バースセイバー:Episode烈斗 胎動篇     作:LANK

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Episode3:Far From Home(前編)

~《中央世界(カノニカル)》 ヤマト皇国標準時刻 PM10:00~

 

夜の静寂を裂くように、いくつものローター音が響き渡る。

ヤマト皇国の高層ビル群の間を縫うように、ダーザインの紋章が刻まれたヘリが飛行している。

ヘリに搭載された強力なサーチライトは、地上を這う不届き者5名を照らし出している。

 

「あ~、あ~、そこの界賊どもに告ぐ~、ただちに武器を捨てて投降しなさ~い」

 

ヘリの拡声器から、まるでやる気を感じられない気だるげな警告が響く。

が、武装はいつでも発射可能であり、その気になればただちに木端微塵にできる状態だった。

 

「くそっ…!!楽な運びの仕事だって聞いていたのに!!」

「バースセイバーども…早すぎる!!」

 

界賊はこの窮地に焦っている様子だが、一向に武装を解除しようとしない。

 

「はぁ…こいつら全然諦めてくれないよ~、もうヘリからミサイルぶっぱして終わりでいーんじゃない?」

 

拡声器の声の主、小柄な少女のような体躯をした女性、ヤサカ・ヤヤが駄々をこね始める。

 

「いや、さすがにそういうわけにはいかんでしょうが!情報も聞き出したいし、なんとか生かして捕えましょう。

しかし、ここまで諦めが悪いとなると、雇い主から相当高額な報酬を約束されているのかもしれねェな」

 

ヤサカのとなりで、腕組をしている強面な革ジャン男、月代立夏が頭を悩ませている。

 

「…あるいはその逆、しくじれば自分や家族の死が待っているのかもしれません。

その場合、追い詰めた敵は何をするかわかりません。早急に制圧する必要があるでしょう。」

 

立夏のさらに隣で白石百合子が冷静に分析する。

 

「ウチの"暴れん坊将軍"に指示出せば一瞬だろうけど、あいつら間違いなくひき肉になっちゃうだろうね

何か手はあるのかい?白石隊長。」

 

ヤサカが百合子に問いかける。

 

「はい、策は用意しています。まず私の隊の者が一瞬彼らの気を引きます、そこに別の隊による総攻撃を仕掛けていただきたいです。」

「お、それなら攻撃役はうちのメンツに任せておけ」

 

立夏が自信満々に胸を叩く。

 

「決まりですね。エリゼ、今の話聞いていたでしょ?」

『だいたいわかったわ、まー任せとき』

 

百合子のインカムを通して会話を聞いていたエリゼが快諾する。

 

「では始めましょう、皆さん準備お願いします。」

 

…

……

………

 

「クソッ…!バースセイバーどもめ!!ここで捕まっちまうくらいなら!!」

 

リーダー格と思われる界賊が、ベストの内側をさらけ出す。体に巻き付けられた無数の爆薬。

自爆するつもりだ。

 

「あいつらマジか!?」

 

立夏が焦るのも当然、爆発の被害もさることならがら、異なる《世界》の《法則》でつくられた爆弾が炸裂することで、

周囲一帯に甚大な《感染》被害をもたらす危険性があったからだ。

 

「はっはっは!!俺たちを舐めた報いだ!!」

 

勝ち誇ったように笑う界賊たち。しかし、

 

「はいはい、そこまでよ~」

 

手をパンパンと2回叩く音。

 

「カンタンに命を投げ出す行為なんて、この『虹の聖女』サマが許すわけないでしょー?」

 

界賊たちにゆっくりと歩み寄る女性の姿、エリゼだ。

界賊たちは一斉に銃口をエリゼに向ける。

 

「…ッ!来るんじゃねぇ!この爆弾が見えねぇのか!!」

 

視線は集められたけど、まだ足りない。

いくら注目を集めたからと言って、起爆装置のスイッチを押されてしまえばそれでオシマイだ。

 

エリゼは真剣な表情で両手を胸の前で組み、祈りの姿勢を取る。

すると彼女の背後に巨大な魔法陣のような紋様が浮かび上がる。

 

「なっ…なんだあれは!?」

「もう無駄よ、あなたの爆弾は無効化したわ」

「…!?」

 

