おかしい……全員味方のはずなのに最終ゴールがなんかそれぞれバラバラだぞ……?
諸事情で次から投稿がちょっと遅くなるのでせめてもの練習と4人分の視点まとめて突っ込んだんですがエミュレートが超絶怒涛にムズすぎる……!
2025/9/19 ジェンティルの独白をちょっと修正。
盗られた、と。あの瞬間、頭を埋め尽くしたのはそれだけ。
何をと問われると少し困る。複合的な意味合いがあるから一つの答えにしてくれと言われても無理でしょうね。
立場を? なすべきことを? それとも、幼馴染を? どれも正解で、故に複合的なのだから。
悔しかった。強く在ることを目指し続けて、勝利のための努力、その全てを噛み締めたつもりになっていた、幼子の傲慢を見せつけられた気分になったものです。
未だ小娘と呼ばれかねない歳ではありますが、それでも生涯唯一の取り返しのつかない大敗と評していいほどに――――敗者であるという現実を心臓の奥底まで捩じ込まれたあの日。
タチが悪いのは、対外的にはこれは敗北でもなんでもないということ。そもそも競ってすらいない、私が一方的に負けたと思い込んでいるだけのこと。
これを勝利への糧とするのならば私はまだ敗北していないと虚勢を張れる。だというのに、裡では敗北したという感情が渦を巻き続ける矛盾の極致。
「私もまだまだだったということでしょうね」
敗北し続ける人間の強さというものを、私は知らなかった。
負け犬の遠吠え? 何を馬鹿な。あの声が敗者のそれであるはずがない。首に巻き付いた極太の鎖を首輪と認め、牙剥く日を待つ猟犬に他ならない。鎖から解き放たれたその瞬間に、
断言しましょう。
苦痛に膝を折り、泥の中に這いつくばり、木の根を齧ることになろうとも――――必ず、彼は起き上がる。とうにへし折れた四肢をそれでも動かして進もうとする。
レースに出ることは無い。トレーナーにもなれなかった。力も持久力もない。財力も社会的立場も覚束ない平々凡々のチンピラ風情。あらゆる面で私より、そして私のトレーナーより格下。
「それすら理解できない者に強者とは何かが分かる筈がありません」
「ドンちゃ、じゃない、
強さとは、力とは、いついかなる時も勝利するが故に強さであると。そう思っていました。
だが、
敗者であることと敗北し続けることは全く別。最後の最後に勝利を掴むまで諦めなかったのなら、それはもう勝者であり強者と認めるほかないでしょう。
とはいえ、私から5年も幼馴染を奪ったツケはきっちり払ってもらうつもりですが。
「……勝とうな、ジェンティル」
「ええ、勿論」
敗者の毒牙、何するものぞ。
真の強者は私だと、あの男に知らしめる。
……ところで。日和はいつまで私の頭を撫でているつもりなのでしょうか。
「こうしていれば少しは機嫌治るかなと」
「幼子と勘違いしないでくださりませんこと?」
「乳繰り合いなら家でやれ」
◇
――――ネオユニヴァースというウマ娘、もとい少女は聡明だ。
比喩表現や聞こえてくる己への評価に傷つくほど繊細でこそないかもしれないが、それでも彼女の中には一抹の寂しさがあったのは否定できないだろう。彼女は見える景色が常人と僅かに違うだけの少女に過ぎない。
「…………」
「……何だよ」
「“観測”……“アポトーシス”の挙動はない……『オールトの雲』、変哲のない『アステロイド』……」
「普通で悪かったなこの野郎。つーか人に向かって碌でもない比喩使うんじゃねぇよ」
「『ダークマター』……『あの日』に“ネクローシス”をしていたのは、“軌道”?」
「いつもなワケねぇだろ。毎日毎日あんなんだったらとっくの昔に頭カチ割って死んでるわ」
「スティルちゃん、何言ってるか分かる……?」
「ええと……申し訳ございません……」
初めて雨乞と出会ったあの日、ネオユニヴァースが目にしたのは
とはいえ、そんな風に見えるほどの極度の異常を来していた彼を救うことができたのはネオユニヴァースが持つ
ゆえに、分からないと言われ続けてきた自分の言葉がなんの障害もなく通じるのは全くの想定外で、予見できるはずもなかった。宇宙人のようだと言われてきた彼女にとって、こうまで言いたいことを理解してくれる相手というのはとても貴重だったのだ。
そして、それは他の二人――――スティルインラブとヒシミラクルも同様。雨乞ほど理解することは到底できないが、それでも自分の言葉を汲み取ろうと……“交信”しようとしてくれる。それがどうにも嬉しくて、しかしそれを表現する方法に彼女は乏しい。なので尻尾だけがばさばさと揺れ動く。
「ネオユニヴァースは、“軌道”を“観測”したい……『
「朝飯ならトーストにベーコンと焼いたバナナ乗っけてチョコソースぶっかけた奴だが」
