「烈斗、ただいま」
「…!父ちゃん!」
玄関から聞こえる声に、烈斗は飛び出した。待ちわびていた父親の帰宅に、幼い烈斗は満面の笑みを浮かべた。
玄関に立つ父がその腕に抱えていたのは、プレゼントボックスだった。
「今日はお前の誕生日だろ?だから仕事を早く切り上げてきたんだ。
こいつの中身、なんだと思う?」
プレゼントボックスをトントンと叩き、父は尋ねた。
烈斗は即答する。
「仮面セイバーの変身ベルト!!」
一瞬驚いたような表情を浮かべてから、父は笑った。
「正解だ。よくわかったな」
父はプレゼントボックスボックスを開け、烈斗はその中身を食い入るように見る。
中から出てきたのは、烈斗が大好きな特撮ヒーロー《仮面セイバー》の変身ベルトだった。
烈斗は大喜びし、早速ベルトを腰に巻いた。そんな烈斗の姿を見て、父は穏やかな笑顔を見せる。
「はは、まったく、お前くらいの年代で言ったらまだなんちゃら戦隊の方が好きなやつが多いだろうに」
烈斗は変身ベルトを腰に巻いたまま、父の方を振り返る。
「そんなことないよ!仮面セイバーが一番かっこいいもん!」
烈斗は興奮気味に言った。父はそんな息子の姿を微笑ましく思いながら、さらに続ける。
「そうかそうか。でもな、烈斗」
父の声は急に真剣なものに変わった。その変化に、烈斗は首を傾げる。
そしてそのまま膝をつき、烈斗と視線を合わせながら、父は続けた。
「ヒーローってのは、ただ強いからかっこいいんじゃないんだ。
いつだって、本当に大切なものを守るために戦っている。だからカッコイイんだ」
その言葉に、相も変わらず烈斗は頭を捻る。その様子を見て、父はまた笑う。
「はは、まぁ今のお前には難しいか。けど、いずれ理解できるときが来るさ」
父は立ち上がり、烈斗の肩をぽんと叩く。
「おとん~、ご飯できとるよ~」
奥のキッチンダイニングの扉が開き、香ばしい揚げ物の香りと共に、烈斗の姉、蘭子がやってくる。
「この香りは…ッ!」
漂う香りをスンスンと嗅ぐ烈斗と父。
「今日は烈の誕生日だし、唐揚げだよ」
父と一緒にダイニングに向かう。テーブルの上には美味しそうな唐揚げやサラダが並んでいた。
父の買ってきたホールケーキも並べ、皆でいただきますをして食事を始める。
「うっひょお~たまんねぇ!!」
「あねき!この唐揚げ最高だよっ!」
父と烈斗はまっさきに唐揚げにがっついた。
「…はぁ、烈はともかく、パパはいい歳だって言うのに、まるで小学生の舌をしてるんだから…」
しばらくして食べ終えた3人はケーキの準備を進めていた。
ロウソクに火をつけ、ハッピーバースデーの歌を歌い終わると
部屋の電気を消して烈斗にロウソクの火を消させた。
明かりを付けると目の前にはクリームを鼻に付けた烈斗と
ニヤニヤとしながらカメラを向けている父が居た。
父はカメラから目を離し、烈斗に語りかける。
「なぁ、烈斗」
「なぁに、父ちゃん」
ケーキを頬張っていた烈斗は口の中にある生クリームをゴクリと飲み込んでから聞き返した。
すると父は優しい表情をしてこういった。
「父ちゃんがいない時は、蘭子お姉ちゃんと一緒にみんなを守ってあげてくれよ」
「…!うん、おれ、父ちゃんみたいに強くりたい!仮面セイバーみたいな、ヒーローになる!」
その言葉を聞いて安堵したように笑う父。
『…が……………』
それにつられて烈斗も笑う。
『力が……………』
「よし、残りのケーキも全部食べちまおう!早いもの勝ちだぜ?」
『力が…いか……』
「パパ、まったく、どんだけ食べるつもり?」
『力が欲しいか?』
…
……
………
「力が欲しいか?」
夢から覚めた烈斗の目にまず飛び込んできたのは、謎のピンク色をしたもじゃもじゃの生物が
鼻先まで接近して語りかけてくる光景だった。
「どわぁぁぁぁぁぁぁあっっ!!!???」
驚愕のあまり横転する。
立ち上がろうとするが、うまく手足を動かせないことに気付く。
よく見ると、手錠と足枷を付けられている。昔ヤンチャしてた烈斗ですら見たこともないくらい、頑丈なものだ。
「……いやいやいやいや待て待て待て!」
そんなことはさておき、何より目の前にいる生命体の存在感が尋常ではない。
ピンク色をした巨大なもじゃもじゃのボディに、ぎょろりとした目玉二つと、動物のようなマズル。
なんでか知らないが、桜柄が入っている。ほんとになんでか知らないが。
「い、いや、テメェ何者だよ!!」
生命体という言うにはあまりにも珍妙なそれは、烈斗の焦る様子を意に介さず、静かに語りかける。
「何って…しがないアフロウサギだが…?」
アフロウサギだが…?じゃないんだよ、アフロウサギってなんだよ。
あたかも常識の如く、さも当然のことですが?みたいな感じで喋ってるんじゃない。
「どうした青年よ。君は確かに『強くりたい』と言ったはずだが」
「んなこと言った覚えは……!!」
さっきまで見ていた夢のせいで、何か寝言を言ってしまったのだろうか?
