スティルのターン書いてると1話分の分量簡単に埋め尽くされるんですのよね。自分で書いといて何ですけどあまりにも複雑怪奇な心情過ぎてガッツリ描かないと挙動めちゃくちゃになりましてよ!
満月が昇る中、あの日の高台へと向かう。
スティ子には先んじて向かってもらっており、到着した旨が携帯へと届いた。
喪って尚、喚く何かが居る。あるいは
――――拒め。嫌え。厭え。そうやって呻くように唸る、痩せぎすの何か。
スティルの裡に潜んだモノが紅であるのなら、こいつは何と表現するべきなのだろうか。
実体のない嫌悪感。形があるようで掴めない、俺の根底に関わるのであろう何か。
「恩師」は、この世界を動かすものを“愛”だと語った。幸福を願う祈りが、栄光を求めた願いが、あるいは悲劇に頽れたがゆえの想いが。それら根底にあった、一つの名へと向けられた愛が、世界を渡るのだと。
俺の裡に居座るこの感覚もまた、何らかの“愛”が導いたのか? だとすれば、どんな祈りからこんな拒絶と嫌悪の塊が現出するのか。
であれば、“スティルインラブ”に向けられた
あの狂乱、錯乱。苦痛を生むだけのそれらが、愛によって生まれたと?
ただ人生を苦しむためだけの祈りが、愛だと?
「……チッ」
ぎぢり、と鎖の動く音がした。嫌悪の獣が動こうとする、そんな感覚。
認めよう。認めなくてはいけない。確かに始発点は愛だったのだろう。
だが、「違和感」に蝕まれた20年間が叫んでいる。
けれど、俺がするべきは怒ることじゃない。怒ってもどうにもならない。それは俺のエゴであって、アイツらのための行いでは断じてないのだから。
俺がするべきは――――
「……気分はどうだ」
「最悪ね。貴方がいるせいで」
――――ちゃんと、話をすること。
こいつが何をしたいのか、何をして欲しいのか。
鎮まっていたのに、何故急にスティ子の存在感の消失という形で自己を主張するような真似をし始めたのか、その真意を。
これまではコイツが出てくるのに任せての受け身の姿勢だった。だから、今だけは此方から引き摺り出す。
「大人しくしてるかと思えば回りくどい方法で誘い出しやがって。何考えて――――」
瞬間、紅色が爆ぜる。
一瞬にして距離を詰められ、そのまま“紅”は首筋へ喰らい付く。
「違和感」を喪失した今の俺では、もうそれを避ける術はない。初めて会ったあの日のように勝負を挑めば、間違いなく大敗する。
無敵性は失われた。正真正銘只の人間として、俺は目の前の怪物に初めて真正面から相対する。
喰らい付いた瞬間に引き剥がすこと自体は出来たが、敢えてそれをしない。今はコイツの好きにさせてやろうと思った。
数秒か、数分か。紅が口を離すと、その表情は嫌悪に染まっていた。
「……本当に忌々しい。何一つ受け入れもしないのね、貴方」
「俺の生まれが何か関係あんのかもな。あるいは単純に条件満たしてないからとかじゃねぇの?」
肩を掴んで突き放そうとするも、それ以上の力で紅は密着してくる。
触れ、撫で、強く吸い込んで。随分情熱的なことだと他人事のような感想が浮かんでくる。ジェンティルドンナの時と違い、
「お前、俺の事嫌いじゃなかったっけ?」
「ええ、嫌いよ。貴方みたいな最低の男。用意した椅子に勝手に座り込んで、首輪を嵌めるだけ嵌めて、挙句全部捨てて行くような男」
「クズ男みたいに言うんじゃねぇよ……あぁ、成程? あの日錯乱してたのはそういうことか」
過程を一段飛ばしで分析していく思考回路。
うわごととしか思えなかったあの日の内容に今の一言を加えただけで、さも当然のように背景を解析して解体していく。
スティ子は兎も角、この“
だが、所詮それらは「かもしれない」の域を脱することはできない。
備わっていた超人性を以て看破していた全て、思い出すことは困難。だから、何度でも問い掛けて明かしていくしかない。
「あの日、俺が此処でお前に突っ掛かった時。お前が俺の事やたらこき下ろしてきたのは、お前の言う“用意した席”を俺が盗ったからか」
「そうね。ワタシが待っていたのは
「俺が無理やり蹴飛ばした挙句に自分のモンみたいに腰下ろしちまったわけだ。そんでもって
「……そして、貴方が来たことで理解させられた。
待っていた誰かが居た。その“誰か”のための場所に入り込んできた異物。挙句それは居直り強盗よろしくやりたい放題して、一番知りたくなかった現実まで突き付けて……そりゃ嫌うに決まってる。嫌わない方がおかしい。
