【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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蛍の閃光

 十八匹を狩ったところで、俺は言った。

 

「知性個体がいる。頭が回るな。その場では逃げて、残る二十匹で徒党を組みやがった」

 

「ギィイイ……」「ギャウ、ギギ……」

 

 今までは烏合の衆同然だったバジリスクが、数匹で固まって死角を作らないように再編されている。これが、知性個体の恐ろしさだ。単なる魔物を軍隊に変える。

 

 厄介だな。そう思いながら、俺は呟く。

 

「リーフィ、ここからは策を練った方がいい。リーフィのことが勘付かれるだけでも、俺たちの負けだ」

 

 俺は太い枝に立ち、木の陰に隠れてそう言った。リーフィは森を掌握しているから、こういう独り言でも十分伝わるだろう。

 

 そこで、脳に直接語り掛けてくるような、声が聞こえた。

 

『テクト、聞こえますか?』

 

「!? リーフィ!? どこから声かけてるんだ!?」

 

『ちょっと食料に余力がありそうなので、会話できた方がいいかなと頑張ってみました』

 

「え、そんな事できんの?」

 

『はい。木に溜まってる魔力を使って、木を中継にしての念話ですね。それで用件なんですけど、地龍が、動き出しました。近づき過ぎたら踏みつぶされるので、注意してください』

 

 ハッとして、俺は上を見上げる。山めいた背景が、確かに動いている。遅れて、ズシンと地響きが伝わってくる。

 

『バジリスクの知性個体が、地龍を刺激して動かしてました。ホント、迷惑なんですけど』

 

「……本当に、知性個体ってのは頭が回って、苦戦させてくれるよな……ッ」

 

 あるモノすべて使うつもりか。本当に厄介な相手だ。

 

 知性体がけしかけたという事は、恐らく地龍はこの戦闘に絡んでくるはずだ。それを加味した上で、軍隊化したバジリスクたちを倒す必要がある。

 

「……ちなみにどうでもいいんだけどさ、食料の余力って?」

 

『あ、えっと。……イリューシア様が残した分のスープを、少々』

 

「食いしん坊がよ」

 

 確定した。リーフィ食いしん坊だわ。前々から薄々思ってたけど。

 

 まぁそれは良い。無理に食わせるよりも、通信出来た方がシアのためになる。俺は考える。

 

 攻略は難化したものの、戦況は変わらず優勢を保ったまま。敵は隙を突きづらくなったが、こちらが捕捉されたわけではない。

 

 要するに、あの死角のないファイブマンセルを崩すことができればいいのだ。それさえできれば、今までと変わらない。変わらずバジリスクを処理するだけの狩場だ。

 

 俺は懐から、蛍火デコイを取り出す。計五枚。

 

「ふぅー……よし、やるぞ」

 

 木に足を掛ける。意図を汲んで木の洞が急上昇し、俺は樹上に跳び上がる。

 

 そこから、跳び上がる勢いのまま、俺はバジリスクたちの中心目がけて落下した。

 

 バジリスクたちは枝を伝いながら、上に下に死角なく移動している。しかしそれだけに移動速度は遅く、動きづらそうだ。

 

 こういう時は、より過剰に刺激に反応する。だから、予想よりシンプルに対応すればいい。

 

「一匹釣るのでダメなら、五匹同時にすりゃあいい」

 

 蛍火デコイを五枚、同時に放つ。狙いは正確。すべてがバジリスクたちの眼前を通過し、バジリスクたちが極度の緊張でもってその行く手を追う。

 

 あとは、簡単だ。

 

「行くぜ、メイ」

 

 グラップルで落下の勢いをそぎながら、素早く着地。からの回転切りで、俺は一度に五匹のバジリスクを両断する。

 

『っ! すご……! さっきのも鮮やかでしたけど、五匹でも一気に……!』

 

 通信で、リーフィが息を飲むのが伝わってくる。俺は血を払い、「問題ないな。狩れる」と息を吐く。

 

 その時だった。

 

「ギィィイイイイイイッ!」

 