リーダー格の界賊が、本当に爆弾が無力化されたかどうか確認しようとした、その時

エリゼが不敵に笑う。

 

「騙されたわね?」

 

「今だ、祭高戦隊行け!!」

「応ッ!!!」

 

立夏の号令で付近で待機していたマツルンジャーたちが飛び出す。

 

「一番槍!!派手にぶち上げるぜぇ!!」

 

マツリレッド、花宮舞斗がリーダー格の界賊に対して先手を打つ。

力を込めた拳を突き上げ、相手を空中へと飛ばす。

そのままリーダー格の界賊は地面に叩きつけられ、その衝撃で手から起爆装置を落とす。

 

「テメェ!!」

 

他の界賊たちがリーダーのフォローに入ろうと、マツリレッドに群がる。

 

「続け!!ブルー!!イエロー!!ホワイト!!グリーン!!」

 

マツリレッドの合図と共に、他の4人も動き出す。

それぞれが得意とする技を次々と放っていく。瞬く間に残る4人の界賊も地面に倒れていく。

 

「くそっ、あの女…ハッタリだったか…!」

 

リーダー格の界賊が悔しげに呟く。

 

「ま、人を騙すのがアタシの本分だしね、この魔法陣はプロジェクターで適当に投影しただけだから

当然何の効果もないけど、案外うまくいくもんでしょ」

 

得意げにエリゼは語る。

 

「おお~さすがの手腕だね、アルコイリスも祭高戦隊たちも。おかげで楽できましたわ~」

 

ヤサカは満足げに、どこからともなく取り出したチュッパ○ャプスを舐め始める。

 

「まぁ、なんとかなったってのはいいんだけどよ…」

「おや?立夏隊長は何か言いたげだね」

「どうかしましたか?立夏隊長」

 

「なんでおまえら…水着なんだ???」

 

「「バカンスの途中で緊急招集されました」」

 

「それは難儀だったな…」

 

…

……

………

 

『くそっ、こちら部隊xxx、界賊を何名かとり逃した

奴ら、練度が低いが、死を恐れないからかなり厄介だ…』

 

同時に他の界賊たちを追っていた別動隊の無線が入る。どうやら追跡を振り切られてしまったようだった。

やはりこの界賊たちは決死の覚悟で依頼をこなしている様子だ。

 

「あ~あ、こりゃあ向こうの部隊は始末書だね、倫太郎おじの監査厳しいぞ~?」

 

ヤサカが煽るように言う。対して立夏と百合子は神妙な面持ちで話し込む。

 

「アイツらが運んでいたという物品、中身を確認してみるか」

「はい、ブービートラップの類は仕掛けられてないようですので、早速開けてみましょう」

 

界賊のリーダー格が大事そうに持っていたアタッシュケースを開く。

 

「こいつは…!?」

 

中に入っていたのはぎっちり詰められたクマのぬいぐるみだった。

 

「クマのぬいぐるみ…!?なんでこんなものをアイツらは必死に運んでいたんだ…?」

「…中身に何かを隠しているわけでもなさそうです。正真正銘、ただのぬいぐるみです」

 

「…これは、一本取られたようだね」

 

ヤサカが口をへの字にしてため息を吐く。

 

「中身を確認するに、この界賊たちはただ囮として利用されただけだろうね…おそらく、本命は別にある」

 

…

……

………

 

~《中央世界(カノニカル)》 ヤマト皇国標準時刻 AM11:00~

 

バースセイバーになることを希望した烈斗は、あれからトントン拍子で事が運んで行った。

倫太郎の手引きによって、あらかたの内部手続きが済まされている状態であったのだ。

烈斗が最初からバースセイバーになる選択肢を取ることを知っていたかのように。

散々悩みに悩んだうえでバースセイバーになることを決意した烈斗にとって、不愉快だった。

 

あれから多くの基礎知識を倫太郎より叩き込まれた。

《世界》とそれを繋ぐ《路》のこと。《法則》とVS能力のこと。《穴》と《現象体》と《感染》のこと。

元より勉強が不得意であった烈斗にとって、この情報量は少々厳しいところがあったが、

倫太郎が懇切丁寧に教えてくれたおかげでなんとか理解することが出来た。

 

