【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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1章 パイルバンカーと血薔薇の杖
貞操逆転世界でも俺だけモテない


 異世界転生して、何か女の人がやたら多いな、と気付いたのは、生後数年経った頃だった。

 

 男女比、驚異の1:30。男はほとんど生まれない。それがこの世界なのだと、俺の問いに親は語った。

 

 それを知って、それはもう興奮したものだ。

 

 だってそれ、いわゆる『貞操逆転世界』って奴だろ?

 

 貞操逆転世界っていうのは、簡単に言うと『男女の貞操観念が逆転した世界』だ。

 

 性欲が強いのが女になって、男は付き合って欲しいと乞われる側。男は何もしなくてもモテモテだ。

 

 前世ろくにモテた経験なんてない俺は、それはもうワクワクした。夢のモテモテハーレム生活。女の子はより取り見取り。

 

 だから――――

 

「いやぁ……テクトはないかな」

 

 そういう話を同世代の女の子に振って即フラレて、俺は凍り付いた。

 

「……な、なんで?」

 

 動揺を隠しきれない俺に、「だってさぁ」と女の子は言う。

 

「テクトって、騎士家の生まれでしょ? 騎士家って一代限りだけど、貴族だから子供はハーレム作んなきゃじゃん」

 

「何それ」

 

 初耳の俺ことプロテクルス(テクトはあだ名)は、女の子から詳しくその話を聞いた。

 

 男女に人数差があるこの世界では、法律で男の結婚に関する諸々が決まっているらしい。

 

 例えば、貴族の男子に関する法律。

 

「まず~、貴族の男子って、十人以上奥さん取らなきゃダメだし、子供も三十人以上いなきゃダメでしょ?」

 

「はっ?」

 

 余りのハードルの高さに、俺は目を丸くする。

 

「な、何で」

 

「だって~、ただでさえ男子が少ないんだから、貴族ならそのくらいしなきゃダメでしょ~!」

 

「……」

 

 いや、り、理屈は分かるが、そんな。

 

「でも、騎士家は領地ない、っていうか子供の代からは貴族じゃないじゃん? 男爵以上の領地貴族なら、ハーレムでも贅沢させてもらえるしアリかなーって思うけど」

 

 愕然とする俺に、女の子はあっけらかんと語る。

 

「で、でも平民は」

 

「平民は基本一対一の結婚だし。旦那さん独り占め出来ないのは寂しいでしょ~」

 

 つまり、平民とほぼ変わらない待遇で、ハーレムなんてやってられない、という事らしい。

 

「ま、それじゃ子供足りないから、平民女は男の人から魔力保護された精子もらって、女同士で婦婦(ふうふ)になる人も多いけどね」

 

 それを聞いて、俺は絶望する。

 

 つまり、何か? この貞操逆転の男モテモテ世界で、ちょうど俺だけ身分的に、モテない立場であると?

 

「そもそも男は魔力ないから、その分稼いであげる必要あるしね。自分に尽くしてくれる男の人ならともかく、ハーレムで左団扇してる男を養ってらんないって」

 

 魔力。それはこの世界における、最も大きな性差だった。

 

 魔力とは、文字通り魔法を使うための力だ。魔力がない男は魔法が使えないし、魔力を持つ女は魔法が使える。

 

 ただ、それだけではない。

 

 魔力の差はそのまま、身体能力の差にもつながるのだ。

 

 具体的に、女の子は五歳で成人男性、十歳でプロレスラー、十五歳で力士から巨人くらいのフィジカルを発揮してくる。

 

 当然稼ぎは全然違う。何をするにも男はお荷物。

 

 一対一の結婚ならその分尽くしてもくれようが、ハーレムでは結婚後も男の奪い合いだ。

 

 男爵以上なら、寂しくともいい暮らしはできる。夫の寵愛の奪い合いは熾烈だが、働く必要がないのはデカイ。

 

 しかし、騎士の生まれは違う。

 

 旨味がちょうどまったくないのが、騎士の息子なのだ。

 

 俺は絶望に震えながら、更に一つ質問する。

 

「ち、ちなみに、その『嫁さん十人子供三十人』って規則、破ると捕まる、とか?」

 

「んー、捕まるまでは行かなかった気がする。確か税金が十倍だったかな」

 

「十倍!?!?!??!?」

 

 捕まるより悪い、と俺は顔を真っ青にする。

 

 ってことは、俺、モテない上に、嫁さん獲得できなかったら一生重税生活ってこと?

