【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
その日の夜、俺たちはどこか怪しい雰囲気のする路地を歩いていた。
「ああ、お願いします、お願いします。クスリを、クスリをください。アレがなきゃあ、あたし、もうダメなんです。お願いです。お願いですからぁ……!」
「黙りなァ! クスリ代も払えねぇクズが! チッ、汚ねぇ手で触りやがって。お前らのとこでこういう連中は止めとくべきじゃあないかい!?」
「すっ、スイマセン姉御。おらっ! テメェの所為であたいらが叱られたじゃないか!」
「ぎゃっ、いっ、痛、おねが、お願いします、くす、クスリを……!」
「チッ、もういい。こいつ連れ帰ってバラしちまおう。健康なモツくらいは売れるだろうさ」
路地では、ヤク中の女が売人と思しき女に縋りつき、その取り巻きがヤク中の女を蹴りつけていた。思わず眉をひそめてしまうような光景だ。それも、こんな貞操逆転世界で。
ヤク中を引きずって売人たちが入った建物を見つめながら、俺たちは言葉を交わす。
「そら、見たかい? あの人相の悪い女が、麻薬製造部門の幹部さ。入って行ったあの建物は、その管理用のものだね」
パンテラの言葉に、俺は頷く。顔は覚えた。グリーディアに似た下卑た笑みで、ヤク中の女が痛めつけられる姿を眺めていた。
「つまりあの建物を襲って、反抗する連中全員ぶちのめして、幹部から情報を引き出せばいいんだな?」
「そういうことだね。質問は?」
路地の片隅。俺はパンテラを見上げて、一つ問いかける。
「パンテラは、殺さずの無力化は得意か?」
「……殺しはしない主義だけどね。怪我をさせることは多いよ。手加減は苦手でねぇ」
「なら、俺が裏から静かに手を回す。パンテラは表で暴れるってのはどうだ?」
俺が提案すると、ニヤ、とパンテラが笑う。
「そういえば、あたしの砦の時も、気付けばみんな落とされてたねぇ。よし、任せるよ。表で派手に暴れればいいんだね?」
「ああ、幹部は俺が落とす。抱えて逃げるのは任せようか」
「任されたよ。あたしに掛かれば、女一人ちょっとした荷物でしかないさ」
俺たちは頷き合う。それからパンテラが用意した仮面を被り、お互いに離れた。
顔の上部を覆う動物の仮面である。パンテラは豹で、俺はネズミだ。気分はネズミ小僧。
俺は速足でさらに人気の少ない路地に入る。誰も見ていないことを確認して、グラップリングフックで部屋の上に飛び上がる。
「こういう街中で使ったのは初めてだな」
駆け足で目標の建物へと移動する。すると屋根にハッチを見つけて、開くか確かめる。
「……まぁ開かないよな。んー、パイルバンカーで壊すだけなら早いが、音がマズイからな」
メイの鉄を使って、ピッキングツールの形に変化させる。メイは夜でお眠なのだ。だから俺はせっせと鍵穴にピンを差し込んで、カチャカチャといじる。
「んー……お。よし、開いた」
実家でピッキングも覚えておいてよかった、と思いながら、俺はそっとハッチを開き、建物の内部に忍び込む。
その、直後だった。
ドゴォォオオオオオンッ! と建物の一階から激しい音がして、一気に建物内が色めきだつ。「何だ!」「敵襲か!?」と低い女性の声が次々に上がる。
「……爆発音みたいだったな今の。パンテラって爆弾を携帯してるのか?」
素手で戦うイメージがあったのだが、と思いつつ、俺はするりと着地する。パンテラが気を引いてくれているから、二階は一転して静かなものだ。
「どこのどいつが乗り込んできやがった!」「敵は一人みたいだ!」「獣人一匹だぜ!」「舐めやがって!」「毛皮を剥いで、肉は海に捨てちまいな!」
悪党どもが、実に心無い言葉を吐きながら、部屋の中で右往左往して武器を手に取る。そんな様子を、俺は僅かに開けた扉の隙間から見つめている。
「じゃ、一人貰うぜ」