今烈斗は、倫太郎から地図で指定された場所に向かっている。今後の活動拠点だという。

 

「純喫茶ピララ…おやっさんが指定した場所ってここだよな?」

 

少し古びた雑居ビル。見上げるとそこには純喫茶ピララと看板が掲げられている。

もっと事務所のような場所を想像していたが、そのような場所が見当たらず困惑する。

ここで本当にあっているのか?倫太郎に連絡を取って再度確認しようとしたとき、喫茶店の扉がひらく。

 

「やぁ烈斗君、ここまでご苦労だったね。さぁ内に入ってくれ」

 

出てきたのは倫太郎だった。

 

「…まさかこの喫茶店が拠点…??」

 

店内に案内されると、そこは落ち着いた空間となっていた。

 

レコードから流れるジャズピアノの柔らかい音色。アンティーク調の家具の上に置かれた観葉植物。

窓辺には小さなガジュマルが植えられており、日光を浴びて気持ちよさそうに葉を輝かせている。

そして何よりカウンター越しに見える奥の棚に並べられたコーヒーカップたちが美しく輝いていた。

 

「どうだい?なかなかいい雰囲気のお店だろう?なんてったって僕が経営している喫茶店だからね」

 

そう言って誇らしげに鼻を鳴らす倫太郎。

 

「最近、セントラルシティでおやっさんに会わないなんて思ったら、バースセイバーに加えてこんなことやってたなんてな…」

…にしても、客足が少ねェな…」

 

こだわり抜かれた空間コーディネートで、老若男女問わず人気が出そうな雰囲気をしているが、

それとは裏腹に、もうそろそろお昼時だというのに店内には客が一人しかおらず、閑古鳥が鳴いている様子だった。

 

「いやぁ、僕の理想としては、ここを多くのバースセイバーに利用してもらいたいのだけど、なかなかうまくいかなくてね…

そこ点についても、烈斗君の力に期待していきたいところだ」

「は!?」

 

倫太郎は、喫茶店の経営についてこれから頑張ってくれと、期待するような物言いをする。

当然そんなことを聞かされていない烈斗は驚く。

 

「…いやいや、俺はバースセイバーになると言ったんだが?なんで喫茶店の手伝いなんかしなきゃいけねぇんだよ」

「バースセイバーも常に戦場で体を張っているわけではないからね、非番のときはウチで手伝ってくれれば

その分さらにバイト代で君の懐も潤うことことだ。どうだい、悪くない話だろう?」

「報酬の問題じゃなくてだな…」

「ああそうだ、お昼だしお腹が空いてるだろう?喫茶店だし軽食も用意しようか、少し待ちたまえ」

 

烈斗の反論を受け流すように倫太郎は店の厨房に入っていく。どうやら彼は料理にも自信があるらしい。

しばらくすると、厨房から倫太郎が皿を持って出てきた。

 

テーブルの上に置かれたのはホットサンド。シンプルなものだったが、香ばしい匂いが食欲を刺激してくる。

横にはカップに入ったアイスコーヒーもセットになっている。

……正直めちゃくちゃ美味そうだな。心の中で思いつつも口には出さず、ホットサンドを一口食べた。

 

「マッズ!!!!!」

 

口に広がる味は見た目の美しさからは想像もつかないほど酷いものだった。

味蕾が痺れるような辛味と、口の中全体にまとわりつくような甘みが混在しており、脳が混乱してしまう。

よく言えば奇抜。悪く言えば単に不味いだけの食べ物である。

 

烈斗は口直しのためにアイスコーヒーを飲む。

 

「シッブ!!!!!!」

 

烈斗は強烈な渋みに襲われ、顔を歪ませて悶絶した。シュガーとミルクを足してみたが、あまり効果がない。

マズイ料理から逃げてきた客を、確実に撃沈する激渋のコーヒーは、まさに隙を与えぬ二段構えと言えるだろう。

 

だがそれよりも烈斗を驚かせたのは倫太郎は無自覚なのだということである。

これほどの味を提供しながらも全く気付いていないということが何より恐ろしかった。

 

しかも本人は満足げな表情でいる。

烈斗は冷や汗を流しながら思った。これが間違いなく閑古鳥の原因だと。

 

「いやぁ、率直な感想をありがとうね烈斗君」

 

