【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
さて、俺たちは合流後、パンテラの案内で森に移動していた。
目的の幹部が、椅子に括り付けられて拘束されている。俺たちはそれ囲って立っている。
「ん……ここは……。っ!? てっ、テメェら!」
「おうおう、起きたねぇ、外道が」
ギザ歯をむき出しにして、パンテラは唸る。ギザ歯なんだパンテラ。癖がまた増えたが。
「あっ、あたしをどうするつもりだ! テメェ、ギルティファミリーを敵に回して、生きて帰れると思ってんじゃないだろうな!」
「ガタガタうるさいねぇ……。ヤク売りってのはねぇ、商売人ですって面をして、他人様の人生を終わらせるのさ。だから―――」
パンテラは、足を上げる。
「徹底的に、折らなきゃあいけないんだよ」
そして地面を踏み鳴らす。
直後、地面が割れた。まるで爆発するような衝撃を伴って、地面に大きく亀裂が走った。
それを見て、俺は瞠目する。何故なら、そんなことはありえないからだ。
パンテラの力は強い。確かに強い。だがその力は、アイギスを上回らない程度だ。
だから、アイギスができないようなこと―――例えば、震脚一つで地面を割るなんて、そんなことはできない。
だが、パンテラは割った。
これか、と思う。先ほどの奇襲で起こった、爆発のような音。パンテラには恐らく、単純な力以上に、大きな威力を出す能力があるのだ
「ひっ、ひぃっ! な、ななな、何、何だ、あんた何もんだよぉ!」
怯え切った目で、幹部はパンテラを見る。俺も流石に驚いてパンテラを見ると、パンテラは俺にこう耳打ちした。
「驚いたかい? 種明かしはまた今度のお楽しみだよ」
パンテラは俺から顔を離し、幹部に怒鳴りつける。
「さぁ! 次はあんたの番だよぉ! あんたの頭を今の威力で踏みつぶせば、どんな風にぐちゃっと行くんだろうねぇ! ハッハッハ!」
「ひっ、ぃっ、やっ、やめっ、たす、たすけ」
パンテラの演技には堂が入っていて、嘘と分かっていても恐ろしい。
そこに俺は、段取り通り、言葉を挟んだ。
「パンテラ、殺すだけだとここまで連れてきた意味がないだろ。悪いな、俺たちはただ、あんたに聞きたいことがあるんだよ」
「ひ、ぃ、き、聞きたい、こと……?」
俺が落ち着いて語り掛けると、脂汗を流しながら、幹部はどこか安堵と共に俺を見た。
それに、俺は作戦の効果を感じる。
―――良い警官・悪い警官。心理学的に、自分にとにかく強く当たる話の通じない奴と、優しく語り掛ける奴が尋問してくると、優しい方に心を開いてしまう、というものだ。
言うまでもないが、俺が良い警官、パンテラが悪い警官である。パンテラがことさらにブチギレているのは、そういうワケだ。
俺は良い警官―――この世界風に言うなら『良い衛兵』をやるため、努めて優しく頷く。
「あんたが管轄してる秘密倉庫の場所を教えて欲しいんだ。それさえ教えてくれたなら、殺すことはしないさ」
ちなみに後の処遇だが、ジェノーヴァの衛兵が正妃の息がかかっていることは分かっているので、王国所属の衛兵に任せるつもりだ。
殺しはしない……が、麻薬関連は相当重い刑を食らうだろう。自業自得だ。
しかし、幹部はそれを聞いて顔つきを変える。
「……秘密倉庫……? テメェよぉ……! 男なら何言っても許されると思ってんのか!? あぁ!?」
ブチギレの幹部さん。俺はうるせぇなぁと思いつつ聞き流す。
何故なら、こういう時の役割分担は決まってるからだ。
「じゃあ殺すしかないねぇ! ハッハッハ! 外道はぐちゃぐちゃにしてやらないと気が済まないんだよ! 死体は神への捧げものに使えるしねぇ!」
「ひっ、ぅ、ぐぅ……!」