せっかく幼き日の幸せな記憶を夢で見ていたというのに、目が覚めたらこんな状況。
余韻もへったくれもない。俺の情緒はおかしくなってしまいそうだ。
「だから、私が力を授けてやろうと言うのだ
理不尽を跳ね飛ばすための力を、逆境を乗り越えるための力を!」
考えても考えても、アフロウサギとやらの顔が脳裏に焼き付いたせいで思考がまとまらない。
確かに今の状況をどうにかするための力がほしいにはほしいが、話に乗るとロクでもないことになりそうなことは明白だ。
…いや、力ならあるじゃないか。こんなやつ超能力を活かして殴り飛ばしてやればいい。
「魔愚南………ッ!?」
烈斗はいつものように能力を発現しようとしたが…炎が出ない。
どうなっている?自分の超能力が使えなくなってしまうなんて、今までの人生で初めての経験だ。
「安心したまえ、コズミック・アフロパワーは君の脳に直接流し込む」
脳に直接流し込むというワードを聞いてどう安心しろと?
まずい、このままでは得体の知れない何かが頭の中に流し込まれる。
しかし抵抗を試みるも、恐ろしく頑丈な拘束具で自由に身動きもとれず、能力も使えない。
「や…やめろ…来るな…来るなァァァァァァァッ!!」
「ゴォッ!?」
いきなりアフロウサギが壊れかけのおもちゃのような音を立てたと思いきや、白目をむいて地に伏せた。
倒れたアフロウサギの後ろから人の姿があらわになる。
「ハロー、お兄さん」
巫女装束の女性。金髪のポニーテール。手に持っているのは…鞘に収まっている刀だろうか。おびただしい数の御札が張られている。
どうやら、アフロウサギを背後から鞘に収めた刀で思い切りぶん殴ったようだった。
「ごめんね~?ウチのペットが粗相しちゃって」
ペット?今ペットと言ったかこの女は。この常軌を逸した生命体を飼うなんて何者なのだこの人は。
「見知らぬ人をみかけちゃって、どうもテンションがあがっちゃったみたい。あとで片づけておくから安心してね」
ウチの犬がはしゃいじゃってごめんなさいみたいなニュアンスで言っている。
本当にペットとして飼っているようだ…可愛がっているかは別として。
「っとと、まずは自己紹介からだね」
そう言うと気絶して倒れるアフロウサギに椅子代わりにするように乗っかる。
これ以上粗相させないためだろうか、容赦ない。
「私は凛、太刀花凛。妹が世話になったね、覚えてる?」
妹…?アフロウサギの衝撃で、今自身が置かれている状況に至った経緯を思い出すことを、烈斗はすっかり忘れていた。
烈斗はゆっくり思い出す。思い出せる一番新しい記憶は、メガネの男と和装の少女。
そういえば和装の少女が太刀花という名前を使っていた、あの子が彼女の言う妹か。
そこから連鎖的に、時系列を遡るように記憶が自然と戻る。
見知らぬ街並み。巨大な穴。ガスマスクの男。黒猫の少女…。
「はっ、あいつは…!俺が背負ってたガキは無事なのか!?」
「ちょっ!?開口一番他人の心配?…まぁ無事だけど」
それを聞いて烈斗は安堵する。
「あの子、お兄さんの家族か何か?」
「いや、ぶっちゃけ一緒に巻き込まれたただの他人っちゃ他人なんだが…、死なれちゃ寝覚めが悪いからな…」
「ま、それもそうね……ただちょっと、お兄さんよりVS能力が高くないみたいで、回復に時間がかかっちゃってるけど…」
「VS能力…?」
聞き慣れないワードに烈斗は疑問符を浮かべる。
だが、そんなことよりも。現時点で、肝心なことが判明していない。
そもそもここはどこで、俺はどうして捕まっているのか。
そんな烈斗の不安を察したのか、凛は話し始めた。
「その様子を見るに本当にただ巻き込まれたってだけみたいね…
ざっくりしか説明できないけど、VS能力ってのはいわゆる異世界に対する適性みたいなものね」
「はぁ?異世界?」
「そ、異世界。ここは《中央世界(カノニカル)》。お兄さんたちの住む《世界》とは、別の《世界》だよ。」
「……」
異世界と言われて、はいそうですかと信じられる者は少ないだろう。さっきまで普通の日常を送っていたのだ。
それがいきなりこんなよくわからない場所に閉じ込められて、訳の分からないことばかり言われている。
そもそも異世界ならば、どうして言葉が通じてコミュニケーションができている?