烈斗の酷評を受けながらも倫太郎はニコニコしている。

 

「新たなる浪漫を求めて、いろんな味付けを試してみるんだが、なかなかうまくいかなくてね

うーむ、このホットサンドはダメだったか」

 

味に浪漫なんて求めるんじゃねぇ。烈斗は心の中で叫んだ。

 

「コーヒーは、僕が一番美味しく感じる味に調節しているんだけどね」

 

ダメだ、倫太郎に厨房を任せてはこの喫茶店の未来はない。早く何とかしないと。

 

「ああもう、おやっさんはそこで待っていろ!!」

 

居ても立っても居られなくなった烈斗は、イラつきながら厨房へと入って行った。

 

…

……

………

 

「では私めはこれから任務のため失礼いたします」

「任務ね…もしや昨晩の界賊騒ぎの?」

「ええ、大方は捕らえることができたようですが、何名かはここカノニカルに散るように逃げてしまったようでして、その捜索任務でございます」

「感染対策課も駆り出されることになるとは、大規模な捜索になりそうだね…」

「ええ、烈斗様、倫太郎様もどうかお気を付けください」

 

そう言うとノアールは軽く頭を下げ、退店していった。

去り際の仕草もスマートかつ洗練されていた。

 

「界賊騒ぎってなんだよ、おやっさん」

 

烈斗は倫太郎に説明を求める。

 

「ここ《中央世界(カノニカル)》の世界相がT=M=であることから、多くの《世界》の中継地点として利用されていることは

以前烈斗君に説明したよね?」

「ああ、覚えてるぜ」

「であれば同然ながら、悪い事を考える輩も《中央世界(カノニカル)》を経由して目的の《世界》へ向かうことが多い。

今回の界賊騒ぎもいわばそんな感じでね、運び屋の界賊集団が《中央世界(カノニカル)》にやってきたことをダーザインが検知、追跡しているというわけさ」

 

なるほどな、と烈斗は納得する。

 

「なぁ、おやっさん、俺たちはその任務に行かなくていいのか?

バーセスセイバーとしての初仕事、早速かましていきてぇぜ」

 

烈斗は興奮気味に尋ねる。しかし倫太郎は首を振る。

 

「いやいやダメだよ。正式にバースセイバーとして登録されるとはいえ今はまだ研修期間で正式な任務には参加できない。

それに君はまだ実戦経験がない。まずは基礎訓練が必要だよ」

 

そのことを倫太郎に聞いた烈斗は落ち込んだ表情をする。

 

「そうかぁ……まァしゃーねぇな」

 

肩を落とし悲しそうにする烈斗を見て倫太郎は苦笑した。

 

「ああそうだ、事務所兼生活スペースを案内するよ、ついてきて」

 

それを聞いて、烈斗はさすがにこの喫茶店の中で仕事するわけじゃなかったかと安堵する。

雑居ビルの2階へあがり、事務所スペースへと踏み入れた烈斗と倫太郎。

烈斗はその中であるエンブレムが目に付く。

 

「アローヘッド隊…?」

「うん、アローヘッド隊、僕たちが所属する部隊名だよ」

 

そのエンブレムには飛んで行くような矢じりが描かれており、それを囲う環にARROWHEAD SQUADと記載されている。

 

「君のお父さん、郷太君がつけた部隊名だよ。

どんな危機に対しても、矢尻の如く真っ先にとんでいけるようにって想いを込めてね」

 

それを聞いて烈斗は感慨深そうにエンブレムを見つめる。

 

「…俺は、本当に親父と同じ場所に立っているんだな」

 

そうつぶやく烈斗の声は微かに震えていた。そんな彼の背中に手を置く倫太郎。

 

「やれやれ、感傷に浸るには早すぎるよ。これは始まりなんだから

さぁ、今度は生活スペースを案内しよう」

 

生活スペースでは3人暮らしができる程度の寝室とキッチンダイニングが備えられておりそれなりの広さを確保できている。

水回りの設備は、雑居ビル同様に若干年季が入っているが、問題なく使えそうだ。

 

烈斗の個人部屋には既に烈斗の私物が運び込まれていた。

この手際がよさが先の不快感を思い出す。

 

