次々書きたい要素がインターセプトしてくるせいでいよいよ群像劇の様相を呈し始めた今日この頃。そろそろ諦めて5000文字制限解かないと何十話かかるかも分からんくなってきたところがあるのが怖い所ではあります。
雨乞と日和とかいうスットボケコンビが破天荒すぎて関係図が拡大し続けてるぞ???
――――初めてアイツを認識したのは、テストの成績の張り出しだったと思う。
学年1位の自信があったのに実際は2位で、俺が獲るはずだった場所には名前も知らないヤツがふんぞり返っていた。
今思えば大した誇大妄想だ。ついでに傲慢、手の付けようがない。
悔しいとか、また家で説教されるとか、色々考えてはいたけど……一番頭を占めていたのは、“こいつは一体誰なんだろう”というただの好奇心だった。
そいつは、言ってしまえば不良でチンピラだった。
学校史上最速で教師に見放されたくせに成績は頗る良く、同じ不良を纏めて引き連れて、ついでに学まで仕込んでいる訳の分からない生き物。すぐに殴るし蹴るし、事と次第によっては泣くまで叩きのめす。気は短いし後先なんて考えない、自分が納得できないならすぐに怒るし暴れる問題児。享楽主義と刹那主義の複合みたいなタチの悪い人間だった。
当時の俺はだいぶ呆けたボンボンで、そんな人間がいること自体が理解できなかった。何を考えているのかとかそれ以前に、どうしてこんな生き物が存在しているのかと考えてしまうくらいには、アイツ……雨乞は別の世界を生きていた。
「よう、お前だろ、日和家の次男坊って」
「……何の用だよ」
「俺にはねぇよ。ただ俺の親代わりのジジイが宜しく言っとけとかほざいてたってだけ」
「……あっそ。ならもう話しかけんな。バカが感染るだろ」
「おう。俺だって御免だね、お前みたいな情けないツラこいてる頭メルヘンのボンボン」
「は?」
「あ? ンだよ、キレたか?」
初対面は……まぁぶっちゃけ最悪だった。当時の俺の視点から見た雨乞は、いい所の1つもないクソ野郎でしかなかったから。そこでさらに一言目に地雷踏み抜かれたらさもありなん。今相棒やってる方が奇跡かもしれない。
話は変わるが、俺の家は何やらバカをやらかして一度没落しかけたらしい。詳しい話はよく分からんが、俺の爺さんがやらかしたんだとか何とか。
鼻水垂らして家じゅう駆けずり回るクソガキだった俺にはまるで関係のないことだと思っていたし、顔も知らない爺の後始末なんて知ったことかって思ってた。けれど、いざそういう話を何度も何度も蒸し返されると心には深く食い込んでくる。
曰く、俺は生意気らしい。親に色んな家を連れ回されて、それが気に食わないとばかりに否定や皮肉を行く先々で食らいまくって……そんな日々を過ごせば、嫌でも自己評価なんて底値を割る。
そこそこの家の次男坊、何をやらせてもだいたいできるが、そのせいでいまいち人間として魅力に欠ける男。そんな感じの評価をされて、じゃあどうすれば他人に好かれるんだとひねくれていた時分にアイツと出会ったもんだから、やけに人に好かれるアイツのことが余計に気に入らなかった。
そうして鬱屈し続けて、ある日決定的な話を聞いてしまう。
「明日にゃくたばってると思って生きてきたのに将来も彼女も考える訳ねぇだろ、馬鹿か」
ある日の夕暮れ時、路地裏で聞いたことのある声がして思わず耳を傾けてしまった。
「アタマのビョーキなんだっけお前?」
「おう、脳、神経、精神、あとはまぁ色々……全部検査して異常ねぇのに毎日頭ン中ずーっとかき回されるみてぇに痛ぇんだよ」
「うげ……それ今もっすか」
「当たり前だろ。慣れたから多少我慢利くだけで、いつも痛ぇし目はマトモに見えた試しもねぇ、耳だってスットボけてんだぞ」
「何でそのザマで学年一位獲ってんだよ……」
「あんなモン教科書読んで問題集死ぬ気でやりゃ獲れんでしょうよ」
「「「いやそれはない」」」
ケラケラと笑い合っているが冗談じゃない。愕然としたなんて言葉じゃ表現しきれない。
常に頭痛に苛まれて、視界も聴覚も狂っている。そんな状態で、まるで健常者のように振る舞って……
「……違う」
普通の学生生活を送るだけでも気が狂うだろう。いっそ引き籠れば楽だろうに、それをしたところできっと解決しなかったんだ。
だから荒れる。暴れる。せめてもの抵抗とばかりに、“どうせ明日には死んでいる”と諦めて今一時の愉快を優先する。そして、悦楽ばかりの自分すら許せないからアイツなりに筋を通そうとする。
