【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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石化の魔眼を潜り抜け

 無人島での生活も、ある程度慣れてきていた。

 

 朝は食料調達と、リーフィ念願の塩の作成および食料保存に奔走した。そして夜は、三人で罠にかかった魔物相手に、蛍火デコイを練習した。

 

「シー……」

 

 罠にかかった魔物を確認して、俺はリーフィ、メイに『静かに』のジェスチャーをした。

 

 各自持ってきた蛍火デコイは、十個ずつ。魔物は再びアルミラージ。しかし夜行性のアルミラージは、昼よりも凶暴だ。

 

 事実、奴は近づいた俺たちが、木の裏に隠れているのを看破して、ずっとこちらを睨んでいる。時たまに跳ねては、くくり罠で元の場所に戻されている。

 

 俺たちは蛍火デコイの魔導回路を手で払って、同時にアルミラージに投げつけた。

 

 魔導回路は、まず発光から効果を発揮する。光りながらまっすぐ飛び、アルミラージの周辺に、光る石や貝殻が飛ぶ。

 

 そして一拍遅れて、軽量化の魔導回路が作動し、羽のように不安定に空中に揺れるのだ。

 

 するとアルミラージは、それを生物と誤認して、どうしても目で追ってしまう。しかも三つ。知性個体でもない魔物は、これで脳のキャパがいっぱいになる。

 

 そこで、俺が明鏡止水を手に飛び出した。

 

 一閃。アルミラージの首を刎ねる。以前相対した時のような集中は要らない。駆け抜けて、切り払っただけだ。

 

「成功だな。みんな使い方がうまくなった」

 

「成長した。むふー」

 

「……思ったより効果あるんですけど、これ。特に夜は、ほぼ絶対に視線を釣れる……」

 

「だろ?」

 

 感心するリーフィに、俺はニヤリと笑いかける。

 

 無人島に遭難して、大体一週間ほど経った、とある夜のことだった。

 

 食料や水は不安がなくなってきていて、次は拠点をもう少し堅牢に、と考え始める時期に差し掛かっていた。横殴りの雨対策に、木の皮のカーテンを作ったのは今朝のこと。

 

 とりあえず俺は、闇の中でアルミラージの血抜きを始める。皮を裂いて内臓を抜いて、いろいろして最後に川の流れにさらすのだ。

 

 そうしながら、日々のことを考える。

 

「やった、明日はお肉ですねっ! 最近魔法の浸透も進んで香辛料作れるようになったから、メイにも食べさせてあげてもいいんですからねっ♪」

 

「むふー! 別の味のアルミラージ! 楽しみ……!」

 

 女子二人は、和気あいあいと会話をしている。こうして改めて思うと、メイは意外にコミュ力があるな、と思いつつ、俺は温かい目で二人を見守る。

 

 最初はどうなることかと思ったが、実践の無人島生活も、今や順風満帆だった。特にリーフィの血統魔法が強く、日々の不便がどんどん解決していく。

 

 流石に夏休みが終わるまでには脱出せねばならないが、それまではゆっくりするのもありかもな、なんてことを思う。一方で、心配かけてるだろうし、早く帰るべきだよな、とも。

 

 だが、脱出そのものは、正直目途が立っていないのも事実で。

 

 その原因は、やはりこの魔獣島の魔物たちである。巨大な地龍に、大量に居るバジリスクたち。助けを求めるには過酷すぎる環境だ。

 

 今はイカダで大脱出も一考の余地があるかと考えている。リーフィの血統魔法で丸太を大量に用意してつなぎ合わせ、俺が星を見てジェノーヴァに向かうというワケだ。

 

 しかしそれには、さらに時間を待つ必要があるらしいので、最後の手段と考えている。ともあれ、差し迫った危険などもないし、ひとまずはゆっくり無人島生活を楽しもうと―――

 

 その時だった。

 

「二人とも、静かに」

 

「「……っ」」

 

 俺が短く言うと、二人が瞬時に口を閉ざす。俺は耳を澄まして、耳が捉えた違和感を探る。

 

 そして、言った。

 

「人の悲鳴だ。多分女の子。助けに行こう」

 

「分かった、ご主人」

 

「えっ、あ、あの、テクト?」

 

 俺の呼びかけにすぐに応えるメイ。一方リーフィは、戸惑い交じりに俺に近づいてくる。

 

「助けるのは良いんですけど、え、テクトが? 普通女のワタクシに頼るところだと思うんですけど」

 

「ああ、手伝ってくれるのか? 助かる」

 

「え、いや、だから」

 

「ご主人はそういうのじゃない」

 

 俺が助力に感謝し、それでも何か続けようとしたら、メイがバッサリと切って捨てる。

 

「……分かりました。けど、危険なことはしちゃダメなんですからね」

 

「まぁ、気を付けるよ。さ、行こう」

 

「そろそろワタクシも分かってきましたけど、それ気を付ける気ないですよね!?」

 

 俺が顔を背けて走り出すと、リーフィは「もう! テクトは!」と言いながらついてくる。

 