敵全員の視線が一階へと続く扉へと向いた瞬間を狙って、俺はグラップルで一人捕まえた。
「な」
引き寄せる。素早く捕まえ、首を絞めて落とす。頸動脈締めなら、暴れる間もない。
「一人」
身体を落とす。再びグラップルを飛ばす。引き寄せ、絞める。絞めて落とす。二人。
二人落とす時間で、連中がどんどんと出て行ってしまう。考えるのは、装備の不足。
やはり、今の武装だとどうしても無力化に時間がかかる。しかもステルスを解けない。
それに、今はザコの相手だから何とかなっているが……プライダスのように、殺してはならない対人戦で、強者と相対した場合、今のままでは後れを取るだろう。
―――速く、そして強力な不殺武器がいる。困難にぶち当たる前に。
とはいえ、連中が騒がしくしてくれて助かった。俺はグラップルを壁に打つ。
グラップルの引き寄せで、俺は室内を高速移動する。その勢いのまま、頭を掴んで壁にぶつけ、衝撃で落とす。経験上女の子は魔力で守られているから、この程度じゃ怪我一つしない。
「三人」
全員扉を出たから、俺も続く。すると少しの廊下から一階へと続く階段があり、塀から一階の様子が見下ろせた。
「ハッハッハ! この程度かいギルティファミリー! あたし一人で十分かもねぇ!」
「てめぇふざけ、ぎゃっ!」「クソがぁぁぁあがっ」「舐めやがぎぃっ!?」
パンテラの素手は武器よりも強いらしく、簡単に女構成員たちが蹴散らされていく。女構成員って言っても、全員人相が悪いから髪の長さくらいしか男と見分けがつかないのだが。
すると、二階に立ち忌々しくパンテラを睨む、一人の女構成員―――狙いの麻薬部門幹部が、近くの構成員に囁いた。
「チッ、誰だか知らないが、相手が悪いな。ここは逃げてグリーディア様に報告した方がい」
言いながら奴は振り向く。そこにはちょうど俺が立っている。
「な―――男っ!?」
「悪いな。挟み撃ち大作戦だったんだ。だから、逃がしてやれないぜ」
蛍火デコイに魔石を仕込んだものを投げる。腕で目を隠す。魔導回路が走り出す。
「パンテラ! 目をつむれ!」
「―――ッ、了解!」
そして閃光が、悪党どもの目を焼いた。
「っがぁああああ! 目がッ! 目がぁ!」「見えねぇ! 何も見えな、ぎゃぁ!」
「ハッハッハ! ホント隙を作るのが上手いねぇ! あたしの男!」
俺は目を開くと、パンテラを除く誰も彼もが目を押さえて怯んでいた。だから俺は幹部にグラップルを打ち、引き寄せて壁に打ち付ける。
「なんぎゃぁっ!」
「パンテラ、気絶させた! 任せるぞ!」
「おうとも! 投げな!」
俺は幹部を抱え、階下のパンテラにぶん投げる。それを回収したパンテラは、「じゃ、一足先に失礼するよ」と立ち去った。パンテラは足が速く、すぐに見えなくなる。
「じゃ、俺もおさらばするか」
「さ、させないよぉ……!」「何が目的かは知らないけど……、男一人で残って、簡単に帰れると思わないことだね……!」「尋問は激しくなるよぉ! 覚悟はいいかい!?」
じわじわ復活してきた構成員たちが、怒り半分、不思議なギラツキ半分の目で俺を見る。何を企んでいるのかは知らないが、その思惑は叶わない。
俺は腕を振るい、内燃機構を起動させる。
「そうか? じゃあ止めてみろよ―――パイルッ、バンカーァァアアアアア!」
天井に向けて、俺はパイルバンカーを放つ。パゴォオオオオオンッ! と軽快な金属音が響き、火炎が荒れ狂い、屋上を簡単に打ち破る。
「なっ、なぁぁああああ!?」「何だあの男!?」「いっ、今のは何!?」
構成員たちが悲鳴を上げる。爆音にみんな頭を押さえて縮こまり、外では「何だ! 何があった!」「動くな! 衛兵だ!」と一気に騒々しくなる。
「じゃ、ここに残った連中は、大人しくお縄につくんだな。ついでにヤク中も助かるか」
俺は屋上に空いた穴から、グラップリングフックで脱出する。そのままの勢いで、パンテラのアジトまで高速で戻るのだった。