単発2回目でビリーヴ来ました(大困惑)
トレーナー資格について色々分かって来たので少しずつ書き直してたら結局時間だけ空けてこれまでと同じくらいの文量になった件。
やっぱりキャラ捩じ込むんだったら世界に根を張らせたいと思うんですよ。結果としてなんかすごい勢いで文字数食い散らかすのはどうなんだ雨乞お前。
とりあえず前編くらいの勢いで見てもらえると嬉しいですわね。
――――曰く、“領域”というものがある。
それはウマ娘たちが他のアスリートと同じ過集中状態に突入したときに現れる幻覚。
千差万別、原理不明。人によっては与太話と笑い飛ばす……はずなのだ。
だが、この世界では全ての人間がソレを知覚する。朧げか明瞭かの違いはあるが、確かにそこに“たった一人だけのための領域”が存在することを認識できる。
『――――ッぎ、あぁ……!!』
『雨乞!? どうしたお前、血が……!』
初めてそれを知ったのは、日和のヤツに連れられて来たレース場。
日本一の冠のうち1つを決める大舞台。
――――目視した瞬間、眼の血管が爆ぜた。
――――ターフを踏み抜く音で耳が潰れた。
――――肌で感じる圧力に触覚がショートした。
ギリギリの瀬戸際で見ていたのは、ダブって見えていたウマ娘の姿がはっきりと見えて、いいや、
それまでズレて存在していた二つの波長の音が、まるで調律されるかのように均され、重なり、そして絶大な轟音として増幅した……今の知識で無理やり例えるならそうなるだろうか。それまで無数の違和感で姿がブレて、虚像が複数重なっていた状態だったモノが一つの人間の姿へと集約された瞬間、俺の脳は耐え切れなくなった。
ことウマ娘に関して、俺の目と耳は拾う情報が多すぎる。
ミラ子に対してああも雑に接することができるのは、それだけ「違和感」が少ないからだ。ああもはっきりと相手を見ることができるのは珍しい。とはいえ常に曇りガラスを通したように輪郭が揺れているので、明瞭に人相を把握するのは少し難しいが。
ユニ子は……実を言うとミラ子よりもよく見えるのだが、同時に妙なズレを感じる。レンズのせいでブレた像をもう一枚レンズを挟むことでクリアに見えるようにしたような、そういう「違和感」が貼り付いている。
スティ子は言うまでもないだろう。普段の様子とあの狂った獣、俺には全くの別人に見えている。普段の方は違和感がなく、あまりにも鮮明に見えすぎて不気味。かと言って狂った方は人間としての認識すら難しいほどのノイズの塊と化す。声すら人語を解するだけの怪物のようで、当然此方の語気も荒くなる。
もう何人か顔見知りは居るが、どいつもこいつも正直な所名前も顔もうまく覚えている自信がない。日和が幼馴染幼馴染ドンチャンドンチャンとうるさいので例外的にどうにか名前だけ覚えたのが1人居るが、そうでもないと認識自体が困難だ。
では人間はどうなのか。こちらもまぁ似たようなものだ。ウマ娘よりマシとはいえ、常に顔がぼやけているから一人一人を覚えるのが何よりの重労働。アクセサリーや服装など特徴的なものを頼りに何とかしている。
「違和感」なんて言ってはいるが、実際のところは正体不明の幻覚症状と強迫症状のハイブリッドと言っていい。上手いこと表現する方法がないからそう呼んでいるだけの何かだ。
とはいえ、メリットも多少はある。副作用的な使い方にはなるが、逆に言えばそれら幻覚を俯瞰すれば「自分が事故らない動き方」というものが見えてくる。行き止まりを塗り潰された迷路を走るイメージであり、これさえ出来れば日常生活においてはごく普通の人間に擬態するのはそう難しくない。実際これを駆使して研修を超えて受験資格を獲ったり、バイクの免許を通過したりもした。使い勝手は悪すぎるが、嵌まれば覿面。そういうものだと思っている。
「……まぁ、理屈は通るがよ。学園で指導してみろって無茶言うぜ」
では質問だ。そんなザマが二十年以上続き、なおかつ十代前半のころはメリットの享受すら覚束ずに症状も輪をかけて酷かった人間が、他人に囲まれまくる“学校”という空間に耐えられるだろうか。
想像してみて欲しい。延々と続く片頭痛の中、目を開けている時間の7割以上を万華鏡のようにギラギラし続ける世界で過ごし、そこは工事現場の騒音を4重5重に重ねたようなノイズが響き続ける。
