイクデビューを見るや否や、トレーナーと葦毛のウマ娘は腹を抱えて爆笑していた。理由はやはり、あの()()()()()()()。伝説の超絶技巧であったはずのそれを不完全、あるいは劣化版とはいえモノにした存在が3()()()現れたのだ。彼らにとって笑わずにいられる訳が無かった。

 

「それなりに仕込んだとはいえアレ多分一発勝負じゃんね。おまけに()()()()()()()()()()()()()ってやつっしょ? 切り札なんて欠片も思ってない、何だったらポイ捨てすら視野にしてやんの。こんなんもうどこに向かって鏑矢ぶっこんでんのってレベルだっつの!」

「おうおうおう、面白くなってきたじゃねぇの! トレーナー! ゴルちゃんの抜錨いつよ!?」

「まったくもう、この二人は……!」

 

 中等部の少女――――ヴィルシーナはどうしてこんな人達に引っ掛かってしまったのかと頭を抱えた。

 “勝とうが勝つまいがどっちでもいいが、どうせなら面白い方が良い”。そんなとんでもない理由で先延ばしにしていたデビューをいきなり決めたかと思えば、強敵誕生の瞬間を大爆笑で見届けているのだ。肝が据わっているなどというレベルを超えている。

 

「大ァイ丈夫だってヴィっちゃーん? 私達ァ約束は守るさ」

「……私を、1番にしてくれるのですよね」

「おォとも。普段女王様気取ってるけどその折れなさ加減はだいぶ好きだぜ、ヴィルシーナ」

 

 大胆不敵、己こそ無敵と信じ疑わない獰猛な笑顔でヴィルシーナへと笑い掛けるトレーナー。新人の時分にターフの演出家を導いたとは到底思えないほどの軽薄さの裏で、確かに積み上げた自信が唸りを上げている。

 

「どれを、なんて確約こそできねェが……まァ、間違いなく一番の冠まではキッチリ導いたるから安心しな。死ぬ気でぶち抜いてりゃいつか必ず逆襲の牙は届くんだからよ」

「……その言葉、信じますからね」

 

 ヴィルシーナはトレーナーの実力は嫌になるほど知っていた。

 何度も挑み、折られた矜持があった。泥を舐める様に敬意を抱いたと宣い、讃えながら肩組み笑う()()()()()。せめてもっと女性らしく振る舞って欲しいと何度も思ったのだが……そちらの思いは届かず仕舞いらしい。

 

「あんま気ィ張ッてッと足首掴まれるぜェ? なんてッたッて今期はマジで大時化出航確定だからよォ」

「あっそうだトレーナー、アタシのデビューは?」

「それなー、聞こうと思ってたんよね」

「お?」

 

 一瞬寝惚けたような表情を見せたかと思うと、トレーナー――――花宮は牙を剥きだして笑い、眼鏡越しの()()を鋭く細める。

 

「私の予想だと後1年待てば最高に面白(オモロ)なタイミングが来る。けど――――今挑んでもそれはそれで面白(オモロ)だ。あの貴婦人はマジの一級品、全力でカチ合うに不足はねェ。だがまーちょいと物足りなくはなるだろうなァ? なァ黄金の戦艦、お()()()()()()()?」

「――――なら待つぜ。オマエ、アタシの()()()()()()だもんな?」

「おォよ、白鯨狩りなんぞよりよっぽど最高のマグロ一本釣りに連れてってやらァ。それまでサポートは頼むぜ?」

「任しとけって! ゴルちゃん頑張っちゃうゾ☆」

 

 とんとん拍子という言葉すら生温い滅茶苦茶さで進む()()()()()()

 ひとしきり爆笑した後眼鏡を直した花宮は、引き出しからファイルを取り出した。

 

「……それは?」

「私さぁ、思ってたんだよねェ。人生ただ一度ってのは最高だし、長年続いて格が約束された冠賭けてブッ千切んのもまた良い。とてもイイ。……けどさァ、何でもあり(バーリトゥード)が足らねェって」

「オイオイオイ、これマジか」

 

 ファイルから取り出し、ばら撒くように机へ投げられた企画書の数々。()()()()()()()()()()()()()()()()().()().()()、他にも他にも……かつて衰退したこともある企画、詳細を詰める必要こそあれ、それら通常のレース、純然たる個人の速さを競う戦いとはやや逸れた催しはまさしく“何でもあり”。

 

「ただ突ッ走るだけなんて私は御免だね。 お前ら()()だろ? なら()()()()枯らして何をやるッてんだよ? 思い出作りでハチャメチャやるのも一興だと思わん?」

「これ……まさかトレーナーが一人で?」

「まさか! 私ァそこまで有能じゃねーよ。全部提案してきたのはやよいちゃんや他の役員共だ。まー全部が全部叶うたァ流石に思ッちゃいねェが……すげェぜあの子。普段無茶苦茶やってるが先を見る目は一級品だ、競争ってモンの本質がよォく分かってる」

