【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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石化の呪いは解かれた

 バジリスク、地龍を下した後のこと。

 

 その後の避難は、無事に終わった。というのも、地龍が暴れまわる姿を見て、救助隊がちょうど魔獣島に近寄っていたのだそうだ。

 

 それでまず、リーフィとイリューシアが、救助隊と接触した。リーフィはイリューシアを救助隊に任せ、その後テクトの下に案内して、三人漏れなく救助完了と相成った。

 

 地龍は、船を出すにあたって、リーフィは拘束する網を解除していた。地龍はあの巨大さから、ジェノーヴァの一部では神と崇められていると聞く。その方が良いと思ったのだ。

 

 そうして、事態は無事に収束した。

 

 一点、イリューシアが目を覚まさないことを除いて。

 

「テクト、交代の時間ですけど……アレ?」

 

 イリューシアの寝室にリーフィが訪れると、そこに居るはずのテクトがいなかった。何故か窓が大きく開いて、カーテンがはためいている。

 

「どこに行ったんですか、まったく。自分で看病したいって言いだした癖に」

 

 リーフィは腕を組んで憤り、それからベッド傍の椅子に腰を下ろした。

 

 そして、見下ろす。ベッドに寝かせられ、静かに寝息を立てるイリューシアを。

 

 ―――イリューシアは救出以来、目を覚ましていなかった。

 

 理由は、バジリスクにもたらされた、石化の呪いにあるという。

 

 テクトがリーフィを助けてくれたから掛からずに済んだ、蛇の王の呪い。これは本来、相当に危険なものであるらしく、イリューシアはいまだに体の一部が石化したままでいた。

 

 全身が石化したわけではないにしろ、呪いがその体を蝕んでいることに、違いはないそうだった。そこに魔力などエネルギーを吸われるから、意識を取り戻さないのだと。

 

「少しずつは、治ってきてるみたいですけど……」

 

 先ほどまで頬の一部に付着していた石化が、今は解除されている。特効薬の入手は困難にしろ、長い時間を掛ければ自然治癒も不可能ではないのだと。

 

 そんなイリューシアを見下ろしながら、リーフィはポツリと呟く。

 

「ワタクシ、イリューシア様を尊敬してました。いえ、今でもしてます。何なら、前よりも」

 

 でも、と続けた。

 

「恋ではなかったと、今では分かります。ただ、憧れていただけ。ワタクシって、ちゃんと男の子が好きなんですね。テクトに恋して、初めて知りました」

 

 くす、とリーフィは笑う。

 

「全然別もので、ビックリしました。ワタクシ、すっかりイリューシア様に添い遂げるつもりでたんですよ? 今では―――尊敬するあなたにさえ、テクトを渡したくないというのに」

 

 ぎゅ、とリーフィは手元で拳を握る。

 

「……横恋慕なのは、分かっています。でも、ダメなんです。テクトのことを、誰にも譲りたくない。テクトにワタクシだけを見ていて欲しい。そう思ってしまうんです」

 

 ですから、とリーフィは、シアを見つめた。

 

「負けません。こんな、眠っているイリューシア様に宣言するような弱虫ですけど、それでも、テクトのことは渡したくないんです。だから、だからワタクシは―――」

 

 その時だった。

 

「……ふふ、そうですか」

 

「っ?」

 

 リーフィは息を飲んで、シアの顔を見た。すると、寝息を立てていたシアが僅かに目を開き、リーフィの方を見つめている。

 

「い、イリューシア様、体調は大丈夫なのですか!? いえ、そもそもいつから……」

 

「あらあら、質問攻めですね。まず体調は……あら、石化はすべて解呪しているようです。わたくし、こんなに丈夫でしたかしら」

 

 イリューシアはキョトンとして、自分の体をチェックする。その様子にリーフィは一安心だが、それとこれとは別問題で。

 

「話は、つい先ほどから聞いていました。でも、やはりテクトは流石ですね。あれだけ男嫌いでいたリーフィルテが、たった一週間で、これだけ強くテクトを想うようになるなんて」

 

 イリューシアが、そっと上体を起こす。それから、優しい目でリーフィを見る。

 

「ですがリーフィルテ、いばらの道ですよ。何せわたくし以外にも、多くの強力なライバルたちが、こぞってテクトを狙っています」

 

「う……っ、そ、それでも!」

 

 リーフィは胸に手を当て、強く訴える。

 

「それでもっ、ワタクシは、負けないんですから! だって、ワタクシは、テクトが大好きなんですもん!」

 

 涙さえにじませて、全身を震わせながら、リーフィは言う。

 

 尊敬するイリューシアに啖呵を切るなんて、今までのリーフィには考えられなかったこと。

 

 でも、それでも、リーフィには言わなければならなかった。この程度言えないようでは、テクトの伴侶になんか、なれるワケがないと分かっていたから。

 

 それにイリューシアは、「ふふ」と笑って答える。

 

「わたくしも、同じです。テクトは誰にも渡しません。とするなら……リーフィルテとわたくしは、ライバルになるのですね」

 

「あっ、う、あの、えと」

 

「あははっ。宣言したからには、堂々となさい。わたくしの恋敵を務めるのでしょう?」

 

 クスクスと笑いながらも、リーフィは優しく笑うイリューシアを想う。

 