だというのに、すぐ目の前に顔を近づけている怪物は嫌悪の色を浮かべたまま頬を上気させる。致死量の劇物を食わされたような潤んだ瞳で見上げてくる。
「だと言うのに、嫌うだけ嫌っておいて突き放すこともせず隣に置いておいて……だから
「無茶苦茶だなオイ」
強くは否定できなかった。
あれだけ口で嫌いと言っておきながら――――不快感すら覚えているのに。それでも傍に居ることを、まして密着することすらも許容している自分が居るから。
クソガキだの気狂いだの、挙句の果てには手に負えないと罵詈雑言を垂れながら、それでも持てる全てで俺を守り抜こうとした父親代わりを知っているから。
「……俺も、まぁ嫌いだぜ。お前の事」
「…………よく知ってるわ」
「けどよ。お前だって
手に負えない。頭がおかしい。気が狂っている。やることなすこと意味が分からない。
そうして鼻つまみにされ、排斥される。排斥されて、自由になる。
そうやって手にした自由を誇りのように掲げながら、胸には酷い痛みを訴えるほどの大穴が開いている。
「
“スティルインラブ”は答えない。だから今コイツが何を想っているのか、俺にはもう分からない。
「違和感」を喪失した日から、異能と呼べるものは日に日に衰弱して人間へと還っていっている。ウマ娘からの加害に対抗する不自然な膂力や、ある程度“そこにいる”と分かる程度の霊視。それら残滓程度のものが残されて、ただのありふれた人へと戻っていく。
……だが、「違和感」に蝕まれた20年。端末として生きてきた時間まで消える訳じゃない。あの日々に感じた苦痛の全てが、そしてその間に脳に刻み込まれた
特別なことは、怖いんだ。
他者と共感できないことは、寂しいんだ。
それら全てを――――望み通りだとしても――――失って、普通の人間に戻ったところで生きていける訳が無い。それまでの“特別”が古傷のように疼いて、いつまでも“普通”に馴染めない。
だからまた“特別”に戻りたがる。
“こんなに苦しいのなら普通なんて要らなかった”
“けれどあんな特別なんて一生要らない”
“もっと都合のいい特別が、いつでも普通に戻れる特別が欲しい”
……そうやって、無い物強請りを続けて駄々をこねるのだ。
そこまで考えて、この胸に蟠る不快感の正体が少しだけ分かった気がした。
コイツは俺と違うから。いつか満ち足りて、それで飽きもしないから。
俺と違うのだということを、他の奴ら以上に見せつけられるから。
「……
「殊勝ね。そんなことで竦む
特別だと思われたくない。普通に接して欲しい。けれど、今までの積み重ねがソレを許さない。
見ないでくれ。構わないでくれ。ただの狂人だと嗤って蔑んで遠ざけてくれ……そういう自覚できなかった忌避感。スポットライトを当てられることに耐えられない光過敏症。特別も普通も厭む、ろくでなし。
ミラ子と関わっていて妙に安心するのは、
「……それを、お前と面と向かって話してると突き付けられる。“お前は異常だ”“ただのクソ野郎だ”って後ろ指を指されてるみたいになって落ち着かない」
「ワタシは逆。貴方と話していると心が鎮まって仕方がない。侵すことも喰らうことも出来ない、ワタシの存在そのものを否定される」
次の瞬間、お互いの意見は合致していた。
「「だから、お前が嫌いなんだ」」
異能も特別もなく、ただ真っ直ぐに相手を見て、嫌う。
こいつの事が嫌いだ。コイツといると何となく不快だ。何処かに行って欲しい。いつも見せている“理性”だけになればいいとすら思った。
だけど――――こいつが不幸になると思うと、突き放せなくなる。
“こっちへ来いよ”と手招きしたくなるのだ。醜い本性を抱えたままでも光に当たっていいと言ってくれる奴らがいることを知っているから。
「貴方のこと、
「おう、良く知ってる」
「でもね、そんな大嫌いな貴方のことが好きなの」
「……」
「私を嫌悪した貴方が好き。ワタシに目もくれない貴方をずっと追ってしまう。私を疎む貴方の傍に居たい。ワタシを遠ざけた貴方に近づきたい。そして、そんな風に思わせてくる貴方の事が大嫌い。大嫌いなのに、傍に居なくなると思うと耐えられない――――ねぇ、どうしてくれるのかしら」
――――
そう言う表情は、敵意に塗れているのに真逆の感情を抑えきれていない。
「俺もお前が嫌いだ」
「良く知ってる」