 

 人は何故競うのか。その先にある“何か”を求めているから。

 現理事長はその当り前ゆえに見落とす根幹が良く見えていると、花宮は笑う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あの人ァコレにかこつけて門戸広げる腹積もりだぜ。どんな名誉目指して走ッたっていい場所にする気だ。バカみてぇに本気で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ために色々考えてやがる。私ァそういう大言壮語大ッ好きでね、やらかされると応援したくてたまらなくなる」

「は、はは――――なーるほど、ゴルシちゃん賢いから分かっちゃった♡」

()()()()()()()()()お上の金持ち連中が揃って手を挙げてる、下手すりゃマジでレースと別口で賞金か何か付くぜこりゃ……お前ェどうだ、ヴィルシーナ」

「どう……とは」

 

 ヴィルシーナの背筋に寒気が走る。こういう曖昧な質問を向けてくる時、確実に彼女は二人の最強道化コンビに巻き込まれる。

 悪いことにはならない……それがなおのこと悪い。やることなすことハチャメチャの二人が手綱を自ら渡してきて、挙句とんでもない事を宣い始める前触れだ。

 

「お前さん――――先駆け(いちばんめ)になりたかねェか?」

 

 

 

 

「――――ッブシッ!!」

「また風邪ですか?」

「またも何も引いた事ねぇよ……ここ最近変な寒気がすんだよな……」

 

 最近はいつもこうだった。あらぬ方向から氷柱が飛んできては背骨にぶっ刺さるような寒気。事あるごとに首筋の辺りがピリピリして第六感が警鐘を鳴らしまくっている。

 

 なんというかこう、本当にろくでもないことに巻き込まれるぞとビシビシ主張してくるのだ。

 

「『アステロイドベルト』……“流星群”が来るよ」

「……何て?」

「ハチャメチャが押し寄せてくるってよ」

「ええ、っと……??」

「安心しろ、俺もあんま分かってねぇ」

 

 ユニ子にしては珍しく曖昧な言い方だが、何となく言いたいことは分かる。なにやら訳の分からない不安感と意味の分からない高揚感が同時にやって来ているような、そんな感じだった。

 

「……ま、その時になったら考えりゃいいだろ。今はミーティングだ」

 

 ユニ子とスティ子のメイクデビューから1週間。多少なりとも足に負担が見て取れた二人は普段より少し軽めの内容で慣らしつつ、柔軟を多めに取り入れて残ったダメージを抜くことに集中している。

 

「まずユニ子。実際に見てたがよくやった。あの冷静な判断力がありゃだいたいの状況はどうにか出来る……問題はそれを封殺されたときだな。ゴリ押しはまぁ兎も角、徹底マークでブラフも何も通じなくなった時の対策はやっときたい」

「アファーマティブ……“航路”の“微調整”だね」

 

 ユニ子のバ群抜けは持久戦。ただひたすらにチャンスを待ち続け、ほんの一瞬でもルートが出来れば体を滑り込ませるようにしてブロックを抜け出す。逆に言えば徹底的にマークされてすり抜けを封じられた時が一番面倒なことになる。

 

「スティ子は……()()()を制御しきれればな。()()の方はこいつらの中じゃ一番上手いんだが、どうしても自分の力を封じてる――――言い方は悪いが常に舐めプしてるようなもんだ。マジの格上が来たら否が応にも出てきてもらわんと困る」

「……分かっては、いるのですが」

「お前の本領は衝動に任せた大暴走だ。矛盾してるようだが、()()()()()()が今んとこ目指すべき境地なのかもな」

 

 衝動に任せ、無駄に狡猾で鬱陶しい()()()を最大限炸裂させれば大半の相手は蹂躙できるだろう。

 だが、コイツがソレを厭う限りは尊重しなきゃならん。

 

「厳しい事言うようだが、勝ちたけりゃ()()()()つけろ。少なくとも俺らはお前の本性で距離置いたりなんぞしないんだから」

「……ありがとう、ございます」

 

 今のところ、あの紅色は不意に表へ出てくることは有っても比較的冷静に言葉を聞いてくれている。()()()のように独り言を大声で叫ぶような決定的に話が通じない感触はない。

 俺の方も「違和感」の消失が原因なのか、以前ほどの気がささくれ立つほどの嫌悪感は感じなくなっている。とはいえ何かが生理的に嫌いなのは相変わらずなので言葉に棘は出てきてしまうが。

 

「とはいえお前ら全員まだまだこれからだ。しばらくは調整と出走権獲得に奔走することになるだろうな」

「……本当に始まっちゃうんですね~……まだ実感が湧かないや」

「お前はホントに最近そればっかだなミラ子……」

 

 相変わらず目指したいものが見つからないらしく、漫然としているミラ子。ユニ子は何やら目指したい場所があるものの、“イレギュラー”と“ノイズ”が発生していて目標が逸れる可能性が高いとか何とか。スティ子はスティ子でティアラ路線の三冠を目標に据えている。……とはいえそれも憧れが多分に混じっているのか、何か明確に執着する理由がある感じではないらしい。