「こうやって異世界人同士がお話ができるのも、VS能力の一種らしいよ」
内に生じた疑問を見透かすように、凛がすかさず補足する。
なんでもありだろ、VS能力…。
しかし、冷静に状況を鑑みれば、今いる場所が異世界だと裏付けるものもある。
セントラルシティとはまるで違う街並み。人が身につけている服装の違い。凛が椅子代わりにしている珍妙な生物。
まだ手の込んだドッキリなんじゃないかという気持ちもあるが、芸能人でもなんでもない自分をドッキリにかける理由もないし。
頭が痛くなる話ではあるが、烈斗はその話を一旦飲み込んでみることにした。
「というか、まだお兄さんの名前聞いてないんだけど?あたし自己紹介したよ?」
「あ、ああ、悪ぃ…俺は葛城烈斗。呼び方は好きにしてくれや」
「烈斗さんね、りょーかい!覚えておくよ」
「つか、聞きてぇことは山ほどあるんだが…まずまず俺は元の《世界》とやらに帰れるのか?」
「う~ん、それについては…」
「そこから先は、僕の方から説明しよう」
「……!?」
声が聞こえた方を振り向くと、トレンチコートに身をつつんだ初老の男性がそこにいた。
烈斗にとって初老の男の顔は見覚えがあった。
「お、おやっさん!?」
「久しぶりだね、烈斗君。手錠をかけられた君に出会うのは、これで何度目だろうね?」
かつて烈斗が不良集団のヘッドだったころ、何度もお世話になった刑事、堂本倫太郎だった。
「お疲れ様です、堂本監査官。」
凛が倫太郎に向かって、敬意を込めた挨拶をする。
見知った顔が、異世界人と呼ぶべきであろう女性に声をかけられる光景。
そして警察組織に関係していた人物が、「監査官」という聞き慣れない単語で呼ばれていることに、烈斗は混乱した。
「凛君、ありがとう、後は下がってもらっていいよ」
「いえいえ、私は妹の礼をしたかっただけですので、それでは~!ほら行くよ、アフロ」
凛はなおも気絶しているアフロウサギを引きずりながら、この場を去って行った。
「事情についてはだいたい把握しているよ、災難だったね?」
「あぁ…まさか異世界なんかにたどり着いちまうとはな、まだ信じられねェが…」
「…ふむ」
倫太郎は、拘束されているにも関わらず、思ったより落ち着きのある烈斗の様子を見て少し意外そうな表情を見せる。
「僕が来たら、質問攻めにあいそうだと思っていたが、意外と落ち着いているね」
「そりゃ聞きたいことは山ほどあるけど、とりあえず『そういうものだ』って考えねェと、キリがねェからな
それに、こうやって手錠をかけられることには慣れてるし」
その様子を見て倫太郎は微笑む。
「まぁ、元法の番人として、手錠をかけられることには慣れてほしくはなかったけれども、
それでも烈斗君はだいぶ大人になったね」
「チッ、だから保護者ヅラすんのやめろっての…」
烈斗は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
倫太郎の烈斗を見る目は暖かく、どこか子の成長を見守る親のようであった。
「さて、本題に入ろうか」
倫太郎は真剣な表情を切り替えて、話を切り出す。
「結論から言うと、烈斗君は元の世界に戻れるよ、君と一緒だった女の子もね。
ソニドリ君と藍君…烈斗君が加勢したあの二人が働きかけてくれたおかげで、事がスムーズに進んでいるんだ」
藍君っていうのは、さっきの凛の言ってた妹のことだろう。
そして、メガネの男がソニドリ……確か、あの二人自身もそう名乗っていた気がする。
「ただ、それでもちょっと時間がかかりそうなんだ。
今、《中央世界(カノニカル)》と僕たちが住んでいる世界…《超常能力世界(サイキックワールド)》との間に、
ちょっとどころじゃないトラブルが起きててね…君を襲ったというガスマスク男も、大いに関係している話だ。
そのせいもあって、烈斗君も厳しく拘束せざるを得なかったんだ」
《超常能力世界(サイキックワールド)》。烈斗にとっては全く聞き馴染みのない単語だが、
どうやら他の《世界》から見たとき、俺が住んでいる《世界》そう呼ばれているらしい。
「トラブル?」
