やっぱ厨二といえばバイクなとこは有ると思うんですよ。でっけぇバイクかっ飛ばす姿はいつだって男の子の憧れなんじゃないかなって。
なので本能の獣と変則レースさせました。反省はしているが後悔はしていない。ウマ娘世界が寛容な事を信じてアクタエストファーブラします。
「よう、化け物」
開口一番、どこまでも自然に出てきた悪態に自分で驚いた。放し飼いにされているのに首輪も付いていない番犬を見たような、腹の底から湧き上がる言い知れない不安感と嫌悪感、そして敵意。
今のこいつには「違和感」が無い。無さすぎる。それが該当する存在は河原の小石と同じ、要は最初から居ても居なくても変わらない。
だから検知できない、反応できない。広い川から小石を一つ欠いたところで、それを察することのできる人間がどれだけいるだろうか。
――――だが、その小石の中に潜んだ怪物は別だ。こいつは違和感の塊なんてものじゃない。文字通りの怪物、
だからだろうか。その一点が自分でも訳が分からないほどに気に障る。
「――――喰らい甲斐のなさそうな痩せ犬」
「そいつは悪かったな、未練がましく骨でもしゃぶってろや、狂犬病が」
相手も気付いたのだろう。互いへ向ける言い知れない嫌悪感と畏怖、それらの根源が
「喰っても喰っても満たされねぇなら程々で妥協しろや、みっともねぇにも程がある」
「首輪を着けられて吠え掛かるだけが誇りだと本気で思っているの? 気色悪いわね」
「おォそいつは悪かった。腹が減ってると物の分別も付かねぇんだな、勉強になったわ」
「それは此方のセリフ。満たされない飢えというモノを知らない怠慢を棚に上げられるって、とても不快」
似ているようで違う。全く異なるようで、源流が酷似している。“どうしてそこにお前が居る”という溶岩のような怒りが心情を染め上げていくのが分かる。鏡映しのようなそれに呼応するように、眼前のウマ娘の耳が限界まで絞られる。
「ガチンコでも俺は構いやしねぇんだが、ちっとばかし外聞が悪ィ。ここはお行儀よく
「――――へぇ」
威嚇するようにバイクに跨りスロットルをぶん回す。伊達にデカさを誇っちゃいないソイツは、この世界で数少ない俺の愛用品。慣らしに軽く走らせて高台の階段手前に付ける。
「ルールは簡単、学園正門に先に着いたヤツの勝ち。そんで勝った方の言う事に
「えぇ、貴方が私に喰らわれても誰も分からない、気づかない」
「獣の癖に蜘蛛みてぇな奴だな」
「そちらに言われたくないわ。猟犬の癖にスズメバチみたい」
最高時速を考えればこちらの圧勝だが、小回りは向こうの圧勝。下手をこけばショートカットであっさり追いつかれて負けかねない。つまりはイーブン、勝率五分。
「大逃げかまして大差つけてやらァ」
「ふふ、差し切って喰らってあげる」
ゲームセンターのメダルを手に乗せる。地に付いた時がスタートと暗黙の了解が敷かれた。
コインが跳ねる。紅い月光を反射して、一度、二度、三度と煌めく。
――――最後に、夜の木々を映して緑に輝いた。
「そォら行くぜぇぇぇぇッ!!!!」
「ふふ、あはは、あはハははははははハ、あっはははははははははははは!!!!」
◇
「つーわけでお前とお前が連れてきたソイツにトレーナー付くことになったから。あ、あとこいつブチ負かしてお前らと同じトレーナーに担当してもらうことになったから」
「よろしくお願いします」
「よろしく、ね」
「待って待って待って待って待って」
開口一番何言ってるんだろうこの人。いやゲロ吐いたら走るの速くなったとか言っちゃった私が言える立場でもないかもしれないんだけど何言ってるんだこの人。
ネオユニヴァースちゃんに運動場を案内して欲しいと言われ、あれよあれよと躱しきれずに連れてきたら雨乞さんがめっちゃくちゃゴツいバイクに二人乗りして中等部の子を連れてきた。負かしたってまさかバイクで? そんな大人げないことしたのこの人?
「その、報連相! トレーナーじゃなくても報連相って必要だと思うんですよ!」
「だから今報告したろ」
「もっと早い段階でするもんじゃないんですか!?」
「そんで今連絡したな。じゃあ相談だ。ミーティングすっぞ」
「アファーマティブ」
「えっと……」
「駄目だ話を聞く気がない!」
ふつーからかけ離れていく音がする。いやなんかもう雨乞さんに指導を乞うた時には足音は聞こえてたけど本格的に首根っこを掴まれている気がする……!
