割れた鏡と奇跡の足音   作:何もかんもダルい

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「真に愛するなら壊せ!!」の魂に育てられたので初投稿です。

 前回感想にて理事長がやよいちゃんなのかどうかについて触れられていたのですが、「あの人もシリアスな話題の時は口癖封印することもあるっしょ」ということでこのお話では理事長はやよいちゃんということにします。ぜんぶその場の勢いでアクセル踏むのが悪いからね、仕方ないね。

なお、今更ですがパッションで書き上げて誤字脱字だけ確認してぶん投げてるので、細かいところで話の整合性が取れて無くて修正することもあるかもしれません。というか多分あります。まぁ素人の作品という事で許して亭許して。



割れた鏡と分水嶺

 ――――その日は、なんだかすごく足が軽かった。

 いつもなら周りの速さに置いていかれて、でもまぁエンジン掛からないしいっかぁってなっていたのに。

 

「もうちょっと、いけそう?」

 

 雨乞さんに唆されて、ちょっとだけやる気になってからしばらく。今日は長めにやりたいから、門限をあんまり気にしなくていい学園でトレーニングしようと思ったのだ。

 アップの長さは変わらない。皆がもう本格的に走り始めたくらいで、ようやく体があったまって。

 そこからはとんとんとん、と。台所で野菜を刻むみたいな軽いテンポと力加減で、軽々とスピードがノッていく。

 

 ここ最近、学園でトレーニングしてるときに“もう無理”がない。“辛いしいいか”が見えない。筋力がむちゃくちゃ上がった感じは無いし、スタミナは……多少は付いた感じはあるけど、劇的に上がった感じはない。

 なんというか、一歩踏み出すのに必要な力が減って、その分ちょっとだけ早く、長く走れそうな……?

 

 あぁ、あと……

 

「めちゃくちゃ言われないから、楽ぅ~」

 

 いつもだったら雨乞さんにベコべコに言われながら走らされて――――この間なんてゲロ吐かされて――――たからかな? 自分のペースでゆるーくやれるっていうのが、なんかイイ。

 

 ……それで、余裕ができた分ちょっと周りが見える。

 雨乞さんだったらどこをどう指摘するのかな、なんて考えて……偶然近くでトレーニングをしていたトップロードちゃんが目に入った。

 

 ――――やっぱり、トップロードちゃんの走り方、綺麗だなぁ。

 ――――()()()()()、ちょっと速くなったりするんかな?

 

「足をちょっと高めに、幅を持たせて、こう……」

 

 気が付いたら、走り方を真似してて。

 スピードは確かに上がった。けどやっぱり体格の差っていうものがあるから、ちょっと私には辛くて、楽になるよう調整してみる。あの人の5㎜調整しろなんて難題をひーこら言いながらやったからか、それも思ったよりは簡単にできた。

 

 走ることが楽しい。いつもの感じとは別で、何というか、自分の体で色々試せる感じ。そこまで考えて、ちらと周囲を見て……

 

「――――え?」

 

 なんだか愕然としているトップロードちゃん。なんだろ、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……と。そこまで考えて、なんだかおかしいことに気づいた。

 

「なんでそんなこと考えたんだろ?」

 

 変な顔だったのは分かる。めちゃくちゃびっくりしてた。けど、トップロードちゃんの内心を見透かしたみたいにポロっと出てきたその表現が、ものすごく引っかかる。

 でもまぁ、いっか。考えるのは後にしよう。今は――――

 

「もうちょっと、試してみよう!」

 

 なんだか、色々やってみたい気分……!

 

 

 

 

「ミラ子さ、なんか今日ちょっと変じゃなかった?」

「ほぇ?」

 

 色々試したせいでいつもよりも早くへばっちゃって、休憩挟んでからもうちょっとやろうかなぁ、なんて思って。いつもの友達に混じってクールダウンしてたら、そんな風に言われた。

 確かにちょっと色々やりたいことができて、走り込みがてらやれそうだったからっていうのはあったけど……そんなにおかしなことしてたかな?