「はぁ、俺の意見を尊重するふりして『答えを聞かせてもらおうか』なんて言いやがったクセして、

まるで最初から俺がバースセイバーなることが決まってたかのようじゃねェか、気に入らねェな…」

 

嫌味交じりに倫太郎に文句を垂れる。それに対して倫太郎は苦笑しながら返答する。

 

「まぁまぁそう怒らないでくれたまえ……烈斗君の意見を尊重しているのは本当だよ??」

 

2人はそんなやりとりを繰り返しながら、事務所スペースへと戻ってくる。

 

「さて、ここからは大事な話だよ。バースセイバーとしての基礎知識は以前説明した通りだが、

今回は《超常能力世界(サイキックワールド)》が抱えている問題について説明していくよ」

「やっときたか、本題がよ」

 

倫太郎は時系列を追って説明した。

ここ最近、T=M=の世界相にて、立て続けに《穴》が出現するという事件が発生しているらしい。

その《穴》は人や物を狙って飲み込むかのように出現しており、ダーザインの調査の結果《穴》の先は

《超常能力世界(サイキックワールド)》につながっていることが判明する。

さらには《穴》の発生とほぼ同じタイミングに《超常能力世界(サイキックワールド)》で殺人事件が発生。

遺体は原型を留めない幽霊のようにぼやけた黒いドロドロになっており、周囲で私物が散乱していることからようやくそれが人の遺体である推測することができた。

 

「黒いドロドロ…まさか《感染》!?」

 

倫太郎は頷く。

 

「うん、以上の情報から2つの仮説を立てたよ。

まずは実際に殺人をおこなったのは《穴》からやってきた《現象体》だとという仮説。

《現象体》であれば、いくら戦闘に長けた能力を持つ者でも、VS能力がなければ無力だ。

おそらく被害者は《現象体》によって《感染》、人ではなくなってしまったのだろうね。

そして、もうひとつは何者かがその《現象体》を呼び寄せるために、人為的に《穴》を開いているという仮説」

「何者か…そうか、やはりあのガスマスク野郎!!」

 

烈斗はガスマスク男がなんらかの装置を用いて《現象体》を呼び寄せていたことを思い出した。

 

「そうだね、烈斗君が見たというそのガスマスク男が、一連の《穴》の発生源であり

《超常能力世界(サイキックワールド)》の連続殺人犯という可能性が高そうだ。

ガスマスク男は《現象体》を使うことで確実に殺人を成功させることで警察の捜査の手から逃れ続けている。

が、ガスマスク男には誤算が生じた。それこそがVS能力を持った、烈斗君の存在。

とはいえ、烈斗君から聞いた状況を察するに、殺人のターゲットがVS能力持ちである可能性は考慮できていたのだろう。

《現象体》をけしかけるのではなく、《穴》を作って《超常能力世界(サイキックワールド)》から追放する作戦に切り替えた」

「そうして、俺は今こうやって《中央世界(カノニカル)》にいるってわけか」

 

烈斗は自分の身に起こったことに説明がつき、納得した様子だった。

 

「それにしても、《穴》の先が《中央世界(カノニカル)》だったのはかなり幸運だったね

おかげで、藍君とソニドリ君が迅速に《現象体》の対処と烈斗君とあの少女の保護を行えたわけだからね」

「"保護"だァ…?”拘束”の間違いだろうが…」

「まぁまぁ、《超常能力世界(サイキックワールド)》から通じる《穴》から出てきた人ということは

一連の事件の関係者であることが明白だったからね。

烈斗君の証言のおかげで、ガスマスク男の存在が明らかになり、2つ仮説の裏付けにもなった」

「にしても、あの野郎一体何のために殺人なんかを…」

「それについては、犯人の素性もわからないし確かなことは言えない…が、」

 

倫太郎は書類の山からいくつか資料を取り出す。

 

「これは?」

「《超常能力世界(サイキックワールド)》における行方不明者の情報だよ。

遺体の状態から身元の判別が困難だったが、こうして行方不明者の情報と照らし合わせて被害者を特定することができてね」

 

烈斗君は事件に巻き込まれたとされる行方不明者情報をひとつひとつ確認するのであった。

幸い、蓮をはじめとする烈斗の知り合いが事件に巻き込まれたわけではないことを確認し、安堵する。

そして、被害者に共通している点を烈斗は見つけ出す。

 