「……ま、そういうコトっすわ。フツーの学生生活とか俺ムリだし? 学校で座ってたらそれこそイカレて身投げしたくなる」
「そうそう、コイツ俺らの矯正って名目で内申点稼ごうとしてるんスよ!? 酷くないっすか、踏み台でしょこんなの!」
「つーかお前、そんなザマなのに一応真面目に高校は目指してんのな」
「そりゃそうでしょ。明日死ぬからっつって全部が全部ぶん投げるとか、そんな人生に言い訳するようなマネしねぇっすよ。アンタら風に言うならダサいんでね」
“人生に言い訳はしない。明日死ぬのだから未練のない生き方をする”……今も続くアイツの信条的に、どうせ死ぬからを言い訳にして何もしないのは、それこそムカつくどころの騒ぎではなかったんだろう。体調やメンタルの不調が限界になるとそれすら投げ出そうとすることもあるが、それは本当に人生のどん底くらい落ち込んでるときか燃え尽きた時くらいだ。
許せない、認めないとコイツはずっと
「けッ、人を踏み台にして観る景色は綺麗なんスかねぇ?」
「おう、だからせいぜい高ーい踏み台に育ってくれや、その分俺も高い場所行けるからよ」
「面と向かって言うんスかそういうコト!?」
「やっべ、タチ悪ぃコイツ。終わってるわ」
「俺がいなきゃもっと終わってた奴らが何か言ってんなァ?」
「チクショウ否定できねぇ……!」
「――――なぁ、お前」
「……あ? ボンボンが何の用だよ」
――――――――レースって、興味ないか?
翌日、学校でアイツを見かけた時には思わず声をかけていた。アイツに、明日死ぬとかじゃなくて明日も生きていたいと思って欲しくて、その時持っていた最大の手札を切った。
訳の分からないモノを見る目というか、何やら気味悪がっている素振りすらあったが……結局、その後俺と雨乞は何度もレース観戦に赴き、なぜか不思議と友達になっていた。
それでも信条は変わらず、“明日には死んでいる”と思い続けてきたアイツが、
「何だかんだ、変なところまで縁って続くもんだなぁ……」
トレーナー室。若くして宛がわれた砦で、俺は先生を前にして黄昏ていた。
中央トレーナーの試験に落ちた後の雨乞の憔悴具合は過去最悪で、それこそ今にも飛び降りて死ぬんじゃないかとすら思えたのに、蓋を開けてみれば何やら妙なことに巻き込まれてトレーナーの真似事みたいなことをしている。
3人のウマ娘のメンタルケア……言葉で言えば簡単だ。だが、人生ただ一度きりの大勝負に挑もうという思春期真っただ中の女学生、それも現在進行形でブレ始めている精神をなるべく健全に保て……と言われたら? それも3人纏めて。
「俺だったら金積まれても勘弁してくれって言いますね、マジで」
「今後お前が直面する壁かもしれんがな」
「……」
ぐうの音も出ない。人生初の担当が鋼どころか超合金のメンタルをしているので助かっている所が多分に在る。というか……
「初担当が
「急に踏み込んできた当時は何事かと思ったが……お前には悪いが、案外よくある関係性だ。合縁奇縁こそがトレーナーの資格なのかもしれん」
「それはそれでどうなんすかね……」
ジェンティルドンナ。俺の初めての担当で、幼馴染みの間柄。とは言ってもそこそこ長い間会っておらず、学園で再会したときは大層驚いたものだ。……おかげで、雨乞とはただの腐れ縁ではなく因縁すら出来てしまったが。
「そういえば、もともとは雨乞にダンスレッスンもさせるつもりだったんですっけ?」
思い出に浸るのも大概にしないと仕事が追いつかなくなるから、雑談ついでに話題を切り替えつつ作業を進めていく。先生経由で3人の目指す路線は聞いているから、それに従っておおよそのスケジューリングを組んでいく。
「今も可能ならさせるつもりでいる。アイツの眼は有用だ。出番の多寡はともかく、今後も中央の下に就くなら経験を持っておくのは悪くなかろう」
「それは良いんすけど……」
「……懸念点でもあるのか」
ギロリと先生の視線が此方に向く。逐一肝が冷えるが、この人は普段の圧が凄まじいだけで言葉に必要以上に裏を込めるタイプではない。今のだって、単純にデメリットか何かがあるのかとこの人なりに気に掛けただけなのだろう。
「いや、アイツの負担とかじゃなくてドンちゃ……ジェンティルがですね」
「あら、私がどうかしましたの?」
噂をすれば背後に圧。振り向けば深紅の瞳の高等部、ジェンティルドンナその人が仁王立ちしていた。
「いやぁ~嵐が来そうだなぁってちょ~~っと空眺めながら思ってただけ」