 

「ってワケだから、ごめんね?」

 

 そう言い残して去っていこうとする女の子に、俺は縋りついた。

 

「待って! 待ってくれ!」

 

「わっ、びっくりした。女に触ると危ないよ? うっかりで叩いちゃったりしたら大怪我しちゃう」

 

「そんなことは良いんだよ! せめて、せめてどうしたらモテるとか、そういうことを教えてくれ!」

 

「え~……? ん~……難しい質問するなぁ……」

 

 女の子は唸りに唸って、こう言った。

 

「ハーレムでも許せるくらい優しくて、女並みに稼ぎがあって、とか……んー、でもやっぱり優しくても愛情を感じられないと寂しいし~」

 

 女の子も簡単には答えを出せないらしく、うんうんと唸っている。

 

 だが、俺はそれを聞いて、何となく理想像が浮かんでいた。

 

「つまり、さ」

 

 俺は言う。

 

「ちゃんと稼ぐ働き者で、しかも―――女の子を命かけて守るような男なら、ハーレムでもイケる、か?」

 

 俺の提案に、女の子は雷が落ちたかのように驚いた。

 

「そっ、そんな男の子だったら、確かにハーレムでも余裕で許せる、けど。いやでも、普通女が男守るのが当然なのに、そんなのありえないよ! 女に都合よすぎだって!」

 

 まるで『冴えない男に一目ぼれする美少女』などの存在を聞いたかのように、女の子は激しく首を振る。

 

 だが、それで分かった。

 

 男でありながら女の子を守る。たったそれだけのことが、どれだけこの世界の女の子にとって貴重であるかを。

 

 ならば、それしか手はあるまい。

 

 女の子が男を守って当然の世界で、俺は女の子を守って、ハーレムを築くのだ!

 

「――――分かった。行ってくる!」

 

「えっ、あっ、行っちゃった……。え、本当にやる気なの?」

 

 女の子を置いて、俺は全速力で家に帰った。

 

 家に帰ると、父親が料理を作っていた。居間では、非番の母親や数人の姉が寛いでいる。

 

 俺はテーブルを挟んで、母親の前に立った。

 

 母親は、目を丸くして俺を見る。

 

「テクト? どうしたの、そんな鬼気迫る様子で。……まさか、いじめられたとか?」

 

「テクトがいじめられた!? 誰にやられたの、お姉ちゃんたち総出でそいつボコりに行くから」

 

「違う」

 

 やたら過保護な母と姉たちを制して、俺は頼み込む。

 

「母さん。俺を鍛えて欲しい」

 

「……どうしたの? 冗談で言ったけど、本当にいじめられた?」

 

「だから違うって。強くなりたいんだ。強くなって、女の子を守れるような男になりたい」

 

 そしてモテて、十人の嫁さんもらって、子供三十人もうけて、重税を逃れる!

 

 そのために―――

 

「そのために、母さんに鍛えて欲しいんだ。()()()()()()なんだろ? 母さん。元々平民の一兵卒なのに、戦果をあげすぎて騎士に召し抱えられるくらいの」

 

 俺は、真剣な目で母親を見つめた。

 

 母親の目が、据わる。親の目ではなく、騎士の目で、俺を見る。

 

 そして、ふっ、と笑った。

 

「事情は良く知らないけど……本気みたいね。いいでしょう。可愛い一人息子の本気の頼みは、母さん断れないからね」

 

 だから、と続けた。

 

「鍛えてあげるわ。魔力を持つ姉さんたちと同じように、徹底的に鍛えてあげる。それでも男の子のテクトが、女を守る? のは難しいでしょうけど……」

 

「無理かどうかは、やってから考える」

 

「いいわね。男の子にしておくのがもったいないくらい。―――聞いたわね!? 休憩は終わりよ! 午後からはテクトも交えて訓練するわ!」

 

 母親が呼びかけると、姉たちが一斉に立ち上がり、姿勢を正した。

 

「午後の訓練は十キロ走を五セット、剣術訓練を潰れるまで! 夕飯前に潰れた奴は夕飯抜きよ! 気張りなさい!」

 

「「「はい、師匠!」」」

 

 姉たちの、一糸乱れぬ返答に、俺は気圧される。

 

 非番の日、母親は姉たちに訓練を施している。主君に仕え武功を上げ、身を立てさせるために。

 

 俺は男だから、とその訓練を免除されていたが、今日からは違う。

 

 訓練を積み、強くなるのだ。女の子を守れるような、男になるために。

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