割れた鏡と奇跡の足音   作:何もかんもダルい

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無茶苦茶お久しぶりな気がするので初投稿です。

変な犬兄貴の動画一気見したりお絵かきの気分になって鉛筆握ってたりダンツのシナリオに脳焼かれて育成したりダンツの短編書いたりしてたらなんか割と日数経っててたまげましたわよ。切実に時間が欲しい今日この頃ですわ。

 今回はネオユニヴァースのターンでしてよ!
 感想でもちょっと言われてましたけどこの雨乞とかいう男首輪着けるだけ着けて自分でリード持たずに放牧してるんですわよね。控えめに言って女の敵じゃねぇかとは結構初期の初期から思ってますわ。なんで一度も刺されてないんでしょうね??


星の航路、暗中照らす灯台

 

 ネオユニヴァースという少女が雨乞に抱く感情は恋慕ではない。

 しかし、親愛というにはやや深く入り込んでいる。

 

 構って貰えると嬉しい。色々な事を知れるのが嬉しい。自分が見ようとしている場所を、あるいは見(・)て(・)き(・)た(・)場所を理解しようとして言葉を重ねてくれるのが嬉しい。

 愛や恋と言うには情の方向性が逸れているが、それはそれとして他の子に構いっぱなしだと嫉妬が湧き上がってくる。その姿を面と向かって指摘されると少し恥ずかしい。

 

「……」

「……なぁ、それ楽しいのか?」

 

 ……無論、それが雨乞にとって理解できるかはまるで別の問題だった訳だが。

 

 ここ最近、ネオユニヴァースはひたすらに雨乞の事を観察し続けていた。

 学園で、運動場で、或いは休日に偶然会って。時間があれば必ず彼を追う視線がある。

 

 ソラを映したような青い瞳で穴が開くほど見つめるのだ。雨乞は最初こそ何か伝えたいことでもあるのかと身構えていたが、どうにもそうではないらしいと気付くとある程度無視を決め込んだ。

 

 しかし、基本的にネオユニヴァースにはやりたいようにさせている雨乞も何日も同じように監視され続ければ理由が分からず困惑するというもの。

 故に一つ、聞いてみることにした。ある種の見通す瞳を失った彼にとっては、それが最短の道だったから。

 

「“軌道”の“観測”……“ダークマター”を“分析”……」

「だからってひたすら見つめても分かるわけないだろ……」

 

 結果として返ってきたのは、“よく分からないから観察してみようかと思った”というもの。

 呆れたように返す雨乞。分からないことがあるとまずは観察に徹するのはネオユニヴァースの常だったが、それでも彼女にとっては分からないことが多すぎたのだ。

 

 ――――ネオユニヴァースの知る“既知”から、この世界はあまりにも大きなズ(・)レ(・)が生じている。何かの整合性を取るために別の何かを嵌めていった結果、盛大に歪んでいる。

 起点に入り込んだ、小さな小さな砂粒。それが連鎖する歯車をどんどんと狂わせていき、今この世界は出(・)鱈(・)目(・)な(・)ま(・)ま(・)存(・)続(・)を(・)許(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 しかし、それでいて彼女の目指すべき場所は“GATE”――――春の天皇賞からまるで変わっていない。そ(・)れ(・)が(・)可(・)笑(・)し(・)い(・)のだ。

 あまりに歪んでいる。船で例えるなら、竜骨に修復不可能な亀裂が入っているのにまるで問題なく航行している状態。とうに破綻し、沈没して然るべき世界だというのに剪定の手が入らない。

 

「……“APTS”“NCRS”……“ERROR”……」

「だから、何でそう俺に物騒な例えばっか持ってくるんだお前は。何か気に障ることしたか?」

「ネガティ……“心地いい”、だね」

「そいつはどうも。次から機嫌損ねてるならそう言ってくれ、分からんから」

 

 が、それはそれ。気がかりではあるし、忘れぬよう呟きながらも今を存分に堪能している。

 

 何やら不吉な単語を並べ始めたネオユニヴァースをなだめるように髪を梳く雨乞。手櫛を受け入れながら、ネオユニヴァースはベンチに腰掛けた雨乞とほとんど密着した状態になり、更に至近距離で雨乞を覗き込む。

 サングラス越しの瞳は輝く星のような金に染まっている。自分の髪色とよく似た、或いはもっと透き通った宝石のような光から、彼女は目が離せなくなっていた。

 