 

「変って言われても……私はいつも通り、ふつーにやってただけだよ?」

「いやいや、割といつもと違ったけど」

「えぇ……?」 

 

 全く自覚が無かったというと嘘になるけど、そこまで言われるほど可笑しなことをしている自覚もなかった。

 でも、実際のところ、今までの私だったらちょっと思いついたからって走り方を変えてみよう、なんて思いつきすらしなかっただろう。

 

「なんか変わったことした?」

「ん~……」

「そういえば最近ちょくちょく外にトレーニングしに行ってるよね。もしかしてソレだったりする?」

「あ~! それ……かも?」

「いやちょっと自信なさげ……」

「だって、さっき言われて初めて自分がなんかおかしなことしてたかなー、ってなったくらいだし……!」

 

 確かに原因の一つではあるんだろう。でも、トレーニングの場所を変えたからって内心まで影響とかあるもんなのかな……?

 

「トレーナー……はないか。外練って言ってたし」

「うん。あ、でも最近走り見てくれてる人はいてね。その人がどえらい厳しいから……」

「あぁ~、もしかして何かアドバイス貰ったり!?」

「一人だけヒミツのトレーニングかぁ??」

「いやいやいや、そんなことしてないってぇ! ……あ、でも」

 

 ふと、一つだけ思いついた事があった。確かにアレを経験するかどうかでは自分の底がどんなものかっていうのがはっきり分かった気がするし、力の抜き方っていうの? そういうのも分かって走り方も軽くなった!

 

 

「――――とりあえず1回ゲロ吐くまで走ったからかな!」

「「「――――――――」」」

 

 ……発した後、凍り付いたトレーニング場の空気。

 口にしてからヤバいこと言ってしまったと気付いたのでした。

 

 

 

――――その日は、朝起きた時から最悪だった。

 

「頭痛ぇ……」

 

 目を覚ますよりも早く、意識が浮上しかけた瞬間から今日は幻視幻聴がひどかった。視界は全部合わせ鏡の景色みたいに半端に重なってグチャグチャで、耳はあらゆる音が出鱈目になって最悪のノイズを形成している。

 前のミラ子の時のように直感的に検知したり指向性を持って幻覚が見えたりする日は、正直コンディションとしては最良に近い。逆に今日は最悪であり、「こうだったはずだ」が鮮明に脳内で再生されて大渋滞を引き起こす。ここ最近はここまで酷くなることは無かったのだが、波らしい波もなくある日突然悪化するので対策のしようがない。

 

 ほとんど見えない聞こえない、来客があっても対応できるか怪しい。頭痛薬などの医薬品は処方されたものまで軒並み効果なし。それでも管理人として最低限の仕事はせにゃならんと可能な限りアイマスクで視界を遮ることで少しでも頭を休ませ、耳も管理人室の来客を知らせるチャイムにだけ集中して事務机に向かう。

 

「はは……俺、意外と限界近いか?」

 

 もうそろそろ死ぬんじゃないかという嫌な予感が頭を過るのを止められないが、だからといってくたばりたいなんて露ほども思わない。人生に言い訳しなきゃならん最期なんて御免だ、生まれ持った訳の分からない呪いなんぞに取り殺されてたまるか。

 そうして自身の体質を呪っていると、ふと先日の一件を思い出した。

 

「……信じてみろよ、か。何考えてんだろうな、俺」

 

 勢い余って言ってしまった一言を暇になった頭が思い出して、ふと苦笑が漏れてしまう。どの口が言っているのだろうか。何にも期待なんてしたことの無い奴がいきなり期待とか信憑性皆無にも程がある。

 

 信じられるわけがないだろう。期待なんて欠片ほどしかない。

 それこそ奇跡でも起きてこの違和感が解けない限り、俺は一生このままだ。

 

 誰かの脛を齧らなきゃ生きていけない。働くどころか娯楽を楽しむことも、怠惰に耽ることすらマトモに出来やしない。違和感まみれで頭はオーバーヒートし、いつだってじんわり体調が悪い。

 