「あら本当。まるで誰かが
「はは……」
もうバレてる。しかも耳ガン絞りだ。
昔からこうだった。顔も合わせたことが無い、言葉一つ交わしたことがないというのにこの二人は相性が極めて悪い。というかジェンティルの機嫌が凄まじい勢いで急降下する。
雨乞の方はまだマシだろう。アイツはアイツでキレると散歩でもするかのように人の地雷を踏み抜きまくる悪癖があるが、ギリギリ最低限のラインは超えないだけの理性がある。口だけと言われることもあるが、アイツなりに
反対にジェンティルはというと、雨乞相手にだけこの調子。名前どころか気配を匂わせただけで耳を絞り始め、酷い時には力の制御が利かなくなるくらい苛立って足を擦ることもある。思春期と成人の差なのかとも思うが、多分これドンちゃんが成人しても変わらないんだろうなぁという諦観もある。
「私のトレーナーにコナをかけるような男にどうして優しくする必要があるのかしら」
「コナて」
「そもそも横入りしたのはあの方です。
また始まった。こうなると腹の中の熱を吐き出すまで彼女は止まらない。
例の平手打ち事件、ほんの少しタイミングがズレていれば介入していたのは雨乞ではなく彼女だった。それくらいのコンマの差だったのだ。雨乞はそれに気づいていなかったらしいが、改めて状況を説明しても双方が双方へ舌打ちを繰り返す有様。本人たち曰く“その数舜が一番問題なのだ”とのこと。当事者より第三者が気にしまくってどうすんだと思わなくも無いが……それだけ大事に想われていたんだろうという事実を嬉しく思う自分が居るのが頭を悩ませる。
「お前、タラシの自覚をした方が良いぞ」
「ぶっちゃけ自覚はあるんすよ。問題は自覚したからって治るもんじゃないってことです」
「それを自覚していないというんだ……まぁ、一度痛い目を見ろ。その方がよく分かる」
「それどういう――――いたたたたたたた!!?!?」
気が付けば耳を絞りすぎて頭頂部が真っ平らになったドンちゃんが肩を掴んでいた。肉に指がめり込む音がする。ヤバい、肩が抜ける。物理的にそこだけ抉られる。
「私の話を聞いて下さらないと?」
「力加減ミスってるって痛い痛い痛い!!!」
「……失礼」
すぐさま手を放し、そのまま掌を握っては開き、握っては開きで握力を調整するドンちゃん。どうやら力を込めている自覚すらなかったらしい。普段だったら絶対しないミスだ。
……あんまり言いたくないが、雨乞が関わるとドンちゃんは平静を欠きまくる。ゴールドシップに絡まれたときも大概だが、そっちはある程度友達付き合いとしてセーブできているのに。
ちなみに先生は黙ったまま新聞に顔を埋めてしまった。犬も食わぬものを何故俺が食うとばかりの態度、どうせだったら落ち着かせるくらいしてほしかった。
「そう怒るなって、アイツだって人間なんだ、一人じゃできないこともあるんだから」
「…………別に、怒ってなどいません。適材適所、知己を頼ることを咎めるほど狭量でもありませんので」
「めちゃくちゃ間あったけど」
「怒ってません」
「ハイ」
ローファーの音を気持ち強く立てながら移動し、そのままどっかりと隣へ座るドンちゃん。普段は貴婦人なんて言われるくらい落ち着いた物腰だから、こうまで感情を剥き出して来るのが珍しくて苦笑してしまう。
「そんなにアイツのこと嫌いか」
「気に食わない、が正確ですわね。私が何を言っても虚仮にしてくるのが目に見えるので」
「違いない。君への評価は死ぬほど辛辣だからな、アイツ」
「そうではなく」
違うのか……と。
言いかけた瞬間、顔を掴まれた。
「
「そうだな。俺は君のトレーナーで、そしてアイツの相棒だ。あんまり手酷く言うと怒るからな」
「……ずるい人」
◇
「――――ッッッ」
「“
「いやァ何でも? ……なんか寒気ひでぇな」
「風邪でも引いたんじゃないですか?」
「お生憎様、病気の枠はとっくに埋まってんだわ」
「お寒いなら、上着をお貸しいたしましょうか……?」
「だからいいって。大丈夫だっつの」
日和のヒミツ
実は、雨乞とタンデムで事故りかけたことがある。
ジェンティルドンナのヒミツ
実は、恋敵がいる。
全員揃って俺はマトモだみたいな顔してるけど全員少しずつ何かがおかしい群像劇っていいよねという癖。後から笑いがジワジワやってくるのが好き。
ジェンティルのエミュレートが地味にムズくて苦戦中。口調とかおかしいかもしれませんがちょっとだけご容赦を。