「安心しろって、もう粗相はさせねぇよ。粗相するギリギリはよく分かったからな」
「それはある種の死刑宣告と同義なのでは……!?」
「あ、お前のトレーナーになる人にも色々言ってあっから。心配すんな、怠けてる間一生筋肉痛になるだけだ」
「終身刑の宣告された!!!」
拝啓、お父さん、お母さん、あと凄い顔で心配してた皆、そしてすごく怖い顔で身を案じてくれたトップロードちゃん。
私はもうダメかもしれません。
「……お前たちを受け持つことになった
「よ、よろしくお願いします……!」
「“ビッグバン”……」
「はひぇ……」
現れたのはハンチング帽の男の人。声だけならなんとなくくたびれた感じのあるおじさんだったのだが、実際に顔を合わせた瞬間そんな感想は吹き飛んでいた。
(背でっか、肩幅ごっつ、胸板ヤバ、目つき怖い!!!!!!)
私自身そこまで背は小さくないと思うのだが、見上げないと視線が合わない。そして体格がヤバい。筋肉だ。筋肉の断崖絶壁みたいな人だ。それでいて顔が帽子と長髪で隠れ気味、そして頬がこけて無精髭だから圧がすんごい。“俺マキタ、口答えしたら一撃必殺”みたいな圧がものすごい勢いで滲み出ている。
横に座っている雨乞さんはといえば平常運転。なんでこの人この圧受けて笑ってられるの……!?
「安心しろって、俺のダチの先生だ。指導能力は確かだし、お前ら纏めて見てくれって話も二つ返事で了承してくれたっつう話だし」
「……スケジューリングは日和がやるという話だ。であれば俺の仕事は単に基礎能力を仕上げること、監視役も居るのなら担当と別に複数人同時でもやりようは幾らでもある」
「よ、よろしゅくおねがいしましゅ……」
一言一言の圧が怖い。目がロボみたいに赤く光ってる気がする。
耳がヘタりっぱなしだ。尻尾を足に挟みたくなってくる。横を見ればスティルインラブちゃんは泣きそうになってるし、ネオユニヴァースちゃんは……無表情だけど耳がぺっちゃんこになってる。すごく怖がってる。私の反応は普通らしい。何だか落ち着いてきた。
「お前がメンタルケアと……必要があればフォーム改善を行うという話だったが……まぁ、日和の友人だ。信用するとしよう」
「随分アイツのこと買ってるんスね」
「癖はあるが、教えられたことには素直だ。そして呑み込みも早い……俺が担当を押し付けずとも、自然と逆スカウトを受けていただろう」
「……あっそ」
聞かされた話をざっとまとめると、目の前の薪侘トレーナーが基礎トレ、日和トレーナーという人が私たちのスケジュール調整、そして雨乞さんがカウンセリングとトレーニングの監視、ついでにフォーム矯正を担う3人態勢という事だった。日和トレーナーは既に担当が居るので基本学園に缶詰で、どのレースに出たいかとかはカウンセリングついでに雨乞さんが決めていくと聞いている。
「雨乞さんってカウンセリング出来るんですか?」
「お前マジで俺の事なんだと思ってやがる」
「ゲロ吐くまで走れば悩みなんて吹っ飛ぶとか言いそうじゃないですか」
「いい度胸だなテメェ」
「あだだだだだだだ!!!」
こっちが椅子から腰を浮かすより前に背後に回られてこめかみに万力プレスを喰らう。人とウマ娘の力の差を考慮してもそこまで力は入っていないと思うのだが、何かのツボを抑えているのか上手く動けないし込めた力以上にものすごく痛い。おまけにヘッドロックの要領で首を固められて逃げられない。この人ウマ娘の制圧に慣れすぎじゃない?