「…………“エネルギー”」
「わぁ…………」
「…………じゅるり」
「……食いてぇなら朝一で来い。サボりはすんなよ」
「スフィーラ……!」
「ネオユニヴァースちゃんだけズルい!?」
「いやお前らも来たら作るぞ? カロリー爆弾だから食ったら死ぬほど走らせるが」
「わ、私も……!」
「だから来れば……って確かスティ子とユニ子は同室なんだっけ? ならどっちかが起きれりゃ大丈夫だろ。ミラ子は気合入れて起きろ」
「辛辣ぅ!!」
彼女に見えている世界と今の世界は、あまりにも乖離している。
けれど、こんな世界もいいかな、と思うくらいには気に入ってもいた。
「……『
囁くように、噛み締めるように発したその言葉。ただその一点だけは見逃してはならないと警鐘を鳴らす直感を片隅に置きながら、今日もトレーニングを積んでいく。
◇
――――疎ましい。事あるごとに、私の裡に潜む
浮かび上がるイメージはいつものような絡みつき奪おうとするそれではなく、厳めしい首輪を嵌められマズルガードまで着けられたあられもない姿。
あの夜、あの方はワタシと競い、そして勝ちました。手に入れた絶対服従の権利、いったいどのような辱めを受けるのかと怯えていたのですが……
『そいつはお前自身でもあるんだろ。ならお前がリードくらい握れや』
『えぇと……』
気が付けば、本能に嵌められた首輪から伸びるリードは私の手の中にありました。
何をしたのか、どうして勝てたのか、私が怖くないのか……聞きたいことは山のようにあります。ですが、あの方は“自分で考えてみろ”と一蹴。それ以来、あまり会話らしい会話もできておりません。
嫌われている……とは、少し違う気がします。聞けば応えてくださいますし、話しかければ言葉を返してくださります。ですが、あの方が自ら私に雑談を振る、というのは殆どありません。
ただ、傍にいるとなんだか少しだけ落ち着くような気がして……気が付けば隣に行こうとしてしまうことは多々あります。
端的に申すのなら、“よく分からない”となるのでしょうか。私を見る視線が他の方より1歩ほどズレたところから当てられているような心持がするのです。また、その視点のズレのせいなのか、私を見失うということが殆どありません。
気が付けば目を付けられていて、目を掛けられていて、いつでもどこでも見られているような気分になるのです。それを本能のワタシは凄絶なまでに嫌悪しますが、理性――――といえるほど強靭かは分かりませんが――――の私はとても安心するのです。
――――どうしてあんな痩せ犬に
――――あぁ、あぁ、疎ましい、疎ましい
――――首を絞める鎖を首輪と勘違いした狂犬風情が
響く怨嗟はどこか遠く、呑まれることが無い分鮮明で。それが、どうしてかとても寂しく思えてしまうのです。
私はワタシで、ワタシは私。あくまでも同一であって地続きであり、感じたものに対する答えがこうまで対極になるほど乖離したことはありませんでした。ゆえに初めての経験で、それに戸惑ってしまいます。
どちらも私が感じているものであったとしたら、この差は私がワタシのことを遠ざけてしまったがゆえに生じるものなのでしょうか。あるいは、
この未知の断絶を繋ぎ合わせる日が来た時――――私は、あの方を喰らうことができるのでしょうか?
◇
「スタミナはあるんだよな、マジで」
「そうですか?」
周回遅れでようやくアップが終わった頃、雨乞さんがぼやくように声をかけてくる。結局ネオユニヴァースちゃんやスティルインラブちゃんと合わせた時間でやるというのはちょっと無理があって、時間がかかってもいいから確実にメニューをこなしていく日々だ。
薪侘トレーナーにメニューを監修してもらってからというものの、着実に力が付いているような気はする。筋トレとか――――口に出すのも嫌だけど怒られるのはもっと嫌な――――プールとか、そういう学園の設備じゃないとできないことは学園でやるけれど、今まで学園内の運動場でやっていたようなトレーニングはだいたい雨乞さんのところでやるようになっていた。
今まで通りといえば今まで通り。雨乞さんから応援してもらったのが効いているのか変な焦りみたいなのはあの日以来そこまで無い。
聞けば、あそこまで表立って誰かに声援を掛けるというのはとても珍しいらしい。日和トレーナーがそう言っていた。実際二人にそこまで応援というか励ましの言葉を掛ける姿はないし、どちらかというとあしらうような雰囲気もある。
とはいえ仲が悪いのかというとそういうことでもなく。何というか、イイ感じの距離を測ったらあの距離感に落ち着いた、みたいな感じがある。
「……えへへ」
「何いきなり笑ってんだ、思春期の妄想か?」