「その辺は詳しく説明した方が良いんだろうけど…こちらも守秘義務があってね、部外者である君においそれと全てを説明するわけにもいかないんだ。
で、それを踏まえて、ちょっと提案したいことがあるんだけれど」
倫太郎は懐から一枚のポスターを取り出し、ひろげて烈斗に見せる。
「な…なんじゃこりゃ…防衛星隊キズナゲイザー VS 祭高戦隊マツルンジャー with 魔法少女アクト……??」
倫太郎が取り出したのは特撮ものの映画のポスターのようだった。だがしかし、烈斗にとっては見たことのない作品だ。
この《中央世界(カノニカル)》で作られた映画だろうか…?なぜこんなものを突然出してきたのか。烈斗は困惑する。
「ふふ、烈斗君も、こういう特撮もの好きだったって、親父さんから聞いているよ
…っと、本題はそこじゃなくてね…」
倫太郎はポスターの端に書かれてある文章を指差す。
『ダーザイン 新人バースセイバー募集』
「烈斗君、君もバースセイバーにならないかい?」
…
……
………
「さっきも言ったけど、身柄の解放までしばらく時間がかかるから、それまで考えてもらえると嬉しいな」
そう言いつつ、自分のやるべきことがあるからと倫太郎は去って行った。
部屋にひとり残された烈斗は、倫太郎の提案について考えていた。
『バースセイバー。人知れず《世界》を超えて《世界》を護る、そのために戦う人たちのことだよ。
烈斗君が出会った、藍君、ソニドリ君。さっき君と話していた凛君にアフロウサギ君。
そして、このポスターに映るヒーローたちまでもが、皆バースセイバーだよ』
『なっ…!?』
『ふふ、驚くよね』
『…そのバースセイバーってのは、まるでヒーローみたいなものなんだな。で、それが、俺に?』
『うん、幸運なことに烈斗君にはVS能力がそなわっているみたいだしね。
君を襲ったというガスマスク男に一矢報いたいとは思わないかね?
《世界》の外から、《超常能力世界(サイキックワールド)》を取り巻く陰謀に一石を投じたいと思わないかね?
当然危険は伴うものの、人足で稼ぐよりもはるかに高給だし、そういう意味でも烈斗君にとっても悪い話じゃないと思うんだよね』
『おやっさん、仕事の斡旋は確かに助かるけどよ、到底俺みたいなチンピラに勤まるもんじゃないとは思うけどな…それに』
『それに?』
『もう自分の正義のために戦うことはやめたんだ、自分の信じる道を突き進んだ結果に待ち受けてたのが、"あの始末"だ。
俺は、何も変えられなかったどころか、俺を信じてついてきてくれた奴らさえ不幸にしちまった』
『…君が不良として暴れてた頃の話かね?』
『そうだ。だから、等身大のただの人間として、まっとうに生きていくしかねぇんだよ』
『ふふ、烈斗君の成長を見守ってきた大人として、まっとうに生きていくという言葉が聞けて嬉しい限りではあるんだけどね。
でも道を間違えてしまうことが不安と言うならば、ここは大いな学びの場でもあるよ。
《世界》も違えば文化も考え方も価値観も違ってくる、どんな組織よりも多角的な視点を持っている。
ならば、自分の気づかぬ視点から、新たな道も開けてくるかもしれない』
『……』
『あとは…そうだね、うん、これは交渉材料としては”反則級”ではあるんだけど、一応話しておこうか』
『なんだよ、もったいぶりやがって』
『君の父も、かつてはバースセイバーだったんだ』
『…は!?親父ただの刑事じゃ!?』
『僕と、烈斗君の父、そしてあともう1人の3人で、かつては刑事とバースセイバーの二足の草鞋を履いていたんだ。
烈斗のお父さんのルーツ、知りたくないかい?』
烈斗の父、葛城郷太は正義感の強い刑事であったと、烈斗は聞いていた。
父子家庭でありながら、自分と姉に対する家族サービスも欠かさず、まさに烈斗にとって誇りとなる父親であった。
しかし、父は死んだ。
正義のヒーローが負けるはずない。そんな子供の幻想もむなしく散り、
幼心ながらも、烈斗は世界を呪った。恨んだ。
烈斗にとって父の死は受け入れ難い現実であったが、それでも彼は生き続けなければならなかった。