 学生時代はそれが嫌で嫌で仕方なくて、とにかくそれを振り払おうと必死になって荒れた。

 父さんと母さんには死ぬまで迷惑を掛け続け、先日逝った爺さんに関しては弱みを作るだけ作ってしまった。その後悔は消えない。

 

 自分で得たものが何もない。そして、きっとこれからも得られない。

 

「だからかねぇ……」

 

 あのズブ娘には……ヒシミラクルには、何かを得て欲しいと思ったのかもしれない。

 普通に生まれて、普通に愛されて育って、普通に友達が出来て、普通に学校に行って、普通に進路に悩んで……俺には無かった、あるいは無くなりかけたものを全部持っている。

 

 嫉妬の類は浮かばない。あの笑顔を見ていたら、そんなのは散り散りになって消えてしまった。今はただ、アイツに笑っていてほしくて。

 普通に生まれてよかったと思える生き方をして、それでもう一度笑って欲しい。

 

「ははッ、夢でも見てんのかね、俺」

 

 笑い話だ。アイツの事を考えるとどうやっても笑えてくる。

 未成年のガキに懸想する無職の野郎なんてどうやったって犯罪者以外の何物でもない。嗚呼、何かが残るのなら犯罪者(それ)もいいかと考えて……

 

「……あん?」

 

 着信音。わざと音楽を変えていたそれで、誰が掛けてきたのかを一瞬で理解した。

 

「……はい、もしも――――」

『至急ッ! 雨乞管理人、今時間はあるか!?』

「…………ッすんません、今頭痛ヤバくて……少しだけ声量落として頂けません?」

『むッ、すまない、配慮が欠けていた……』

 

 でっかい声で頭が割れかけた。殺す気かと言いかけてギリギリ耐えて、下手くそな敬語で口を開く。

 相手は理事長、直属の上司に他ならない。脛齧りの身分として多少は真面目にしなければ。

 

「それで、至急なんスよね。何か起きたんすか?」

『うむ、体調もある、端的に行こう。君、()()()()()()()()()()()()()()()?』

「は、ぁ……?」

 

 中央トレーナー資格。それさえあれば、俺はミラ子のトレーニングを見てやることは()()できる。制度的にもレースの出走を後押しできる。期待していると抜かしたその言葉に責任を持てるようになる訳だが……

 

「一体何の心変わりっすか、アンタ俺をトレーナーとして認める訳にはいかないって言いましたよね」

『ああ、確かに言った』

「それ自体はぶっちゃけ異論ないんスよ。俺だって自分が資格取れるまでマトモだなんて思っちゃいないし、ネジ穴に規格ミスったボルト嵌めてアンテナぶっ刺してるような頭です。迷惑かけるとかそんな次元じゃ済まないはずだ」

『うむ、それも承知している』

「なら、何で……」

 

 違和感、心変わりとは何かが違う。

 違和感、直感? そこまで考え無しではない。

 違和感、理屈が確かにある。俺が今すぐ必要になった理屈が。

 

『君でなければ面倒が見れない可能性のあるウマ娘が見つかった――――そう言って、君は納得するか?』

「……何すか、それ」

 

 人を選ぶならともかく、俺でなくてはいけない奴がいる?

 まさか、俺のように“何か”を抱えたような奴が――――と、思いかけて、苦笑する。浅ましいことだが、この期に及んで俺は誰かからの承認を得たいらしい。仲間が欲しい寂しがりかよ、下らねぇ。

 ほんの僅かな考え事で沸騰しかけた頭を可能な限り落ち着けながら、なるだけ冷静に問いかける。理事長とその秘書にだけは爺さん経由で俺の『違和感』の話は行っているし、トップの権限で情報を封鎖してくれている。故に問う事自体を躊躇う理由はない。

 だが、それはそれ。まずは意思表明が先だ。正直体調が悪すぎていつまで電話を握っていられるか分からないから、質問に先に答える。

 