 ―――やっぱり、この人はすごい。リーフィは抱いた嫉妬なんて感じないくらい、器の大きな人なんだ。

 

 だから、リーフィは言う。

 

「……はい。僭越ながら、尊敬するイリューシア様の恋敵を、務めさせていただきます」

 

「ふふっ、固すぎます。でも、リーフィルテらしくて良いですね」

 

 では、とイリューシアは手を差し出してくる。

 

「これからは、友人兼ライバルという事で、よろしくお願いいたしますわ」

 

「はっ、はい! こ、こちらこそ、よろしくお願いします……!」

 

 リーフィはイリューシアの手を取って、緊張でガチガチになりながら握手した。

 

 すると、ふ、とイリューシアがカーテンのはためく窓を見る。

 

「ところで……リーフィルテ。あなたが来る前に、ここに誰か居ませんでしたかしら」

 

「はい……? いえ、いなかったと思いますけど……」

 

 イリューシアが、風に揺れる髪を押さえる。夏の海風が心地よく、部屋を通り抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーフィに、シアの看病の交代をする予定の時間の、少し前のことだった。

 

 俺は気付けばうたた寝をしていたようで、時間がいくらか過ぎていた。シアには石化の呪いが掛けられ、意識を取り戻す目途が立っていない、とある昼下がりの事。

 

 不意に、俺に影がかかったのだ。俺は寝たら中々起きないが、覚醒間際では話は別。脳が起き始めていたら、ちょっとした状況の変化にすぐ気づく。

 

 だから俺は、俺に掛けられた言葉を、一字一句逃さなかった。

 

「まったく、健気なことだねぇ。瀕死になってまで自分を助けに来てくれたお姫様を、こうして看病しているとは」

 

 薄暗い寝室。風に揺れるカーテンの陰。俺が顔を上げた先に立っていたのは、青豹、パンテラだった。

 

 女性では珍しい、190cmを超える長身。青色の髪に、ネコ科っぽい獣耳。上半身は胸元を隠すだけの布で覆われ、豹柄を思わせる穴あきタイツを履いている。

 

 かつては盗賊団の長として対峙し、セラフィの事件では助けられ、結局敵なんだか味方なんだか分からない存在だった。

 

 そんなパンテラの登場に、俺は目を丸くして、「なんでここに」と呟く。

 

 だが、ついで気付くことがあって、俺は寝ているシアの容態に気が付いた。

 

「シア!? 嘘だろ。石化が、全部治ってる……!」

 

 掛かっている毛布を剥がす。全身にいくつかあった石化が、完全に解除されている。

 

 ハッとして、俺はパンテラを見上げた。パンテラは悪戯っぽく舌を出し、空瓶を振る。

 

「良かったね、たまたま石化解除薬には持ち合わせがあったんだ。今はまだ寝てるけど、そうしない内に目を覚ますだろうさ」

 

 ひょいっ、とパンテラは軽やかに大きく跳躍し、俺の眼前に顔を近寄せて、ニッと笑う。

 

「これで、貸し二つだね、テクト。あたしの男」

 

「……」

 

 俺はパンテラを見る。それから、シアを見て、パンテラに笑いかけた。

 

「―――ああ。ありがとう、パンテラ。俺、借りばっか作ってるな」

 

「……! ふはっ、この程度じゃ動じないかい。本当にいい男だよ」

 

 パンテラは顔を離し、ピンと背を伸ばす。

 

「そんないい男に、お願いがある。もちろん聞いてくれるね? あたしのテクト」

 

「おっと、パンテラから言わせるとは俺もまだまだだな。本当なら俺から言いたかったのに」

 

「くっく。本当にいい男だよ、テクトは。だが、いい男すぎて心配になるねぇ。何せ今回頼みたいお願いは、悪党の仕事。コソ泥の片棒だ」

 

 俺は目を丸くして、パンテラに問う。

 

「コソ泥?」

 

「そうともさ。忍び込むはジェノーヴァ正妃の秘密倉庫、盗み出すは―――獣人・豹族の秘宝『青の宝玉』」

 

 ジェノーヴァ正妃、グリーディア・ギルディン・ジェノーヴァ。船上パーティで絡んできたクソババアだ。そして、獣人・豹族と聞いて想起するのは。

 

「あたしの故郷から奪われた豹族の秘宝。これを盗み出し、取り戻す。テクトには、その相棒を頼みたいんだ」

 

 なるほど、そういう手合いか。ならば、躊躇う必要はない。

 

「いいぜ、乗った。何をすればいい?」

 

「詳しい話はここじゃ何だ。あたしのアジトに案内するよ」

 

 パンテラが、蠱惑的に笑う。そして、手を差し出した。

 

「さぁ、おいで。あたしが優しく、紳士をエスコートしてやるよ」

 

 それに俺は、肩を竦めて立ち上がった。

 

「エスコート? ああ、俺がパンテラにする、の間違いか。いいぜ、レディを優しく導くのも、男の誉れってもんだ」

 

「ぷっ、はは! なるほど、テクトにエスコートされるのも悪くない。なら、あたしをエスコートできるだけの器量があるかを見せて欲しいね。―――来なよ。ついて来られるならね!」

 

 言うが早いか、パンテラは窓辺から外へ、高く跳躍した。俺はそれを追うように窓辺を飛び出し「お前こそ、俺について来られるか!?」とグラップリングフックを放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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