「私のことなんだと思ってるんですか」
「センスだけは天下一品のズブ娘」
「……むぅ」
こんなことで喜ぶ私も大概チョロいなぁ、なんて思うけど。ひねくれているけど、ちゃんと私のことを褒めて調子に乗せてくれるというのがどうにも嬉しくて仕方ないのが悪い。
「センスがあるってことは磨けば光るんですもんね?」
「おう、その輝きが金銀銅のどれかは分からんがな」
「少なくとも金銀銅のどれかではあると」
「頑張って磨けば、な。オラキリキリ動け、でねぇとベーコントースト作ってやんねぇぞ」
「はぁい」
私はふつーだから、雨乞さんが言うほどセンスがあるとも思ってない。きっと強くなるのは二人の方だし、私は……どうだろ。入着出来たらラッキー通り越してミラクル、みたいな。そんなもんなんじゃないかなぁって思ってる。
最初のころは“私だけこんなにゆっくりトレーニングしてていいの?”とか思ったりもしたし、寮に帰ってもモヤモヤが取れなくて勝手に自主練したりした。薪侘トレーナーには秒でバレてすごく怒られたけど、雨乞さんは叱るようなことはしなかった。
――――お前が無理してたとか
「……思い出したらなんかムカついてきたかも」
「適当に足つくなっつってんだろミラ子ー。捻挫してぇのかー?」
「はぁーい……」
雨乞さんは口は悪いがはっきり説教とかすることはほとんどない。良くも悪くも放任主義というか、見てもらってるうちに痛い目に遭って覚えろ、みたいなところがある。
無理をしたって身には付かないし、焦ったってケガしやすくなるだけ。どう考えたって高校生が自分で考えたトレーニングよりその道で食べてきたベテランの人のメニューの方が圧倒的に磨き上げられてるんだから、信じて素直に乗ってみろ、みたいな。
当たり前のことをふつーに信じるってすごい難しいなぁ、って思うことが増えた気がする。
「スティ子とユニ子は走り込みだな。併走……じゃねぇなコレ。3周ごとに追う側追われる側切り替えろってか? んじゃ、とりあえずユニ子先頭で3周、終わったら5分休憩してスティ子が先頭。交互3セットな」
「アファーマティブ」
「はい……!」
ぽてぽてと走っていると、二人は本格的な走り込みを始めていた。やっぱり才能ある子の走りって綺麗だなぁと思う。
ネオユニヴァースちゃんは、何というか正確だ。走り方がアクセルとブレーキと変速でちゃんと作られてるみたいにブレない。障害物を避けて走るトレーニングもすごくスムーズで、たまにワープしてるんじゃないかって思うこともある。
スティルインラブちゃんは……何だろう。たまに出てくる怖い一面がないと、本当にふつーって感じの走り方。でもすごく影が薄くて、気を付けないとそこにいることを忘れそうになる。あの怖い部分が表に出てくると、影の薄さは一変して獲物を追う魔獣みたいな走り方をし始める。どっちかが本当、というよりどっちも本当なんだろうな。
――――うず、と体が反応する。
真似してみたいと、好奇心に似た何かが声を上げる。
「ダメダメ……!」
「どしたミラ子ー? なんかフォーム崩れてんぞー」
「何でもないでーす!」
最近ちょっとよく分からない感情が湧いてくるんだけど、トレーニング中は流石に困る。まずは自分のメニューをきっちり熟さないとまた怒られちゃう……!
◇
「……ん? 薪侘さんか」
今日も視界は絶不調。曇りガラスみたいな状態だが、幻聴がないだけマシ。視界不良に備えてスマホの呼び出しは一人一人別の音に変えてあるので誰からの着信かはすぐに分かった。
「はいもしもし。あいつらなら元気に走ってますけど」
「そうでなければ困る。……それは別に構わんが、お前、眼の調子はどうだ」
「眼? まぁ……良いっちゃ良いっすね。まともに見えてるんで」
「そうか。では――――少し負荷を増やすとしよう」
「うげ」
悪いとでも言っておけばよかったかと後悔する。対面して日が浅いとはいえベテラントレーナーとしてやってる以上アホな無茶ぶりはしてこないと思いたいのだが、それにしたって声の圧が強い。いつも説教か何か喰らってる気分になる。
「お前、レース後のライブは見た事はあるか」
「そりゃまぁ、何度か」
「アレの練習も必要なのは、言うまでもないな」
「そりゃそうだろうな」
やけにもったいぶるなこの人。ここまで回りくどい男だったろうか……なんて思っていたら。
「――――ダンスレッスンだ。お前が面倒を見ろ」
「――――――――はい?」
ガチャをあまり引かない無課金勢なのでストーリーは基本動画での視聴なのが辛いところ。無課金でも寄越せとか業突く張りはしないんで消費アイテム集めたら育成ストーリーだけでも見せちゃくれませんかサイゲさん……
次回、雨乞(学園に)襲来。