「お前みたいなのに好かれるとか冗談じゃない。どうせならミラ子みたいなののほうが億倍良い。誰を待ってたのか知らねぇけど、懸想してた奴が居るんだったら浮気してんじゃねぇよ。白バの王子様期待してたんなら余計にふざけんな、八つ当たりじゃねぇかテメェ」
だから、真っ直ぐに返す。“お前の気持ちには応えない”と。“一人で抱えてろ”と突き放す。
その上で。
「だから…………何だ、要するにだ。
「――――」
「
これも気に食わない要素だったと、付け加えるように浮かんでくる思考。
懸想される分には別に良いが、それで何かしら抱えられるのは嫌だ。今となっては違和感なんて見えやしないんだから、心に仕舞い込んだ不満なんて分かるわけがない。それを抱えていつか爆発させられるくらいなら、最初から投げ付けられる方がずっといい。
「あぁ、あと。スティ子ともちゃんと話せ。アイツはアイツで色々考えて望んでんだから、その辺斟酌してやれや。きっちり話して折り合いつけやがれ。適当ほざいて乗っ取って使い潰すようだったら、今度こそお前シバき回すからな、バケモンが」
「……酷い人」
「当たり前だろ。スティ子ならともかく、お前に遠慮してやる必要なんて微塵も感じてねぇからな?」
あれもこれもと、思いついた順に洗いざらいぶちまける。最初からこうすれば良かったと思うが、仕方ないだろ、怖いんだ。
嫌いな相手に本音で罵倒することすら一瞬躊躇うんだよ、根が凡人だから。
「全部やって、喉が枯れるくらい叫んで。それでも見つからなくて、誰からも受け入れてもらえなくて、行くアテも無くなったら……そん時は、ウチに来いよ」
「――――っ」
「若いのに人生全部捧げようとしちまうような馬鹿たれの
俺はトレーナーじゃない。
俺は運命の相手なんかじゃない。
俺はただの人間だ。
けれど、こいつらの居場所になることは、いくらでもできるから。それが俺の責任の取り方ってやつだろう。
◇
酷い。頭を埋め尽くす言葉はそれで全部。
えぇ、分かるわよ
好いていないどころか嫌ってすらいるのに。会ったばかりで何も分からないと抜かしたくせに。挙句の果てには首輪を着けるだけ着けておいて、リードも握らず好きに走ってこいだなんて。
終いには結論が
そんな言葉、胸が高鳴らない訳がない。
分かっているのかしら、目の前に居る相手がまだ若い女だってこと。貴方の金の瞳に吸い込まれそうになるくらいには、
「……気付いて、いないのでしょうね」
「あ? 何にだよ」
止めておきなさい
自分が特別な事を言っている自覚がない。
だから、次の瞬間には、ほら。
「……で、だ。いつまでくっついてんだよ。話は終わったろ、俺が呼び出したとは言えど早めに帰れ。ユニ子が心配するぞ」
「……」
「アイツもアイツで最近引っ付き虫で困ってんだよ。同室として色々構ってやってくれや」
こうやって、他の女の話をし始める。本気で色恋のこと分かってないヤツの挙動よ。ワタシが誘い出そうとした理由、まるで分かってない。
……まあ、理解されたらされたで今となっては少し恥ずかしい————
ネオユニヴァースはネオユニヴァースで
だから――――仕掛けるなら早めになさい。でないと、ワタシの都合を優先してしまうわよ?
Tips
・雨乞
養父が自分を嫌ってたと割とガチで思っている。迷惑しか掛けなかったのに庇ってくれたことを「嫌うこととそばにいて良いと思うことは全く別」と解釈した。
紅のことを一人としてカウントしている。
なお読心はほぼ失われたのでもう言わないと分からない。クソボケ街道爆走中。
・スティル(理性/本能)
このクソボケがァーーーーーッッッ!!!!!(沸騰3秒前)
何処にいるのかわからない。探しに行けば安心する場所を離れてしまうことになる。それにもう耐えられない……なら声が枯れるまで叫んで見つけてもらえと斜め上の解を投げつけられた。
突然存在感を消し始めたのは本能が我慢の限界だったから。
「多分構って欲しかったんだと思います(うるさいわね)」
・養父
儂アイツの育て方間違えたかもしれん(遠い目)
次回おユニのターン&与太話各種のターン!
スポーツ系漫画って意外と心情描写大事ですわねって最近気づいたんですのよね。実はハイキューとか好きでしてよ。
あ、ダンツ当たりました(20連)
初うまぴょいがポッケだったせいでセイバーが黒化して相対した士郎みたいな心持ちで育成してますわ、助けてくださいまし(白目)