 メイを指輪に戻した俺は、夜の森を駆け抜ける。

 

 幸いにしてこの辺りはよく来るから、この闇の中でも、ある程度は動けた。リーフィも、森となれば暗くとも問題ないようで、危なげない足取りで進む。

 

 走っていると、肌にぽつりと、冷たい感触があった。雨。ここは森だから木々が傘になってくれるが、急な豪雨が降り始めたらしい。

 

 とはいえ、戦闘になるのなら好都合だ。激しい雨音は、音を掻き消してくれる。

 

 そして気配を感じる距離になって、俺は停止した。

 

「バジリスクだ」

 

 視線の先。そこに居たのは、バジリスクだった。数匹で、木の洞の周りをうねうねと動いている。

 

 恐らくだが、木の洞の中に、逃げ込んだ人物がいるのだろう。俺たち以外にも漂流者がいたか。悲鳴が聞こえた以上、無事だとは思うが……。

 

 俺は、対策を知らないサバイバルの悲惨さを思い浮かべながら、息を潜める。

 

「じゃあ」

 

「まっ、待って欲しいんですけど……! 何で一人で飛び出そうとしてるんですか……!?」

 

 ひそひそ声で、リーフィが俺を引き留める。俺は蛍火デコイを数枚取り出して答える。

 

「実戦レベルで使えるのは俺だけだ。なら、俺が行くべきだろ」

 

「そういうのは女に任せて欲しいんですけど……!」

 

「ダメだ。リーフィは魔法からして後方支援だし、蛍火デコイもまだ初心者だろ」

 

「分かってきましたけど、本当にテクトは……! じゃあ、分かりました。こうしましょう」

 

 リーフィは俺に策を囁く。俺はそれを吟味し、頷いた。

 

「分かった。それなら任せられる。合図は?」

 

「要らないんですけど。『ヤドリギの魔女』舐めないでください」

 

「ははっ、流石だ。じゃあ任せるぜ、リーフィ」

 

 俺はバジリスクに向き直る。三匹。リーフィ提案の策なら、一瞬だ。

 

 俺は近くの木に足をかける。普段と同じ木登りの手順。

 

 だが、今回は勝手が違った。

 

 俺が足を掛けた場所に、ちょうど洞のようなものができて、それが足場となって安定感を生む。かと思った瞬間、ぎゅいっと高く木の上部にスライドして、俺を引き上げた。

 

 俺は瞬時に木の頂上近くに辿り着く。俺はその自由自在さに、思わず笑ってしまう。

 

「ヤバいなこれ。リーフィ、時間を掛ければ最強説あるんじゃないか?」

 

 雨を浴びる羽目になってしまっているが、仕方ない。指輪に触れてメイを刀に変化させながら、素早く樹上を移動。バジリスクたちの上空数メートルの場所に息を潜める。

 

 バジリスク戦は初めてだが、勝手は把握している。つまり、見られないことが最重要なのだ。であれば、戦法は二つ。

 

 すなわち、まったく気取られないか、気取られても視界を操作するかだ。

 

「メイ、仕掛けるぞ」

 

『いつでもいい、ご主人』

 

 俺は深呼吸を一つ。そしてふっ、と体から力を抜いて、樹上から自由落下した。

 

 無音の降下。視線は外さない。メイをくるりと逆手に持ち替え、襲撃の体勢を取る。

 

 そして俺は、バジリスクの背に着地すると同時、その首に明鏡止水を突き刺した。

 

「ピギッ!?」

 

 短い断末魔を上げてバジリスクが絶命する。それに他二匹の視線がこちらに向かう。

 

 だが、同時に起こった大木の枝の叩きつけでもう一匹が圧死して、最後のバジリスクの視線が俺に向かう前に停止する。

 

「ピギャァッ!」

 

「!? ギィイイッ!」

 

 大木がバジリスクに睨まれ石化する。俺はそれに『木も石化の対象か』と苦々しく思いながら、蛍火デコイを放った。

 

 闇の中に光る、不規則な運動をする蛍火デコイは、分かっていても視線を釣られる。バジリスクが「ギィッ!」と蛍火デコイを石化させるのを見ながら、俺は駆けた。

 

 一閃。バジリスクの首が落ちる。俺は刀を強く振るって血を払いながら、声を上げた。

 

「リーフィ! 全員倒した。出てきていいぞ」

 

「……分かってましたけど、男の子の戦闘能力じゃないんですけど。何者なんですかテクトって」

 

「しがない騎士家の男子だよ。それはいいから、救助に取り掛かるぞ」

 

「分かってるんですけどっ」

 

 二人で、目星を付けていた木の洞に近づく。

 

 何だか急に、嫌な予感がしてくる。いやに雨音が激しく感じる。

 

 そして俺たちは、息を飲んだ。

 

 だって、そこに居たのは―――

 

「ぁ……。テク、ト……?」

 

 体の所々を石化させられ、傷だらけで疲弊した、シアだったから。

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