「……何だ、言動の次は目ん玉にでも興味が湧いたか?」

「……アファーマティブ。『VNUS(ヴィーナス)』みたいな“煌めき”だね」

「明星みたいな目とはまた。俺としては冥王星が好みなんだがね?」

「『PRTO(プルート)』? “説明”が“欲しい”よ」

「大した理由じゃねぇよ。遠すぎて分からないことの多い星ってのはロマンあるだろ? そんなもんだ」

 

 雨乞は難解な単語に関する知識が特別豊富というわけではない。だが、他者の言動を幻聴により妨害され続けてきたこれまでと比べれば、ネオユニヴァースの語彙はあまりにも意味がはっきりとしていて分かりやすい。特異な言動への理解は持って生まれたものではなく、過去の蓄積故に生まれた能力だった。

 

 ……が。それが周囲から見てどのように映るかと言われれば、それはまた別の話であって。

 

「近い……近くない?」

「ほとんどキス寸前なんですけど……あれで動揺も何もないってマジ?」

「まさかもう既にそれ以上の事を……!?」

 

 現在、彼らは学園の校舎正面の通りに居る。ここ最近呼び出しが増えたと愚痴を垂れながらベンチに腰掛け黄昏る雨乞。それを見かけたオフの日のネオユニヴァースがひたすら背後から観察していたことが事の発端である。

 どう足掻いても不特定多数の目につく場所で男女が白昼堂々スキンシップに勤しんでいれば周囲の視線は当然集まる。ほとんどキス寸前の距離感は多感な年頃には劇物であるはずなのに、当の二人にある種の爛(・)れ(・)た(・)感情がまるで見えないのだから困惑が拡大し、果てにはなにやら不躾な勘違いまで混じり始める。

 

「……」

「……何だよ、今度は何が不満なんだ」

 

 僅かに頬に紅を差しながら、しかめっ面で雨乞を睨めつけるネオユニヴァース。対する雨乞は困惑するばかりで何の感慨も抱いていない。周囲の下世話な視線に対しても大した反応を示さない。

 

 元々その気はあったが、ここ最近の雨乞はこういった人目を気にしない行動に拍車が掛かっていた。

 雨乞という男は20年の間情緒が育つ隙間を奪われ続けた男だ。楔のように深く深く突き刺さった軸はあれど、常人のように他者の機微をうまく察するほど成長した感性というものを持っていない。

 共感覚が鋭くても共感能力が低いのだ。思春期という最も機微が育つであろう時期を徹底的に死滅させられた反動が鈍感という形で表出していた。

 

 その一方、彼にとってもっとも理解できる“愛情表現”とは一貫して受容・許容という受け身の型であり、同時“自分がされたかった事”をすることである。

 頭を撫でられたかった。褒めて欲しかった。目を掛けてほしくて、何より周りと違う自分を受け入れて欲しかった。そういう幼い頃の願望を鋳型として、そうするべきと思った相手へと何の恥ずかしげもなく施していく。

 

 これはスティルインラブに対しての対応も同じ。根本的に願望が相容れないと理解した上で“傍に居てもいい”と受け止め、背を押す。雨乞の中ではその態度こそ養父の受け売りで、年下に対して施すべき行いであった。

 仮にネオユニヴァースではなくジェンティルドンナや薪侘のチームのウマ娘であったとしても、そうして欲しいと望まれれば彼は何のためらいもなく髪を撫でるし接近を許すだろう。それはそれとしてジェンティルドンナには眼前で中指を立てる程度はするだろうが。

 

 話を戻すが、雨乞にとって髪に触れることや至近距離で顔や目を見つめる、或いは過度の接触を許すという行為は、珍しい行動であると感じてこそいれど拒否感を伴うものではない。共感に欠けるが故に、パーソナルスペースの概念がバグを起こしている。

 もっと言ってしまうと恥じらいというものが最低限を残して欠落している。仮に異性に添い寝や風呂を共にして欲しいと言われても「倫理的に駄目だ」と諭しても「恥ずかしいから駄目」といった感情的な否は彼の中に存在しないだろう。端的に、男としての何かが死んでいた。

 

 では雨乞はともかくなぜネオユニヴァースまでこうも距離感が近すぎるのかと言えば、雨乞の壊滅したそれに引っ張られる形で彼女もどんどん距離を物理的に縮めていったからに他ならない。