 少し離れた場所で、バジリスクの一体が咆哮を上げた。それに応じて、バジリスクたちはファイブマンセルを解き、一斉にこちらに近寄ってくる。

 

「ッ!? 何だ。居場所がバレたのか?」

 

 そんなはずはない。音はほとんどしなかったはずだ。慣れてきた分、今倒したバジリスクたちには叫びの一つも上げさせなかった。

 

 だが、どう考えても捕捉されている。視覚で? 違う。この闇の中で見つけられはしまい。そもそも、見つかったのなら俺はすでに石像のはずだ。

 

 なら、何だ。俺は前世の知識まで総動員して考える。その間わずか0.5秒。俺は気付く。

 

「ピット器官か」

 

 ピット器官。蛇特有の、熱を察知する特殊な感覚。通常の蛇は目が悪い代わりに、これで獲物を捕捉するという。

 

 つまり、木々越しに、見えないままで、熱源を探知されたのだ。俺は舌を打ち、素早く木にグラップルを放ち飛び上がる。

 

『テクトッ、どうしましたか!?』

 

「見つかったッ。連中、目と耳以外にも俺を見つける方法があるらしい。一旦撤退して」

 

 俺がそう言った瞬間だった。

 

 ずしん、と地面の揺れる感覚があった。地龍が近づいてきている。クソ、こいつにも意識を払わなきゃならないのか! そう歯噛みした時、バジリスクの知性個体が畳みかけてきた。

 

「ギィイイイイイイ!」

 

 バキバキバキバキ! と周囲の木々が石化していく。俺を直接石化させるのが難しいと踏んで、俺の周囲の木から石化させる算段か。

 

「だが、惜しいな。グラップルは、石だろうと全然刺さ―――違う」

 

 ズシン、という地龍の足踏みによる地震で、石化した木々にヒビが入る。

 

 石化には、物体を脆くする力があるのか。なら、このタイミングで木々を石化させたのは。

 

「だから」

 

 俺は必死にグラップルで石化した木々の間を移動しながら、呟く。

 

「知性個体ってのは、嫌いなんだッ」

 

 周囲の石化した木々が、ついにすべて崩壊する。

 

「――――ッ」

 

『ッ!? テクト! テクトぉッ!』

 

 俺はグラップルで掴む場所を失い、空中に投げ出された。周囲には落下する石塊ばかり。

 

「ああ、クソっ! けど、このままじゃ死なねぇぞ!」

 

 この状況でも、詰みではない。幸いにして、この落下するものだらけの中では、バジリスクたちも俺を見つけ、石化することは困難だ。

 

 そして、迫りくる地龍の存在。まだ少し離れていて、ギリギリグラップルは届かないが―――方法がないワケではない!

 

「オラァッ!」

 

 俺は近くの、適当な一番大きな石塊にグラップルを放つ。俺より大きいなら、空中でも引き寄せられるのは俺。何故なら俺の方が、質量が小さいから。

 

「なら、同じだ」

 

 俺は石塊に空中で着地しながら、次のグラップルを放つ。

 

「この段階になっても! グラップルは機能する!」

 

 落ち行く石の塊の中で、俺は針を縫うようにして、グラップルで飛び回り、脱出する。

 

 重要なのはここからだ。迫りくる地龍に向け、俺はさらにグラップルを放つ。

 

「グォォオオオオオオオオ……」

 

 非常な巨体だけあって、地龍の動きは鈍い。ならこれは、少々移動するだけの建物と同じ。

 

 俺は地龍の胴体、足とグラップリングフックを打ちながら、バジリスクの視界に入らないよう、縦横無尽に空中を駆ける。そして何とか無事に、地面に着地した。

 

 地龍の足跡。その大きなくぼみの中に、俺は土を舞わせながらズザザと着地する。

 

「ギィイイイイイイッ」

 

 だが、ピンチはまだ継続中だ。知性個体の号令。ピット器官で俺を追っていたのだろう。地龍の足跡の外。くぼみの上で、ゾロゾロと集まってくる気配がある。

 