その過程で父への憧憬は憧れとなり、憧れは信念となった。
父が死んだ原因は、はっきりしなかった。
犯罪能力者との戦闘で殉職したと伝えられたが、烈斗が大きくなってもそれ以上の情報を知ることができず、
まるで社会そのものが烈斗の父の存在は消し去ろうとしているようだった。
消されかけた、父がたどった旅路(ルーツ)…その真相を知ることができるかもしれない。
「どうすりゃあいいって言うんだよ…」
稼ぎのため、学びのため、自分が巻き込まれた因縁と真相を求めるため、バースセイバーになるという選択肢は間違いなく正しいものに思えた。
しかし、それでも烈斗は答えを出せずにいた。ヒーローに対する強いコンプレックスと自分の道を突き進むという事への躊躇いが、烈斗の判断を鈍らせていた。
「あの、すみません」「やっ」
尽きぬ悩みに頭を抱えていると、聞き覚えのある声、藍とソニドリだった。
「お前ら…」
…
……
………
烈斗と藍、ソニドリは改めて互いに自己紹介をした。
「助けてもらったのにこんなことになってしまって…本当になんと言えばいいか」
藍が申し訳なさそうに謝罪する。
「まぁ、気にすんなよ、仕方のなかったことみたいだしよ」
「僕らも、上層部に働きかけてみるから、おそらく明日には身柄を解放してもらえるはずだよ。
…ところで、踏み入っていい話なのか知らないけれども、何か悩み事があるみたいだね?
助けてくれたことへの感謝と、今の境遇への謝罪も込めて、僕たちに手伝えることがあれば言ってほしい」
「……はぁ、実はよ……」
烈斗は倫太郎からバースセイバーの勧誘を受けたこと。そしてその提案に魅力的に思いながらも踏み出せずにいることを包み隠さず打ち明けた。
悩んでいることこそあれど、それを2人に話すのは何故だか抵抗を感じなかった。
ソニドリと藍は神妙な面持ちで烈斗の話を聞いていた。
「あの、烈斗さんのお父様についてですが…話を聞いたことがあります」
ひとしきり話を聞き終わると、藍が口を開く。
「それは本当か!?」
「はい。といっても、烈斗さんのお父様の死因など、核心的な内容ではないのですが…
私の母もバースセイバーでして、母から"葛城"という名を聞いたことがあります。
…なんでも、ある《世界》の小さな村を守るためにその身ひとつでエルダードラゴンと戦い勝利した、とても勇敢な方だったと…」
藍の話は終始淡々としたものであったが、烈斗にとって衝撃的な話でもあった。
父は本当に凄い人だった。そう感じさせるエピソードが明らかになりつつあった。
自分の知らない《世界》であっても、父は、幼き日に感じた憧れの存在そのままであったと、
『ヒーローってのは、ただ強いからかっこいいんじゃないんだ。
いつだって、本当に大切なものを守るために戦っている。だからカッコイイんだ』
それを知った瞬間、烈斗は涙した。
「~~~~ッ!」
「れ、烈斗さん!?」
泣きじゃくる烈斗を前に、藍は動揺した。
「親父は…ッ!やっぱり、ヒーローだったんだなって…そう思うとよ、くっ…すまねぇ…」
「…烈斗君は、迷わず自分の心のままに進めばいいと思うよ」
唐突にソニドリが口を開く。
「僕も、かつては家族の中に憧れている人がいたんだ。その人も故人なんだけどね、
自分の身をどんなに犠牲にしてまでも、人々を守るために戦う人だった。
今はその足跡追って戦いに身を投じている、たとえ同じ運命を辿ることになったとしても…後悔はないつもりだよ。
だから烈斗君にも、後悔のない選択肢を取ってほしいな」
「そうか…アンタは、乗り越えて…そして決意したんだな
…後悔のない選択肢、そうだな…」
烈斗はうつむき思考すると、次の瞬間には瞳に決意が宿っていた。
「答えは…決まったみたいだね」
「ええ、そのようですね」
…
……
………
藍とソニドリに相談に乗ってもらってから、丸一日経った頃、倫太郎がその手に鍵を持って姿を現す。
そのまま倫太郎は烈斗に装着された拘束具のロックを次々に外す。ようやく烈斗は自由の身となった。
「さて、答えを聞かせてもらえるかな?」
「…やってやる、やってやろうじゃねぇか、バースセイバー!!」