 傍目からは公衆の面前でイチャつくカップルだが、それなりに付き合いの長くなってきたヒシミラクルやスティルインラブからすると兄妹や長年付き添った犬猫と飼い主に近いものを感じさせた。

 

 余談だがネオユニヴァースと仲のいいゼンノロブロイは刺激が強すぎて若干掛かったし、他のウマ娘も口実が出来たとばかりに担当トレーナーとの距離を詰めようとする者が現れている。が、雨乞達に実害はないので放っておこう。お幸せに。

 

「『逆噴射』……ネオユニヴァースは、“恥ずかしい”だよ……?」

「お前から近づいてきたんだろうが……俺が何かしたせいみたいに言うなっつの」

 

 閑話休題。

 そんな常軌を逸した鈍さに中てられ、しかし中々に心地いいために止めてとも言いづらく、ネオユニヴァースは顔を赤くしたまま動けなくなっていた。

 

 しかし抗議の視線を向けられた程度で雨乞は手櫛を止めないし、ネオユニヴァースが望むなら膝の上に座ろうが膝枕を所望されようが微動だにしない。女として見て欲しい訳でもないネオユニヴァースといえども、何となくプライドが傷つけられたような気分になるというもの。

 

「『KSBK』……」

「おうコラ誰がクソボケだ」

「ん゛あ゛ぁぁぁ……!」

 

 ぼそりと呟かれた罵倒を聞き逃すほど雨乞の耳は節穴ではない。髪を撫でる手は流れるようにアイアンクローへ移行した。相変わらず痛みのツボを的確に押すため加わる力以上に恐ろしく痛いのである。さしものネオユニヴァースも常に非ざる呻き声を上げてしまった。

 しかし、それも僅かな時間で終わる。そのまま詫びるように再び頭に手を載せ、雨乞はネオユニヴァースの瞳を覗き込む。

 

「……」

「……? 雨乞も、ネオユニヴァースの“観測”を“求める”?」

「お前の事どんだけ観察したって分かりゃしねぇよ。もうそんな目もねぇしな……ただ、まぁ何をそうまで気に入ってんだかって気になっただけだ」

「雨乞は、“寄港地”……トレーナーでは、ない。“軌(・)道(・)を(・)失(・)っ(・)た(・)”宇宙を進むための、『灯台』……」

「そんな大仰なもんじゃねぇと思うんだがねぇ……お前らの年頃なら学校から逃げ出したくなるなんてこともあるだろ」

「……」

「だから不満そうに睨むなって。せめて口に出せ」

 

 ネオユニヴァースの事を誰もが“よく分からない”と言うこと。日和ですら分からないことが多いと宣うことが、雨乞にとっては疑問でしかない。

 いつだってそこに居る、自分の意思を言葉にして伝えようとしている。言動という障壁を真っ先に突破してしまっているために「言葉にしていないから分からない」は数多あれど「何を言っているのか分からない」が通じないのだ。

 

 それはネオユニヴァースにとって、好奇心と共にある種の安堵をもたらすものだった。

 相互理解、自分を知ろうとしてくれること。相手を観察し理解するだけの一方通行ではないこと。それは、彼女にとって得難いもののように感じられた。

 

「雨乞は、ネオユニヴァースとも“交信”したい? “求める”をする?」

「んなこと言ったって、結構な頻度で話してんだろうが。お前ら本当に連日連日電話かけてくるが通信料とか大丈夫なんだろうな?」

「アファーマティブ。『些事』、だよ」

「いや大事だろ、学生なんだぞお前ら」

 

 ――――友人がいて、友人の友人と関われて、やっぱりたまに言葉は通じないけれど、それでもいいとばかりの暖かさがあって……そして、何かあれば帰ってきていいと、逃げてきても構わないと言ってくれる人が居る。

 その分、彼は自分という逃げ場に依存する気配が出ようものなら————それこそスティルインラブの言動など————尻を蹴り飛ばすような勢いで突っぱねて追い出してくるけれど、それが信頼と期待の裏返しだと分かっているから苦にならない。

 

「……『バンド』の新曲……『聴く』を、する?」

「別にいいが、何度も言ってるけど音楽の善し悪しなんざ分からんぞ、俺」

「『大丈夫』……ネオユニヴァースは、『感想』を『求める』よ」

「だったら他の連中にしろって」

「……“実行済み”、だよ」

「……分かった、分かったからそうやって睨むなっつの。逃げて悪かった」

 