ありとあらゆる臭いが混濁し、そんな中でわざわざ直接体に手で触れてくる何処かの誰かが居る。ソイツは顔も声も無茶苦茶に加工されていて、痛む頭に響く声でなにやら喚きたててくる。
端的に言って、トラウマの1つだった。受験期と長期休みだけは人が比較的まばらになるからなんとか耐えることができたが、それ以外においておよそいい思い出というものが無い。いろいろ手を尽くしたとはいえ、正直高校を卒業させてもらえたのは奇跡だと思っている。恩師には本当に頭が上がらない。
「……ま、それで面接までイケてたあたり、今の理事長ってのはホントにぶっ飛んでるんだろうな」
最終的な結果は兎も角、書類選考で落とさなかったのはそれだけ人材が欲しかったのか、あるいは日和を合格で通したように固定観念をぶん投げる胆力の賜物なのか。
……まぁ、それよりも恩師の博打っぷりがちょっとばかし心配になる所はあるが。研修でライセンス受験資格が手に入るとはいえそれだって2年の期間が必要、その間単位ギリギリで補修挟んで何とかした高校生活という二足の草鞋状態、どうやって校長やらからOKもぎ取ったのかが未だに謎である。俺が何とかできたから経歴もノーダメージだったけど肝が据わりすぎていると思う。バイク免許はすまんかった。俺だって趣味の一つくらい欲しかったんだ。
閑話休題。そんなこんなで薪侘トレーナーの連絡から数日、“再履修と思って経験しておけ”ということでダンスレッスンの見学と可能なら指導(あくまで補助だが)のため学園までやってきていた。研修は基本的に体調管理とかがメインだったからダンスの方はあんまり覚えていない。当時は「違和感」の扱いもボロボロだったのでついていくのが精いっぱいだったし。
久々に乗り回せるくらいに視界が晴れていたので、スティ子の一件以来のバイクを引っ張り出して飛ばしてきたのだが……生憎と駐輪場も駐車場も知らない。どうしたもんかと悩んだ結果、せめてもの
時刻は朝の7時。指定された時間よりかなり早いが、道路が混んでくると危ないので早めに来てしまった。
「それにしても、でけぇな……」
バイクを腰掛け代わりに、眠気覚ましのコーヒーを飲み干しながら校舎を俯瞰する。俺は学校そのものがトラウマな訳だが、此処までデカいと心の傷も反応しない。というか俺の知る学校じゃない。
在校生の規模もそうだが、あらゆるトレーニングに必要な設備を全てこの敷地内に詰め込んでいるわけだからそりゃマンモス校にもなろうというもの。もはやちょっとした城とか要塞だが、年頃の女子かつそれなりの地位の子供も抱え込む以上そうなるのも妥当なのだろう。
「……ジジイの恋人も、ここに来るはずだったんだよな」
入学前に病死したという爺さんの恋人。爺さんが若いころ、或いは子供のころの学園がどんなものだったのかは想像できないが、それでもかなり大きかったのだろうなとは思う。
もしも走っていたらどうなっていたのだろうか。歴史に名を残せたのだろうか。あの偏屈な爺さんのことだ、例え彼女が結果を出したとしても変な口を利いて怒られ、真っ直ぐ褒めることは無かっただろうなというのは想像に難くなかった。同時、仮に結果を出せず終わっても傍に居続けただろうなというのも。あの人はそういう人だった。
これでも男だ。
普通に学校行って、普通に勉強して、たまに競って、それで……あぁ。
「……褒められたかったな、普通にさ」
普通になりたかった。こんな特別要らなかった。それが悔しくて独り泣いた日もあった。どうせ親父と母さんの死を止められないのなら、普通のまま絶望していたかった。
だから日和のことが羨ましくて、同時に死ぬほど嫌いだった。
人生謳歌して、勉強も運動も出来て、金持ってて友達もいて、何でも楽しめて、ついでに将来の夢なんて最高の贅沢品を見せびらかしてきやがるアイツが、心底本気でウザかった。
だからアイツを1位の座から引きずり落としてやれば少しくらいスッキリすると思って頑張った。不良に負けっぱなしで万年2位なんてふざけたレッテルが貼られればきっとスカッとするだろうからと。
だが、現実はどうだ?