 

「まーまー、今から頭抱えてもしょうがないですって。なるようにしかならないならゆるーくのんびりでいきましょ」

「そこんとこシャキッとしてもらわんと困るんだが……まぁ、それこそなるようにしかならんか。やりたいこととか獲りたい賞が出てきたら早めに言ってくれな、こっちで相談して調整する」

 

 手を合わせて宣うミラ子に二人も絆されて表情を緩める。何だかんだと調子さえ取り戻してしまえばミラ子はこんな感じだった。誰かが悩んでいたらひとまず棚上げして一緒に息抜き、後のことは後で考える。

 良くも悪くも緊張感とはやや無縁で、ともすれば軽率にすら思える言動にいつの間にか毒気を抜かれてしまう。

 

「そんじゃ、お前らの()()記念だ。何か食いに行くか」

「いいんですか!? じゃあお好み焼き行きましょ!」

「食った分動けよお前。薪侘トレーナーから肥えたって聞いてんだからな」

「スフィーラ……“4人”で『半分こ』するよ」

「……ふふ」

「何が面白いんだ」

「いえ……こんな風に大人数で食事に行くなんて、夢にも思っていなくて」

「スティルちゃん……!」

「『CLST』……“これからも一緒”を、するよ」

「はい……!」

 

 この後滅茶苦茶お好み焼きを食べた。健啖家と聞いていたが、食う量自体は比較的常識の範疇で済んで良かった。

 ただし容赦なく俺の財布を空にしようとしたのでミラ子のバカはいつか必ず苦手だというプールへ叩き込むと決めた。




Tips
・花宮トレーナー
 金色の瞳と葦毛っぽい灰の髪が特徴的な女性トレーナー。キャリア的には中堅くらいだが、やることなすことだいたいイカレたトレセン最狂。
 レースは勿論大好きなのだが、一方でどことなく物足りなさを感じて理事長や役員に色々直談判したりしていた。とある時期から()()()一部の役員や名家の面々が出資をどんどんしてくれるようになり、彼女は『爪痕残しやがってアホ後輩が』と呻いたという。
 チーム「クレイジーフリート」を率いている。メンバーは少数ながら粒ぞろい、しかし明後日の方向からレースに突撃するような気性難ばかりが揃っている。

・ゴールドシップ
 やべー女衆筆頭。花宮の口車に乗ってデビューを1年ずらすことを決意。なので今年はゴルちゃん張り切っちゃうもんね☆

・ヴィルシーナ
 苦労人筆頭。やべー奴らに気に入られてしまったお姉ちゃん。妹たちよ、私がんばるからね……!
 ちなみにいずれ来る未来で妹たちも艦隊の一員と化す。お姉ちゃん頑張るからね!!!


・薪侘トレーナー
 俺マキタ、口答えしたら一撃必殺。
 今年デビューの二人が敢えて雨乞と接触しないようにスケジュールに細工していた。狂人ぞろいのトレセン学園で長年トレーナーやってるだけあって常識を弁えつつしっかりイカレている。ファインの一件で誰も近づこうとしなかったのを見かねて声を掛けた。色々言われたが「じゃあ何もかんもダメだったら俺の首もってけや(意訳)」で引き取っている。

・ファインモーション
 言わずと知れた殿下。知らぬ間に設定変更が入ったらしいが、結局立場的にトレーナーがやらかしたら国際問題なのは変わっていない。あの、このトレーナー自分から断頭台に首突っ込んできたんですけど……
 立場ゆえにということもあるが、それ以上に自分の走りに文字通り命を賭けた薪侘に報いるべく大混戦必至のティアラへ挑む。
 
・ゼンノロブロイ
 これ書いてる時に単発で来ました(大困惑)
 物語の主人公になるのなら困難を避けて通れることなどできるかと決意ガンギマリ。

・日和
 あのジェンティルドンナの幼馴染がただの優男なわけないだろ、いい加減にしろ。
 雨乞の覚醒に伴いこっちも連鎖覚醒。ドンちゃんはちょっと不機嫌になった。

・ジェンティルドンナ
 正直1年デビューずらしてティアラ3冠獲ってから強者蹂躙行脚でもしようかと考えていた割と冷徹な貴婦人。でもやっぱり強い奴見ると……ね?(鉄球を握り潰す音)

・雨乞と愉快な仲間たち
 これから自分を取り囲むであろう面々がヤバいくらいギラギラしている中、トレーナーじゃないので事情なんて知ったこっちゃないため女学生3人連れてお好み焼き食べに行っていた。自由か?

 アドマイヤグルーヴについては執筆時点で未実装ということもあってチームやトレーナーは敢えて子細には描写しない方向性で行こうかと思っておりますわ。ご容赦くださいまし。
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