「全員…能力者だ」

「そう、被害者はみんな能力者なんだ

だから、犯人は能力者に対して、なんらかの強い恨みのある人物であることが考えられてるよ」

 

《超常能力世界(サイキックワールド)》では日々、超能力者と無能力者の溝が深まりつつある。

超能力者は危険な存在であるため、排除すべきという過激な思想を持つ無能力者も少なくはない。

しかしガスマスク男はそうであったか?烈斗はガスマスク男と対峙したときを思い出す。

 

「どうだかな…あのとき、確かな殺気こそ感じられたが、憎しみや恨みのようなものは無かったように思える。

それに気になることを言っていた。『実験開始』って…」

「ふむ…結局ガスマスク男の素性については、わからないままだね」

 

倫太郎は困り顔を浮かべながら頬杖をつく。ひとまず現状の整理が終わり一息つく烈斗。

バースセイバーとしてこれからどう行動すべきなのかを考える。

 

「ともかく、アローヘッド隊としての目下の目標は、このガスマスク男を確保し、

これ以上の殺人と《穴》の発生を止めることだ、理解したかね?」

「ああ!そのガスマスク野郎をとっ捕まえてやろうじゃねェか!!」

 

…

……

………

 

情報整理が終わる頃にはすっかり日が沈んでいた。倫太郎は界賊騒ぎの状況を確認するためダーザイン本部に向かうそうだ。

 

「こんな時間からご苦労なこったな」

「すまないね、夕飯も用意してやりたかったんだが…」

「あ、いや、それは結構だぜ……」

「ひとまずピララの厨房を自由に使ってくれて構わないよ、それじゃあ行ってくる」

 

烈斗は倫太郎を見送ると厨房へと向かい、適当な食材を冷蔵庫から取り出し、調理をはじめる。

調理しながら、今までのことを振り返っていた。

いつもどおり人足稼業でお金を稼いでいたらいきなり異世界に飛ばされたと思えば、

バースセイバーになって父の死の真相を追うことになろうとは。人生何があるかわからない。

 

倫太郎も父の死については知らない。

というか、倫太郎が父の死を知らせてくれたので、倫太郎もまたこれ以上知っていることがない。

バースセイバーになった後、守秘義務で喋れなかったことはあるかと聞いたが、

やはり、父はバースセイバーではなく刑事として単独任務にあたっていたところ、殉職してしまったと。

父は日頃から、俺が死んだら烈斗と蘭子のことを頼むと、倫太郎に言っていたそうだ。

倫太郎はその約束を果たすべく、俺たち姉弟を独りで生活できるようになるまで見守ってくれていた。

それが烈斗にとって鬱陶しくもあったが、感謝もしている。

 

「なんだか、遠くまで来ちまった気分だな…いや、実際に遠くに来ちまってるんだけどよ」

 

閉店後のピララ、窓際の適当な席に腰かけ、まだ見知らぬ街を眺めながら自分でつくったオムライスを食べる。

特に飯を食べながら会話する相手もいないので、ささっと口にかけこみ、食事を済ませる。

 

食器を片付けようとしたとき、やけに外が騒がしいことが気づく。

武装した人間が数名、店の前を通り過ぎる。

 

『何名かはここカノニカルに散るように逃げてしまったようでして―――

―――烈斗様、倫太郎様もどうかお気を付けください』

 

ノアールの言葉が頭をよぎる。

なるほど、この人らは界賊を探しているダーザインの職員か。

 

外いる人の話し声が良く聞こえると思っていたら、空きっぱなしの窓があった。

窓は開けた覚えはないはずだが…と、思いながら烈斗は窓を閉めて鍵をかけ、厨房に入って皿を洗い始める。

 

ぐぅ~…

 

急に烈斗の近くでなんだか間の抜けた音がする。まるで自分の腹の虫が鳴ったかのような。

 

「…?なんだ、ネズミでもいるのか?」

 

烈斗は音のする方、資材置きを覆っていたカーテンをめくる。

 

「なっ………!!?」

 

カーテンからでてきたのは……

 

「………ひっ!!」

 

ローブを深く被った、女性だった。

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