 何せ今ここは、木々という遮るもののない場所。群れで囲んで見るだけで、俺を石化させ勝利できる。脱出されても問題ないよう、敵は詰みを用意していたというワケだ。

 

「けど、まだまだだな。バジリスク」

 

 俺はパイルバンカーの動力源を開いて、魔石を一つ取り出した。魔石を蛍火デコイに埋め込み、魔道回路を素早く書き換える。

 

「遮るものがないってことは、お前らを守るものがないって意味でもあるんだぜ」

 

 そして俺は蛍火デコイを頭上に投げて、自分の目を腕で覆った。

 

「さぁ」

 

 蛍火デコイは、空気中の微細な魔力に反応してほのかに光る。

 

 ではそこに魔石を込めたならどうなるのか――――

 

「闇夜に慣れた目に、太陽をくれてやる」

 

 蛍火デコイが、フラッシュバンよろしく、激しい光を放ちバジリスクの目を焼いた。

 

「ギャピィィイイイイッ!?」「ギャギョォッ!?」「ギャギャギャギャッ!?」

 

 バジリスクたちが、一斉に悲鳴を上げる。瞳孔の開いた目には、激しい光は暴力同然。前後不覚になって、一時完全に視界を失う。

 

 その隙を俺は逃さない。奴らにはピット器官がある。今の混乱を逃せば、石化はできずとも徒党を組んで襲ってくる。

 

 だから、今ここで、全滅させる!

 

「リーフィ! もうバレるとか全部気にしなくていい! 叩き潰しまくれ!」

 

『了解です!』

 

 この空白地帯の外、そこから、木々が大きくうねって、数匹まとめてバジリスクを潰し始める。俺もグラップルで高速移動しながら、明鏡止水を振るった。

 

 一匹、二匹、三匹。走り抜け、駆け抜けながら、素早く一匹また一匹と斬る。

 

 怒涛の連続キルで、残るは五匹。その中には、知性個体の姿もある!

 

「ギィイイイイッ!?」

 

 知性個体はあろうことか、周囲の味方バジリスクを尻尾で引き寄せ、魔眼で石化させて壁のように組み立てた。俺はその見苦しい姿に、「あぁっ!?」と威嚇する。

 

「テメェ、俺をここまで追い詰めときながら、最後の最後でその有り様かよ!」

 

 もはや俺は、バジリスクに適応した。石化バジリスクの隙間から知性個体が魔眼を撃ってこようとも、適応した魔眼を、目視もできない石化の呪いを、明鏡止水は切り伏せる!

 

「そんな、みっともねぇ真似してねぇで」

 

 俺は明鏡止水を振りかぶる。

 

「神妙に往生しろやぁぁああああ!」

 

 そして石像もろとも、知性個体を切り捨てた。

 

「ギィイイイイイイイイイイイイっ!」

 

 断末魔の叫びをあげて、知性個体が崩れ落ちる。「リーフィ!」と俺は鋭く呼ぶ。

 

「バジリスクは片付けた! あとは地龍だけだ!」

 

『はい! ここからは、ワタクシにお任せください!』

 

 森が大きくうねる。木々が組み合わさり、まったく別の姿を成していく。

 

 それは、網。木々を伸ばし、強固に寄り合わせ、地龍をも捕らえる巨大な網を、リーフィは構築する。

 

「グルルルルルォォオオオオオ!」

 

 そこに、バジリスクを探して森を破壊し走り回っていた地龍が、見事に引っかかった。

 

『それを、こう!』

 

 リーフィの声が魔法で響くと同時、網が急速に絞られ、地龍の全身が拘束されていく。

 

「うぉぉおお……! どうすんのかと思ったけど、こう来たか……」

 

 俺はその有り様に、ただ感嘆するしかない。

 

 リーフィは森のすべてを掌握したといった。つまりそれは、言葉通りの意味だった。

 

「グルルルォォオオオオ! グルルルァァアアアア!」

 

 地龍は叫び、しかし動けない。『ふん、こんなものですけど!』とリーフィが勝ち誇る。

 

 そうして、バジリスク、地龍という魔獣島の二つの脅威が除かれ、俺たちは避難の準備を整えるのだった。

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