 取り出したスマホから聞こえてくるのは独特なイントロの楽曲。ネオユニヴァースお気に入りのバンドの新曲を、雨乞は目を閉じてまさしく静聴する。

 興味が無くとも相手が好きな物であれば拒まず付き合う姿勢。それがネオユニヴァースにとっては尚更に喜ばしいものに映るのだ。

 

 理解できないものを理解しようとしてくれる。不明を理由に断絶せず、感じたものを伝えようとしてくる。彼女風に言うのなら、「常に“振動”し続けている」のだ。

 

 

 

◇

 

 夕暮れ時。雨乞と別れ、寮への帰路に就く。

 一足早く登った一等星を見上げながら、ネオユニヴァースは両手を天へ伸ばす。

 

「『ダメージ』……ううん、『LOST』……けれど、“ERROR”は、健在……“座標”の“再集束”……“ビッグクランチ”……」

 

 “始まったものが終わろうとしている”――――それが、ネオユニヴァースが“観測”によって得た知見。雨乞を収束点として何(・)か(・)が幕を引きつつあるということを彼女は察知していた。

 

 “ネオユニヴァース”にとって、この宇宙は未知の航路だ。

 数多の可能性にて決して出現しなかったイレギュラー。た(・)っ(・)た(・)一(・)つ(・)の(・)起(・)点(・)によってあまりにも大きな皺寄せが来たまま存続した分岐点の先。

 この世界で自身の“軌道”を再び見つけ出し、“GATE”へ辿り着くのは至難かもしれない。なにせ前提条件が違い過ぎる、過(・)去(・)の(・)知(・)見(・)が通じない。

 

 知れば知るほど、理解すればするほどそれは浮き彫りになっていく。

 

「……“APTS”…………」

 

 アポトーシス。本来の意味は生物に発生する最初から規定された細胞の死。カエルにおける尾の消失や、或いは胎児における人間の指の形成。不要な細胞がプログラム通りに自死するシステム。

 雨乞という存在に対し、まず初めに抱いた印象。“何か”が終わろうとするが故に生み出された、“何かを終わらせるもの”。

 

 ネオユニヴァース、もとい“この世界のネオユニヴァース”は、理解していた。理解できてしまった。

 “GATE”を超えた先、最果てにあるものが断崖だということに。

 

「“NCRS”……」

 

 ネクローシス。本来の意味は「壊死」。肉体を構成する細胞が自らの酵素で融解したり、あるいは死した細胞そのものを指す言葉。

 雨乞は“何か”の壊死の象徴であると、“ネオユニヴァース”は認識した。

 

 剪定の手は伸びていなかったのではない。此(・)処(・)ま(・)で(・)で(・)終(・)わ(・)り(・)だ(・)と、既に線を引き終えている。そこまで枝葉が伸びた瞬間、容赦なく寸断されるだろう。

 だが、切断された上で世界は続くのだ。断たれた可能性に代わり別の可能性(えだ)が伸び、この世界の破綻はそこで修復される。全てが元通りになる。

 

 

「…………“ERROR”、“ERROR”……」

 

 ネオユニヴァースは理解していた。理解した上で、“きっとそうはならない”と信じることにした。

 だが、胸に燻る不安は消えてくれない。だから、何度も何度も呟くのだ。己が忘れてはいないか、ちゃんとその違和を認知できているか。

 

 “消失”は訪れない。“末路”も訪れない。きっと“■■”が超えさせてくれる――――その光景の先に雨(・)乞(・)慶(・)刻(・)が(・)存(・)在(・)し(・)な(・)い(・)ままに。

 

 それが、ネオユニヴァースが見た結末だった。

 

 




・ネオユニヴァースのやる気は絶好調を維持している!
・スティルインラブのやる気は絶好調を維持している!
・ヒシミラクルのやる気は下がった(プールのせい)

 ユニの抱いてる感情はめっちゃ分かりやすく言うと「教育実習生にやたら懐いた小学生」のそれですわ。
 そしてユニがやたら不安がってますがコイツ普通に踏ん張るのでそうそう忘却だの消失だのなんて結末迎えさせませんことよ。

 次回、勇者襲来
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