パンテラの狂気的な笑いを見て、また幹部が委縮する。今にも幹部に掴みかかろうとするパンテラを遮って、俺は幹部に語り掛ける。
「なぁ、悪いことは言わない。教えてくれよ。じゃないと勢い余って、こいつがあんたのこと殺しちゃうかもしれない。あんたも、あんまりこいつのことを刺激しないでくれ」
「う、ぅぐ……! でも、ひ、秘密倉庫は、あそこだけは、グリーディア様が」
なるほど、パンテラとグリーディアの恐怖が釣り合っているから、選べないのか。とするなら、と俺は幹部の耳元でささやく。
「その辺りの力関係は分かってる。領主正妃様の手が届かない場所に引き渡す予定だ。そこなら正妃様の手の者に殺されることはない。安心してくれ」
「―――っ! ほっ、本当か!?」
「うん、本当だ。じゃあ、喋ってくれるか?」
「あっ、ああ! ああ、あんたは天使だ、男神さまだよ……!」
幹部は頭を垂れて俺に感謝する。俺は気味の悪さを感じつつも、作戦成功を確信する。
と思っていたら、幹部はこんな風に続けた。
「ああ、よく見たら、仮面越しでも分かる可愛い顔しちゃってよぉ。あんた、あたし惚れちまったよ。名前を教えてくれよ。あんたのためなら、あたしヤクをいくらでも売り捌い」
「反省しろバカタレ!」
「わぎゃあ!」
思わず俺は幹部の頭をひっぱたいてしまう。パンテラが「てっ、テクト? 抑えな? 気持ちは分かるけどね」と慌てて俺を取り押さえる。
「こいつ黙って聞いてりゃ何だおらぁ! こっちはお前が被害者をボコってるときから我慢してんだよ! どけパンテラ! パイルバンカー打ち込んで粉々にしてやらぁ!」
「うわぁぁああちょっと待ちなテクト! ほら! 早く! 早くゲロっちまいな! ぶっちゃけこっちの男の方が強いんだよ! ほら、早く!」
「ひっ、ひぃいいいい! 分かった! ひっ、秘密倉庫の場所は、埠頭の――――」
パンテラに羽交い絞めされる俺の勢いに負け、幹部は自白する。パンテラは「じゃ、後は気絶してな」と軽く拳を振り下ろし、幹部の意識を落とす。
そうして俺たちは秘密倉庫の一つを暴いて襲い、持ち帰れるだけの金銭と何か良い感じの素材を確保。最後は建物ごと、麻薬を焼いて帰還するのだった。
邸宅にて、グリーディア・ギルディン・ジェノーヴァは、高級ソファに深く座り、ワインを揺らしながらふんぞり返っていた。
「ああ、まったく。苛立たしい話ね。何でこんな面倒なこと……」
グリーディアが考えるのは、先日の客船爆発事故。その責任問題についてである。
パーティを主催した身として、監督責任は取らされる。それも騎士の息子や伯爵家ご令嬢の遭難程度ならまだしも、第三王女までもが一時行方不明だったのだ。
これでは、権力を握るグリーディアも責任問題からは逃れられない。無論、こんな悩みの種を作ってくれた船大工は処刑の手はずを整えているが、それでは溜飲が収まらない。
「適当に男奴隷を買いあさって、犯し殺してやろうかしら。にしても、不遜よねぇ。私の責任追及は、あの第二王子がするって話じゃない。男如きが、政治に口を出して……」
舌打ち。それからグリーディアは、「そうだわ。ひとまず買いあさる奴隷は、チャミー殿下に似た者を用意させて―――」と呟いた瞬間だった。
「しっ、失礼いたします! 正妃様!」
「あん? 何ようるさいわね。殺されたいの?」
「ひっ、き、緊急のご連絡にて、失礼仕ります!」
「……あーあー、いいわ。処遇については、聞いてから判断する。ともかく、話しなさい」
心底嫌な顔をして、グリーディアは手を振った。するとメイドが腰を折って、言う。
「ほ、本日未明、ギルティファミリーの秘密倉庫が、強盗に遭ったようです! 管理部門幹部様は王国所轄の衛兵に捕縛! 強盗は逃げおおせたとのことでございます!」
「あ゛?」
グリーディアは、目を剥いて激怒する。