「まず、資格取るかっつー話っすけど、ナシで。そもそも頭がこんなんですし、裏口入学みたいな真似はしたくないです。……代わりと言っちゃ何ですけど、新人のトレーナーに俺のダチがいます。日和(ひより)って男です。そいつを代わりに立てれば何とか出来るでしょう。俺の方からも頼んでみますが、方法は任せます」

『僥倖! トレーナーにならないのは残念だが、感謝する!』

「……ま、アイツがやる気出してくれるかによりますけど……そこは何とかしますわ。そんで、その俺しか対処できないってどういう()()です?」

『うむ……』

 

 そう言って、理事長は言葉を吐くのを躊躇する。それだけ荒唐無稽なのか、あるいは説明が困難なのか。沈黙の時間が出来たことで思考が止まり、此方の気力もわずかながら回復してきたところで再び声が聞こえてくる。

 

『一人は、()()を探しているらしい。言葉遣いが独特であまり要領を得なかったが……本人なりに必死なようだ』

 

 軌道、軌道。よく分からないが、俺の“違和感”のような、既存の言葉では説明しづらいような何かだろうか。それを探しているとなると、似て非なる症状の可能性が高い。

 問題なのは言葉の頭に付けていたモノ。それはつまり手助けを欲する相手が一人ではないことを示していて――――

 

「待て待て理事長、一人はってまさか――――」

『もう一人は、己の裡に()が見えるとのことだ。こちらもまた曖昧で要領を得ん。ただ、酷く怯えていることだけは分かる』

 

 ずぐり、と。

 軌道、紅。その二つの言葉が揃った瞬間、痛みがナイフみたいに脳みそを貫いた。

 

 

 まだだ、少しだけ耐えろ、3、2、1……

 

 

「……とりあえず、俺の方から日和……友人に連絡とってみます。OK出たら、ソイツの担当ってことで送り込んでください」

『承知ッ! ……どうか頼む』

 

 どこか縋るような声色と共に通話は切れた。

 同時、我慢の糸も千切れた。

 

「―――――ッ、――――ぁ、が……!!」

 

 痛い、痛い、痛い、過去最悪の痛さが頭を突き刺すように襲ってくる。

 最悪なのはそれが間違いなく例の「違和感」だということ。

 

 違う違う違う何かがおかしい()()()()()。そうじゃないはずだ()()()()()()()()()。だってそうだろう、間違いなく何かが狂っている。

 ふざけるな、何がおかしい。現実にあるどころか見たことも聞いたことも無いだろうが。

 

 バカみたいな自問自答。理屈を蹴り飛ばした違和感を片端から否定するたびに頭の中身を抉られたように痛みが悪化する。

 

 何とか這いずって事務机からベッドまで辿り着き、五感の一切を遮るように頭から布団を被る。当然そんなことで痛みは治らない。

 

「……あぁ、くそ、ふざけてやがる……」

 

 弱音が漏れる。今すぐにでもカッターを首に突き刺して死にたいくらいだ。けど、そんなことしたらミラ子(あいつ)泣くだろうからと踏み止まる。それに何よりそんな死に様じゃこの呪いに屈したことになる。人生に言い訳はしねぇと決めただろ、腹くくれ。

 

 せめて日和に連絡を、ともう一度スマートフォンを操作しようとして……

 

NPBM(ノープロブレム)。“まかせて”をするよ」

 

 何かに触れられた。視界が万華鏡みたいで分からない。

 何を喋っているのか分からない。ノイズまみれで聞こえない。

 なにか、細く冷たい何かがそこにいる。

 

「“EMGY(エマ―ジェンシー)”、“周波数帯”のエラー。“DSCN(ディスコネクト)”、“RCNT(リコネクト)”……“再起動”するね」

 

 一瞬走った極大の激痛。そのあと、潮が引くように痛みが治まり……そのまま、意識が落ちていった。

 




雨乞のヒミツ その3
実は、大型二輪免許を持っている。

ウマ娘で学年とか実馬の世代とか気にしてたら頭こんがらがると思ってるのでそれっぽくぼかしつついこうという所存。中等部か高等部かがはっきりしてればええねん。そこ重要じゃないねんという心構え。
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