「お前だってレース出たいんだろ? とりあえずはメイクデビューだが……早めにどこ行きたいか決めるのも悪くねぇだろ」
「わかりました分かりましたから痛い痛い痛い!!」
「……雨乞、話が進まん。その辺にしてやれ」
「はいよ」
ようやく解放された。指を押し当てられた部分がまだズキズキする。心配するように二人が両側からさすってくれるのがなんだか有難い。
スツールに腰かけた雨乞さんは、机に置いていた資料を検める。前に書かされたアンケートだ。自分が向いていると思う距離とか、目指したい路線とか。あくまで自分目線で書いてくれと言われたもの。
「……スティルインラブ……長ぇな、スティ子はまぁ、ティアラ路線でいいんじゃねぇの?」
「スティ子……?」
「異論はない。アンケートの結果を見ても、まぁ間違いなかろう……適性に関しても問題ない」
「ユニ子は……クラシックか? スタミナあるっぽいし鍛えりゃ長距離もいけんだろ」
「……“ニックネーム”……スフィーラ」
「そんで問題はお前だミラ子」
「は、はい……」
自覚はある。あるからこそ言葉が尻すぼみになってしまう。
「とりあえず例のズブさがあるから短距離は避けるとして、まぁ順当に中距離からの鍛えて長距離……なんだが」
「……目指したい賞が定まらない、というのは些か問題だ」
「うぅ……」
そんなこと言われても、と言いたくなってしまう。
今の今までトレーナーが付くなんて思ってもいなくて――――そりゃ付いたら嬉しいなとはずっと思ってたけど――――自分が大きなレースを目指せるなんて言われても実感が湧かなくて、どんなレースに出たいなんて言われても全然分からない。
優柔不断と言われたらその通り、今の今までゆるーくのんびりやって来たツケがここで来た気がする。
「でも、やっぱり分からないんです……他の、クリスエスちゃんやギムレットちゃんみたいに、レースで勝つことを前提にしたりなんてしたことないし……そもそも模擬レースだって10敗王手で誰が2桁先か~なんて友達と言ってたりしたくらいだし……」
「……ま、そんなもんだわな」
「比較対象が悪いと言えば悪い。良くも悪くも勝利が前提の名家、或いは強烈な我の持ち主だ。お前とは始発点が違かろう」
同情されるのが嬉しい反面、心に少しだけずきりと来る。ふつーはこんなもんだって、とかいつも通りゆるーく言えばいいはずなのに、なんだか居心地が悪くなってしまう。
「ま、兎にも角にもメイクデビュー勝たなきゃ何も始まらねぇし? ミラ子の目標は後々決めりゃいいだろ」
「距離適性から鑑みるに、そも勝ち筋のあるだろうレースがおそらくスティルインラブやネオユニヴァースより後だな。反面、それまで二人よりも長くトレーニングを積めるという利点もある」
「……」
「どした、ミラ子」
「あっ、いやぁ、特に何ともないですよ? あんまりスケジュールぎちぎちだと心臓爆発しそうですし、ゆるーくのんびりやって貰えるとありがたいなぁ、って」
「……そうか」
なんだか、苦しい。色んな感情が渦を巻いてしまう。私だって頑張りたい。レースには出たい。でも……目標がない。出たいだけで、勝ちたいというわけでもない。
そりゃあ出るからには勝ちたし、負けたいって思ってるわけじゃ決してないけど、きっとその“勝ちたい”の純度? みたいなのでいえばネオユニヴァースちゃんやスティルインラブちゃんの方がずっと上。
そうやって悩んでいるうちに、とりあえずメイクデビュー勝利を目指してそれぞれのメニューをこなそう、という結論になった。
距離適性の問題で少しずつメニューが違うが、私がもらったトレーニングメニューは他の2人よりも少しだけ余裕のあるものになっていた。普段だったら少しだけ楽出来てラッキー、とか思うはずなのに……それすらもが、なんだか悲しい。
周りの声が遠くなった気がする。そう思って顔を上げた頃には、皆運動場へ出てしまっていた。私はエンジン掛かるのが遅い分皆より早く始めてないと足並み揃わないのに……!
「早く始めないと……!」
「ミラ子」
「はい?……って、わ、っとと」
慌てて出て行こうとした私を、雨乞さんが引き留める。そのまま投げられたものをキャッチ。
手の中には、缶のにんじんジュースが収まっていた。どういうことだろうと雨乞さんに視線を戻すと、今までで一番真面目な顔でこっちを真っ直ぐ見ていた。
「慌てたってどうにもなんねぇぞ。ジタバタして解決することなんて大抵しょーもねぇことばっかだ」
「……」
「……言ったろ? 期待するから信じてみろよ、って」
「あ……」
――――お前、ちょっと羨ましいんだろ?
――――別にいいじゃねぇか。ちょっとでも欲しいって思うなら搔っ攫いに行っちまえ。
――――お前はミラクルなんだから。
嬉しかったんだ。「お前に期待してる」って言ってくれて。そんな
「雨乞さんは――――」
「あ?」
聞くのが、怖い。
でも、聞きたい。だから……!
「
「おう。ワンチャン賭けるには十分すぎる」
「ワンチャンだけなんですか!?」
「ノーチャンより億倍マシだろ? 可能性あるんだから」
「うー……」
素直じゃないなぁ、とか。もっと励ましてよ、とか。色々言いたいけど、私に期待してくれてるのが本当だって分かっただけで、今は十分だった。
「じゃぁ、ミラクル起こすために頑張ってきますね」
「おう。上しか見てねぇ連中の足掴んで来い」
「性格悪っ!?」
にんじんジュースを一息で飲み干して、ゴミ箱にシュート。
ひんやりした甘さのおかげで、変な熱さはもう無かった。
なんか思ったよりスポ根系始まりそうな気がしてちょっと安心している今日この頃。
多分油断すると設定の齟齬が出てくるので前話とかウマ娘情報サイトとにらめっこしつつの今日この頃。
サポカに友人3人編成するとかいうギリギリ狂気の沙汰みたいな育成が始まります。
気が付いたら世代全員一緒だったってマジ? 何この奇跡?