もう少し残念な頭をしていればナンパの1つでもして彼女作りに必死になっていたかもしれないが、その場合日和との縁は無かったかもしれない。それはそれで自分の辿った道を踏み躙るような気がして嫌だと感じる自分がいる。
明日になれば死んでいると本気で思い込むくらいには病んでいたから、何をするにも無敵だった。
けれど、いつまでたっても死ねないから、生きることを考えて……でも結局、マトモな道を歩む方法なんてもう無いから、生きる方法にしがみ付いている。
今死んだら悔いが残るから――――歩んだ人生に言い訳したくなるから、生きている。俺の人生は最高だったと吼えながら幕を引きたいのだ。
「……ダメだな、さっきからセンチなことばっか浮かんで来らぁ」
無自覚なだけで、やはりトラウマが刺激されているのかもしれない。煙草の一本でも吸いたいが、流石に学校の前でスパスパ吸うほどイカレちゃいない。
しばらくぼんやりしていると、道の向こうからミラ子が来るのが見えた。
切り替えろ、3、2、1……ポカン、なんて。
「ようミラ子、朝早ェな。早速で悪いが駐車場か駐輪場案内してくんね?」
「雨乞さん? なんで学園に居るんですか?」
「薪侘トレーナーに言われてよ。お前らのダンスレッスン見て色々勉強しとけって言われちまったんだわ。ほれ、これ入構証」
「へぇ~……あれ、勉強ってことはこれから雨乞さんがレッスン見たり?」
「さぁな? ただまぁ、これでも天下の中央サマ直轄の管理人……ようはスタッフなワケで。出来るに越したこたァねぇってこったろ。薪侘トレーナーも毎日お前らの面倒見れるわけじゃねぇし」
「あぁ、そりゃそうですよね……トレーナーって忙しいんだなぁ」
「それこそ当たり前だろ。今のお前みたいにゆるーくのんびりなんて言ってらんねぇだろうよ」
「うへぇ……」
へらへらとしながら軽口を叩けば、大して疑う様子もなく話に乗ってくれる。その“普通”が有難くて、暖かさすら感じてくる。
競争心は否定しないが、やっぱり俺はコイツくらいの方が心地いい。レースに人生賭けてる奴らの叫びは、聞く度に尊敬すると同時にどうしてか泣きたくなる。
「えっと、駐輪場ですよね。こっちにあるんですけど……バイク入るかな」
「とりあえず突っ込んでダメだったら変えりゃいいんじゃね?こんな道端に放っぽっとく方がダメだろ」
「それもそう、かも? じゃあ案内しますね」
「おう、頼むわ」
ミラ子に案内されて、人影がまばらな校舎を進んでいく。通っているのがウマ娘が大半だからか、駐輪場自体は割とこじんまりとしていた。停めてある原付や小型バイクはおそらく学園のトレーナーの物なのだろう。泥汚れがついているあたり、これで担当と並走することもあるのだろうか?
施錠を確認して防犯もしっかりした後、正面玄関へ歩いていく。その最中にミラ子がそういえば、と口を開いた。
「でも今日のダンスレッスンって結構先だったような……」
「あー、道混んでるの嫌でよ、ちと早めに来ちまったんだわ。まーざっくり3時間はあるしどうしたもんかなとは思ってる」
「あぁ、それで黄昏てたんですね。……とはいえ私も特に用事無いんだよなぁ、朝練は曜日決めてるし」
「なら何で学校早めに来てるんだよ」
「だーれもいない教室で二度寝しちゃおっかなと」
「絶対ホームルームで寝惚ける奴だろソレ」
そうして談笑していると、何かいいことを思いついたかのようにミラ子の耳がピンと立つ。そのまま軽いステップで俺の正面へ来る。
「どうせだったら予鈴まででよければ学校の案内しましょうか? 入構証もありますし、薪侘トレーナーの関係者ですから校内歩いて回っても特に変じゃないと思うんです」
「……お前それ俺に女子高の校舎舐め回すように見ろっつってる?」
「被害妄想酷過ぎません??」
勘違いだったらしい。俺を犯罪者にしようとしているのかと思った。
「流石に際どいとこは案内できませんけど、ファン感謝祭とかで人が出入りするとことかは別にいいと思うんです。今回一度限りの来校になるってわけじゃない……ですよね?」
「多分な。理事長から呼び出し喰らうこともあるだろうし」
「ならたぶんOKですね! じゃあ行きましょう!」
正直毎回校内を案内してもらうのも困るが、それにしたってこれでいいのだろうか。普通こういうのは事務員や教員がやるもんだと思うんだが……
「ま、お前らの蹴りとか喰らったら一撃だし、考えるだけ無駄か」
「私たちのこと何だと思ってます?」
妙なやる気を出しているミラ子の邪魔をするのも何だか気が引けたので、視線がこちらから外れたのを尻目にチャットアプリで薪侘トレーナーに連絡。数秒もせずに既読が付き、日和を向かわせるという旨の連絡が届いた。迅速で有難い。
――――月並みな表現だが、この時俺は完全に失念していた。
此処が何処で、どういう生徒が所属しているのか。
そして、日和が来るということは、
雨乞いのヒミツ
実は、乗り物は静音が格好良いと思う派。
ちょっと長めに喋らせて下準備に話取らせてますが、皆画面外でトレーニングはいっぱいしてますわよ。
ちなみにメイクデビューはちゃんと全員勝たせますわ。初歩の初歩で足踏みさせても仕方ないので仕方ないね。なおスティルとジェンティルとかいう10割アドリブで決めちゃった故に衝突事故起こしてる二人。上手いことこう、イイ感じに折り合いつけないとですわ。